表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

150/429

Last Attack


 スレイを斜めに走らせる。

 位置を変え、敵を視界に捉えるためだ。

 が、人面種は旋回して自らを俺の視界に捉えさせない。

 死体の盾が常に俺の正面へ来るよう動いている。

 シンプルだが効果的な対策。

 ピギ丸の触手が使えない今、射程距離は短くなっている。

 なので、射程内まで近づく必要性もあった。

 視界。

 射程内。

 その両方におさめなくてはならない。


 ビシュゥ!


 死体盾の向こう側から上空へ光の塊が射出された。

 粒子状の光点が複数煌めき、弾ける。


 ドドドドドドドドドドド――――ッ!


 雨の矢のごとく、頭上からレーザーが降り注いだ。

 熱線が肩口をかする。

 しかし傷は深くない。

 他はどうにか、スレイの小回りで回避に成功する。

 こっちの位置や動きは音で察知してやがるのか……。

 とはいえこの雨だ。

 音での察知はやや精度が落ちるはず。

 実際あのレーザーにピンポイントの正確性はない。

 が、おおよその位置は把握されている……。


「……………」


 少し前のレーザー攻撃はこいつの仕業か。

 あれで安全圏からチクチク攻撃していたと。

 しかもさっきは、俺の近くに集まっていた他の魔物も巻き込んでいた。

 なるほど、


「仲間意識の薄さが利になることもある、か」


 …………。

 しかしこれは少々まずい状況だ。

 敵には遠距離攻撃がある。

 状態異常スキルの射程外からの攻撃。

 このままでは一方的に攻撃され続けるだけだ。

 どうする?

 さっきレベルアップした【バーサク】はどうだ?

 改めて表示を確認する。

 ……ああ、そういえば。

 襲わせる対象に”人や魔物以外”も指定できるようになったのか。

 たとえば、石や木なんかも対象にできるわけだが――


「いや……」


 どの道、まず視界に入れないと意味がない。

 そして最大射程のスキルはギリギリ届かない。

 距離を詰める方法も、思いつかなければ――


「シんシんニしンしンしンしィぃィぃ――――イいイいン゛! ん゛!」


 再び、光点が中空に舞う。 

 降り注ぐレーザー。

 これもどうにか回避するも、それが反撃の糸口とはならない。

 このままじゃ、ジリ貧になる。


「ピギ丸、悪いが……もうひと仕事、最後に頼まれてくれるか」


 少し危険だが。


「ピ!」


 ツンッ!


 ピギ丸が首をつついてきた。

 まるで、迷いが生じかけた俺を後押しするように。

 突起の色は、肯定の緑。


「恩に着る、相棒」



     ▽



 三度、レーザーが射出される。

 直後、


 ゴロッ、ドチャッ、ゴロゴロゴロッ!


 泥の上を勢いよく転がっていく物体。

 蠅王のマスク。

 人面種がその”頭部”に反応する。


 ”レーザーによって千切れた首”


「――シんシ゛ん゛!」


 が、死体盾の向こう側の気配にすぐさま変化があった。

 人面種が急旋回。

 囮の”頭部”につられて姿を晒すことは、なかった。

 が、


「ピッギィィィィイイイイッ!」


 スライムの鳴き声が続く。

 すでにスレイも動き出している。

 そう、



 姿



 隙を作るのは一瞬だけでよかった。

 が、



 ほんのわずか、遅かった。


 人面種の旋回速度の方がほんのわずかだけ、速かった。


 蠅王のマスクで気を逸らして敵の死角へ回り込む奇策。


 起死回生の策には、至らず。












「――――【パラライ、ズ】――――」











「え゛ッ!? し……ン゛!?」


 今さら気づいても、もう遅い。


 ――ピシッ、ピキッ――


 大本命は、





「    」





 偽の頭部を囮として放り投げ、人面種に考えさせた。

 これは囮を使って”側面”から回り込んでくる策だ、と。

 が、策は三段重ね。

 ピギ丸とスレイが”回り込もうとする役”。


 馬上に、俺の姿はない。


 雨水を溜めたマスクの”頭部”で気を逸らした際、足の固定部を解除。

 スレイに、俺を上空へと跳ね上げさせた。

 その際に発生する音は、ピギ丸の鳴き声でかき消した。

 人面種の顔に理解が浮かぶ。


「理解したか――ああ、その通りだ」


 やはり、賢いヤツらしい。


「テメェは視認させないことで俺のスキルを封じた」


 しかしそれは同時に、俺たちが死体の向こう側で何をしているか――







 一方、これはピギ丸たちにとってリスクが高かった。

 攻撃を一身に受ける可能性があった。

 だがその前に、勝負を決めることができた。



 暴性付与(くたばれ)



 人面種の頭部に着地するより前に、決めのスキルを放つ。


 ブシュゥゥッ!


