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START


 今回は、幸運も重なった。

 何もかも思惑通りにいくわけではないのは当然だ。

 臨機応変に動く必要もあった。

 が、戦果を求めるあまり先行した第一騎兵隊がいた。

 おかげで他の騎兵隊を一気に相手にせず済んだ。

 想定よりイージーだったと言える。


「しかしこれでリィゼ――殿の……」

「ぐすっ……いい、わよ……そのままで」


 リィゼは項垂れ、べそをかいている。


「話し方、変えなくていいから」

「……これでも考えが変わってないなら、俺の独断であんたを拘束させてもらう。この戦いが終わるまで、一旦おとなしくしていてもらうぞ」

「う、うぅ……」

「ベルゼギア殿、すまん」


 謝罪をしたのは、アーミア。


「合図が遅れた」

 

 確かに合図はもう少し早くてよかったかもしれない。

 アーミアが面を伏せ、こぶしを震わせる。


「面食らって、しばらく放心してしまったのだ……そのミカエラという男の残虐さに。人間とは、こんな恐ろしいものなのかと……ここまで私たちは、人間から遊び道具のようにしか見なされぬ存在なのか、と……衝撃が大きすぎて、合図を忘れていた。結果、宰相殿もそんなに殴られて……」

「自分を責めなくていい。言ったはずだ。今回の作戦の全責任は俺にある。戦いの中で起きたことで気に入らないことがあれば、俺を責めろ」

「わかっている。だが――酷だ」

「…………」

「今回の私の役回りは、あまりに酷だったぞ」

「悪かった」


 謝罪する。


「ジオの評した、あんたの判断力の高さを頼りたかった。四戦煌の中で防御に長けてるのも、武器を持たず近くでリィゼを守るのに適役だと思った。でも、悪かったな……確かに、酷な役回りだった」

「うるせぇよ、蠅王」


 ジオが横槍を入れた。


「判断力に優れたアーミアをその役割に推したのはオレでもある。おまえ一人で背負い込むこたねぇさ。元々、多数決で負けたらオレは同じことをするつもりだった。ベルゼギアは、オレの計画に乗ったにすぎねぇ」


 後列の騎兵隊が片づいたらしい。

 豹人たちがジオの後方に追いついてくる。

 ふん、と肩越しに背後を見やるジオ。


「思ったより手こずったみてぇだ。おまえの危惧は当たってたかもしれねぇな、蠅王」

「いや……武器で人間を殺すのが初めてだったにしては、よくやれた方だと思う。ただ……今は戦いの高揚感で麻痺してるが、後になってショックを受けるヤツが出るかもしれない。戦いが終わったら、一応ケアはしておくべきだろうな」


 普通はそうだ。

 本来なら。

 そのあたりの感覚が麻痺している俺の方が、おかしいのだ。


「……アンタ」


 リィゼが俯いたまま口を開く。


「アタシが、憎いんでしょ? 憎かったんじゃ……ないの?」

「あんたはただ、必死だっただけだろ」

「……っ」

「視野の狭さはともかく……最果ての国を救いたくて、誰にも血を流してほしくなくて……ただ、必死だった。それがわかってたから、どうも嫌いにはなれなかった。ジオも、あんたを評価してたしな」


 リィゼが顔を上げる。

 顔半分が赤く腫れ、血が痛々しかった。


「ジオ……が?」

「今回の作戦、決め手になったのはジオの評価もある。ジオは……あんたがいなくなれば、国は立ち行かなくなるかもしれないと言った。今後のことを考えてもリィゼロッテ・オニクはこの国に必要だ、と」

「アタシ……ジオが殺されたと、そこの人間から聞かされて。キィルも、捕まって後ろ足を斬られたって……」


 死んでいる副長を見るリィゼ。


「聞いた時、本当に苦しくて……ジオなんか、あんなにいがみ合ってたのに……でも、やっぱりアタシたちは仲間だったんだって……気づいて……でも、今さらもう遅いんだって後悔して……、――ありがとう」


