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勇者

 1巻にまた重版がかかったとのご連絡をいただきました。ライトノベル総選挙の力もあったのかもしれません。ご購入くださった皆さま、ありがとうございました。


 それから前回告知を失念していたのですが、コミカライズ3話も更新されております。こちらも是非、迫力ある構図と作画でお楽しみいただけましたらと存じます。


 まだ更新期間は安定しませんが、Web版の更新もどうにか1週間更新に戻していけたら……と思っております。それ以上にペースを上げられれば、それにこしたことはないのですが……。


 それでは、本編の続きをお楽しみいただけましたら幸いでございます。







「もうだめだ、おしまいだ!」


 安グループの一人、二瓶にへい幸孝ゆきたかが叫んだ。

 他の安グループの勇者も、次々と恐慌状態に陥っていく。


「死にたくねぇよぉ! 夢なら覚めて……覚めてぇ!」

「家に帰りたいよぉおお!」


 顔をくしゃくしゃにした二瓶が剣を取り落とした。

 目から、涙が溢れている。


「助、けてっ……委員長……助けて! なんだって、言うこと聞くから……こんなひどいのが敵だなんて、思わなかったんだよ……味方に強いやつらがたくさんいるから……どんな強い敵がいても、頭のどっかで、おれじゃない誰かが倒してくれるって……助けてくれるって……そう、思ってたんだ……ッ」


 他の安グループの勇者も助けを請い始める。


「委員長助けて! ここから、逃がして!」

「助けて! 綾香様!」


 綾香は近場の魔物を屠りながら、叱咤に近い調子で呼びかけた。


「二瓶君! みんな!」


 こんな強く呼びかけたことは、前の世界では一度もなかった。


「生き残りたいなら――円陣を、崩さず保って!」

「え、円陣……?」

「ベインさんが、教えてくれたでしょ!?」

「ベイン、ウルフ……さん……」

「あの人は勇者のランクに合わせた戦い方を教えてくれた! 助け合って生き残る方法を、教えてくれた!」


 そう、安グループもベインウルフから戦い方を学んだ。

 なら、綾香のグループと同じ動きができるはず。


「今は周防さんたちと協力して、生き残ることだけに集中して! 円の中心には治癒スキルが得意な子を配置! その周りには支援スキルが得意な子を! 外側は、攻撃役と防御役でお互いを補助し合って! 傷を負った子は、円陣の中へ! 周防さん!」


「――うんっ」


 カヤ子の声。

 決して激しくはないが、力強い返事。

 綾香は、汗まみれの顔を彼女に向けた。

 彼女に託す――その想いを、のせて。


「私が指示を出せない時、指示はあなたに任せるっ」


 ”任せていい?”


 ではなく、


 ”任せる”


