表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

244/440

合議


「――それがしの知らぬところで、そのようなことになっていたのか」


 竜人ココロニコ・ドラン。

 今回リィゼに仕掛けた策の内実を知って、彼女は唸った。


「他の四戦煌は、知っていたわけだな」

「どの道あの時点じゃ、ニコはリィゼ側についただろ」


 言って、ニコへ視線を送るジオ。

 彼らはココロニコを”ニコ”と呼ぶ。


「無論だ。貴様らも知っている通り、宰相殿には大恩があるゆえ」


 ジオが呆れに近い息をつく。


「リィゼの考えが間違ってたとしても、な」


「これまで宰相殿がたがわなかったのもまた事実であろう。だがしかし、今回の話を聞いて……某も、もう少し頭を使った方がよいと感じたのもまた事実。まあ……」


 ギョロ、と。

 竜眼が俺を捉える。


「宰相殿がそこなる蠅王の指示で動けと言うのなら、蠅王の命令に従おう」

「ええ、そうして」


 言ったのは、リィゼ。

 今のリィゼは軽い応急処置を終えている。

 顔に包帯を巻いている。

 俺は鼻を鳴らし、


「話が早くて助かる。あんたのことは、ニコと呼んでも?」

「かまわん。好きに呼ぶがいい」


 今、俺と四戦煌たちは円座の形を取っていた。

 これから他のアライオン十三騎兵隊との戦いが始まる。

 今後の全体の動きを決めねばならない。

 できるだけ――迅速に。

 と、スレイに乗ったセラスが偵察から戻ってきた。


「近辺の様子は?」

「まだ他の騎兵隊の姿はないようです」

「……他の騎兵隊の到着が、いやに遅いな」


 ミカエラの死体を見やる。


「あいつはアライオン十三騎兵隊の総隊長だ。が、他の騎兵隊がこいつの隊をサポートしている気配がまるで感じられない」

「確かに、ここまで他の騎兵隊の気配がないのは……」


 俺が裏切る前、ミカエラは色々と情報を明かした。

 その中で、


 ”他の騎兵隊もすぐに追いついてくるはず”


 と言っていた。

 が、今となってはこれが怪しい。

 今回の作戦前に俺はスレイと偵察を行っている。

 その際、他の騎兵隊を丘の上から遠目に確認している。

 で、到達予想日を算出したわけだ。

 しかし……。

 以後、その他の騎兵隊が動きを止めているようなのである。

 あのあと、第一だけが異様に先行してきたわけだ。


「この第一騎兵隊くんたちの陥った状況をいち早く察して、早々に撤退したって線は?」


 キィルが言った。


「……あるいは、使われたって線もあるかも」


 別の推察を述べたのはリィゼ。

 アーミアが、首を傾げる。


「うん? 使われたとは、どういうことだ? このアーミア・プラム・リンクスにもわかるように言ってほしいぞ」

「ベルゼギアがアタシを囮として使ったように……第一騎兵隊を、こっちの戦力を測る捨て駒にしたとか……ど、どぉ思うわよ?」


 上目遣い気味に俺を見てくるリィゼ。

 ちょっとおっかなびっくりな感じだった。

 自分の考えに自信が持てなくなってるのだろうか?

 最後の方の語尾も、なんか変になっていた。

 俺は、マスクのあご部分に手をやる。


「それにしては、さすがに先行させすぎてる気もするが……」


 第一騎兵隊を囮にするなら囮を活かす”配置”が必要となる。

 たとえば俺たちがやったように、伏兵を用意するとか。

 戦力を測る捨て駒だとしても確認用の人員は出すはずである。

 が、こちらが配置していた豹人たちは何も感知しなかった。

 あるいは、よほど気配を消すのが得意なヤツがいるのか……。

 その時、ジオが何か言いかけた。

 が、ジオは出かけた言葉を引っ込めた。


「どうした、ジオ?」

「……いや、さすがに突飛すぎるかと思ってな」

「――他の騎兵隊が第一騎兵隊を見殺しにした、とでも考えたか?」


 驚くジオ。

 他のヤツも、同じ反応をした。


「…………」


 どうやらジオはその可能性に辿り着いていたらしい。

 俺も、そのパターンを考えていた。


 ”第一騎兵隊は、意図的に孤立させられた”


 ありえないとも、言い切れない。

 両手を広げるアーミア。

 