 リィゼの目から、涙が溢れた。



「生きていてくれて、ありがとう」



 ふえぇぇ、と嗚咽を漏らすリィゼ。

 ふん、とジオが顔を逸らす。


「んだよ、いきなり……らしくねぇな」

「照れるな照れるな、ジオ」

「うるせぇよ、アーミア。ったく……」

「ふふふ」


 リィゼは泣きながら――笑った。


 俺は、ミカエラの鞘から剣を抜く。


「で、リィゼ……どうだ? これでもまだ……十三騎兵隊と、話し合いによる交渉を望むか?」

「……アタシは交渉を、諦めない」


 リィゼは涙目のまま、また項垂れた。

 そして、言った。


「だけど――もう、十三騎兵隊とは交渉しない。ベルゼギア……今回はアンタの意見に従う。アンタ、人間なのよね?」

「ああ」

「ここでアタシは人間を一括りにはしない。人間すべてを、邪悪だと決めつけたりはしない。きっと、話し合いで解決できる人間もいるはずよ……アタシは、やっぱり……」

「それでいいさ」


 言うと、リィゼはハッとして俺を見上げた。


「むしろ安心した。要は、相手を見極めろってことだ。自分の能力を信じるのもいいが、疑うことも覚えた方がいい。色んなものを……時には、自分自身さえもな」

「……そうする。アタシ、自分の考えがすべて正しいと思ってた。自分なら、なんだって解決できると思ってた……他の可能性なんて、ないと思ってた……でも、それは……」


 銀の扉の方を向くリィゼ。


「なんでもできたのは、あの国の中だけで……そして、みんながアタシを信じてくれてたからで――」

「ここはもう終わった?」


 飄々と現れたのは、キィル。

 数人のケンタウロスを連れている。

 回り込んで崖から降りてきたようだ。

 あの高さから難なく着地できるのは、俺やスレイだけか。

 ま、俺にしてもピギ丸ロープの減速とステータス補正あってだが。


「道の出入り口付近はうちのケンタウロスを伏せて配置してある。何かあればすぐ知らせるって。で……うちの宰相くんは無事なわけ、それ?」


 キィルが問うと、さらに涙ぐむリィゼ。


「……キィル、ごめん」

「喋れるくらいには、大丈夫そうね」

「アタシ、アンタに――」

「私こそ、謝らせてちょうだい」

「?」

「見捨てるようなさっきの発言、あれは演技だったんだけど……悪かったわ。あれはちょっと、さすがのキィル様も言うのきつかったわぁ」

「知ってるわよ。アタシを助けるためだったって……策士の宰相様を、舐めないで」


 いびつながらも、表情を綻ばせるリィゼ。

 んふ、とキィルが穏やかに微笑む。

 が、すぐにリィゼを見て痛々しそうな顔をした。

 彼女の目が、冷たくミカエラを捉える。


「うちの宰相くんをまあ……派手にやってくれたわね?」


 ジオが聞く。


「こいつをどうするんだ、蠅王?」

「もうこいつは色々知っちまったからな。その時点で、俺はこいつを助けるつもりがない」


 俺は足で身体を動かし、切っ先をミカエラの左胸の脇にあてた。

 鎧の隙間。

 位置的に……


 このまま突き込めば心臓まで、押し込める。


「よ、せ……大、きぞ、く……身、代金……ひ、と……質……」

「大貴族だから人質になるし身代金も期待できる、か? いらねぇよ」

「ぐ、ぅ……な、ぜ……みか、た……では? めが、み……の……」

「女神? この俺が、あのクソ女神の味方なわけがない。ありえない」


 間抜けが。


「どこまでも笑えるぞ、おまえ」

「たす、け……」

「嫌なもん思い出させやがって、この野郎……」


 顔を、何度も殴打されたリィゼ。

 あれは――



     □



 たった一度だけ。

 一度だけ、聞いたことがあった。

 どうしてなのか。

 わからなくて。


『どうしておかあさんはぼくを……いつも、パンチするの?』

『は? はぁ? はぁぁああああっ?』

『ご、ごめんなさい――ぎゃっ!?』

『”どうして?”だぁ!? おい何様だトーカおまえぇえ!? むしろあたしの方が聞きたいっての! なんで自分の持ちもんを殴って蹴るのに理由がいるわけぇ!? はぁ!? おい……今日は顔いくぞ? 今日は、顔いくからな? だからしばらく外はなしだトーカぁ!』

