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決して逃れることのできないもの


 この仮説なら多少は納得もできる。

 俺の状態異常スキルの性能が破”格”なわけも。

 ただ……この説だと補正値の低さがいまいち納得いかない。

 いくらなんでもA級と差がありすぎる。

 まあA級は俺と伸び率が違うのかもしれないが……。

 レベルアップ時の補正値計算が同じ掛け算方式とも限らない。

 しかし100LV分でも俺の体力補正値は小山田の初期値以下。

 現状、E級がA級より素直に優れているとも思えない。

 いや、固有スキルだけでも異常性能なのは確かなのだが。

 スキルに全振りされている、という考え方もできるかもしれない。


「ま――この仮説を証明する手段はないし、今ここで証明したところでどうなるわけでもないしな……」


 戦える武器がある。

 今は、それで十分。


 俺はしばらく無言でドラゴンゾンビの死を待った。

 遠い場所で死んだら経験値が入るのか?

 いずれそれも試してみたいところだが……。

 この魔物の経験値は欲しい。

 初遭遇の魔物だしな。

 今は不確定要素を試す時ではない。

 そこそこ長い時間が経過した。


「グ、ぃ、ォ゛っ!? エ゛、ぇ゛――、…………」


【レベルが上がりました】


【LV501→LV549】


 ドラゴンゾンビが力尽きた。

 大分HPがあったな……。

 致死までけっこうかかった。

 性質上【ポイズン】は即死スキルではない。

 多少時間がかかるのは仕方がない。

 何より今は【ポイズン】の存在が生命線とも言える。

 このスキルがなければ、完全に詰みだった。

 ただ……少し俺は困っていた。

 今、別の問題が発生している。


「…………」


 現在ひとまず解決した問題。

 魔物対策。

 空腹。

 喉の渇き。


「そう、だったな……もう一つ、重大な問題があったか……」


 瞼が重くなってきている。

 そう――眠気だ。

 召喚後からの過度な緊張状態。

 遺跡へ転送されてからの極度の緊張状態。

 数回の全力疾走、死線、階層の往来、時間経過……。

 目の前の危機は一旦去った。

 万全ではないが食事もできた。

 しかし張りつめていた神経がそれで一時的にリラックスしたせいだろう。

 脳が休息を寄越せと文句を言ってきている。

 眠気を誘引する疲労感が身体を包み込んでいた。

 ステータスが上がろうとやはり眠気からは逃れられないらしい。

 補正値も睡眠不足で下がりそうな気配がする。

 しかしどうする?

 仲間がいれば交代で見張りを立てられる。

 が、今の俺は紛うことなきボッチ状態。

 一応ここは遺跡の名を冠しているのだ。

 遺跡っぽい部屋とかはないのだろうか?


「ただ……」


 上を仰ぐ。

 ペタッとしたなだらかな螺旋状の坂が上へ続いている。

 これからあれをのぼるわけだろ?

 この眠気のままいけるのか?

 途中でぶっ倒れやしないか?

 それは――危険じゃないか?

 縄張りの主らしき腐竜は倒したが……。

 経験上、あの一匹だけとも限らない。

 どうする?

 どこで、睡眠を取る?

 このだだっ広い鍾乳洞エリアのどこかに適した場所はあるのか?

