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FRENZY


 公爵たちには勝利を確信した空気があった。

 第一陣がまさか麻痺で動けないとは思っていないのだろう。

 むしろ第三陣の認識は逆の可能性が高い。

 俺たちの前に第一陣が立ち塞がっている。

 そう見えているのではないか。

 公爵は今、第一陣が獲物の逃げ場を塞いだと勘違いしている可能性が高い。


「トーカ、公爵の隣の男が見えるか?」


 イヴが声をかけてきた。

 俺はその男を見る。

 巨躯の男が、これまた大きな馬に乗っていた。

 男は大槌を手にしていた。

 兜を被って鎧を着ている。


「あれが例のコステロか?」

「うむ」


 コステロが哄笑した。


「喜べ、イヴ・スピード!」


 頭上で得意げに大槌を振り回すコステロ。

 俺たちを威圧しているようだ。


「公爵様はお主を晒し首にする! そしてお主の毛皮や骨で作った服や装飾品をあの娘に着けさせて育てるそうだ! ぶははは! めでたいのぅ! そうなれば、これから大事な娘とずっと一緒にいられるではないか!」

「そして――」


 口もとを嗜虐的に弧の形にして、公爵が続く。


「あの娘にこのワタシが飽きたあかつきには、すぐさま娼館へ売り飛ばしてやる! ふははは! そうなったら、豹の被り物をさせて客を取らせてやるぞぉ〜!」

「…………」


 とことんゲスな発想をしやがる。

 公爵が片眉を上げた。


「ん? な、なんだ……? あの倒れている紫のローブの者たちはアシント、か? それに、やつらの道を塞いでいる兵どもの様子が、何か――」


 力強くイヴが地を踏む。


 対象から前方のイヴを除外し、俺はスキルを使用。



「【パラライズ】」



 すると、



【対象数が上限に達しました】

【80/80】



 第三陣の動きは、止まらない。



「…………」



 対象数の上限?



「――――――――」


 思い返す……。

 80以上の対象にまとめて使ったことはなかった。

 リザードマンの群れの時も。

 黒竜騎士団の時も。

 ここまでの大人数が対象ではなかった。

 アシントは下馬していた。

 なので馬を対象から外して使用した。

 が、戻ってきた第一陣は馬も一緒に麻痺させた。


 麻痺した私兵を乗せたまま馬が走り去るのを避けるためだ。


 結果、馬を含んだために対象数が倍になった。


「確かにここまでの大人数を相手にまとめて使う機会は、今までなかったな……」


 アシントの中にはまだ息のあるヤツも何人かいる。

 見る限り第三陣は一人も麻痺していない。

 要するに第三陣から”81人目”だったわけだ。

 なんともキリのいいところで上限に達していたものである。


「ったく」


 状態異常スキル。


 このスキルは後出しで表示情報が追加されていく。

 MP使用量も確か一度使用しないと表示されなかった。

 人数の上限表示も、同仕様か。

 上限人数に一度達しないと表示されない、と。

 …………。

 他のスキルも80が上限なのだろうか?

 ただ【フリーズ】だけは、最初から上限数が表示されていた……。

 状態異常スキルにはまだまだ仕様が不明な点も多い。


「ま、このスキルは他の性能面が破格すぎるからな……このくらいの仕様は、受け入れるべきか。それに――」


 手を突き出す。


「【ダーク】」


 俺の状態異常スキルは、麻痺だけじゃない。


 コステロの表情が一変した。


「なっ!? 何ぃぃいいいい!? 急に視界がっ!? な、何をした!? め、目がぁ!?」


 スパッ


「う、ぐ!? ぐ、ぉ……っ!?」


 コステロの喉元を、イヴの剣刃が斬り裂いた。


「残念ながら、一対一で力比べとはいかなかったようだな……コステロ」


 イヴはそう言い放つと、間髪入れず他の馬上の近衛兵に襲いかかった。


 ここは血闘場じゃない。

 一対一で正面から雌雄を決する必要はない。


「ぐ、がっ」


 大槌を取り落とすコステロ。

 次いでコステロは、喉を掻き毟りながら落馬した。

 公爵の顔から血の気が引いていくのが見えた。


「な、何が起こった!? おい、コステロ! 何をしている!? ぐっ……あ、あの男が何かしたのか!? なんだ!? キサマぁぁ……コステロにっ、何をしたぁぁああああ!? それに、そこの先発隊はどうしたというんだ!? 一体、何をそんなに苦しんで――」


