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召喚を告げし女神


「おれたちを異世界に召喚しただと!? ざけんな!」


 小山田の怒鳴り声。


 声が響いているのは薄暗い石造りの部屋。

 2‐C全員でもまだまだスペースが余る程度には広い。

 所々に暖色の灯りが配されている。

 普段あまり街では見ない形のライト。

 古風趣味?

 あるいは、西洋ファンタジーとかで目にするランタンみたい。


 俺は目覚めたらここにいた。


「あなたたちは選ばれたのです」

「なんだと!? 説明しろや!」


 掴みかからんばかりの小山田。

 口角泡も飛ばしている。

 怒気と唾を受けているのはティアラをした女。

 小山田に怒鳴られても平然としている。

 大した度胸だ。


 清楚っぽい出で立ち。

 肌は滑らか。

 瞳は金。

 カラコン?

 髪は白っぽい。

 特に目をひくのは服装。

 薄手のローブ。

 あれだ。

 西洋絵画とかで目にする女神のイメージ?

 それがアニメっぽくアレンジ入った感じ。

 というか、


「ええ、もちろん説明します。あなたたちを召喚したのは、この女神ヴィシスなのですから」


 モノホンの女神さまな可能性が出てきた。

 一部の男子がコソコソ話し始める。


「これ異世界召喚じゃね?」

「だよね?」

「馬鹿。夢だよ、夢」

「夢の共有ってあるのかな?」

「リアルすぎるって」

「あれか? クラス転移ってやつ?」

「転移は僕だけでよかったわー」

「同感」

「このクラスでまとめて召喚じゃゼンゼン選ばれてないよー」


 ある日、平凡な学生や社会人が目を覚ますと異世界にいた。


 異世界転生。

 異世界転移。


 俺も一応知っている。

 少し前に流行った小説やアニメのジャンルだ。

 赤ん坊スタートの転生とやらではなかったようだが……。


 女子の一部はパニック状態。


「ありえないし! ドッキリでしょこれぇ!?」

「ここどこ!? ヨーロッパ!? アメリカ!? ジ、ン、バ、ブ、エ!?」

「あたしらバス乗ってたよね!?」

「死んだの!? 今わたし霊体!?」

「はぁ!? スマホ電源入んないんだけど!?」

「私の荷物ないじゃん! 化粧とか着替えとかどうするわけー!?」


 ま……今は状況に従うか。

 夢ならいずれ覚めるだろう。


「…………」


 手を開く。

 閉じる。

 ほっぺをつねる。

 痛い。

 リアルな感触。

 夢とは思えないが……。

 しかし召喚のタイミングは救いでもあった。

 バスでの俺のアレも有耶無耶になった感がある。

 周囲を見渡す。

 RPGの兵士みたいな恰好をした男が数十人。

 槍や剣を手にしている。

 ま、反抗は無理か。

 クラスメイトたちは丸腰。


 運動神経抜群の桐原。

 腕っ節の強い小山田。

 古武術使いの十河。

 実は喧嘩も強いと噂される高雄姉妹。


 この五人がいても制圧は非現実的だろう。

 担任の柘榴木からも抵抗の意思はうかがえないし。

 今のところ過激な反応をしているのは小山田くらいだ。 

 柘榴木が立ちあがって皆を諌めはじめる。


「ぼくにも今の状況はわからない! だからこそ今は、この女神様の説明を聞こう!」


 自分がリーダーと言わんばかりに声を張る柘榴木。

 ちなみに柘榴木はさっきから女神の胸もとをチラ見しまくっていた。

 異世界に来ても柘榴木は柘榴木のようだ。


「ありがとうございます、センセイ。それでは皆様、説明を始めさせていただきます」


 楚々と微笑み、女神は説明を始めた。



     ▽



 説明を聞いて状況を少し理解できてきた。


 こういうことらしい。


 悪の親玉とされる大魔帝たいまていとやらがこの世界で復活した。


 俺が今いるここアライオン王国では巨大な邪悪が現れるたび異世界から”選ばれし勇者”を召喚している。


 召喚された勇者たちは過去に発生した邪悪を何度か打ち倒している。

 ちなみに最後の召喚は200年ほど前。

 今だと、勇者の存在は伝承として語られる程度だそうだ。


 それでもアライオンは他国から特別視されている。


”アライオンは異界から救世の勇者を召喚する秘術を有している”


