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その獲物、危険につき


 一度、壁を背にして座る。

 目の前には、麻痺で動けぬまま毒で命を削られていく魔物たち。


「どんだけ巣食ってんだよ、こいつら」


 麻痺状態の魔物が不恰好な半円の壁をなしている。

 麻痺した魔物をどけて次の”獲物”がやってくる。

 身体の穴から酸を噴き出しながら。


 毒々しい体色たいしょくの魔物たちの視線が、突き刺さる。

 怒り。

 憎悪。

 殺意。

 この身体が動くようになったら、即殺してやる。

 魔物の心の声が伝わってくるようだ。


()れよ」


 睨み返す。


()られる前に、()ってやるから」


 肌の表面がヒリついている。

 なぜだろう。

 今は魔物の殺意に不思議と安堵感すら覚える。

 殺意を向けられるのなら――気兼ねなく、毒殺できるからか。

 しかし俺も睨み合いに終始している場合ではない。

 ゲージ残量をしっかり注視していなくてはならない。

 見極めるべきことも多い。

 観察していれば、何か新たにわかることがあるかもしれない。


「…………」


 毒のダメージは一定なのだろうか?

 ダメージに振れ幅はあるのか?

 まだ麻痺は解けてない。

 毒で死ぬ前に、麻痺が解けるかもしれない。

 麻痺が切れたら【スリープ】をかける必要がある。

 気を弛めるには時期尚早。

 まだ”油断”に足を踏み入れていい時間じゃない。


「そういえば……」


 麻痺に眠りの重ねがけが可能かどうか。

 そろそろ、確認してみるか。


「っと、試す前に――」


 MPを確認しておくか。


「ステータスオープン」



【トーカ・ミモリ】


 LV258


 HP:+774

 MP:+8194/8514

 攻撃:+774

 防御:+774

 体力:+774

 速さ:+774

 賢さ:+774


【称号:E級勇者】



 元の数値から考えると、飛躍的なステータスの伸びだ。


 3×258=774。


 なるほど。

 掛け算で伸びてるのか。

 初期値が高かったためかMPだけ異様に伸びている。

 これはありがたい。

 今の俺にとってMPは生命線。

 固有スキルを放つ燃料。

 これが尽きたら三森灯河は完全終了する。

 ちなみにMPはレベルアップで全回復すると思われる。


「で、他の補正値は……どうなんだ、これ?」


 小山田が確かLV1で体力+500。

 とすると、俺のは大した補正ではないのかもな。

 E級らしい補正値とも言えるか。

 まあいいさ。

 レベルアップのおかげか疲れも少し取れた。

 若干、スタミナも戻った感がある。


「ブる、ゴ、ぁ――、……」


【レベルが上がりました】

 