 そう、告げた。


「十河さん」


 普段は薄い表情に、カヤ子が決意をみなぎらせる。


「任されたっ」


 綾香は心強さを覚えながら、一つ頷く。


「そっちで手に負えなそうな魔物がいたら、私を呼んで!」

「わかったっ」


 安グループが綾香の助けを得ながら、綾香グループに合流していく。


「あ、綾香ちゃんっ」


 萌絵が心配そうに声をかけてきた。

 綾香は彼女を一瞥し――微笑む。


「大丈夫……みんなは私が守る。必ず、守るから」


 剣を構え直した二瓶が、涙を流しながら声を上げる。


「ご、ごめん……っ! 女神さまに目ぇつけられてもいいから、最初から委員長のグループに入るべきだったんだ……ごめん、ごめん委員長っ……」

「二瓶君、今は戦って! みんなで、生き残るために!」

「……っ! あ、ああっ……うぉ……うぉぁぁああああぁぁぁああああああ!」


 迫る魔物を、二瓶が斬りつけた。

 斬られた魔物の後ろから、さらに別の魔物が躍り出る。


「ひっ――」

「ま、任せて!」


 防御役の萌絵が飛び出し、盾でその魔物の攻撃を受ける。


「ぁう!」


 萌絵が、衝撃で吹き飛んだ。

 後列の男子が前へ出て、受け止める。


「に――二瓶君、斬ってぇッ!」


 いっぱいいっぱいの表情で叫ぶ萌絵。

 決死の形相で、腕を振り上げる二瓶。


「ぅ――う゛わぁぁああぁぁぁああああ゛あ゛あ゛!」


 両手で握りしめた剣を、二瓶が振り下ろした。

 袈裟切り気味に入った一撃が、魔物の肉を斬り裂く。


 が、決め切れない。


 魔物は激怒し、血濡れの猛気を放つ。

 おぞましいほどの殺意で二瓶を睨みつけた。


「グるァぁアあアあッ!」

「ぁ――い、今の攻撃は違くて……手が滑って、間違い、で……ッ」


 二瓶が、恐怖で尻餅をつく。

 左右の勇者が三名、躍り出た。


「い、行くぞ! 二瓶君を助けるんだ!」

「こ……殺せぇ!」

「うわぁぁああああ!」


 仲間の動きに気づいた二瓶が、


「! う、うぉぁあああ゛あ゛!」


 尻餅をついたまま、決死の形相で魔物の足首を斬りつけた。

 魔物がバランスを崩し、倒れ込む。


「ぐェっ」


 躍り出た三名がそこに殺到し、倒れた魔物を取り囲む。

 彼らはそのまま、刃で魔物を滅多刺しにしていく。


「し、死ね! 死ね死ね死ね! 死ねよぉおお!」

「くったばれぇぇええええ!」

「死んでくれ、頼む! 頼むから、死ねって! 死ねぇぇええええ!」


 決して上級勇者のような洗練された戦いぶりではない。

 あまりにも泥くさい、多対一の殺害でしかない。

 抵抗を試みる魔物の腕が、何度も空を切る。

 が、抵抗むなしく、魔物は力尽きた。


「はぁっ、はぁっ……はぁ……っ! や、やった……やった!」


 カヤ子が、声をかける。


「みんな、倒したらすぐ円陣に戻ってっ」

「あ、ああ!」


 躍り出た勇者たちは、息を切らせながら再び円陣に戻る。

 綾香は内心小さくガッツポーズした。

 同じ師から戦い方を学んだからか、連係はスムーズにいっている。

 今の攻撃にも後列から支援スキルが飛んでいた。

 みんな身体がちゃんと動いている。

 ただ、何かのきっかけでフッと気持ちが切れてしまいかねない。

 彼らに見せるべきは――希望。


 ”生き残れるかもしれない”


 そんな希望を、見せ続けねばならない。

 だから――自分が、希望を創る。

 魔物にとどめを刺した勇者が、自分へ確認するみたいに声を上げた。


「レベル……レベル、上がった!」


(レベル……そうだ!)


 眼前の魔物を脳天から真っ二つに割りながら、綾香は声を張った。


「レベルが上がった人は、できれば次のとどめを他の人に回して! レベルが上がればMPが満タンになるから、またスキルをたくさん使えるようになる! 時々ステータスオープンでMPを確認を! MPが少ない人に、とどめを優先させて!」


 勇者でもいずれMPは尽きるが、レベルアップすればスキル使用を継続できる。


「レベルアップすれば他のステータス補正も上がるわ! だから戦いも前より有利になっていく! みんな、この戦場でレベルを上げるチャンスを……逃さないで! 私たち勇者は、戦いながらその場で強くなれる!」


 綾香は力の限り叫ぶ。


「戦うことで、生き残るのよ!」


 二瓶が奮起し、両手で剣を構え直した。


「や、やってやる……やってやるぞ! やってやるんだぁぁああああ!」


 今は戦意を奮い立たせることが重要だ。

 カヤ子が、呼びかける。


「十河さん!」

「――任せて!」


 綾香が跳び、中型の魔物を特殊スキルで撃破。

 多分、カヤ子たちでは手に余る魔物。

 カヤ子の読みは的確だ。

 自分たちでは勝てそうにない魔物をしっかり見極めて、綾香に声をかけてくる。


(だけど――)


 魔物が、一向に減らない。

 むしろ味方の数が減っている感じがあった。

 少し前まで飛び交っていた人間側の声が、少しずつ、小さくなっている。

 つまり――魔物側が優勢。

 このままでは、ジリ貧になる……。


「ぉォおオ……ォぉオおオお!」


 憤怒面の咆哮。

 が、遠い。

 どこかで、誰かが相手をしてくれているらしい。


(どうすべき? やっぱり一度、北門の外にいる野営軍と合流すべきなの……?)


