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終わりの、始まり


「それダ。その意志こそ、最高の収穫にふさわしイ! だが――」

「……ッ!?」

「その無茶、どこまで続ク!?」


 ツヴァイクシードが守勢に転じた。

 乱舞する血刃と打ち合いながら――綾香は、前進。

 しかし、そのたびに押し戻される。

 敵は悟ったか。


(私が長期戦に持ち込まれたら不利なのを、見破られてる……ッ!)


 現状、両者は拮抗状態と言っていい。

 綾香は決め手を見つけられずにいる。

 一方、ツヴァイクシードも攻めあぐねていた。

 ゆえに短期決戦を避け、綾香の消耗を待つ策へ転じたのだ。

 こうなると、綾香はまずい。


(この側近級から、私が離れられないとなると……あとは――)


 残った軍勢での勝負となる。


 オーガ兵。

 魔群帯の魔物。

 神聖連合軍は今、この二つから挟撃される形となっている。

 が、味方はどうにか持ちこたえている。

 特にカトレアが指揮する軍の一帯は善戦していた。

 現在、彼女は城主を失った白城の兵も指揮下に置いている。

 ネーアの女聖騎士団も敵を寄せつけない。


 アライオン軍も食らいつき、一進一退の攻防を見せていた。

 ポラリー公爵がかろうじて兵たちの士気を維持している。

 女神に重用されるだけあって、指揮能力は高い。


 バクオス軍も奮戦していた。

 中でも黒竜騎士団による空からの攻撃は強力と言える。

 しかし下方からの弩弓には警戒が必要だ。

 なので、今後の戦闘継続を考えるなら縦横無尽にやりたい放題ともいかない。


 そして、勇者たち……


 邪王素の影響を受けぬ彼らは、オーガ兵側の最前線に立っていた。

 隊列を堅持し、今は危なげなく戦いを進めている。

 けれど、ギリギリさは伝わってきた。


 ひとたびかなめが崩れれば、総崩れになりかねない状態にある。


(みんな、がんばって! くっ……せめて、私が……ッ!)


 ブンッ!


 風圧をまき散らし、固有剣を豪速で薙ぐ。

 が、


 ギィン!


 厚い乱刃の層に、弾き返される。


(だめ! 守りに入られると、攻め切れない……ッ!)


 やはり他の味方が押し切るのを、祈るしかないのか。


 果たして――綾香のその祈りは、結実の予兆を見せた。


 味方が、ジリジリと敵を押し返し始めたのだ。

 特に勇者たちがオーガ兵をかなり打ち倒している。

 好転の理由はおそらく、


(レベル、アップ)


 そう。

 魔物を殺せば殺すほど勇者は強くなる。

 経験値を得、レベルアップする。

 綾香に限っては今の極弦状態だと長期戦は不利。

 が、通常なら――


・・


 戦いの中で、成長できる。

 MPも回復する。


 これこそ、救世主と呼ばれる異界の勇者。


 気合いの乗った綾香の一撃が、ツヴァイクシードを大きく後退させた。


「ぬ、グ!?」


(今、だ)


