MP残量、リスク、覚悟
いけるのか?
地上まで……。
このまま上を目指せば。
この【パラライズ】を、使い続ければ……。
待て。
確認すべきことがある。
俺はさっき見つけた浅い横穴に入った。
光を失っている皮袋に少しだけ魔素を注入。
皮袋が淡く光りはじめる。
視界を、確保。
「ステータス、オープン……」
よし。
出てきた。
【トーカ・ミモリ】
LV1
HP:+3
MP:+1/33
攻撃:+3
防御:+3
体力:+3
速さ:+3
賢さ:+3
【称号:E級勇者】
予期した通り。
MPが減っている。
俺は【パラライズ】を3回使用した。
女神に1回。
ミノタウロスに1回。
鳥頭に1回。
1回の使用でMP10消費か?
余分なMP−2分は……。
あ、そうか。
皮袋に注入した2回分か。
まずいな……MPの残量がないに等しい。
いや、確かステータスは補正値だと女神が説明していた。
要するに今は補正値分がほぼなくなっている状態。
つまり数値化されていない俺自身のMP分が本当の残量。
なら、まだ残量はあると考えられる。
一方、正確な残量は把握できない。
MP残量がもし10以下なら固有スキルはもう使えない。
唯一の武器が使用不能となったら、
完全に詰みだ。
「…………」
まだ残量があってホッとしたような。
数値が見えなくなって不安になったような。
不安を振り払い、スキルページへ移動。
【固有スキル:状態異常付与/使用可能】
フリック。
【パラライズ:LV1/消費MP10】
【スリープ:LV1】
【ポイズン:LV1】
よく見ると【パラライズ】の項目が増えている。
消費MPが表示されていた。
一度でも使用すると消費MPが表示される仕組みなのか?
「…………」
にしても、だ。
「……くそ」
頭を抱える。
だめだ。
到底、地上までMPがもつとは思えない。
MPは時間で回復するのか?
RPGみたいに寝れば回復する?
いや。
仮に全快しても30ぽっちの補正。
残りは数値の不明な俺自身のMP……。
自分自身のMPへの希望的観測は危険だ。
E級だしな。
「それと……」
自分自身のMPを消費し尽くしたらどうなる?
気絶する?
なくはない。
だとすると、自己MPに手を出すのはリスクが高い。
「!」
思いつく。
待てよ……。
桐原が【金色龍鳴波】とかいう固有スキルを使ったあと、口走っていた。
スキルLVが上がった、みたいなことを。
この世界での俺たちには”レベルアップ”という概念があるらしい。
そう――それこそ、ゲームみたいに。
「LVが上がれば、この状況を打開できるかも……」
MP最大量が増えるとか。
スキル消費MPが減るとか。
しかしE級勇者の俺は成長率とやらが低いそうだ。
S級勇者の桐原は成長率が高かった。
桐原はたった1回のスキル使用でいわゆる大量の”経験値”を得たと思われる。
で、レベルアップ。
一方、俺は3回使用してもスキルLVが上がっていない。
これがE級とS級の差か。
どうする?
どうやってレベルを上げる?
ゲームなんかの定番だと、魔物を倒せば経験値が入るものだが……。
無言でスキル欄とにらめっこする。
「【ポイズン】、か」
ダメージを与えられそうなスキルとなると、これくらいか。
あとは……死んだ廃棄勇者たちが残した武器とか?
それを探す手もあるか。
麻痺させた魔物をその武器で殺す。
一般人と呼んでいい俺の基礎能力値が高いとは思えない。
E級だから補正値も低い。
しかし武器の性能次第では勝機があるかもしれない。
連続で一方的にダメージを与えれられれば、あるいは――
「あ、でも……」
転送時に廃棄勇者たちが武器を奪われてたら、どうしようもない。
チンケ呼ばわりされた俺のユニークアイテムならともかく。
屈強な勇者たちの武器や魔法アイテムをそのまま持たせてはくれない、か。
まあ、騙し討ちで送り込んだとかなら装備を着けたままの転送もありうるかもしれないが。
「つーか――」
横穴から頭を出して様子をうかがう。
鳥頭のいた方角。
「麻痺の持続時間って、どのくらいなんだ?」
今は無駄撃ちをしたくない。
MPの無駄遣いはとにかく避けたい。
となると、
「戻って、確認してみるか……」
もしまだ麻痺していればけっこうな持続時間だ。
一方的な攻撃作戦も現実味を帯びてくる。
だがもしあそこに、いなかったら。
「その時は――」
ま、
「その時だな……」
今の俺は小さな光明を掴みにいくしかない。
だから、リスクを取れ。
覚悟を決めろ。
▽
来た道を戻る。
この選択は間違いかもしれない。
上を目指した方がよかったかもしれない。
……それでも、確認する。
麻痺させたあとはがむしゃらに逃げた。
鳥頭までの距離はいまいち把握していない。
今、振り向いたその瞬間――
闇に紛れていた鳥頭が、襲ってくるかもしれない。
心臓が拍動を加速させる。
ドクッ、ドクッ、ドクッ――――
呼吸が浅くなってきた。
ただ……目が慣れてきたのだろうか。
皮袋がなくとも、今はわずかだが視界が確保できている。
闇の中でも。
「あ」
立ち止まる。
何か落ちてる。
これは……。
「斧、か?」
廃棄者の持ち物だろうか?
