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なだれ込む敵たち


 ピギ丸に呼びかける。


「もう一度、接続だ」

「ピッ! ……ピ?」


 ん?


「どうした?」

「ピ……ピニュゥ〜……」


 へばった鳴き声。


「もしかして……無理そうか?」

「ピ……ピニィ〜……」


 MP残量は十分ある。

 しかしピギ丸への負荷が思った以上にあるようだ。

 連続使用を試みたのは今回が初めて。

 あの接続はMPをバカ食いする。

 接続状態にあるだけでMPはどんどん減少していく。

 なので一時的に接続は解除しておいたのだが……。


「悪かったな……おまえの負荷にまで、気が回ってなかったらしい」


 俺にも接続で負荷はかかる。

 ピギ丸も同じだろうとは思っていた。

 が、今までピギ丸は疲労の素振りを一切見せなかった。


「気づいてやれなかったのは、俺の失態だ」

「ピッ!? ピユユゥ〜!」


 必死に俺を擁護する鳴き方だった。

 ピギ丸が申し訳なさげな声を出す。


「ピニュニュゥゥ〜……」

「安心しろって。責めるつもりもないし、怒ってもいない。MPさえあれば短時間で連続使用もできると思い込んでた俺のミスだ」

「そなたにも、読めぬことはあるのだな」


 イヴの声がした。

 見るとセラスの姿もあった。

 イヴたちには状況を伝えるだけと言った気がするが……。


「申し訳ありません。その、彼女が話をしたいと」


 セラスの隣にはリズの姿もある。

 イヴが前へ出た。


「状況は聞いた。我も加勢しよう」

「大丈夫だ。俺とセラスでやる」

「セラスには疲れが見える」


 ムアジとのやり取りでセラスは神経を消耗しただろう。

 俺の【スリープ】で短い睡眠はとっている。

 が、それでもセラスの睡眠時間は少ない。

 彼女の場合、疲労を取り切るのがなかなか難しい。


「前へ出てそなたを守る役目は我が引き受けよう。今の我は気力、体力ともに充実している。何より――そなたたちだけに戦わせるのが、申し訳なくてな」


 思考を回転させる。

 最強の血闘士。

 疲労の残るセラス。

 イヴには、もっとあとで働いてもらう予定だったが。


「なら、頼む」

「任せてくれ」

「ただし魔女への案内人であるおまえが死んだら元も子もない。それを理解した上で戦ってくれ」

「劣勢と感じたら迷わず引け、だな?」

「理解が早くて助かる。じゃあ、セラスはリズを守ってくれ」

「わかりました。頼みましたよ、イヴ」

「うむ。トーカ、そなたの方は問題ないか?」

「多分な」


 ピギ丸との接続を用いた超遠距離攻撃は使えない。

 が、状態異常スキルは問題なく使える。

 五竜士を相手にするってわけじゃない。

 一応レベルによるステータス補正も受けてるしな。


「あ、あの」


 リズがおずおずと言った。

 セラスが中腰になって尋ねる。


「どうしましたか?」

「もしセラス様の力が必要だと思ったら、わたしのことは気にせずトーカ様のために戦ってください」

「リズ……?」

「禁忌の魔女のところへ行くためにいちばん力になれないのがわたしなのはわかっています……戦えないわたしが、皆さんのご迷惑になっていることも……」


 目をつむって、リズは胸の前で両手を握り込んだ。


「そんなわたしのためにおねえちゃんやトーカ様が危険になるのは……だめだと思います、から……っ」


 優しい目つきになるセラス。

 彼女はリズの肩に触れた。


「わかりました。気を遣ってくださり、ありがとうございます」


 リズの覚悟と気持ちを汲んだ結果だろうか。

 セラスは申し出を拒否しなかった。

 少し涙ぐんでいるリズ。

 できた子だと思った。

 一方でイヴは心配そうな雰囲気。

 イヴにとってはリズの身の安全が最優先なのだろう。

 俺は小声で言った。


「ああは言ってるが、セラスがリズの守りを放棄して飛び出してくることはないさ。安心しろ」


 それから俺は指示を出した。

 セラスはリズを連れて林の少し奥の方へ。

 イヴと俺はここで迎え撃つことにした。

 計画を完遂するには第一陣も全滅させる必要がある。

 要するにひとまとめに始末したい。

 林に引き入れての乱戦は避けるべきだろう。

 見失って逃げられる確率が高くなる。

 となれば、やはりここで迎え撃つのがよさそうか。


「我が囮となって引きつけよう。トーカはそこの草陰に隠れていてくれ。やつらが射程範囲内に入ったら、例の力で麻痺させるといい」


 俺はその案をのんだ。

 敵の狙いはイヴ・スピード。

 そう考えると囮に適しているのはイヴだろう。


「公爵の私兵の中に注意すべき相手は?」