 これは大陸中に知れ渡っているという。

 なので大陸では一目置かれる国なのだとか。

 そしてそのアライオンには国王より上位の存在がいる。


 女神ヴィシス。


 女神を信奉するヴィシス教団には、国王ですら手を出せないとか。

 そう――勇者召喚の秘術を使えるのが、あの女神なのだ。


「つまりその大魔帝とやらをオレたちに倒せっていうのか?」


 桐原が質問した。

 この場で発言権を持つ者は自然と決まる。

 うち一人は当然、桐原拓斗。


「そうなります」

「ふーん。オレたちが協力しなかったら?」

「あなたたちは元の世界へ戻ることができません」

「戻る方法があるのか?」

「あります。ですが、大魔帝を倒さねば戻れないでしょう」

「なぜ?」


 女神が兵士に何か持ってこさせる。

 持ってこさせたのは、黒水晶の首飾り。


「逆召喚の儀には”邪王素じゃおうそ”と呼ばれる特殊な魔素が必要となります」


 女神が指を二本立てる。


「今、明らかになっている入手方法は二つです」


 女神が説明。


「一つは邪王素の源である大魔帝の心臓を手に入れること。もう一つは大魔帝が消滅する際に放出される邪王素をこの首飾りの水晶に取り込むことです」


 邪王素とやらを手に入れないと2‐Cを元の世界へ戻す儀式ができないらしい。


「そんなの全部おまえらの都合だろうが! ざけんな! タイマテイとかおれたちには関係ねぇんだよ!」


 説明を受けても小山田の腹の虫はおさまらない。

 女神が恭しく跪く。


「どうかこの世界を救っていただけないでしょうか、勇者様」

「ゆ、勇者ぁ? お――おれも勇者なのかよ?」


 急に下手に出られたせいなのか。

 はたまた”勇者”と呼ばれ、まんざらでもなかったのか。

 弾けそうだった小山田の怒りが引っ込んだ。

 誰だって自分の存在を持ち上げられて悪い気はしない。

 あんな美女にとなれば、男ならなおさらだろう。


「皆様全員が救世の勇者なのです」

「あ、あのっ」


 発言権を求めて挙手したのは十河。


「質問してもいいですか?」

「どうぞ」

「そ、十河綾香です」


 ぺこり。


「ふふ、ソゴウさんは礼儀正しいのですね」

「い、いえ」


 謙遜する十河。


「さて、質問とはなんでしょう?」


 先を促す女神。


「見ての通り私たちはなんの力もない普通の人間です。どころか……戦いの経験のない人がほとんどだと思います」


 十河は古武術使い。

 異世界でも通用するのだろうか?


「そんな私たちにいきなり救世の勇者?と言われても、力になれるとは思えないんですが……」

「大丈夫です」


 女神は動じない。

 何か知っている顔。

 あれは、確信の表情だ。


「あなたたちは他の人間にはない特別な力を持っています」


 動ずる十河。


「で、でも! 心当たりなんてありません!」

「ええ、そうでしょうね」


 余裕を崩さず、女神は言う。





 ていうか、あの女神。

 なんというか――


 最初から十河の反応をみたいだ。


 召喚された勇者たちが過去に何度かこの世界を救ったと聞いた。

 過去の勇者たちも最初、ほぼ同じ反応をしている?

 つまりは慣れているのか。

 あの女神は。


 こういうに。


 テンプレに。


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― 新着の感想 ―
[一言] ジンバブエ姉貴好きw
[一言] 大魔帝…心臓… 昔やってたMMO思い出すわ 魔界三巨頭って悪魔の親玉の一角であるイベントボスの名前似てる 魔大帝ジークルーラー(ボイス付き)カッコよかったな〜台詞が好きだった ドロップが…
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