 今の奮い立った勇者たちなら、いけるかもしれない。

 綾香は決めた。

 移動を、提案すべきだ。


「みんな、少しずつ北門の方に移動しようと思うの! このままだと、完全に取り囲まれて身動きが取れなくなる!」

「わ、わかった! 行くぞ、みんな!」


 二瓶が同意するが、


「――うっ」


 土埃が少しずつ散り、視界が、晴れ始めていた。


「……ッ!」


 魔物の壁が、立ちはだかっている。

 鬼のような姿をしたツノつきの一団。

 そう――見た目が、鬼に似ていた。

 赤銅色の身体。

 白く長い縮れたヒゲが、ぼうぼうと生えている。

 酷薄な金眼が綾香たちを捉える。

 あごを軽く上げ、まるで、見下すように嗤っていた。


 強い。


 綾香は直感で理解した。

 鬼たちは、訓練された部隊のように統制が取れて見えた。


「う、ぅぅ……」


 戦いながら鬼たちをチラチラする円陣の勇者たちに、再び怯えが走る。


 鬼の手には、人の首がぶらさがっていた。


 髪を掴み、戦利品のようにプラプラ揺れている。

 よく観察すれば、赤銅色の肌には別の”赤”も存分に塗りたくられていた。

 鬼たちの周囲には特に、死体の数が多い。

 壁の先頭で腕組みをする唯一二本ヅノの鬼が、


「ウばァあ!」


 奇妙な鳴き声を発し、綾香たちを指差す。

 攻撃へ移れ――その、合図だった。

 号令一下、鬼たちが奇声を上げて駆け出す。


「ぁ、ゃ……綾香ちゃん!」

「――ッ! 任せて!」


 綾香は一人、突進。

 突出してきた先頭の鬼の顔面へ、風を裂く豪速の突きを放つ。


「バぁウ!」

「!?」


(避け、られた!?)


 速い。

 反射神経が、凄まじい。

 攻撃に失敗した綾香は、そのまま取り囲まれてしまった。

 ハルバード状の魔素刃を振り回す。

 が、ことごとく避けられてしまう。


 ザシュッ!


「ぅっ!?」


 巨大な鬼爪による攻撃。

 かわし損ねた。

 わき腹の布地が裂け、綾香は鋭い痛みを覚える。


(! まずい、この魔物はみんなじゃ……ッ!)


 二瓶が剣を掲げ、呼びかけた。


「委員長が危ない! 助けに行くぞ!」

「だ……だめ、みんな! この魔物は、みんなじゃ――」


 ぐいっ


 二瓶の肩を掴み引き戻したのは、カヤ子。


「す、周防?」


 カヤ子は首を振った。


「十河さん以外じゃ勝てない。こっちは守りに、徹するしかない」

「周、防……?」


 二瓶が、驚いている。

 いつも無表情なカヤ子の表情が、歪んでいたからだろうか。

 カヤ子も気づいているのだ。

 綾香でもこの鬼たちには勝てないかもしれない、と。


「逃、げ――」


 言いかけて、綾香は次の言葉を発せなくなった。

 どこに?

 彼らだけで、北門を目指せと言うのか?


 綾香をすり抜けた鬼が――円陣を、取り囲む。

 円陣の勇者たちを、雄叫びで威圧を始めた。

 勇者たちの恐怖を感じ取ったのだ。

 円陣が内側へと委縮し、勇者たちの動きが完全に止まる。


「みんな!」


 綾香は近くの鬼たちを必死に蹴散らそうとするが、攻撃が当たらない。

 速度が――足りない!


「あ、ぁぁ……」


 勇者たちの顔に、絶望の帳がおりる。

 あの綾香が攻撃をあてられない。

 彼らの”希望”が、鬼に敵わない。

 鬼たちは踏み込み、爪を振り回した。


「きゃぁああ!」


 あてるつもりのない攻撃。

 遊んで、いる。

 勇者たちの反応を、楽しんでいる。


「う、うぅぅ……ッ」


 鬼たちが、綾香の顔を覗き込むような仕草をした。


 ”どうだ? 絶望しているか?”