必死で逃げていたからさっきは見落としていたようだ。
手に取ってみる。
ズシッと腕にきた。
刃の部分はまだ切れ味を保持しているだろうか?
補正値MPの残りは1。
このMPを使って、皮袋で状態を確認すべきか……。
いや、まだその必要はないか。
あの鳥頭の近くに行けば光源がある。
オレンジ線で光る、鳥頭の身体が。
確認はその時でいい。
斧を片手に、再び歩き出す。
胸が苦しい。
喉が渇く。
鳥頭……。
いるのか?
この、闇の先に……。
「――――ッ!」
見え、た。
身体のオレンジ線の光でわかる。
いる……。
鳥頭が、まだあそこに。
よ、よし……。
まだ麻痺したままのようだ。
擬態でなければ、だが。
「ピこ、ビこ、パ、こ、ピ! ぷゥ、ぷチこロ」
放出されている。
明確な殺意。
俺が何かしたから動けない。
それを察知している。
例の酸だけは止まっていなかった。
麻痺は身体の全機能が停止するわけではないらしい。
いや、それもそうか。
全機能停止だったら、即死スキルになるしな。
ん?
何か見える……。
なんだ、あれ?
ゲージ?
よく見ると、鳥頭の頭上に黄色いゲージみたいな表示があった。
まさにゲームの表示という感じだ。
この黄色ゲージが効果の持続時間だとすれば……。
半分を切っている程度、か?
鳥頭から距離を取る。
地面に転がっていた石ころを拾う。
振りかぶって、投げる。
カァァンッ!
鳥頭の背面にヒット。
なんだよ、今の甲高い音……。
皮膚の音じゃないだろ、アレ。
とてつもなく硬い皮膚か。
身を潜めて様子をうかがう。
鳥頭が動き出す気配はない。
俺は元の世界のRPGとかソシャゲを思い出していた。
なんらかの攻撃を受けると状態異常が解除される。
そういうゲームがいくつかあった。
攻撃を加えると麻痺が解除されるのか否か。
今の攻撃で試したかったのは、それだった。
動かない。
まったく。
よし。
思わず、小ぶりなガッツポーズ。
まあ、麻痺系は攻撃してもそのままなゲームが多かった。
セオリーは守られてるって感じか。
さて……ゲージがなくなるまでは、好き放題できそうだが。
身を潜めていた岩陰から出る。
鳥頭の放つ光で斧の状態を確認。
見た感じ、刃こぼれっぽいのはない。
「喰ら、え――」
両手で握り込んだ斧を、振り、かぶる。
木こりのイメージ。
まず鳥頭の腕を一本ずつ、切り飛ばす!
ブォンッ!
ガキィンッ!
「ぐ、ぁっ!?」
強い痺れが腕を駆け抜けた。
思わず斧を取り落とす。
悲鳴を上げる腕。
鈍く重い痛みが遅れてやってくる。
「はぁ――は、ぁ……っ!」
だめだ。
硬すぎる。
斧の刃を見る。
ヒビが入っていた。
「あ……」
取り落した斧に例の液体がかかった。
斧が溶けていく……。
地面より溶けるスピードが速い。
金属類には酸の効果が強いのか。
もう斧は使いモノにならないだろう。
「あんな硬いとか、反則だろ……」
穴の中に刃を差し込めばいけるか?
いや、だめだ。
あの液体で溶けるか。
だとすると、
「やるしかない、か」
補正値以外のMP。
俺自身のMPを使って。
鳥頭に【ポイズン】を、使用する。
俺は鳥頭に近づいた。
腕を上げる。
視界で、とらえる。
「ふぅぅ……」
深呼吸。
落ち着け、俺。
「【ポイ、ズン】」