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猛追、迎撃戦


 初手は――ばら撒き。


 後方から迫り来る魔物の群れ。

 その先頭集団にピギ丸の触手をばら撒く。

 振り向いた姿勢のまま、視界に群れを捉える。




 バシュゥゥ――――ッ!



 変形したピギ丸の突起。

 それらが、中空で花開く。

 大量の細い触手が宙に躍る。

 さながら無数に発射されたミサイルのごとく――


 地を鳴らす後方の魔物目がけ、放射された触手が乱雑な強襲をかける。


「――【バーサク】――」

「ゴぉォんォぉォぉォぉオおオ゛お゛――ッ! ぅ! ウぃ! ウぃ! ゴぉォぉォ!」


 スキル発動の声に人面種の叫びが交じり合う。

 俺の視界が捉えた人面種。

 何本かの触手が、まとめてそいつに”消滅”させられる。

 人面種の吐いた炎によって。

 が、


「ウるグぁ!」

「ギがルぇアるァあアあ――――ッ!?」


 背後の群れに変化が起きた。

 何匹かにはスキルが”届いた”のだ。

 暴性を付与された魔物たち。

 そいつらが見境なく周囲の魔物を襲い始めたのである。

 スレイの身体を通して響く地を蹴る振動。

 それをどこか心地良く感じながら、呟く。


「さあ、潰し合え」


 ちなみに拡声石の効果はもう切れている。

 今放った言葉は、残念ながら魔物たちには届かない。

 視界に浮かぶ半透過のステータス表示を確認。

 MPにはまだ余裕がある。


「初手はまず上々か」


 が、当然これで攻略完了とはいかない。

 後続の魔物が【バーサク】にかかった魔物を、容赦なく蹂躙していく。


 食い千切り、

 ねじ切り、

 粉砕し、

 寸断していく。


 戸惑いも、躊躇も、情もなく。

 耳をつんざく魔物の悲鳴が辺りに四散する。


 その光景は、まるで怪獣同士の決戦模様でも見ているようだった。


 俺は、さらに生み出した触手を鞭のごとく乱れ打つ。


 暴性付与――第二波。



「【バーサク】」



 一夜を明かしたあの遺跡の前で笑い面を倒した際に使った触手攻撃。

 あの時のように一本にまとめた方が複数の触手よりもコントロールは効く。

 が、この数相手なら多少のコントロールは失ってもいい。


 数の暴力で攻勢をかける。


「グるォぁァあアあアあアあア――――っ!」

「ギ、ぎ、ギょェぇェえエえエえエ――――っ!?」


 再び【バーサク】状態に陥った魔物たちが同士討ちを始める。

 前を走っていた”同類”が急に正気を失い襲いかかってくる。

 一部の魔物はそれにより混乱をきたしていた。

 しかし、連中はすぐさま生存のための戦いへ移行していく。


 生存本能。


 殺されるよりも、殺す。


 それがあいつらの本能。

 後方で激闘を繰り広げる魔物たちを、指差す。

 そうだ、


「生き残るため、存分に、殺し合え」


 スレイの速度を上げる。


 硬土こうどを蹴る八の馬蹄が、踏音とうおんの激しさを増す。


 後方を凝視。

 とはいえ、


「――――簡単にはいかねぇか。だろうな」


 抜けてくる。


 何匹も、

 何匹も、

 何匹も。


 俺の【バーサク】にかかった魔物など、ものともせず。

 特に顕著なのは人面種。

 人面種は迫る触手をそれぞれの攻撃方法でことごとく潰している。

 周囲の魔物を当然のごとく、巻き添えにしながら。


「ウぃ! ウぃ、ィ、ぃ゛! ゴぉォぉオおオおオお――ッ!」


 先頭集団の炎を吐く人面種も、触手と一緒に近くの魔物を焼き払っている。


 不意に舌打ちが出た。


「先頭の何匹かはもう、射程距離まで見破ってやがる……」


 どのタイミングで、いつ、あの触手を潰せばいいのか。

 それをもう理解しているのが人面種に何匹かいる。

 人面種にも賢いのがまじってる、か。

 しかも一部は人面種でない金眼の魔物を守っていた。

 さりとてあれはおそらく仲間意識からくる情が理由ではない。

 そう――捨て駒。

 捨て駒を散らしておけば獲物の意識に隙を作れるかもしれない。

 使えるものは使っておく。

 伝わってくる――そんな、無情の算段が。


「まあ――」


 マスクの中で、不意に、自然と口端が歪む。


「テメェらの立場なら、俺もそうする」


 さて、次だ。

 触手と【バーサク】の合わせ技の効果が薄くなってきている。

 同じ方法では戦い続けられない。


 三度、新たな触手を生み出して放射する。


 先頭集団の数にさほど変化はない。

 後続が次々と先頭に加わってくるためだ。

 まるで押し出されて、穴埋めでもするみたいに。


 ……まあいい。


 今、左右へ大きく広がっているヤツらにヒットすればいい。

 そいつらは後続から先頭へ来たばかりの初見組。


「――【パラライズ】――」

「ヒ! ひェ!? ひェぇエえエえッ!?」


 悲鳴(?)と共に先頭集団で変化が起こった。

 今までとは違う反応。


 ”あの触手に接近されると仲間が襲ってくる” 


 連中に刷り込まれていたのはこういう理解だろう。

 けれど今度は、いきなり何匹かの動きが”停止”した。

 魔物は、


 ”……え? 襲って、こない?”