 噴出した血が、下方から巻き上がってくる。



「――――――――」



 できるか、目くらましに?



 死体を盾にした人面種は攻略した。


 しかし、俺の意識のフェーズはすでにへと移行している。


「――ッ、くそ、が……ッ!」


 飛来してきたのは槍状の突起物。



 狙いは――俺の、着地点。



 着地の瞬間。

 戦闘中に最も回避が不可能と化す瞬間の一つ。

 そこを狙うのは戦いでは定石だろう。

 どこかに潜んでいた魔物。

 俺が宙に跳ね上がった瞬間、この攻撃を思いついたか。


 飛来方向に腕を向けて防御姿勢を取る。


 あの突起物の貫通力はわからない。


 が、ここは防御力のステータス補正に託すしかない……ッ!


 ドサッ!

 ズドドドドッ!


 続けざまに、槍が肉を、穿った。



「――――――――スレイ」



 槍の突起は、スレイの横腹に、刺さっていた。


 瞬時に跳び上がり、俺の盾となったのだ。

 しかも、


「ブ、ル……ルルッ……ゥゥ……グルァァァアアアアア゛ア゛―――――ッ!」


 俺から魔物を遠ざけようとしたのか。

 怯むどころか、スレイは落下しながら威圧の咆哮を放つ。

 思わず歯噛みする。


「…………ッ」


 槍の刺さったスレイの傷口が血の糸を引き、雨粒に、溶け込んで――




「ヒよ゛リみィぃイ゛いイいィぅスすスすスすズぉオおオ゛!」




 それは槍の飛来方向とはから起こった。

 残る二匹――別の、もう一匹。

 歪んだ雄叫びを従え、そいつが飛び出してきた。


 狼の身体。

 巨狼。

 頭部だけが、人間だった。


 怒面どめんの人面種。


 ゆっくりと近づく葉擦れの音一つ、なく。

 雨を弾く音すら、なかった。


 ぼんやりとだが、こいつの気配は感じ取っていた。

 距離も憶測はついていた。

 が――もっと距離が、あったはず。


 そうか。


 一足で、ここまで距離を詰めたのか。


 つまり、



 残った二匹がこの局面で、同時攻撃を仕掛けてきた。



 ある種の三すくみだったのだ。

 全員、漁夫の利狙い。

 三匹とも自分が最も利するタイミングを探っていた。

 死体を盾にしたヤツはおそらく、最初に痺れを切らしたのだろう。


「――――――――」


 スレイの状態を確認すべく、視線を滑らせる。


 赤い瞳が俺を見ていた。


 強い意思の宿った瞳で。

 強い信頼を込めた瞳で。


 そしてその紅い目が、はっきりと語っていた。



 戦って、と。



「ああ、スレイ……、――わかった」



 槍の飛来してきた方角を、ひたと見据える。







 





「――【バーサク】――」



 着地後、跳びかかって来た人面狼に暴性を付与する。


「ヒよリぃィいイいイみぃィいイい゛イ゛おゲぇェえエえエ!」


 タイミングを測って跳ぶ。

 俺は、人面狼の背にそのまま飛び乗った。



 体毛を必死に掴み、振り落とされないようにする。


「【バーサク】」


 今の【バーサク】は人や魔物以外も対象指定が可能。


 前方。


 射程距離ギリギリの”木”を対象指定。

 そこに到達しかけたら【バーサク】を【解除】。

 直後、再び別の前方の”木”を【対象指定】――


 これで、こいつの速度を利用して前へ進める。


 この手法で俺は【バーサク】の付与&解除を短く繰り返す。


 目標のいる方角を、睨み据える。


「テメェの攻撃はリスクと隣り合わせ――狙撃手と同じだ。撃っちまったら、それはテメェの位置を明かしたことになる……、――間抜けがッ」


 騎乗している人面狼。

 たった一足で遠距離を詰める跳躍力と速度を持つ魔物。

 …………。

 突起物を射出したヤツは、その場を離れるだろうか?