『ぎゃっ!? おかあさん、ごめんなさ――がっ!? ごぶっ!?』

『泣かねぇからもっとむかつくんだよこいつ……ほら、泣けよ!? 泣け! つーか、どいつもこいつも理由ばっか求めやがって! この国のやつら、自分で考えられねぇバカばっかりだ! うざいんだよ! こいつ産んだのに理由なんかねぇっての! 理由がなきゃガキも作れねぇ国なのかここは!? あぁぁああ売れるならこいつ出品してぇ――あ、なんか売れた! はぁ!? 値下げ交渉ぉ!? 死ね! トーカ、おまえのせいだろこれぇえ!?』


 ドカッ、ガッ、ドッ、ガッ、ゴキッ ガッ、ドカッ……



     ▽



 ゆっくりと、刃を、押し込んでいく。

 恐怖を放つミカエラ。


「や……め……」


 ミカエラの身体に、刃が、埋まっていく。

 ゆっくりと、時間をかけて。

 肋骨の隙間から、肺へ。


 首を刎ねるとか。

 頭部を貫くとか。

 心臓を、刺すとか。


 一瞬では、殺してやらない。

 

 ゆっくりと――肺へ。


「リィゼたちに吐いた言葉……娼館がどうとか、拷問がどうとか……ろくでもねぇんだよ……貴族だかなんだか知らねぇが、テメェがどんな風に生きてきたか……想像がつく。どうしようもねぇクズなんだろ、おまえも……わかるんだよ――同類はな。だから……仲良くしようぜ。なあ?」


「ご……ぶっ……」


 ミカエラの口から、血が溢れてくる。


「恐ろしいだろ……テメェも、やってきたんだろ? テメェの身勝手で……こういう、恐ろしいことを」

「ぐ、ぶ……ご、ぶぅ……ぶぶ……」


 溢れる血で、まともに呼吸ができなくなっている。


「助かったと思ったら、それがまやかしだったとわかる……今、絶望的な気分だろ? あっさり裏切られて、コケにされた気分はどうだ? おまえがリィゼにしたのと同じことをされた気分は?」


 マスク越しに見下ろしながら、俺は、叩きつける。







 やがて――ミカエラは、息絶えた。

 見ると、リィゼは複雑そうな表情をしていた。


「あんたはこの男を捕虜にする考えがあったかもしれない。が、殺させてもらった。殺したかったからだ――俺が、個人的にな」

「殺す意味が……あったの?」

「さあな」

「…………」

「リィゼ。もしかしたら……今のあんたには、俺が目を覚まさせてくれた恩人みたいに映ってるのかもしれない。が、俺はそんな善人でもない」


 実際、今回は運がよかった。


「あんたたちはおとりとして機能した。おかげでジオやキィルはこの第一騎兵隊を囲んで叩き潰せた。第一騎兵隊の連中の意識は、完全にあんたたちの方へ向いてたからな。キィルたちも、背後を取りやすかった」


 戦術面で見ても効果的だった。

 事実として、豹人やケンタウロスの被害はないに等しい。

 ……伝令のハーピーまでは、さすがに守り切れなかった。


「確かに、あんたのことはアーミアに守ってもらうつもりだった。が……最悪、リィゼロッテ・オニクの死もありうると考えていた。あんたが命を落とすパターンも、織り込んでたのさ」