 敵の隙を見つけた。

 この機を、逃さない。

 すかさず思い切り、踏み込む。












「我が名は魔帝第一誓、アイングランツであル」












 はらわたに響く重々しい声が、戦場を覆った。


 拡声機でも使っているかのような大音声だいおんじょう


 ただならぬ気配に、思わず綾香の意識も吸い寄せられる。

 勇者たちも手を止め、声の放たれた平原の先に視線を注いだ。

 そして……彼らの表情が、絶望へと転じ始める。


「そん、な」


 視線の先には、


「あんなに、オーガ兵が……」


 さらなるオーガ兵の戦列が、左右に大きく広がっていた。


 まるで、獲物を捕獲する網のように。

 列の中ほどに――サイズ感のおかしな玉座が見える。

 その玉座は、巨躯なる数匹の魔物が下から支えていた。

 神輿めいた移動可能の玉座のようだ。


 玉座の上には紫の影が鎮座していた。


 遠目からでもその重圧感が嫌というほど伝わってくる。

 不思議と、戦場の空気が一段階重くなった気すらする。

 新たなる敵の軍勢はゆっくりと、しかし、確実にこちらへ向けて前進していた。


「なんなんですの、あの数……」


 気高きカトレアの声を、驚愕の色が覆う。

 ポラリー公爵も、動きを止めていた。


「あんな数、一体どこから持ってきたというのだ……ッ!? あんなもの、報告にはなかったぞ! あのような数のオーガ兵の移動を、我ら神聖連合が見逃すはずがないわぁ!」


 アイングランツが声を発した。


「さぞ驚いているであろう、ニンゲンたちヨ。これほどの数のオーガ兵をどうやってここまで運んできたのか、と……が、


 突きつけるように解を口にする、アイングランツ。


「生み出した、だと……?」


 ポラリー公爵は、激昂した。


「ば、馬鹿なぁ! 金眼の魔物を生み出せるのは、根源なる邪悪そのものでしかありえぬはず……ッ! とすれば、き、貴様まさか――」

「違ウ」


 アイングランツは、ポラリー公爵の予想をきっぱり否定した。


「我は大魔帝ではなイ。我は……我が魔帝より力を。ゆえに、大規模な移動を行うことなく、この近場にて軍勢を”発生”させることができたのであル。ソらからすれば、枠を外れし存在と言えよウ」


 ”オーガ兵の数が増えている気がする”


 カトレアの違和感は正しかった。

 新たに生み出されたオーガ兵が、少しずつ敵の戦列に加わっていたのだ。

 生み出されたのはおそらく――近隣の山間や森の中。

 そこなら、生み出したオーガ兵を隠しておける。

 しかしやはり疑問が残る。

 なぜあの戦力を最初から投入せず、このタイミングで――


「…………」


 いや、と綾香は考えを改めた。

 刃を交わすツヴァイクシードを、睨みつける。


 


 希望を、叩き潰すために。

 さらなる深き絶望を、与えるために。

 最悪の――”最高”のタイミングで、登場させた。


「アイングランツ様は我が誓鋭せいえいの中でも別格。我がていの信頼も厚イ。突出しすぎたその強さに、我も、一抹の悔しさがなくはないがナ……ッ!」


 血刃を振り、ツヴァイクシードが吠えた。

 畏敬――そして、嫉妬。

 この第二誓をして嫉妬まで抱かせる存在。

 第一誓、アイングランツ。


(まずい)


 ならば邪王素も、ツヴァイクシードを凌ぐはず。

 あんな敵がもしこの戦場へ飛び込んで来たら、ひとたまりも――



「うわぁぁああああ!?」



 空から、槍の雨が、降り注いだ。

 敵増援の最前線から投擲された槍のようだ。

 大ぶりの長槍。

 が、その飛来した槍は攻撃目的とは思えなかった。

 なぜなら、


「わ……ワルター、殿……?」


 上空で呆けた声を漏らしたのは、三竜士のガス。

 空から降ってきたのは……



 槍に貫かれたワルター以下、黒竜騎士団の面々の死骸。



 ワルターらは部位ごとに解体されていた。

 しかも、同じくバラされた黒竜と交互にパーツを重ねられ、串刺しにされている。

 槍はその一部が鉤状になっており、各パーツは槍に固定されているらしい。


 人間の部位、黒竜の部位……

 人間の、黒竜の、

 人間、黒竜……。


 無惨の、ひと言に尽きた。

 ガスが顔を痛いほど歪め、叫ぶ。


「ワルター殿ぉぉおおおおぉぉぉおおおおおお――――ッ!」


 きっと、意味などない。 

 ただ、恐怖させるためだけに――これを、したのだ。

 事実、敵の目論見は成功している。

 目にした兵たちが、恐怖のためか、やや後退を始めていた。



「――これより、絶望であル――」



 アイングランツが巨大な杯を掲げた。

 祝杯とでも、言わんばかりに。


「この芸術的絶望を、我が帝に捧グ。さあ――最後の足掻きを見せるであル。愚かで愛しき、我が敵たちヨ」


 アイングランツの言に、オーガ兵たちの方は勢いづいた。

 吠え猛り、前線を押し返し始める。

 が、それでもまだ数の優位は神聖連合側にあった。


(士気さえ保てればまだやれる……私がツヴァイクシードを倒し、すぐにあの新しい側近級の相手をすれば……まだ、私たちに勝ちの目はあるはず……ッ! だから、私が――)



 ……ガラガラガラガラッ……



「?」


(何、この音……)


 敵援軍の戦列の奥から、列を割って、巨大なはちのようなものが運ばれてきた。


 太ましい茎の先では、巨大な蕾めいた”何か”が不気味に揺れている。

 シルエットがなんとなく人の”唇”のようにも見える……。

 ツヴァイクシードと打ち合いつつ、綾香はそれへ一瞥をくれた。


(あれは、何?)