 だめだ。


 逃がす間など与えない。


 風を切り、左右の風景が瞬く間に後方へと流れていく。



「――、届く」



 薄い雨のヴェールの向こうに、影が見えた。


「ぎョ、ぇ……ェえ!?」


 スレイに槍をぶち込みやがった魔物を、はっきりと目視できる位置に到達する。


 単眼の魔物だった。

 そいつは驚きの形相を浮かべていた。

 驚愕のせいだろうか?

 一つ目が剥き身の卵みたいに膨張している。

 四脚。

 中型。

 身体には射出用の穴めいた器官がたくさんついている。

 驚愕しつつ、そいつは反撃に転じる

 その目が赤く光り始めた。

 次の射出までにチャージ時間的なものがあったのだろう。

 ちょうど溜まったらしい。

 敵の射出速度は――速い。

 が、


 こちらも【バーサク】の射程範囲に、入っている。


 他のスキルは選択肢に存在しない。

 人面狼の次の対象を指定する必要があるからだ。

 指定しなければ、人面狼は最も近くにいる俺を襲うだろう。

 俺は、





 最後の【対象指定(バーサク)】を、行う。






「【バー”ドスッ!”サク】」 





 二匹の魔物の雄叫びと、悲鳴。

 混沌としたそれらが激しくまじり合う。

 人面狼が一つ目の魔物に食らいつき、バリバリと齧り殺していく。

 そして、


「――ッ、……」


 俺の左肩には、槍状の突起物が突き刺さっている。

 最後の暴性付与の寸前に放たれた単眼の反撃によるものだ。

 本来は超遠距離から行う攻撃を、この近距離で放たれた。

 俺もスキル発動の状態に入っていた。

 回避の余裕は、なかった。


「……チッ」


 鋭い痛みに歯噛みし、肉に埋まった先端を抜き放つ。


 ブシュッ


 傷口から出血はしたが、想像ほどではない。

 刺さった状態をあえて維持した方がいいこともあるらしいが……。

 しかしHP補正の恩恵で出血を抑えられる。

 と、そこで気づく。

 HP補正値は……どうなってる?

 そういえば、


「ピギ丸と接続解除してからは、消してたんだったな」


 ほんのわずかだが、半透明のステータス表示は視界を阻む。


「ステータスオープン」


 HP:+135/6051


 思った以上に思考が鈍ってやがるな……意外と、もう危険域だったか。

 補正は切れかかっていた。

 もうHP補正の恩恵を受けるのも難しい状態か。


 単眼が息絶えたのを見計らい、人面狼を麻痺&暴性で処理する。



【レベルが上がりました】

【LV2017→LV2019】



 HP補正値の数値が動き始める。


 HP:+135/6057

 HP:+156/6057


 MPと違って少しずつ回復していくのか。

 レベルアップすると、いわゆる”リジェネ”的な感じになるらしい。

 傷口にどう影響するかは、もう少し待たないとわからないが。


「…………」



 この辺り一帯から、魔物の気配が消えた。



「ん?」


 ふと、気づく。

 ステータス表示の通知を見る。


【スキルレベルが上がりました】


 ここにきて【パラライズ】のレベルが上がったらしい。

 さて、今回はどんな追加効果が――


「何?」


 俺は口に手をやると、眉根を寄せ、通知表示を見据えた。


「これが【パラライズ(麻痺)】の”上位”スキル、なのか……?」



【上位スキルが解放されました】




スロウ(遅性付与)






評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 上位スキルは熱い…
2022/04/07 11:26 退会済み
管理
[一言] 【スロウ】…思考とかも遅くなるのかな?
[一言] 魔物との戦い、読んでいる方も手に汗握る素晴らしい戦いでした! スレイとピギ丸も頑張ってましたね! このストーリーはキャラに愛着が湧いて、読んでいて飽きません!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