「だ、だが……仮にも仲間なのだろう? しかも、そこのミカエラとやらは総隊長だと聞いたぞ? それを……」

「むしろ……ミカエラが邪魔だったとか、な」

「邪、魔……?」

「理由はわからないが……ミカエラが死んだ方が得だと考えているヤツが他の騎兵隊にいた。存外、他の騎兵隊の総意だったなんて線もありうる……ま、今のところは、こちらの戦力を測るための当て馬って線が妥当だろうがな……」


 何より第一騎兵隊の放った伝令を俺がこっそり殺している。

 伝令の言葉が届いていたら、案外すぐに駆けつけてきたのかもしれない。


「アライオン十三騎兵隊……」


 セラスが、谷間の道の出入り口の方を見やる。


「今のところ、測りにくい相手ですね」

「いずれにせよ、第六は潰すがな」

「はい」


 即答するセラス。

 怒りを胸に秘めているのが伝わってくる。

 俺も同じだ。

 リズのいた集落を襲った連中――そいつらは、どうあっても殺す。


「それに……他の騎兵隊がすぐに来ないのは好都合でもある。対策を練る時間が増えるからな。リィゼ、ジオ」

「え? え――ええ、何?」

「おう」


 俺は、この辺りの地図を広げてみせた。


「先日あんたたちに先んじて下見をして、戦う上で使えそうな地形なんかを探ってみた。敵が騎兵なら、その利を潰す戦い方が有効だろう」

「この地図、アンタが?」

「製図はセラスだがな」

「ん……アタシの頭に入ってる地図と、ほとんど齟齬がないわね」


 地図に印をつけた地点を俺は指差す。


「この印のついてる辺りの地形が、岩場ながら伏兵に向いていて――」


 俺は配置や戦い方について話した。

 同時に地形の特徴なども伝える。

 敵が侵攻に使いそうなルートの予想も述べた。

 セラスがそこに、戦術的な補足を加える。


「が、当然すべてが今話した通りに動くとは限らない。実際は伝令を飛ばしたり音玉を使ったりしながら、その場その場で臨機応変に動くことになるはずだ」


 セラスがジッと地図を注視している。

 彼女が、指先でいくつかの箇所を示した。


「騎兵対策に……この辺りに柵や杭を設置できるといいのですが。やはり、時間の確保が難しいでしょうか」


 言って、視線で俺に問うセラス。


「だな……設置中に襲撃されるってパターンは、避けたい」


 同じ理由で、これから大がかりな罠を設置するのも難しい。

 が、


「長槍と盾の方は揃ってるな?」


 今日の早朝――

 ジオたちが外へ出る時に、それらを一緒に運んできてもらった。

 谷間の道を出たところの近場にまとめて隠してある。

 今、それらを力持ちの竜煌兵団に取りに行ってもらっているところだ。

 柵や杭、罠の用意は今からだと難しい。

 が、こちらはすぐに用意できる。


「あとはそこに、弓矢を加えて……突撃してくる騎兵と弓騎兵は基本、これらで対処していく。それと、馬煌兵団の術式部隊だな」


 青肌のメイル族。

 部隊単位で術式使いを揃えられるのはこの一族くらいらしい。

 魔素の扱いに秀でた亜人自体、希少だそうだ。

 イヴも魔素の扱いは苦手としていた。

 そういう意味でメイル族は確かに貴重な種族と言える。

 ……人間がこの大陸で力を持った理由。

 種族として魔素の扱いに長けた者が多かったのも、やはり大きいのだろう。


「それと……伝令だが、後方はハーピーに頼もうと思う」


 アーミアが軽く挙手。


「しかし、ハーピーはやはり弓矢や攻撃術式のまとになりやすいのではないか?」

「その通りだ。空を飛べるのは便利だが、その分目立つ。ゆえにハーピーは見つかりやすく、撃ち落とされやすい。だから後方で使う」

「あ、なるほどな……うん」


 地形に左右されずに移動できるのは確かに利点だ。

 が、今回は後方で動いてもらう。

 いたずらに数を減らすつもりはない。


「では、前線はどうするのだ?」

「前線の伝令は主に豹人に担ってもらうつもりだ。姿を隠しながら移動するのが得意だし、俊敏でもある。前線の戦場は魔群帯の端っこ――森まで食い込むかもしれないしな。とすれば、余計に豹人が適役だろう」