 綾香の視線を、ツヴァイクシードの金眼が追う。


「今朝方、我がオーガ工作兵の仕掛けた魔帝器まていきがソらの城内にて発動しタ。ソも、覚えているであろウ」

「!」


 今朝、絶叫めいた大きな音が鳴り響いた。


 その直後、それを合図とするように魔群帯の魔物が押し寄せた。


「我が帝でも人面種は造れヌ。が、その人面種を呼び寄せる魔帝器を造ることならば、我が魔帝には造作なきこト……ッ!」


 つまりそれは、さらなる魔物を呼び寄せる装置――


「しかも今度の魔帝器は、今朝方発動したものの何倍もの効果を持ツ……ッ! この意味がわかるか、希望の勇者!」


 綾香は、総毛立った。


 肌が粟立ち、鳥肌の感触が、表面をはしる。



 だめだ。



(それは――それだけは、だめ……ッ!)


 オーガ兵の増援に、新たな側近級の出現。


 そこへさらに、




 




「だっ――」



 喉に、あらんかぎりの力を込める。



「誰でもいいから、あれを、破壊してぇぇええええぇぇぇええええええ――――――――ッ!」



 刃鳴る剣戟を繰り広げながら、綾香は声を振り絞って叫んだ。

 続けて、あの巨大な鉢が”何か”を声を枯らさんばかりに説明する。

 教室で号令をかけていた、よく通る彼女の声。

 その声は伝播し、波となって戦場を駆け巡る。

 各軍の指揮官がその情報を知るまでに、大した時間は要さなかった。

 時を同じくして、増援のオーガ兵たちが魔帝器に集まっていく。

 魔帝器を守るためだろう。

 玉座から立ち上がったアイングランツが、両手を広げる。



「発動までの刻はソらの数えにして約10分。さあ……止めてみせよ、ニンゲン!」



 その時、


「ネーアの仔らよ!」


 カトレアが鞍上で、剣を掲げた。


「今より防御を捨て、ただ、ひたすらに――ただひたすらに、攻勢あるのみ! ここで魔群帯よりさらなる増援が押し寄せれば、現在、我が方に利がある数の頼みもなくなります! 命を捨て去る覚悟を……このわたくしと共に! 全隊――」


 姫将軍の剣が魔帝器へ向け、決意と共に、振り降ろされる。




「突、撃ッ!」




 カトレアを先頭とする騎兵隊がひと繋ぎの濁流と化した。

 魔帝器を目指し、捨て身に等しい突撃を開始する。

 長槍を手にしたオーガ兵が、列を組み、腰を低くして待ち構える姿勢を取る。


「……ッ! まずい、あれでは先頭の騎兵隊が……ッ」


 戦況をいち早く把握したのは、上空のガスであった。


「――聞け! バクオスの兵たちッ!」


 ガスが叫び、黒竜が大きく翼を広げる。

 そして方向を転じ、たった一騎でカトレアたちを追った。


「これより私は、カトレア・シュトラミウス及びネーア兵の援護に回る! 命を捨ててでもこの世界の未来を守ると誓った者のみ――私に、続けぇええ!」


 ガスの声が、戦場を突き抜けた。


「――――」


 ほんの一瞬、バクオス兵たちに思考の間があった。

 が、すぐさま――


「おぉぉぉおおおおおおぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおお――――ッ!」


 了解の意が、大きな波となってバクオス兵から返ってくる。

 もはや、両国の関係がどうのと言ってなどいられる状況ではない。

 バクオス兵も、それを悟ったのだ。


 ガスの黒竜が黒き砲弾と化し、体当たりを敢行かんこう

 これによって、オーガ兵の長槍隊の列が瓦解した。

 地に降り立った黒竜がつんざく竜声で吠え、敵を威嚇する。

 最後の三竜士に続けとばかりに、後続の黒竜も雪崩を打って突貫を開始した。


 そして、敵の崩れた隊列の”穴”に、カトレア率いる聖騎士団が雪崩れ込む。


 彼女たちは敵の陣形を、さらに崩しにかかる。

 

