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勝利するための解法

 読後感的なものを大事にしたい気もしましたので、あとがきに書こうと思っていた内容を先にこちらのまえがきに記載することにいたしました。


 まずは、前回更新後に2件新しくレビューをいただきました。ありがとうございます。


 それから、10/30にコミックガルド様にてコミック版13話が更新されております。スケルトンキングが崩れるシーンがとてもカッコイイです……。さらにこの13話では、カトレア姫も登場していたります。こちらも是非、ご覧くださいませ。


 そして、先日5巻が重版したとのご連絡をいただきました。まずは、この場を借りてご購入くださった皆さまに深くお礼申し上げます。今のところ、大変ありがたいことに1~5巻すべて重版となっておりまして……本当に、ご購入くださった方々には頭が上がりません。本当にありがとうございます。また、書店様などで探しても5巻が見当たらなかった方は、重版分が出回るまでしばしお待ち頂けましたらと存じます。



 それでは、お楽しみいただけましたら幸いでございます。







 ”光玉”


 魔素を込めるとその名の通り光を発する魔導具である。

 大きさは、握り込める小石ほど。


 ブンッ!


 雑音壁の隙間から光玉を放り投げる。

 投擲の方角は四人とも別々。

 投げる距離も近距離〜遠距離まで分けた。

 光玉の落ちた辺りが明るさを増す。

 近辺の魔物が光に寄ってきても問題はない。

 この辺りにルイン・シールに勝てる魔物などいるはずがない。

 それよりも――正体不明の”何か”の動きを察知すること。

 これが、最優先。

 もうルインは誓っていた。

 敵対者への甘さは完全に捨てる。


 全員が今、緊張感に包まれていた。


 ”楽しもう”


 そう、言いたかった。

 しかし今はそんなことを言える状況ではない。

 勇の剣始まって以来の危機的状況……。

 ルインは、隙間に挟まったままのサツキの死体を見た。

 見るに絶えず、すぐ視線を戻す。


 この短時間で、すでに二人失った。


 ストライフ。

 サツキ。


 生死不明者は、四名。


 トアド。

 バードウィッチャー。

 カロ。

 ナンナトット。


 気づけば生存確実と言えるのはたった四名。

 半分以下だ。


「こっちから打って出るのはやっぱ危ねぇか、ルイン?」


 壁に張り付いて様子を窺う姿勢のまま、ユーグングが聞いた。


「僕の勘が告げてる。敵に”全身”を捉えさせるのは、確実にまずい」


 実際、敵は攻めあぐねているように思えた。

 理由は想像もつかない。

 が、攻勢へ出るためにおそらく必要なのだ。

 自分たちの”全身”――あるいはそれに近い姿を、視界で捉えることが。


(伝承に登場する魔眼の使い手か?)


 まさか。

 魔眼など聞いたこともない。

 所詮、伝承は伝承に過ぎない。


 皆、息苦しさを感じていた。

 神経は、ずっと張りつめている。


「……攻め手を欠いてるのは、こっちも同じだな」


 中から外へ放てる遠距離武器が必要だ。

 幸い弓矢がある。

 今、ユーグングとアレーヌは武器を弓矢に持ち替えていた。

 他に使えるのは攻撃魔術用の魔導具。

 ミアナが杖状のそれを手にしている。

 ルインはというと――サツキのカタナを、手にしていた。

 投擲武器として、使用するために。

 カタナの柄を、握り込む。


 ギュッ!


(使わせてもらうぞ、サツキ……そして必ず、このカタナでニャキの耳を削いでやる……約束する!)


 見ると、光玉の周囲に虫が群がっていた。


「敵は僕らの全身を捉えられない限り、攻勢に出られないみたいだ」

「サツキをあんな風にして攻撃させたのも、自分で戦える力がないから……ってこと?」

「だと、思う……、――ッ!」


 ルインは胃の辺りに手をやった。

 必死に、吐き気を抑え込む。


「ちょっ!? 大丈夫、ルイン?」

「……気持ちが、悪い」

「ど、どうしたの?」

「気配が、変なんだ」


 途中からずっと、感じていたこと。

 こめかみが、キュゥウ、と縮む感覚。

 脳をぐるぐると、かき回されているような。


「ちぐはぐ、なんだ」

「ちぐ、はぐ……?」


 おそらく勘が、働いている。


「強くは、ない……そう、決して強くはないんだ。だけどとても不吉だ……勝てるはずなんだよ。僕がこの”何か”とやり合えば、必ず勝てる――なのに僕は”ひどく恐ろしい”と、そう感じている……ッ!」


 あまりに、

 まるで、解けない難題を突きつけられたかのよう。

 けれど、


「このちぐはぐさの正体――これこそが、勝利の鍵な気がするんだ。その正体の謎さえわかれば……この敵の性質を知ることが、勝利に繋がる気がしてならない……ッ!」


 ユーグングが、自らを奮い立たせながら声を上げる。


「つまり――告げてるんだな!? おれたちをいつも救ってきた、おまえさんの勘がッ!?」


「ああ、間違いない! この感覚の正体を解き明かすことこそが、僕らが勝利するための”解法”……ッ! ああ! 告げてる……僕の、直感が!」


 呼気が、荒さを増す。



「僕に生きろと、告げている!」



 ”敵の正体を知る”



(それが生存のための、第一歩……)


 人間?

 人面種?

 亜人族?

 最果ての国からの刺客?

 はたまた、ミラが送り込んだ第二陣の刺客か?


