俐亜武の正体
村に到着するとさっそく村長を訪ねた。
ヘルテコでクエストを受けたことを話し、オークの耳を差し出した。
「ほう・・これは」
村長は驚いた様子だった。
「メルルを呼んでまいれ」
村長は傍にいた村人に命令した。
しばらくすると、少女が部屋に入ってきた。
顔は人間のようだが、猫のような耳を持ち、しっぽが生えていた。
体中から毛が生えているが、体つきは人間で、2本足で立っている。
「何、この子可愛いー」
楓は言葉を漏らした。
「報酬だ。受け取って下され」
???
俺と楓は意味がよくわからなかった。
「金貨5枚と聞いていますが?」
「ああ・・・そういうことか」
村長は何かを理解したようだった。
「お前たちが持ってきたのはオーガの耳じゃ」
村長が言うにはこの子は、深い森の中の村に住んでいたハーフキャット族だ。
村はオーガに襲われ壊滅してしまった。
この子の親もオーガに殺された。
この子は小さな体を隠し難を逃れてこの村にやってきた。
村人はこの子に同情し、この村に住むことを許した。
この子は復讐を願ったが、この村にオーガに勝てるものなどいない。
討伐を頼もうにも貧しい村である。
この子のために懸賞金を出すものはいなかった。
そこで、この子が自ら報酬となることを志願した。
「メルルだ。ふつつかものだが、よろしくだ」
いらねー。俺はそう思ったが、楓は目を輝かせている。
楓はメルルに近寄ると頭を撫ででいた。
「オーガがこの村の近くまで来ていたか。この村も危なかったかもしれんな」
「不信な者を捕えました」
「はなせよ」
村人に捕えられた俐亜武がべそをかいて入ってきた。
「こいつ」
俺は怒りに身を震わせながら剣を抜いた。
「殺してやる」
「だめよ」
「なぜ、止めるんだ。こいつが何したか知ってるだろ」
「うん。だけど、殺すなんて止めて」
「なんでこいつをかばうんだ。こいつがイケメンだからか?」
俺は心の奥で思っていたことをぶつけてしまった。
「俐亜武くんはまだ16だし、かわいそうだよ」
えっ?
「こいつのどこが16だ。どう見たって俺より年上じゃないか」
俺は切れ気味に叫んだ。
「落ち着いて、だっていまの姿、アバターの姿じゃない」
え、えーーーっ!!
俺は現世界の姿なのに、こいつらゲームのキャラと同じなのか?
「楓さんもゲームのキャラの姿なのか?」
「えっ?・・・うん」
「くそー」
「鶉くん・・」
俺が初めて狼に出くわした時のことを思い出した。
想像で戦うのと、実際に戦うのでは全然違う。
俺より年下の俐亜武がびびってしまうのも無理はない。
だが、やつのせいで死にかけたのだ。
全てを水に流すということはできないが、楓と揉めたくはない。
必死に怒りを抑えた。
俺は楓の話を聞いた。
楓は21歳の女子大生だった。
俐亜武は高校生。
俐亜武の態度がでかいのは、いわゆるDQNなやつみたいだ。
ゲームでは数々の顔のパーツが用意されており、イケメンにすることも自分の顔に似せることもできた。
背の高さや体格も同様に自由に設定できる。
楓は自分の顔を取り込み自分好みにアレンジしたと言っていた。
元の顔の原形があるのか俺にはわからないが、ネカマでなかったことにはほっとした。
俺だけが現世界の顔や体そのままなのは不明であった。
楓たちは、アップデート後、すぐにつながらない状態であったらしい。
そのことが関係しているかもしれない。
俺にはどうしても許せないことが一つあった。
「なあ・・・俺も楓って呼んでいいか?」
「うん。おねえさんも鶉って呼んじゃうぞ。ふふ」
楓は優しく微笑んで答えた。
あれ?楓ってこんなキャラだっけ。
いや、キャラが変わったんじゃない。立ち位置が変わったんだ。
自分のことおねえさんって言っているし、自分が年上と知って守られる側から守る側へと変化したのだ。
いかん。頼られる存在でなければ・・・。
でも、この感じも悪くないな・・・。