 鋭い牙で黒竜がオーガ兵の首に噛みつき、そのまま喰い千切る。

 バクオス歩兵も手当り次第、オーガ兵を斬り殺していく。


 大攻勢が、始まった。


 防御を捨てた分、当然、こちら側の被害も一気に膨れ上がる。

 また、オーガ兵も捨て身と思うほどの気迫を見せた。

 尻尾で必死に敵を薙ぎ払う黒竜が無慈悲に取り囲まれ、長槍で突き殺される。

 騎馬を横転させられ、オーガ兵に群がられた聖騎士がなぶり殺しにされる。

 が、誰も怯まない。

 戦況を決定づけかねない魔帝器を破壊すべく、皆が命を賭していた。

 ネーアとバクオスが交じり合う濁流を追うは――アライオン軍。

 先頭を走るポラリー公爵が、片手で軍旗を振って声を張る。


「我らもゆくぞ、アライオンの戦士たちよ! 根源なる邪悪を打ち払ってきた我が国の力、薄汚いオーガ兵どもに存分に見せつけてやるのだぁ! ゆけぇえ! ゆけぇぇええええ――――ッ!」




 膨れ上がった奔流と化した人の軍勢が、魔帝器目指し、波となって襲いかかる。




「――私たちも、行こう」


 カヤ子が、言った。

 二瓶が剣を掲げ、皆に声をかける。


「……委員長なら、きっと今戦ってる側近級を倒して、新しく出てきた側近級も倒してくれる! だ、だから……今は、委員長がツヴァイクなんとかを倒すまで時間を稼ぐんだ! おれに……続けぇ!」


 勇者たちもいよいよ陣形を解き、突撃の波に加わった。


(みんな……ッ! く、ぅ――ッ!)


 綾香も覚悟を決め――完全に、防御を捨てた。


 あらん限りの力と技で、攻の純度を限界まで高めていく。


 軋む腕を叱咤して奮い立たせ、逆袈裟に斬り上げる。


「ぬ、グ……ッ!?」


 ブシュッ!


 ツヴァイクシードの肩口から、鮮血が噴き出した。

 と、





 ツヴァイクシードの金眼が、嗜虐心をもって、細められた。



「――



 側近級の瞳は、綾香ではなく――突撃していくカトレアたちを、見ている。


 ――ドクッ、ン――

 

(まさ、か)


 綾香は、心臓が急速に冷え込んでいくような感覚に囚われた。


「あの魔帝器――実を言えば、発動に10分もかからヌ。やろうと思えば、すぐに発動できるのダ」


「!」


「そうダ。発動まで時間がかかるとわかれば、ソらは、あの忌々しい陣形を崩し、防御を捨て、死ぬ覚悟で突撃してくル……ッ! そして事実、そうなっタ!」


 絡め、取られた。


 一縷いちるの望みへ向かって皆、心を一つにした。


 が、すべては敵のてのひらの上だったのだ。

 陣形や隊列を崩す意図は、もちろんあっただろう。

 けれどそれ以上に、


(10分以内に破壊すれば”希望”はあると、信じ込ませて――)


 欺きにより、より深い絶望へと叩き込みたかった。

 綾香の目尻に、涙が滲む。

 悪辣、すぎる。

 あまりに、悪逆。

 心を、踏みにじるために。

 蹂躙、するために。


(私、だ……私が敵の言葉を、よく考えもせず鵜呑みにしたばかりに……元を辿れば、私の呼びかけが元凶……ッ! だけど、こんなの……こんなのってッ!)


 オーガ兵の列が大きく広がり、包囲の形を取り始めた。

 魔群帯の魔物たちも、防御を解いて突撃する神聖連合軍の背後を追っている。


 と、魔帝器が、幾本もの紫光しこうの筋を辺りに煌めかせた。


 まるで、プリズムのように。


 ツヴァイクシードが、血刀を、再び大鎌の形に変化させる。

 そろそろ収穫時期だとでも、言わんばかりに。



「もう、遅イ……ッ! すべてが、遅イ! あとは――」



 一瞬、世界が止まったような静寂が訪れた。



「血祭りダ」



 こうして、



 すべては、






「ぃギぇェぃェぇエえエぃィぃィんェぇェえエえエえエろロろロろロぃヒぃィぃィぃイいイいイいィぇィえエえエえエぃギぇェぃェぇエえエぃィぃィんェぇェえエえエえエろロろロろロぃヒぃィぃィぃイいイいイいィぇィえエえエえエぇェぇエえエげェぇエえエえガぁアあェぁアあアあ―――――――ッ!」






