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銀の扉


 長らく続いた樹林帯が、その領域を狭めていく。


 陽は中天に昇り、日差しは強い。

 魔物もすっかり見なくなった。

 ここはもう――魔群帯の領域内ではないのかもしれない。

 ただ、それを度外視しても生物の気配がない。


 目に見えて、岩場が増え始めていた。

 独特の岩粉っぽさが鼻をつく……。

 山岳地帯――と、まではいかないだろうか?

 が、明らかに緑が減ってきている。


 途中、集落跡を見つけた。

 一応軽くざっと見て回った。

 ここらでは昔、採掘なんかが盛んだったのかもしれない。

 しかしその集落はもう打ち捨てられていた。

 もう長い間、ずっと放置されているみたいだった。 

 作物を育てるのに向いた肥沃な土地でもない。

 採掘場としても無価値――不毛の地。

 戦略上、重要な地帯でもなさそうだ。

 誰からも興味を持たれない場所。

 裏を返せば――


 人に見つからぬよう隠れ潜むには絶好の場所、ともいえる。


 俺は地図から視線を外し、


「ここだな」


 視線を、上へ移動させていく。

 切り立った岩壁。

 その壁が東西へとのびている。

 ずっと、長く。

 辺りに特に目立つものはない。

 なんというか――いかにもな”自然の風景”である。

 あまりに自然すぎて、作り物めいているとすら思えるほどに。

 岩肌に手をのばす。

 その岩の壁を――俺の手が、通り抜けた。


「ふニャぁ!?」


 ニャキが驚く。


「これが――エリカの言ってた幻術か」


 あまりに”自然”すぎて逆に不自然。

 エリカが幻術の特徴について語っていた。

 本物の自然に備わっている”遊び”の余地を作るのは難しい。

 幻術の弱点は、それだという。


「……行くか」


 俺たちは、壁の中へ足を踏み入れた。

 幻術の壁を抜けると、谷間の道に出た。

 道は先へ続いている。

 左右は切り立った崖。

 道幅はけっこうな広さがあった。

 しかし今のところ近くに生き物の気配はない。

 かろうじて、たまに空を行き交う鳥を目にするくらいだ。

 そう――空は見える。

 上空から俺たちは見えるのだろうか?

 空の鳥の感じからすると……。

 上空からは、幻術によって他の風景が見えている気もする。

 俺たちは、足を進めた。


「…………」


 歩きながら、俺は気になっている情報について考えていた。

 たとえば勇の剣を襲ったというミラ帝国の刺客の件。

 この情報はルインたちが明かした。

 ミラの刺客は神獣――ニャキを手に入れようとしたらしい。

 これを、どう解釈すべきか?

 やはり、最果ての国を潰そうとしていると考えるのが妥当か。


 先の大魔帝軍の大侵攻……。

 ミラは主力をほぼ完全に近い形で残していると聞いた。

 そして、狂美帝自身も未知の強さの持ち主。


 アライオンの連中と同時にぶつかるとなると――

 少々、厄介な相手かもしれない。

 国としても。

 国の、トップ個人としても。


 それから……。

 ニャキの”ねぇニャ”ニャンタン・キキーパット。

 以前イヴの口からその名が挙がっていたのを思い出した。

 アライオンの戦力の中では強者の部類。

 ニャキの家族の中では唯一、どこかで対峙する可能性がある人物だろう。


 名前を聞いておいてよかった。

 この人物だけは、どうあっても殺すわけにはいくまい。


 そして――第6騎兵隊。

 こっちも、忘れるつもりはない。

 アライオン十三騎兵隊。


『ある日、その集落が…アライオンの騎兵隊だと名乗る人たちに壊滅させられて……』


 リズが暮らしていた集落を襲った連中。

 ただし勇の剣と違い、


 ”どいつが”


 というのが絞りにくそうではある。

 隊が十三にも分かれているのなら大所帯だろう。

 全隊が集落襲撃に参加していたわけでもあるまい。

 当時その襲撃に参加したヤツらが、今もいるとは限らねぇしな……。

 ただ、こっちも機会が巡ってくればケリをつけたい案件だ。

 リズのためもある。

 が、何より――俺自身も、スッキリする。

  

