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猛進


 鋭い風切り音の直後――セラスの放った矢が、魔物の眉間を貫く。


 飛びかかってきた魔物は勢いを失い、地面の上を転がりながら消える。

 イヴの鉄球が鎖の音を携えて宙へ躍り出た。

 鉄球を覆うトゲが魔物の顔面に食い込み、そのまま首を折る。

 巧みに遠心力を利用してイヴが鉄球を引き戻す。

 馬蹄の轟きが、四つの車輪を従えて突き進む。

 悪路も関係なく角つきの黒馬が魔の森を駆け抜ける。


 カバに似た大型の魔物が後方から猛追してきた。

 セラスが矢を放つも、皮膚が硬く攻撃が通らない。


「【パラライズ】」


 麻痺で停止させ、そのカバに似た魔物を置き去りにする。

 戦車の巨大な車輪は力強く地を踏みしめながら回転を続ける。

 右斜め後方の茂みが一斉に激しくざわめき始めた。

 巨木が一本、吹き飛ぶ。

 直後、


 刺すような咆哮を上げ、灰色の巨大な角つきのゴリラが飛び出してきた。


 残虐性を帯びた金眼。

 凶悪な牙がてらてらと糸を引いている。

 身長は8メートルには届くだろう。

 巨大ゴリラからやや遅れて一回り小さい同型の魔物が姿を現す。

 連なった群れが、恐るべき速度で戦車を追いかけてくる。

 ……後方の群れまでは【パラライズ】が届かない、か。


「【バーサク】」 

「ぐゴがァぁアあアあ!」


 先頭の巨大ゴリラが急反転して後方の仲間に襲いかかった。

 後方の群れは混乱に陥り、総崩れとなった。

 巨大ゴリラがボスだったのだろう。

 急にそのボスが自分たちに襲いかかってきたのだ。

 そりゃあ、混乱するだろう。


 俺の背後――戦車の前方で濁った奇声が上がった。

 奇声の主は魔物。

 前方の木の枝で待ち構えていた昆虫型の魔物が、スレイに飛びかかったのである。


 が、イヴが鉄球を巧みに操ってすべて払いのける。


「小型の魔物は、我とセラスに任せろ」

「……ああ、頼んだ」


 魔物は四方八方から襲いかかってくる。

 互いに背を守りながら、全方向へ対応しなくてはならない。

 セラスが矢を放つ。


「大型の魔物やひとかたまりの群れは、トーカ殿にお任せいたします!」

「ぎョ、ぎィ!」


 戦車の横の手すりに紫色の小鬼がしがみついていた。

 セラスは脇の足場に飛び降りながら抜刀し、


「ぐェぇ!?」


 刃をそのまま、小鬼の頭部に突き刺す。

 力を失った小鬼は振り落とされ、派手に地面を跳ねながら消えた。


「?」


 セラスが鼻をおさえる。


「この、ニオイ……?」


 手すりに付着した小鬼の血が手すりの一部を溶かしていた。

 血が酸のようになっていたらしい。


「さすがは北方魔群帯、あんな魔物もいやがるわけか」


 前方。

 金眼の一角獣が二頭、左右から挟み込むように現れた。

 多眼で、口からは不気味な緑の煙をたなびかせている。

 状態異常スキルは――射程外。


 ドシュッ!


 一角獣の角が、二頭同時に射出された。

 回転までかかっている。

 まるでドリルだ。

 狙いは――スレイか。

 俺が回避を促そうとした時、スレイが大角を振った。


「グルァァアア゛ア゛!」


 スレイの角が敵の射出角をあっさり弾き飛ばす。

 と、攻撃を防がれた一角獣が角の再生を始めた。

 メリメリ、と角を失った穴の奥から新しい角が生えてきている。

 が、セラスとイヴは再攻撃を許さない。 

 一頭はセラスが矢で脚を貫き、転倒させた。

 もう一頭は、イヴが鉄球で圧殺。

 が、その直後だった。

 敵の攻撃を弾いた動作の影響か、スレイが一時的にバランスを失い――


 戦車が、大きく跳ねた。


「ぐ、ぅ――っ!?」


 イヴの身体が宙に浮き、馬車から投げ出される。


「ピギ丸」

「ピギッ!」


 俺が言うより早く、縄状になったピギ丸がイヴを追いかける。


 パシッ!


 縄状のピギ丸がイヴの身体に巻き付く。


「よし」


 掴まえた。


 俺は屈み、戦車の手すりを掴んで身体を固定する。

 そしてピギ丸を腕に巻き付けたまま、思いっきり引っ張った。

 イヴが、屋根の足場に引き戻される。


「助かった、トーカ」

「おまえらが落ちたら俺とピギ丸が引っ張り上げる。だから、思う存分やれ」


 イヴが鉄球武器の鎖を握り直し、立ち上がる。


「うむ、頼りにさせてもらう」


 ピギ丸の二本目の強化剤。


 目に見えて上がったのは”強度”である。

 今までは一定以上の重量を持ち上げるのは不可能だった。

 せいぜい、できて木登りの補助くらいだった。

 けれど今はイヴと鉄球武器を合わせた重量でも引っ張れる。

 もちろん引っ張る俺自身の腕力もそれなりに必要とされる。

 しかしステータス補正のおかげで、力を込めればイヴと鉄球を持ち上げるくらいなら可能となっていた。


 シュルルッ


 ピギ丸を腕に巻き付け直す。


「……この強度だったら、どこぞの蜘蛛男みたいな動きもできたりしてな」


 ちなみに”融合”状態ではないためスキルの射程距離はのびない。

 ピギ丸との融合はここぞという時に使うべき技。

 使えばピギ丸がしばらく行動不能になる。

 使用のタイミングは、見極めねばならない。

 見極めるといえば【スロウ】も同じである。

 消費MP量とクールタイムの関係上、乱発はできない。

 とはいえ奥の手が二つもあるのは心強いとも言える。

 他にもエリカから貰った魔導具や、魔戦車自体に備わった武器も残っている。


「今のところ、他の状態異常スキルでもここの連中相手に十分戦えてるしな……確かにエリカの言った通り、敵を高く見積もりすぎるのもよくねぇか……」


 仲間同士の連係もいい感じに噛み合っている。

 セラスが、背中越しに声をかけてきた。


「トーカ殿」

「ああ」


 セラスの声には確かな手応えを感じている者のそれがあった。

 新たな魔物の気配を感じながら、スキルを放つ準備に入る。


「このまま一気に、駆け抜けるぞ」




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― 新着の感想 ―
[気になる点] 脱字の報告です。 ・我とセラス任せろ 正しくは、〈我とセラスに任せろ〉かと。
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