 そう。

 今回は、上手く運んだだけ。


「もしリィゼロッテ・オニクが死んでも、他のアラクネが残ればいい。古代魔導具を動かせて、かつ、国の内政をやれる人材が残ればいい。リィゼが相手を見誤って殺されたと伝われば、それはそれで、扉の中にいる連中に十三騎兵隊が”話し合いの不可能な脅威”と伝えられる」


 リィゼが項垂れる。

 俺は、騎乗しているセラスに声をかけた。


「セラス」 

「はい」

「この谷間の道から出て、スレイと少し近辺の様子を探ってきてくれるか」

「かしこまりました」

「わかってると思うが、無茶はするなよ」


 セラスはそこで少し黙り、ジッとリィゼを見つめた。

 そして、躊躇いがちに声を発する。


「リィゼ殿、一つだけ……あなたがその男に殴打されているのを察知した時、我が主はアーミア殿の合図を待たず動くべきか迷っていました。私が、引きとめましたが」

「!」


 リィゼが、目を見開く。


「……申し訳ありません、ベルゼギア様。勝手な真似を」

「まあ、今する話じゃなかったな」

「すみません……私は、今すべき話と思ってしまいました」


 言って、セラスはスレイを走らせて駆け去った。

 リィゼが鼻を啜り、鼻先を手で擦る。


「……あんたがさっき言ったこと、間違ってない」


 言って、悔しそうに歯噛みするリィゼ。


「要は、救ってくれたからと言って自分を信じすぎるなって……遠まわしに、念押ししてくれてるんでしょ?」


 フン、と鼻を鳴らす。


「解釈は任せる」


 さて、


「まだ敵の勢力は残ってる。数も多いだろうし、厄介な相手もまじってる。本番はここからだ。あんたたちは、このあともやれるか?」

「やるしかねぇだろ」


 言って、ジオが腕を組む。


「しっかし……おまえも素直じゃねぇな、蠅王。全然、違ぇだろ」

「?」

「おまえは――そこに転がってるミカエラって野郎とは、全然違ぇよ」

「……どうかな」

「少なくともここにいる連中は、オレの意見に賛成に見えるがな?」


 糸目のアーミアが、人差し指をフェイスベールの中へ入れた。

 むーん、と指であごを掻く。


「私は、その人間が苦しんで死ぬのを見てちょっとスッキリしてしまったぞ、うん。私の感性はズレているのか?」


 キィルが続く。


「そうねぇ……私もスッキリしたし、今のところ蠅王くんに嫌な感じも持ってないわよ? 蠅王くんの言ってること、そんなに変? 現実的じゃない? むしろ、その辺がギリギリの妥協点だと、キィル様は思うけど?」