 探索がてらこの一帯を歩いてみることにした。

 ドラゴンゾンビが出てきた穴にも入ってみる。


「うっ」


 独特の強い刺激臭が鼻をついた。

 穴は先へ行けば行くほど先細っている。

 奥の方は完全に緑の液体で満ちていた。

 なんとなく地下水路を彷彿とさせる。

 液体は酸のようだ。

 石ころを摘まんで、半分ほど液体につけてみる。


 シュワワァァ……


 魔物の体液よりは弱い酸のようだが……。

 しかし放つニオイがひどすぎる。

 この刺激臭の中ではさすがに寝られない。

 穴から出た俺は改めてここら一帯をぐるっとひと巡りしてみた。

 しかし、身を隠せそうな場所は見つからなかった。


「こいつはまいったな……」


 身を晒したまま眠りにつくのは、どうも抵抗が――


「ん?」


 壁の近くで力尽きているドラゴンゾンビ……。

 ドラゴンゾンビの骨はグチャグチャになっていた。

 さっき【スリープ】をかけた時の影響だろう。

 急な自重がかかったため、身体中の骨が折れたり曲がったりしている。

 眠らせるとほぼ脱力状態になるわけだ。

 と、一つ思いつく。

 だが、


「……どうなんだ俺、そのアイディアは」


 近寄って竜の骨に触れる。

 次に腕を引き、こぶしに力を込めて叩く。


 ガッ!


 硬い。


「強度はオーケー……多分、だが」


 さて、俺の考えているような場所があるかどうか――


「あ」


 骨の段差をのぼる。


「ここは……どうだ?」


 太い骨が折り重なった部分。

 覗き込む。

 隙間の奥に空洞が確認できた。

 人間一人くらいなら入れるだろうか?

 あと、この隙間――


「いける、か?」


 グイッ


 身体を骨と骨の隙間にねじ込んでみる。

 と、通れるか……?


「ぐっ」


 スポッ!


「……っと、と――」


 通れた。

 周囲を見渡しつつ皮袋で照らす。

 人が一人寝そべってギリギリくらいの広さだな……。

 ただし立ち上がるのは無理そうだ。

 高さは中腰が限界。

 でも、十分だ。


「ニオイはアレだが、今日の宿はここにするか……」


 腐肉のニオイは仕方ない。

 身の安全には変えられないだろう。

 何よりさっきの穴の中の刺激臭よりはマシだ。

 強い酸性の体液もここへは染み出してきていないようだし。

 一度、俺は外へ出た。

 この辺りには微妙に細い骨がたくさん散らばっている。

 ドラゴンゾンビが倒れた時に折れて砕けた骨の一部。

 俺はなるべく細めの骨の破片を選んで拾っていく。

 地面の足もとに一本置き、踏みつける。


 ペキッ!


 骨の砕ける音。

 よし……。

 この細さだと適度に柔い。

 音もそこそこの快音。


「ここと……あと、ここにも……」


 ドラゴンゾンビの周りの地面。

 隙間地帯を埋めるような感覚で細骨を散りばめていく。

 寝ている最中に鳥頭みたいな魔物が襲ってきたら、どれかは踏むはずだ。

 気休めではあるが簡易的な警報装置。

 さて、戻るか……。

 俺は骨のお宿に戻ると、座って骨の壁に寄りかかった。

 寝そべるのは危険に感じる。

 すぐ動けるよう座った姿勢で寝た方がいいだろう。

 この眠気ならいけるはずだ。

 目を閉じる。

 予想通り。


 眠りはすぐに、やってきた。



     ▽



 ――パキッ――


 意識が急速に覚醒。

 目を、ゆっくりと開く。


「……きやがったか」


 どれくらい眠れた?

 頭は――大丈夫、冴えている。

 眠りが深ければ短時間でも十分な回復効果がある。

 ネットで見た。

 身体は……少し重い気もする。

 まあ、寝起きだからだろう。

 さて、どんな魔物が――


 ――パキッ――


 ん?


 ――パキッ――メリッ――ペキッ――ペキッ――


 一匹じゃ、ない……?

 骨の隙間から外の様子をうかがう。

 角度的に姿は確認できない。

 だが、はっきりとわかった。


「なるほど」


 蠢く群れの気配。


「団体さんの、ご到着ってわけか」


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― 新着の感想 ―
[一言] (第21部分の続き)寝床で必要なんですね。主人公自身に「ゾンビなのに何故か効いてしまった」的なことを語らせるのはどうでしょうか。
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