 同時に、戦闘能力も高い。

 前線向きだ。


「その前線と後方の間を埋めるのはケンタウロスにやってもらう。ケンタウロスには、その機動力を活かしてもらいたい」


 キィルが組んだ腕で胸を持ち上げ、妖艶に微笑む。


「任せて♪」

「それと――キィル」

「んー?」

「今回の戦い、全体の指揮をあんたに頼みたい」


 皆の視線がキィルに集まった。

 キィルは予想外そうに自分を指差す。


「――、……え? 私?」

「見たところあんたは冷静で、自制心が強い。頭も回る。指揮能力の高さもさっき見せてもらった。推すには十分だろ」

「ありがたいお言葉だけれど、そ、それは言いすぎじゃないかしらぁ?」


 謙遜しつつ、やや嬉しそうなキィル。


「事実を言ってるだけだ」

「もぅ蠅王くん……おだてるのが上手ねぇ。だけど正直、全体の指揮は蠅王くんがやるべきよ? みんなも、同意見だと思うけど……」


 いや、と俺は否定する。


「今回はさすがに動かす数が多い。戦争と言っていい規模だからな。そして、これほどの人数を動かした経験が俺にはない」


 魔防の白城の時、ゴーレム軍団は解き放つだけでよかった。

 が、今回は違う。


「けど……わ、私だって実戦経験が豊富なわけじゃないのよ? 兵法にそこまで精通してるかっていうと、ちょっと不安が残るかもだし……本当に、このキィル様で大丈夫なのかしら……」

「そこは安心してくれ。セラスを補佐につける」


 親指でセラスを示す。


 ”ネーア聖国の元聖騎士団長”


 を。


「セラスは過去に一国の騎士団をまとめ上げてた。軍の運用とか兵法なんかも学んでたって話だしな……つまり、大軍を動かすなら俺より適役だ」


 その辺りの知識も、いずれちゃんとセラスから学ばないとな。


「え? なら、総指揮官はセラスくんでいいんじゃない……? 私、普通に譲るわよ?」

「戦力の大半は最果ての国の連中だ。今の状態だと、余所者のセラスがやるより身内のあんたがやった方がいい」

「あ、そっか。そうねぇ……確かに」


 と、納得しつつ気後れした風に挙手するキィル。


「でもだったら、ジオくんの方が適役じゃない……?」


 急な大役を任されて動じているのだろうか。

 常に飄々としていて動じないタイプだと思っていたが。

 こんな一面もあるらしい。


「いや、ジオは前線に出てもらいたい――切り込み隊長として」


 刀の背を肩にのせるジオ。


「だな。オレも、その案に賛成だ」

「確かにジオも指揮能力は高い。だが、ここまで戦闘能力の方が抜きん出てるとなると、できれば前線で活躍してもらいたい。実戦馴れしていない兵団もいるしな。となると――それを鼓舞し、かつ、引っぱる一番槍も必要となる。同じ理由で……」


 俺は、続けた。


「俺が総指揮官になっちまうと、戦場を自由に駆け巡れないしな」

「つまり……」


 俺を見るリィゼ。


「アンタは、戦場を駆け回るつもりなのね?」

「ああ。蠅王ノ戦団は、独自に動く遊撃隊みたいなもんと考えてほしい。基本としては、戦局に不安のある場所の支援に回る」





 更新予定時間から少し遅れてしまい、申し訳ありませんでした。


 今回は改稿といいますか、書き直しといいますか……。

 次話を含め、ちょっと書くのに手こずっておりました。それなりに書き進めてから「これは……書き直した方がいいかもしれない……」となり「……書き直そう」となるのは、やはりなかなかしんどいものですね……(汗


 ともあれ(7章からそのまま地続きといった感じですが)ここより8章開始となります。今章もがんばりますので、どうぞよろしくお願いいたします。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[気になる点] 誤字(?)報告です! 最初の頃は、竜煌兵団、蛇煌兵団、・・・ と紹介されてましたが、今回は竜公兵団、馬公兵団と記載されてました。 数ページ前?くらいも同様の誤字(?)が有ったのですが、…
[一言] 戦闘中にレベルアップが期待できないのが難点か~。
[気になる点] 蠅王ノ戦団は遊撃隊ですか、こんな真ともに戦場に出るとは思わなかった。これだと女神にはっきり敵対すると宣言するような物だけど良いのかな?
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