 ミノタウロスが一匹、力尽きた。


【LV258→LV277】


 しばらく待つ。


【レベルが上がりました】


 一匹、また一匹と息絶えていくミノタウロス。


【LV277→LV321】


 時間はけっこう経っている。

 しかし最初のやつ以外、まだ鳥頭が一匹も死んでいない。

 鳥頭の方はけっこうHPがあるようだ。


「コ、ぽ、コ、け――、……」

「お?」


【レベルが上がりました】


 鳥頭がようやく一匹、力尽きた。


【LV321→LV395】


「鳥頭の方が、経験値効率がいいのか」


 残念ながらステータス表記に経験値の表記は出ていない。

 いわゆる”次のレベルまであといくつ”みたいなのはわからないようだ。

 スタミナ制のソシャゲに触れた経験のある人間からすると……。

 少し、レベルアップ前に残っていたMPが惜しいと感じてしまう。

 レベルアップで全回復するのなら、レベルアップ前に極力MPを消費しておきたい気がする。

 貧乏性だからな。


「さて」


 ステータスオープン。

 MP表示を確認。


 MP +13035/13035


 全快している。

 やはりレベルアップ時に全回復するようだ。

 固有スキルのMP消費が10。

 1303回、使用可能。

 生きている魔物はまだ何匹もいる。

 こいつらの経験値が入れば今後もまだレベルは上がるはずだ。


「要するに――」


 重ねがけができれば、


「スキル経験値も、稼げるかもしれない」



     ▽



 視線で、ロックオン。

 鳥頭の方へ手をかざす。


「【スリープ】」


 倒れない。

 倒れないのは、麻痺しているせいだろう。


「だが」


 目が、閉じている。


 成功。

 つまり、


「できる」


 麻痺と眠りの重ねがけ。


 ゲージは二本表示されていた。

 黄と青。

 麻痺と眠り。

 これで【パラライズ】のゲージが完全になくなってから【スリープ】をかける必要もなくなった。

 一瞬とて魔物が行動可能になることはない。

 リスクを完全に回避できる。

 毒の効果も継続。


 完全無欠のコンボ――完成。


 これでスキル使用回数も稼げる。

 MP残量にはまだまだ十分余裕がある。

 しかもあの経験値量だ。

 まだしばらくはレベルも上がるだろう。


「よし……」


 そうとわかれば、


「【スリープ】!【スリープ】、【スリープ】、【スリープ】、【スリープ】、【スリープ】――」


 次々と、重ねがけしていく。


「【スリープ】、【スリープ】――」


【スキルレベルが上がりました】

【LV1→LV2】


 よし。

 上がった。

 これで【スリープ】も、レベル2。


「ブ、り、ォ――」

「ぱリ、ピ、ぉ――」


 毒にかかっていた魔物が立て続けに絶命していく。


【レベルが上がりました】

【LV395→LV507】


「とりあえずできる分の【スリープ】は、重ねがけできたが……」


 数値的に考えると相当な量のMPが無駄になってしまった。

 とはいえこれは仕方ないか。

 まあ、残量に余裕があるのは悪いことじゃない。

 さっきはMPが切れかけて死ぬ寸前だったわけだし。

 先ほどと比べたら天と地の差だ。

 で、


「MPもまた、全快したわけだし――」


 取り囲んでいる魔物たちを、睨みつける。


「ん?」

「ぐ、ル――ぶ、ゥ……ッ」


 なんだ?


「集まってきていたミノタウロスたちが、後退していく……?」


 ドシンッ、ドシンッ、ドシンッ……


 背を向け、去っていく。

 増援のミノタウロスたちが。


「諦めた、のか?」


 俺を殺すのを。


「ぱパるン――ぱピー、こッこッこッこ……ッ!」


 突然、恐慌に陥ったかのごとく鳥頭がくちばしをカッ!と開いた。


「プち、コろ……コろコろ、ッこー……コー!」


 その場をぐるぐる旋回し始める鳥頭。


「こ、コぇェえエーっ!」


 一斉に背を向ける鳥頭たち。

 群れとなって、逃走を開始。

 羽ばたくみたいに四本腕をバタバタさせながら、


「コぇエーっ!」


 走り去っていく。

 意味もわからずどんどん死んでいく仲間たち。

 なぜか急に動けなくなる。

 紫に変色し、ポコポコ泡が浮かんでくる。

 しばらくすると、息絶える。

 原因はどうやらあの人間のようだ。

 あの人間と殺し合うのはリスクが高すぎる……。

 まあ、あくまで想像だが。

 そんなところではないだろうか?

 廃棄遺跡の魔物とはいえあいつらも生物。

 どうやら命は大事らしい。

 逃走する魔物を、ぼんやり眺める。


「で、どうする?」


 自分自身に問いかける。


「あいつら――追いかけて、殺すか?」


 いや……。

 今はやめておこう。

 慈悲の心からではない。


 俺の目標は地上へ出ることだ。


 レベルは十分に上がった。

 他にやるべきこと。


 遺跡の探索。


 この廃棄遺跡を調べる。

 地上へつながる道を探す。

 ゆったりと、立ち上がる。

 ミノタウロスたちが逃げた方向を見る。

 さっきじっくりと探索できなかった場所。

 転送先。


「まずは一度、戻ってみるか」


 最初に廃棄勇者が辿り着く場所。


 何か、使えるものがあるかもしれない。


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― 新着の感想 ―
鶏 プち、コろ プち コろ→ブチコロす コぇエー → こえー あれこれ人間?
[良い点] 主人公が最強ではなくて努力で強くなって 女神に復讐のためどんどんレベル上げて 異常スキルを強化していく所が面白い
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