表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

216/432

黒炎の勇者



 ◇【女神ヴィシス】◇



「――待ちかねましたよ、勇の剣」


 アライオンの女神のもとへ、軍魔鳩から待望の報せがもたらされた。

 目をつけた地域を長らくヴィシスは勇の剣に捜索させていた。

 ハズレが続いたが、ようやく当たりを引き当てたらしい。


「最果ての国……ふふ、これで最後の禁字族もおしまいですっ。今日は、よき日ですねっ」


 ヴィシスは配下に指示を出し、人を呼ばせた。

 ほどなく、その人物はヴィシスの部屋を訪れた。


「この僕に、西へ赴けだと?」


 トモヒロ・ヤス。


 先の戦いで切断された指は【女神の息吹(ヒール)】で治してある。

 眠りにつかなかったのは、幸運と言えよう。


「はい、実はとてもとても大事な任務がございまして」

「大事な任務だと? 大魔帝の軍勢はまだ滅していないであろう。我は大魔帝に復讐を果たさねばならん……ッ! なのに、西へ行けだと!? そんな任務は綾香やその取り巻きにでも任せておけばいい! この僕には不釣り合いな任務だ!」

「んー、そうでしょうか?」


 安のこめかみが、ピクッ、と反応した。

 その顔は怒りに満ちている。


「なんだと?」

「実を言いますと……あの、ここだけのお話しですよ?」

「む?」


 ヴィシスが神妙な顔で前かがみになった。

 ただならぬ様子に、安は興味を惹かれたようだった。


「この任務は、実は大魔帝討伐より重要なものなのです」

「……なんだと?」


 小声になって、安が表情を変える。


「他の勇者さんたちに頼むのも考えたのですが……いかんせん、どこまで信用してよいのかわからなくて……」


 ため息をついてから、ヴィシスは安の手の上に自分の手を添えた。


「ですが――ヤスさんでしたら、信用できると思うのです」

「……そういう、ことか」


 安は真剣みのある表情を作っている。

 が、頬の緩みを完全には隠せていない。


「よかろう。桐原や聖では、無理な任務なのだな?」

「ヤスさんもご存じの通りS級の方々は、その……頭で戦えない方ばかりでしょう?」

「確かに」

「その点、ヤスさんは一つ下のA級ですが頭の切れる方です。そういう方でなければ、この任務は決して務まりません。あなたしか――いないのです」

「――――――――」


 安が、感銘を受けているのがわかった。

 しかしヴィシスはそれに気づいていることをおくびにも出さず、言う。


「このたびの極秘任務はこの国……いえ、ひいてはこの世界の今後を左右すると言っても過言ではありません。お願い、できますか?」


 ふん、と鼻を鳴らす安。


「そういう話であれば、仕方あるまい。我にしかできぬのであれば、我がやるしかあるまい……」


 にこっ、とヴィシスは微笑んだ。


「私の見込んだ通りですね。ヤスさん、さすがです」


 安が去った後、ヴィシスは第六騎兵隊の隊長を呼ぶよう配下に伝えた。


「単細胞とは――時に哀れですが、まあとても扱いやすいこと」


 書類の束に視線を這わせるヴィシス。

 処理すべきものは山積みである。

 大魔帝降臨以降、女神のやるべき雑務は格段に増えた。


 究極、ヴィシスは他者を信用しない。


 短命の人間など、特に信用を置くべき生物ではない。


 短命とは愚かしさの証明である。


 深い知見や悟りを得る前に、頭の中が弱って死ぬ。


 賢くなるには――あまりに、短すぎる生涯。


「愚かな人間ども」


 あらいけない、と口に手をやる。

 それからニコニコ笑い、再び、ヴィシスはペンを手に取った。



     ▽



 数日前、トモヒロ・ヤスと第六騎兵隊がアライオンを発った。


 ヴィシスはその日、いつも通り自室で執務をこなしていた。

 と、


「ヴィシス様、失礼いたします!」


 男が血相を変え、部屋に飛び込んできた。

 書類に落としていた視線を上げる。

 配下の一人であった。


「あらあら……おうかがいも立てずに入室とは、一体何事でしょう? ええっと……おそらく大魔帝軍に何か動きが出たのですね? ふむ、もう立て直しましたか。んー困りましたねぇ……本当に、今回の根源なる邪悪は手を煩わせてくれま――」

「ち、違うのです!」

「? 大魔帝軍関連の報ではないのですか? では、なんでしょう?」

「きょ、狂美帝がっ――」


 一旦息を整え、配下は、今も驚きを隠せぬ様子で続けた。







「ミラ帝国が我がアライオンに、宣戦布告しました!」











「…………………………………………………………………………は?」















 これにて第六章、完結となります。六章も最後までお付き合いくださり、ありがとうございました。


 魔女の棲み家への帰還から出立、そして、メインは勇の剣との戦いとなった6章ですが、最後は女神視点での締めとなりました。


 これからもし北の大魔帝、西の狂美帝を相手取るとなると、アライオンは両方面と同時にやり合う必要も出てくる可能性も……という感じになるのでしょうか。さらには第六騎兵隊と共に西へ向かうことになった安、何やら裏で動いているらしい聖、そして、トーカはついに禁字族の住むとされる最果ての国へ……といった感じで、七章ではまた各所で動きが出てきそうな気配です。


 七章はまた少しお時間をいただいて、恒例の間章を挟んでのスタートになるかと思います。七章開始の日取りも、間章更新の際に告知いたします。



 そして、六章連載中にご感想、レビュー、ブックマーク、評価ポイントをくださった方々、ありがとうございました。レビューも現在59件になっておりまして、こんなにたくさんいただけるとは思っていなかったのもあって、嬉しい驚きでございます。予想外といえば、ポイントも気づけば320000ポイントをこえていまして……連載当初はこれだけたくさんの方に読んでいただけるとは思っていなかったので、こちらも嬉しい驚きでございます。そっとブックマークをしてくださったり、そっとポイントを置いていってくださった方々にも、改めまして感謝申し上げます。


 なかなか苦悩しつつ執筆する日々ですが(まあ、昔からそうなのですが)、好意的なフィードバックなど、色々な形での皆さまの支えがあってどうにか書き進められております。改めて、皆さまに支えられている作品だと感じました。いつもありがとうございます。



 それでは、また七章でお会いいたしましょう。ありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] ファッここで狂美帝!! [一言] これは……面白くなってきました(*´ω`*)
[一言] おうかがいも立てずに入室とは、  →伺いも立てずに入室とは、
[良い点] 復讐心を糧に闇落ちしても正しい心は失わなかった主人公のブレない信念と不遇にあっても生きようとする脇役達が主人公を支える設定が好き。 [気になる点] 魔王軍進行から話が進まない。 [一言] …
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