 絶望という名のベールに、覆われる。




 味方側は、まだ多くの者の認識が追いついていない。

 宣言された刻まで時間はまだあったはず。

 なのに、発動した。

 一方、指揮官たちは次第に気づき始める。


 たばかられたことに。


 陣形を崩すのが、目的であったことに。

 何よりも――弄ばれたことに。

 敵の特性は、残虐さだけではない。

 心理面や戦略面における効果的な策も、弄する……。


「ば、馬鹿な……まだ時間はあった、はずなのに……」


 脱力し、その場にへたり込む者もいる。

 思わず、綾香は放心状態へ転じていく仲間たちの方に手を伸ばしていた。


「みん、な――」

「一騎打ちのさなか、そのような隙を見せるとハ――」

「!」


 しま、った。



「言語、道断」



 血の大鎌が、綾香の肉を、えぐり裂いた。



「この絶望と希望の落差……これぞ、我らが求むる収穫であル」



 そして、金棲魔群帯より――




 魔の勢力が、到来する。






     □






 彼らの耳は、聴く。



 地を鳴らす、魔の行進の足音を。



 南壁の先より来たりし、魔群の凶声を。



 やがて陰惨を極めし悪夢をもたらす、絶望の音色を。






 終わりが、始まった。





















     ▼







 ――何かが、おかしい。






 最初に気づいたのは、誰だったのか。


 鳴動する大地は、確かに、新たなる魔の勢力の到来を告げている。


 が、



 



 これは、


 そう、




……?」




 魔物たちの、悲鳴。


 少なくともこれから狩りを楽しまんとする魔物たちの上げる声では、ない。


 決して。






 中天に太陽を抱く空――そのすべてを破裂させるがごとき爆発音が、轟いた。






 南壁の向こう側で、何か膨大な光が、明滅している。





 何が、起こっているのか。





 大魔帝の軍勢も、ツヴァイクシードも、アイングランツですらも、




 まるで見当のつかぬ様子で、その動きを止めている。




「なんだ……一体なにが、起きていル……」




 と、




「うォぉォおオおオぉォぉォおオおオおオおオおォおオおオおオおオおオおオおオおオおオおオおオおオお――――ッ!」 




 現れたのは、あの憤怒面だった。




 アギトが遠くへ引き連れて行ったはずの人面種が、城壁の曲がり角から、姿を現したのである。



 が、




 ピタッ




 急にその動きが、停止し――





「え?」




 理解の及ばぬ不可解な現象が、起こった。




 姿を現したかと思った途端、憤怒面が――




 




 直後、


 血の雨をまき散らし倒れ行く、その巨体の向こう側から――


 何かが、押し寄せた。



 石像。



 溢れ出てきたのは――人型の石像の群れ。


 魔物かどうか、判別はつかない。


 が、最も近いを見つけると――


 石像たちは、攻撃を始めた。


 人面種の青い血が降り注ぐ中、石像たちは黙々と魔物を蹴散らしていく。


 何体、いるのか。


 動く石像たちが走り回り、オーガ兵を、魔物を、捕まえては撲殺していく。


 と、石像の大群が巻き上げる土煙の中から”何か”が突出し、そのまま、飛び出してきた。




 いやに戦闘的なフォルムをした、馬車。




 いたくボロボロで、まるで、過酷な戦場を駆け抜けてきたかのようでもある。




 多脚の灼眼黒馬しゃくがんこくば




 そんな巨馬の引く馬車の上には――禍々しき、赤眼の黒影。




 片膝をつき、外套を、はためかせている。




 蠅の面に手をかけたの他に、これまた近似の蠅の面をつけた黒き外套の者が二人――外套をなびかせ、武器を手に立っている。






――」






 ひずんだ大音声が、戦場の空気を、静かに、しかし、力強く打った。






「この戦場における大魔帝の軍勢及び、金眼の魔物は、――」






 魔王的絶対性を帯びたその黒き声が、宣す。














「蹂躙する」
















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― 新着の感想 ―
ついに来たー!
ワクワクしてきた
[良い点] バクオス軍が協調したところ好き。
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