 そう問うような顔。

 綾香は焦燥と絶望の中、必死に槍を振るう。

 が、攻撃が――当たらない。

 その時、


「綾香ちゃん!」


 南野萌絵が、叫んだ。


「無理しないで! い、今は……自分を守ることに、集中して! お願い!」


 あんなに、怖がりの萌絵が。

 助けて――と、言わない。

 どころか、綾香の身を、案じている。


「ぼ、防御態勢ッ!」


 二瓶が、声を張った。


「守れ……守れ守れ守れぇ! 委員長は、おれたちが気になってまともに戦えなくなってるのかもしれない! だから……自分たちの身は、自分で守るんだぁ!」


(違、う)


 力が、足りないのだ。

 自分がこの鬼たちを、倒すには。


 しかも悪いことに、鬼以外の魔物まで円陣の方へ向かっていた。

 いよいよ獲物の数が足りなくなり、あの円陣に狙いを定めたらしい。

 中型や大型もまじっている。

 が、肝心の綾香は防戦一方。

 彼らのもとに、辿り着けない。


 それでも綾香を信じ、戦意を奮い立たせる仲間たちの姿。


 綾香の視界が、じわりと滲む。


 守ると、誓ったのに。



 固有スキルさえ覚えていれば、違ったのだろうか?



 守れたの、だろうか?


 強力な固有スキルさえ、習得できていれば――――



 否、



 すが、るな。




 固有スキルに――――不可能に、縋るな。




 縋るなら、




(”鬼”……私の……鬼槍流……)




 




     △



 あれは確か、三年前ほど前のことだ。


「鬼槍流の禁技、ですか?」


 十河家の屋敷。

 稽古のあと、夕陽の差し込む道場で祖母が鬼槍流について話した。


「あんたはアホみてぇな話だなと思う……そう予言しとくよ、綾香」

「禁止されるほど危険な技、なのですか?」

「普通に考えればね」


 祖母はそう前置いて、禁技について説明した。


「技の理屈としては単純さ。身体に無茶な動きをさせる――通常の人体では、およそありえぬ動きをする。極限まで、人体のポテンシャルを引き出してね」


 人差し指を立てる祖母。


「まず……一本の力強い糸をイメージする。で、そいつを身体全体に行き渡らせる。身体を動かす時、その糸を動かして身体を操る……すると、人体はその糸に引っ張られて、普通ではありえない動きを取ろうとする。その動きに身体さえついていければ、人ならざる化物じみた動きができるって寸法らしい」


「なんだか、マリオネットみたいですね」


「イメージとしては近いかもしれんな……あたしも正直、そんなことが可能なのかはわからん。実態も、原理もわからん。あるいは、気功で言う”気”みたいなもんが実際に編み上がってるのかもしれない。ちなみに、あたしも一度だけ挑戦したが……その時はよくわからんままに骨をやっちまった。それ以来、本気で挑んだことはない」

「昔の鬼槍流は、その技を使っていたのですか?」

「と、されてる。源流を辿るとそもそも、鬼槍流ってのは……」


 そこで祖母はタバコを咥え、マッチで火を点けた。

 火を消すためにマッチを振りながら、祖母が煙を吐き出す。


「”鬼を葬る”と書いて”鬼葬流きそうりゅう”……人里に降りてくる鬼に手を焼いた者たちが、自分たちの身を守るために編み出した武術だって話だ。それが、幕府だなんだのの時の権力者の目について、裏武芸の一門として広がったとかなんとか……」


「鬼を、葬るための……」


「要するに、元々どっかおとぎ話めいた逸話のくっついた流派なんだよ。その禁技にしたって、元々は名もなき外の流派から伝わったとされる技だったらしい。まあ、自己流じゃないから”禁じ手”だったわけだな。ただ……」


「ただ?」


「人体へかかる負荷が強すぎて、常人が使えば身体が壊れちまうとされている……おかしいか、綾香?」


「あ、すみません。でも、禁じられた技を持った古武術なんて……なんだか、たまに読む娯楽小説みたいだなと思って」


「まあな……所詮は尾ひれのついた伝説や逸話のたぐいなんだろうさ。どうせ試みても、死ぬほど鍛え上げた身体でなけりゃ身体がバラバラになるほどの負荷を伴うだろう。それこそ、普通の女学生にゃはなから無理さね」