 みたいな反応を示していた。

 今までと違う。

 この”予想外”が一時的に魔物たちの足を止めたのである。


 定型(パターン)後の定型(パターン)外し。


 積み重ねが活きるやり方。

 格闘技やスポーツ、果てには漫才なんかでも似た手法が散見される。

 不意をつくには――効果的な手段。


 しかし、いついかなる時もすぐ獰猛な攻撃性を取り戻すのが金眼の魔物。


 不意打ちの足止めもほんの数秒しか時間を稼げなかった。

 麻痺した魔物の一部は、無惨にも、なすすべなく後続に押し潰されていく……。


 何より先頭中央の触手攻撃対策済みの人面種――



 いまだ、健在。



 前方を見る。

 まだ景色は変わらない。

 木、林、森。

 しばらくはまだこの景色が続きそうだ。

 頭に現在位置を思い浮かべる。

 セラスたちから引き離すのはそれなりに成功したはずだ。

 細い枝をペキペキ折りながら、直進を続ける。


「――――チッ」


 この魔物の大移動に、釣られてきやがったか。

 もう後方からだけじゃない。


 


 群れをせっかくひとまとめにしたが――


 またも、全方位からの包囲。


 当初の方針にズレが生じ始めていた。

 後方へスキルをばら撒いて動きを止めつつ、引き離す。

 そしてたっぷり距離を取ったところで一度、身を隠す。

 やり過ごしたのち、セラスたちのところへ戻って合流する……。

 この案が水泡に帰そうとしている。

 中〜近距離での群れとの衝突はできれば避けたい。

 しかし、この状況……そうも言っていられない。

 あるいは、一点突破でどこかの群れを突き破る必要がある。


「ピギ丸、スレイ」


 両者、短く呼びかけに応える。


「まだ、いけるか?」


 両者が示したのは肯定の意。

 が、多少無理をしているのも伝わってくる。

 ……果たして、どこまでもつか。


「ん?」


 視界前方に浮かぶステータス表示。


 ――まずい。


 MP残量が、減ってきている。

 その時、


 ポツ、ポツ、と。


 小雨が降り始めた。

 怪しかった空模様。

 ここにきていよいよ機嫌が悪くなってきたらしい。


 サァァアアアア……、――――


 雨足はそのまま強さを増していく。

 雨粒の重みも、増していく。


 槍のごとく直落ちょくらくする雨粒が、葉を打ちつけている。


 音は耳による察知を阻害し、距離感覚を鈍らせていく。

 俺はスレイを停止させた。

 身体を振り、スレイが水滴を弾き飛ばす。

 マスクの触覚部分からポタポタと雫が垂れている。

 地を鳴らす大量の足音。

 四方八方からそれが近づいてくる。

 雨のカーテンでかすむ視界の向こうで、土埃がけぶっている。

 蠅のマスクから映る視界。

 目の部分の表面で次々と結合していく雨雫が、とめどなく伝い落ちていく……。



 経験値。



 その取得によるレベルアップ。


 現在、睡眠以外でMP回復の手段はそれしかない。

 現状、この戦いでピギ丸との合体技は欠かせない。


 結合中、MPは猛スピードで目減りしていく。

 いくらMPが豊富な俺でもこの減り方だと戦闘を30分も継続できない……。


 継続には、レベルアップしかない。


 大量の経験値を持つ人面種。

 そいつらを殺し続け、そして、レベルアップし続ければ――


「いや……それはさすがに、無茶がすぎるだろ」


 思いついた直後に口をついて出たのは、否定だった。

 その策は同時に身を危険に晒すことでもある。


 ここまでみたいに魔物との安全距離(マージン)も取れなくなる。


 なぜか?

 廃棄遺跡で調べてわかったこと。


 ”一定の距離内にいないと魔物死亡時に経験値が入らない”


 だから……。

 背後を振り向く。


「もしそうなれば、来た道を少し戻る必要がある……」


 経験値を取得できるギリギリの距離を見極めながらの”半局地戦”。


「…………俺がやると言ったら、ついてきてくれるか?」


 触手の動きが一瞬、勢いを増す。

 スレイが前足で勢いよく地面を蹴る。


「ピギィ!」

「ブルルルルルルッ!」


 両者、やはり返事に迷いはなかった。

 首を斜めに曲げる。


 コキッ


 つくづく……、


「つくづく、仲間に恵まれた」


 駆けてきた方角から猛追してくる禍々しき魔の群勢ぐんぜい


 そいつらへ向き直り、対峙する。


 見ると、手に跳ねた泥が付着していた。


 ブンッ


 腕を横に振り、てのひらの泥を振り払う。


 迫る魔物の群れを見据える。







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