眺望
◇【狂美帝】◇
ファルケンドットツィーネ・ミラディアスオルドシート。
狂美帝ツィーネは、丘のから望むその一帯を眺望していた。
遠くで砂煙が起こっている。
馬が群れで移動しているのだ。
情報にあったアライオンの騎兵隊だろう。
思い出したように吹いた風が、ツィーネの金の髪を揺らした。
膝まで届く、二房の垂らした髪束。
それが――風でそよいだ。
心地よい風だ。
「陛下」
背後から声をかけたのはルハイト・ミラ。
ツィーネの腹違いの兄である。
ミラの大将軍であり、戦略面における総司令官。
「先ほど、我が軍がゾルド砦を陥落させたとの報告が」
「魔戦騎士団は?」
「輝煌戦団には敵わぬと見て撤退したようです」
「向こうは、貴様がいなくとも大丈夫か?」
「当面は問題ないかと。ご存知の通り、我が軍には優秀な将軍がたくさんおりますので」
「日々の薫陶の賜物か」
「ええ」
「報告にあったアライオンからの増援は?」
「まだ到着していないようです」
「ゾルド攻略は運も味方したな。しかしそこへ魔防の白城で戦った者たちが来ると厄介だ。あの死地を生き残った者たちなのだから」
「例のS級勇者が現れた場合のみ、ゾルド砦を捨てて撤退するよう指示してあります」
S級勇者。
ヒジリ・タカオとタクト・キリハラ。
この二人は東の戦場で大魔帝を撤退させたという。
そして――側近級を仕留めたアヤカ・ソゴウ。
今や”人面種殺し”の二つ名も、すっかり彼女のものと聞く。
「指示に何か変更を加えますか?」
「現状での変更は無用だ。今はそれよりも……この一帯で起こっている戦いをどう見るか、だが」
見極めんとするかのごとく、双眸を細めるツィーネ。
「現在、輝煌戦団の大半を対ウルザへ回していますが……必要とあらば、少々こちらへ回させましょうか」
「いや、それも必要あるまい。情報通りここへアライオン十三騎兵隊が来ているとしても、手ごわい相手はそう多くないと余は見ている」
「手ごわいとなると、やはり第六騎兵隊でしょうか」
「特に、隊長のジョンドゥ」
「はい」
「しかし、これはミラにとって好機でもある。どうやら、最果ての国の者たちが外へ出てきたらしい。さて……」
腰の神聖剣の柄底に手をあてるツィーネ。
「余自らも含め、ここからどのように――駒を動かすか」
ルハイトが躊躇いを放った。
が、ほどなく彼は、意を決した風に口を開いた。
「私もお傍で陛下をお守りいたします。この命に代えてもお守りいたします、が……どうか、ご自身のお命は何より大切にされてください」
ツィーネは振り返り、澄んだ蒼き瞳で兄を見た。
目もとを綻ばせ、応える。
「無論だ。この狂美帝、まだ死と手を取り合う気は毛頭ない。それに、ルハイト……今、この方には強力な同盟者もいる」
ツィーネの右手側。
少し離れた位置に立つ人物。
丘の上から、不穏さの増した戦場を見つめている。
「そうであろう?」
ツィーネは表情を戻し、遠くを眺望したままその者へ呼びかけた。
「アサギ・イクサバ」
これにて第七章、完結となります。七章も最後までお付き合いくださりありがとうございました。
七章は「最果ての国編」であったと共に、各陣営がいよいよ動き始めてきたという感じの章だった気がします。最後には狂美帝どころか、浅葱まで動き始めた感じでしたね。六章のあとがきで「各所で動きが出てきそうな気配です」と書いたので、とりあえずは予定通りの進行でやれたかな……?という感じでしょうか。
また、この七章は他の章とやや違う趣もありました。今回はシンプルな「殺す(消す)」、「叩き潰す」といった解決法がベストと言い難い状況だったため、トーカも、いつもとは違うやり方を模索していた感じでしたね。
そんなわけで、七章では各所であれこれ動きが出始めた感がありましたが、続く八章は変則的と言えば変則的……見方を変えれば、七章で起こったことを受けての章になるのではないかと思います。
八章は、いつも通り間章を挟んでの開始を予定しております。間章が終わりましたら、改めて八章開始の日取りを告知いたします。
そして、七章連載中にご感想、レビュー、ブックマーク、評価ポイントをくださった方々にお礼申し上げます。特にリィゼが登場してからの反響はすごかったですね……。八章での彼女は一体どうなるのでしょうか。他にも「面白い」や「このキャラが好き」などの嬉しいお言葉もたくさんいただきまして、とても嬉しく思っております。同じく、レビューも本当にたくさんいただいてしまって……ありがたく読ませていただいております。また、七章でもそっとブックマークしてくださったり、ポイントを置いていってくださった方もたくさんいて……こちらも、とても感謝しております(現金なやつではありますが……いつになっても、やはり更新後にポイントが増えているのを見ると嬉しくなってしまうものですね)。
Web版、書籍版共に、こうして皆さまに支えていただけてとても幸運な作品になったと感じております。より楽しんでいただけるよう、引き続きがんばってまいりたいと思います(前話の七巻発売告知に引き続き、相変わらず長いあとがきになってしまい申し訳ないです……)。
それでは、また八章でお会いいたしましょう。ありがとうございました。