 グルゥ、とジオが笑む。


「だとよ」

「……あんたらもやっぱお人好しだ、相当に」

「それは褒めてるのだよな、ベルゼギア殿?」

「アーミアはどう思う?」

「私は褒められて伸びるタチでな、うん!」

「じゃ、そっちで」

「キミはそういうところちょっとヤなやつだよな、ベルゼギア殿!」


 確かにある意味ズレてるかもな、このラミアは……。

 切り替えがいやに早い、というか。

 まあともかく、


「わかってもらえたとはいえ、リィゼはこのまま頭を戦争モードに切り替えるってわけにはいかないだろ」


 最果ての国側の道には、亜人や魔物たちが集まっていた。

 ラミア騎士は武器を手にしている。

 アーミアの合図で一度扉の中へ戻り、取ってきたのだろう。

 四戦煌のココロニコや竜煌兵団の姿もあった。

 ココロニコは、いまいちまだ状況がのみ込めていない様子だ。

 まあ今回、彼女は何も知らなかったわけだからな。

 彼らはやや離れた場所で、けっこう前から待機していた。

 自分たちはどうすればいいのか測りかねている感じである。

 ジオやアーミアが大声で彼らを呼び寄せた。

 すると、ぞろそろと寄ってくる。


「リィゼ、あんたは扉の中へ戻って休め。治療もしなきゃだろうしな」

「……アタシも、やる」


 リィゼが、決意を固めた声を出す。


「やるわよ……国の一大事なんだから。そのための、宰相なんだからっ……この程度の怪我で、休んでなんかいられないわよっ」


 ……こいつも大概、切り替えが早い。

 ま、国が大事だって気持ちは変わってないようだ。

 案外。

 アラクネたちと国を出ていくという脅しも、本当に実行する気は元からなかったのかもしれない。


 なんつーか、


「そんなあんただからこそ、ジオも救いたかったわけだ」

「――ッ! う、うるさいっ! そんな優しい調子で言っても、騙されないんだから!」

「…………」


 久しぶりに、こういうツンデレってのを見た気がする……。


「けど、最低限の治療は受けろ。それからもう一つ。最低限の睡眠はとれ。睡眠不足だと思考も働かなくなって、まともな判断ができなくなる。今回のあんたみたいに」

「い、言われなくてもわかってるわよっ……ふん!」


 と、リィゼがしゅんとなる。

 口もとはかすかに緩んでいる。

 が、どこか寂しげでもあった。

 俺の隣に立って、彼女は言った。


「現実の前だと……理想を押し通すのって、難しいわね」

「世の中には、それでも理想を押し通して……すべてを救えそうなヤツも、いるにはいるがな」


 リィゼロッテ・オニクが持っていなかったもの。



 圧倒的戦闘力。



 力なき理想論は無力でしかない。

 が、力を持った理想論は時に現実をのみ込む。

 理想論を――力づくで”現実”へと、変えかねない存在。



『もう誰も、死なせない』



 やりかねない存在。

 あいつなら――十河綾香なら。



『私――強くなります、誰よりも』



 再会してからだろうか。

 こういう時、いやによぎる――十河のことが。


「…………」

「ねぇベルゼギア、アンタさ……アタシのこと、不快じゃない? アタシ、アンタにあんな態度を取って……」

「まさか」


 大した時間を共に過ごしたわけでもない。

 なのに、誰の追随をも許さないあの不快感。

 どこぞのクソ女神と比べたら――


 リィゼなんて、可愛いもんだ。


 あれと比較すると、俺は驚くほど不快感を覚えなかった。

 まあ、リィゼは策に落とし込むのが意外と容易そうな相手だと感じた。

 ゆえに、あのクソ女神と比べるとあまり脅威と感じなかった。

 それもあるのかもしれない。

 だからこそ――救う道を、模索できたのかもしれない。


「……そっか。あの……ありがと」


 こうして改めて見ると、やはり……。

 リィゼは、小柄だ。

 小さい。


 だから彼女は自分を大きく――強く見せる喋り方を、するのだろうか。


 リィゼが数歩前へ進み、


「ジオ、キィル、アーミア、ニコ……みんな。ごめん……今回は、アタシが全面的に間違ってた。今回の失敗は宰相として許されることじゃない。でも、もう一度……もしアタシを、仲間として受け入れてくれるというなら――お願い」


 リィゼが頭を下げる。

 順番に、全員の方角へ。


「アタシに、力を貸して」


 ジオも、

 キィルも、

 アーミアも、

 ニコも、

 亜人も、

 魔物も。


 皆、力を貸すと答えた。


 ……つくづく。


 つくづく――お人好しの、集まりだ。


 だからこそ、一人くらいは必要になる。


 クズで、

 外道な、

 悪魔が。


 リィゼが言い放つ。


「今後は、このベルゼギアの指示に従って――いいわね!?」


 返事と、咆哮と。

 仲間たちが、力強く応えた。


「…………」


 ともかく――上手く運んだ。


 俺の前には最果ての国の者たち。


 戦う覚悟を決めた者たち。


 生き残ろうと、決意した者たち。


 俺は、肩越しに谷間の道の向こうを見やる。


 亜人と、魔物と、共に。


「それじゃあ、始めるとしようか」


 互いの生存を決する―― 








「戦争を」











 5/25に『ハズレ枠の【状態異常スキル】で最強になった俺がすべてを蹂躙するまで』7巻が発売となります。


 7巻も前巻と同様、書き分けなどを行っております。読み比べてみると、描写が違っている箇所もございますね。そして、恒例の追加書き下ろしコンテンツも収録されています。


「トーカと一緒に入浴した後、浴場に残って独り打ち水(シャワー的なもの)を浴びるセラス」(二人の入浴シーンは6巻の追加シーンにもあったので、今回は入浴後のシーンとなりました)