「公爵様! どうか一度、我々の後ろへ! あの小汚い獣の始末は我々にお任せを!」


 歯ぎしりする公爵。


「まさか、アシントは全滅しおったのか!? ええい! 何が”少し遅れて北へ足をお運びください。ご到着される頃にはお望みの結果をご覧に入れて差し上げましょう”だ! 五竜士を倒した連中ならばと信じて来てみれば、このブザマな有様はなんだ! クソの役にも立たんではないか!」


「公爵様、どうか我々に任せてお下がりください! そしてご安心を! 先発隊がまるで役に立たなかろうと、どこぞの馬の骨とも知れぬエセ呪術師集団が全滅しようと、油断による事故でコステロが死のうと……あなたには、我々近衛隊がいます! 見事、あの愚かな反逆者どもを血に染め、我々の力をここで証明いたしましょうぞ!」


「ええい、わかった! 絶対にあやつらを仕留めよ! 仕留めた者は次の私兵長にしてやる! くそ! コステロめ! 目に砂でも入りおったか! 間抜けが! 過信しおって!」


 気勢を上げる近衛隊の後方へ公爵が下がっていく。

 前へ出てきた近衛隊が、迫る。


「【バーサク】」


「がぁぁぁあああああ゛あ゛っ!」


 先頭の背後にいた近衛兵が隣の仲間に襲いかかった。


「なっ!? お、おいよせ! 何をする!? ぎゃぁぁああああっ!?」


 つい先ほどまで意気揚々としていた近衛隊。

 連中はすぐさま余裕の面を剥ぎ取られた。

 今は上限に達して【パラライズ】が使えない。

 定石コンボも使用できない。


 が、十分戦える。


「ふはははっ! 豹人の首を取ればこの私が、次の――」

「【バーサク】」

「ぐがぁぁあああ゛あ゛っ!」

「ひぃぃ!? おまえまでどうしたってんだよぉおお!? うわ!? よ、よせ! ぎゃぁああっ!」


 当初、敵は数で圧倒していた。

 数で勝るのは大事だ。

 何より心理的に安心できる。

 だから最初は逃亡など考えない。

 俺たちには好ましい。

 が、コステロの死や状態異常の効果で雰囲気が少し変わった。

 敵に恐れの空気がまじり始める。


「イヴ!」


 声を張って、俺は猛攻をかけるイヴの背に呼びかけた。


「俺の守りはいい! 逃げそうなやつがいれば殺せ! それを優先しろ!」


 イヴが足もとに落ちていた槍を拾う。


「承知!」


 回れ右をしかけた近衛兵めがけ、イヴが槍を投擲した。


「ぎゃっ!?」


 串刺しにされた近衛兵の身体がかしぐ。


 ドサッ


 近衛兵はそのまま落馬。


「ぐぬぬぬっ! イヴのやつめ! あ、あやつを討ち取った者には莫大な報酬をくれてやる! 地位も女もくれてやろう! ゆけぇ! あの恩を仇で返す無礼なクズを、ワタシの名誉のために討ち取れぇぇええええ! 本気で気が済まん! ズタズタに八つ裂きにせねば、気が済まんぞぉぉおおおお!」


 怒号を飛ばす公爵。

 目が血走っている。

 公爵の中に退く選択肢はなさそうだ。

 案の定、頭に血がのぼりやすい人物か。


 イメージと違うからと逆上して娼婦を斬り殺すような男だ。


 第一陣の私兵が口にしていた。

 公爵は大層お怒りだ、と。

 コケにされたと感じると、冷静さを失うタイプなのだろう。

 いずれせよあの様子なら早々に退却はしまい。

 ちょうどいい。

 逆上して周りが見えなくなってる方が、やりやすい。


 公爵殿には、しばらく泳いでいてもらうとするか。


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― 新着の感想 ―
[良い点] ここで上限が判明とはヒヤッとしたけど他に手札がまだあって良かった [一言] 面白い
2020/08/02 13:34 退会済み
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