 なんてことを考えていると、


「何か、光ってますニャ」


 先を指差し、ニャキが言った。

 見えるのは巨大な銀色の扉。

 と言っても、ややくすんでいるので鉄色に近いかもしれない。

 術式めいた奇抜な彫刻の施された門。

 その、中央下部――


 水晶球が嵌め込まれている。


 事前情報通り。

 懐から、エリカから譲り受けた水晶――”鍵”を取り出す。

 これをあの水晶球の中に投じれば光を発し、開くらしい。

 ただ、


「ニャキがいるから……こいつを使うまでもなく、近づけば開きそうだな」


 荷物から蠅王のマスク取り出し、被る。

 最初はぱっと見で”人間”と判断できない方がいい気もする。

 元々人間の世界から逃れてきた者たちの集まった国である。

 俺たちの中で人間は俺だけ。

 ひと目で人間だとわかった途端、攻撃を受ける可能性だってある。

 今の住人たちの人間への敵意がどのくらいかは不明なのだ。

 しかしマスクを被っておけば少なくとも初見で、


 ”人間だ、殺せ!”


 は、回避できるかもしれない。

 マスクを被っていれば、中身が亜人族の可能性を残せる。


「……エリカが使い魔でついてきてくれるのが、一番だったんだが」


 ”使い魔を通して最果ての国の王と意思疎通する”


 これがベストだった。

 今ならこっくりさん風の文字紙もある。

 なので、長時間のやり取りも可能。


 が、どうもこれは無理な気配がしてきた。


 というのも、本来はエリカの使い魔が合流するはずだったのだ。

 最果ての国の近くで、使い魔が待機している手はずだった。

 けれど――その使い魔が、一向に現れる気配がない。

 俺は、以前エリカから聞いた話を思い出していた。


『使い魔だって、見た目や身体能力は普通の動物と変わらないわ。で、常にエリカが中に入ってるわけでもないから……たまに、そこらの獣とかに襲われて死んだりしちゃうのよ。で、数がいるっていってもふんだんにいるわけでもないから……長くトーカたちと接触がない場合、近くにいた使い魔が死んだり、重傷を負ってるって場合も頭に入れておいてちょうだい』


 ……どうも今回、それな気がしてならない。


 実際、幻術の壁付近でふくろうの死骸なんかが見つかっている(スレイが見つけた)。


 呟きほどの大きさで、独りごちる。


「あれが、使い魔だったのかもな」


 クソ女神に場所がバレた以上、今、最果ての国には危機が迫っているかもしれない。


 ゆえに、その件は早めに最果ての国の王に伝えた方がいい。

 となると今……いるかいないかわからない使い魔を待つのは、難しい。

 扉を見上げる。


「――ま、なんとかなるだろ」


 あとは――手持ちのカードで、どうにかする。

 何より、


「トーカ殿」


 声をかけたセラスに、俺は一つ頷いて言う。


「ああ」


 ようやく、辿り着いた。

 禁呪の呪文書――その秘密を握る一族。

 禁字族が住むと言われる伝説上の国。

 亜人族や金眼でない魔物たちが辿り着いた、その果ての国。


 俺たちが近づくと、光がさらに強くなった。

 そして、扉がゆっくりと開き始める。


「ここからが本番とも言えるわけだが……ともあれ、ようやく――」


 クソ女神への復讐を果たすための最重要パーツ。


 禁呪。


「この手が届きそうなところまで、辿り着いた」


 そうして――俺たちは、扉の先へと足を踏み入れた。





 というわけで……なんとか、年内に7章スタートが間に合いました(分量は少なめですが……)。


 来年にはいよいよ、大きな目的地の一つであった最果ての国にトーカたちが入国することになりそうですね。



 そして……皆さま、今年もありがとうございました。


 いっぱいいっぱいになりつつも、皆さまのおかげでどうにか今年も書き進めることができたように思います。


 これは、ことあるごとに決まり文句のように言ってるような気がしますが……来年はもっと執筆量を増やしていけたらなぁ、と考えております……。


 あまり気のきいたことも言えませんが、どうぞ来年もよろしくお願いいたします。


 それでは皆さま、どうかよいお年を。


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― 新着の感想 ―
[一言] とうとうおいついてしまったぁぁぁ
[一言] ピュ~イ(感嘆の口笛)!!! これからですね
[一言] 今年も良い執筆をw
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