「部屋へ戻って、トーカからご褒美をもらうセラス→二人でベッドにて就寝」


 上記のシーンは連続していて、セラス視点となっております(打ち水のシーンとご褒美のシーンには挿絵もございます)。

 ……まあ、基本はいちゃついてるだけなシーンな気もしますが。

 とはいえ、セラスのトーカに対する感情の変化、動き、また、トーカと共に進んでいくことへのセラスなりの考えなども描かれています。「最果ての国にいた時、セラスはこんな風に考えたりもしてたのか」みたいな感じですかね。


 もう一つはWeb版でも言及のあった、


「綾香と聖が食堂でキスをした件」


 に関するエピソードとなります。

 綾香が回想するという形で描かれていますが、食堂でのキスまでの流れはしっかりシーンとして描かれています(キスをした直後の綾香と聖は、挿絵にもなっていますね)。その回想の後に聖が一人綾香の部屋を訪ねてきて……というエピソードです。ちなみに、このエピソード内の聖のとある台詞ですが、今のところ書籍版のみで触れられていることに関しての描写となりますね。


 表紙は、夏が近づくこの季節によさそうな、清涼感のある爽やかなものになっています。特に、セラスのブルーの瞳がとても綺麗です。せっかくですので、その7巻表紙を……



挿絵(By みてみん)



 ちゃんと表示されているでしょうか……?

 セラスの服装の色合いと相まって、涼しげでよい感じです。


 さて……収録されているカラーイラストの方は、セラス&ニャキ&ピギ丸、大魔帝、ムニンとなっております。色のついたニャキは今回が初出となりますね。見開きカラーは、ニャキの物真似をしているピギ丸が妙に可愛くて……。さらに、聖たちが東軍で目にした巨大な大魔帝も今回イメージイラストとしてビジュアル化していただきました。女神サイドの勇者たちは、あんなのに勝てるんでしょうか……。そして、ムニンの方もイメージイラストとなりますが……このムニンが、本当に素晴らしく……美しさと色香が見事に同居した感じに描かれております。ムニンには……なんというか、独特の聖母感みたいな雰囲気がある気もしますね。


 挿絵の方も巻内の様々なシーンをビジュアル化していただきました。挿絵にもムニンが登場していますが、こちらのムニンもKWKM様がとてもよい感じに描いてくださっております。そして……あの人も、挿絵にて登場です。


 そんな感じの7巻も、皆さまのおかげで出版に漕ぎ着けることができました。おかげさまでシリーズ累計60万部突破とのことで……ありがたい限りでございます。文庫としてはページ数も多く、決して安くはない買い物だと思いますが、それでも新しくシリーズをご購入くださった皆さま、また、前巻をご購入くださった皆さまに、この場を借りて心よりお礼申し上げたく思います。ありがとうございました。


 そしてもし叶うならば、今後とも「ハズレ枠」を温かく見守っていただけましたら幸いでございます。



 このあと0:00頃、7章最終話を更新いたします。



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― 新着の感想 ―
トーカは両親に似ないで叔父さん達似(祖父母似?)で善人なのかな? それがドアマットサンドバッグ育ちでおかしくなっちゃったの? 元は悪人なのかな?って思ってたけど、逆で元は善人なのかな?不憫だ
宰相ちゃんが持ってた鍵は取り戻したっけ? 敵の手に渡らないかハラハラするんだが!
>力なき理想論は無力でしかない。 >が、力を持った理想論は時に現実をのみ込む。 現実にも「永世中立」を掲げると同時に、ソレを護る為の軍事力を持つスイスって国がありますからね
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