 ピンと、こない。


 木製細工がピタッとハマるようなあの感覚が、ない。


「はぁっ――はぁっ……はぁっ――」


 汗ばむ身体。

 気温はそれほど高くない。

 けれども皆、汗をかいていた。

 その時、


「……足音」


 足音が、聴こえてくる。

 耳を澄ます。

 聴こえてくるのは、


「馬……? 馬の足音じゃないか、これ……?」


 普通、馬は魔群帯を恐れる。

 踏み入っても精神的に耐えられない。

 なのに、ここに馬がいる。


(しかも、二頭……)


 二頭の馬が、連なって走っている。

 ぐるりと。

 ルインたちの周囲を遠巻きに、駆け廻っている。

 つまり、


「敵は最低でも、二人いる……」


 まずは人数を把握した。

 足音に聴覚を集中させる……。

 多少意識は足音の感知に取られるも、周囲への警戒も怠らない。


「うっ――」


 再び、苦しさを増した胸を掴むルイン。


「ルイン!?」

「……違う」

「違う?」

「この馬に乗ってるやつ、じゃない」


 ちぐはぐさの持ち主。

 そいつは、


「別に、いる……ッ」


 しかし、馬の方も普通でなく思える。

 速度も。

 地を踏みしめる力強さも。

 強靭さが、尋常じゃない。

 ただの馬ではない。

 魔物の可能性も高い。


 ”楽しんでるか?”


(あの声は、もう聴こえない……幻聴、だったのか? しかし……)


「――――ッ!」


 急速に、圧が強くなった。



 そしてそれは――のである。



「! アレーヌ、光玉を!」

「え、ええ!」


 ルインは奪い取るようにして光玉を手にし、



「答えを、確かめてやる!」



 下手投げで、思いっきり”圧”の方へと放り投げた。


 すると。

 鬱蒼と林立する木々の向こうに――



 巨大な”それ”が、いた。



 目を瞠るルイン。



「スラ、イム……?」



 巨大な魔物――スライム。

 そう。

 光が照らし出したのは、巨大なスライムだった。

 目視できたのは一瞬。

 スライムの姿はすぐ見えなくなった。

 なんと、いうか。

 あっという間に、縮んだかのような。

 が、確かにこの目で見た。

 まるでスライムの頂点に立つ王のような威容。

 生まれてこの方、あんな大きさのスライムを見たことはない。


「ふ、ふふ……そう、かっ……そういう、ことか――ッ!」


 目を輝かせ、同じく巨大スライムを目にしたユーグングが振り返る。


「ルイン! あれが……あれがおまえさんの言う”ちぐはぐさ”の正体か!?」

「――ああ、そうらしい」


 スライムは貧弱な魔物として認知されている。

 普通、人間にとっては潰して遊ばれたりする程度の魔物。

 面白半分に潰し殺されたせいか、最近はあまり見かけなくなったが……。


「弱いスライム族なのに、あれだけの圧を持っている……だから”ちぐはぐ”だったんだ。本来なら弱い魔物のはずなのに、突然変異か何かでああなった……敵の正体は、人をおかしくさせたりする特殊能力を持った突然変異のスライムだったわけさ! アレーヌ、もっと光玉を頼む!」


 光玉であの辺りを一斉に照らし出す。


「…………」


 ルインは、スライムのいた一帯へ意識を集中させた。


 かすかだが――気配を感知できる。 


 まとは、驚くほど小さい。


 遮蔽物も多い。


(が――)



「逃がさない」



 自分なら、やれる。


 必ず仕留める。


 この一撃で。



(力を貸してくれ、サツキ)


 サツキのカタナの柄を強く握り、振りかぶる。


 全、神経を。

 全、感覚を。


 スライムの気配へ集め、照準を定める。


 射線を、確保。


 ――ミシッ――


 腕がしなり、筋肉が唸りを上げた。


 と、





「ピッ、ギィィイイイイィィィィイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイ―――――――ッ!」





 辺りに、異様に大きな鳴き声が響き渡った。


「なんだぁ!? うるっせぇええ!?」

「なんなのよもう!?」

「きゃっ!?」


 耳を塞いで騒ぎ立てる三人の仲間の声。

 それすらかき消されそうな音量である。

 まるで鳴き声自体を増幅でもさせているかのように、大きい。


「威嚇のつもりか……それとも、怯えているのか。いずれにせよ――」


 投擲準備。


 完全、完了。



「もう遅い……おまえが僕たちにしたことを考えれば、もう、今さら後悔しても遅――――」








 ――――ゾクッ――――








 そこで、ルイン・シールは気づいた。


 気配は、そう――ほんの一瞬。


 けれどそれはとても、奇妙な感覚で。


 感覚の急加速、とでも言おうか。


 上手い表現が、思いつかない。




「おま、え――――」



 ルインは投擲姿勢のまま、肩越しに背後を見る。



 いつから?



 まるで、気がつかなかった。



 背後の雑音壁の隙間から、



 いつの、間にか――



 伝承の”それ”が、そこに。



 かの、蠅王の。



 その、赤と黒の貌が――





(一体、いつから――)





「おまえ一体いつから、そこにいたぁぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ――――ッ!?」




 そこは、ルインたちの”全身”を視界に収められる位置。



 覗きこむ赤と黒の者が、ルインの方を、指差していた。




 そう、いえば。




 振り返る時――何か、聴こえた気がする。




 確か、そう――




 ”【パラライズ】”




 とか。






 ――――――ピシッ、ビキッ――――――








 身体が。






 身体が、なぜか――――動かない。








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― 新着の感想 ―
もしもし、わたし蠅王 今、アナタの後ろにいるの 馬が「二頭」ね つまり、「四足」の馬の足音が「二頭分」聞こえているワケね
[一言] :( ;´꒳`;):ヒェッ・・・ 普通にホラーで草:(´◦ω◦`):
[気になる点] 直感にも程があるだろ…ちょっとこれは無理がある。
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