「公爵の近衛隊は私兵の中でも抜きん出た実力を持つ者たちだ。あえて一人名を挙げるとすれば、やはり私兵長のコステロであろうな」

「強いのか?」

「モンロイにおいては竜殺しに次ぐ強さだと噂されている。かつては、魔戦騎士団にいたと聞く」


 肝心の竜殺しの強さが俺にはわからないが。


「イヴ・スピードと比べたら?」

「どちらが強いかを知りたくて我とやつを戦わせたがっていた者は大勢いた。しかし剣を交えたことはない。やつの真の実力は、我にもわからん」

「未知数か」

「うむ。ただ、先ほど通り過ぎるのを見たところ第一陣にはまじっていなかったと――ん?」


 イヴの耳が反応した。

 背後を振り返る。

 戻ってくる第一陣とは逆の方向。

 灯りが、迫っていた。


「第三陣か」


 俺は推測を口にした。


「あいつら、今まではゆったり進んでたのかもな。で、セラスの放った光が見えたから速度を上げてきた」


 第一陣は功を焦っていた。

 第二陣のアシントも似たようなものだろう。

 いずれも先にイヴを見つけて功績を上げたかった。

 さて、そこまで功を焦る必要のない者は誰か?

 功績を与える側の人間だ。


「第三陣の中には、公爵もまじってるかもな」


 速度と距離からして……。

 引き返してくる第一陣の方が到達は早い。

 二つの隊が合流して数が増えると、これまた逃がす確率が高くなるかもしれない。


「一つずつ順番に潰していくとしよう。先に、第一陣を潰すぞ」


 イヴが剣を抜く。


「承知した」

「できれば一人も逃がしたくない。だから可能な限り引きつけてから交戦してもらいたい。やれるなら、だが」

「やってみよう」


 第一陣の人数はさっきやり過ごした時に把握している。

 通過時、林の中を捜索していた他の兵も合流していた。

 なのであれで全員のはず。


「第一陣の今の人数を把握できるか?」


 イヴが集中する。

 やがて、


「把握した」


 人数を告げるイヴ。

 最初に把握した人数と一致している。

 ムアジのように隊を分けてはいない。

 バカ正直にひとかたまりで突っ込んでくるようだ。


「ありがたいことだな」


 蹄の音が大きさを増していく。


 第一陣が、迫る。


「ようやく見つけたぞ、イヴ・スピード! 残念だったな! 囮はすでに見破った! 我々からは、逃げられんのだぁ!」


 連中は光を見て慌てて引き返してきたのだろう。

 なので見破ったというのは語弊がある。

 しかもあの光への言及はないようだ。


「あ、あれを!」

「む!? あそこに倒れているのは……アシントの連中か!? ふ――ふはは! 所詮、呪術など紛い物に過ぎなかったようだな! 元々やつらは気に入らなかったのだ!」

「公爵様は大層お怒りでしたからな! 豹人の無様な死体を差し出せば、公爵様はきっと喜んでくださりますぞ!」

「うむ! 我々にとって物事はよい方向へ転がっている! もう近衛隊の連中にばかりデカい顔はさせん!」

「わははは! 逃亡してくれて礼を言うぞ、人モドキ! 実を言うと、我々は皆おまえのような人間の出来損ないが称賛を受けているのが気にくわなかったのだ!」


 イヴは黙している。


「わははは! どうした!? この人数を見て、戦う気力も失せたか!?」


 先頭の男が馬ごとイヴに迫る。

 剣を振りかざす先頭の男。


「その首、もらったぁぁああああ!」


 よし。



 全員、範囲内に入った。



 確実に範囲内へ収めるべく、俺は手を突き出したまま、草陰から躍り出た。


「【パラライズ】」


「――、う、ぉ……っ!?」


 私兵たちと馬が急停止。

 先頭の男は剣を振り上げたまま、硬直している。

 他の私兵も、麻痺により停止状態。

 彼らはまるで地面に縫いつけられているかのようだった。


「な……う、動けない……?」

「なん、だ……あの男、は……?」


 全員の狼狽が伝わってくる。


「【ポイズン】」


 私兵たちに毒を付与すると苦鳴が上がり始めた。

 射程、範囲、相性。

 麻痺と毒の定石コンボは、まったく使い勝手がいい。


「トーカ」


 イヴが俺に呼びかけた。


「ああ、わかってる」


 そう――まだ終わってはいない。

 別方向からの地を叩く蹄の音。

 近い。

 もうすぐそこまで、迫ってきている。


 第三陣。


「いる」


 イヴが言った。


「もはや逃げ場はないぞ、この恩知らずの人モドキめぇ! たとえ林へ逃げようと無駄無駄無駄ぁ! もう逃げられんぞ! コケにしおって! このズアン公爵から、逃げ切れると思うなぁぁああああ!」


「ズアン、公爵」


 牙を剥いて、イヴは獣じみた低い唸りを発した。


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