「おばあさまに無理なんて言われると、挑戦したくなりますけど」


「興味があるなら、使い方が書かれた本はやるよ……けど、使う時はあたしが一緒じゃなきゃ許さないよ。あんたは大事な孫なんだから……あたしには、できすぎた孫だが」


「ふふ……わかりました、おばあさま。ところで、その禁技はどんな名前なのですか?」


「そいつは、名を――」


 祖母の煙草の先からは、糸のように、煙が細く流れている。



「”極弦きょくげん”という」



     ▽



 夢物語かどうかは、今は、関係ない。



 欠片でも可能性が、あるのなら。 



 それに、縋り――掴み取れ。



「…………」



 本は、熟読した。



 祖母と話す時の、タネになると思って。



 だから、



 



「――――――――」



 イメージは、糸。



 開始点は、足。



 足の底から膝、もも、腰、腹、胸へと、糸が、紡がれていく。



 ――ミシッ――



 糸を紡ぐ過程で、全身が軋みを上げた――気がした。




 弦は、極へ。




 ひと回り小さな綾香を、鬼たちはにやつきながら見おろしている。


 もう諦めたと、思っているのだろう。


「クきキきキ……”――ヒュッ――”ぎ、ィ?」


 綾香の槍の穂先が、前方の鬼の喉を、貫いた。

 鬼は、まるで、反応できなかった。


「「「バぁァぅゥぅウうウ!」」」


 鬼たちが一斉に威嚇の咆哮を発し、身構える。

 が、


「ばァう!?」


 魔素刃に、次々と首が刎ねられていく。

 近くの鬼をくだした綾香は――疾駆。

 円陣の方角目がけ、一足に跳ぶ。

 威嚇を楽しんでいた鬼の背後を捉える。

 下から斬り上げ、鬼の身体を両断。

 綾香は、止まらない。

 瞬きほどの間に、他の鬼の首を宙を舞わせていく。

 槍の石突きを叩きつけられた別の鬼の顔面が、陥没。


 威力も、速度も。


 すべてが、増大していた。


「綾香ちゃんの、動き……」

「す、すごい……」


 筋肉が、悲鳴を上げている。

 が、





 祖母の言葉。


『人体へかかる負荷が強すぎて、常人が使えば身体が壊れちまうとされている』


「――今は、違う」


 常人ではなく――今は、勇者。


 


 ただし、それがあっても肉体は悲鳴を上げている。


 けれど、



 



「疾ッ!」


 ひと息に満たぬスピードで、反転し――


「ぐゲぇ!?」


 リーダー格らしき二本ヅノに、綾香は、再び一足の呼吸で跳びかかった。

 二本ヅノは迎撃姿勢すら取れなかった。

 神速の槍が二本ヅノの鬼の腕を引っ掛ける。

 二本ヅノのバランスを崩し、地面に転がす。


 鬼槍流――”崩落十字”。


 相手の勢いを使うのではなく、自らの突進スピードを利用した”崩落十字”。

 あの時は、躊躇した。

 桐原拓斗にとどめを横取りされた、あの時。

 しかし今度は、一切の、躊躇なく――


「ぎァ!?」


 ひと突きで心臓を、えぐり突く。


 綾香は迷わず【内爆ぜ(インナーボム)】でそのまま二本ヅノを爆散させる。


 爆風に塵ほどの怯みもなく、綾香の長い黒髪が、爆発の風圧に躍った。


「もう……」


【レベルが上がりました】



 そう、


 身体がバラバラになっても、構わない。


 みんなを無事に、元の世界に帰すことさえできるのなら。


 リーダー格を瞬殺した綾香は、鋭い殺気を放ち、鬼たちを睨み据えた。


 鬼たちが後ずさる。


 戦場に吹く風に、綾香の髪が、威圧めいて乱れ舞う。


「逃げるなら、逃げればいい」


 殺意的に槍を一回転させると、綾香は、前へ進み出た。

































【固有スキル【 武装戦陣 (シルバーワールド)】を習得しました】






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― 新着の感想 ―
[一言] 陸奥圓明流でワクワクしてたあの頃を思い出した
[良い点] この回めっちゃ面白い。 お邪魔田と安でカタルシス感じてるというのもあるが、戦況が分かりやすいのが良い。 トーカが警報で寄ってきた奴ら倒してる時はイマイチなんで今スキルが届かないかとか、…
[気になる点] 鬼葬流ってベルゼビュート1話のカマセが使おうとしてた技だよな。 なんで極弦も?
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