裏切り
「楓さん、その服、似合ってるね。買い物は終わった?」
「うん、終わったよ。ありがとう」
楓は嬉しそうに答えた。
「俺たちこれからデートなんだ」
俐亜武が言った。
えっ?俺は動揺した。
「俐亜武くんが服買うお金がないって困ってたから買ってあげる約束しただけよ」
「鶉も服買うなら一緒にいこ」
こいつやっぱり楓さんの優しさに付け込んで集ってたか。許せん。
こんなやつと二人きりにさせては楓さんが危ない。
俺は一緒に行くことにした。
俐亜武は不満げに舌打ちした。
「さっき預り所にも行ってきたの」
魔法使いの杖などはそこに預けたということだった。
三人は買い物を済ませた。
俐亜武は顔のわりに服のセンスは悪かった。
しかし並ぶと俺の方がダサく見える。
モデルが何着てもカッコよく見えるようなものか。
「よし、クエスト受けに行こうぜ」
俐亜武が言った。
「遅いし、明日にした方がいいんじゃないかな」
「受けるだけだよ。出発は明日にすればいいだろ」
そう言うとクエスト案内所へ向かって歩き出した。
ドラゴンを諦めさせる口実を考えているうちにクエスト案内所に着いた。
「なあ、ドラゴン討伐クエストある?」
俐亜武は偉そうな口ぶりで尋ねた。
「ドラゴンとなりますと、ご依頼主様と会って頂くことになります」
「実績のある方でないとお受けできないと思います」
しめた。すかさず俺が言った。
「昨日みせてもらった、オークの討伐はありますか?」
「はい。ございます」
「えっ、金貨5枚?安っ」
依頼書を見て、俐亜武は不満そうに言った。
「初めてだから仕方ないだろ」
「じゃ、俺の取り分、金貨3枚ね」
「は?」
「わたし初めてで自信ないから報酬いらない。二人で半分づつにしたら?」
「それを言ったら、俺もだし、俺はまだお金あるから楓が受け取りなよ」
俐亜武が金貨3枚。ただしメインで戦う。
俺と楓がサポーターとして戦う。金貨1枚づつという話で決着がついた。
「このクエスト受けます」
「このクエストには期限があるので、ご注意ください」
「オークの左耳を2枚、倒した証拠として村長に提出すればクエスト完了となります」
「村長から詳しい話があるということなので、まずは村へ行き、村長をお訪ねくささい」
村長はこの町から10キロほど離れたシシリ村にいるということだった。
翌日
「楓さん、ごめんね。3泊の予定だったのにね」
「ううん。ここのご主人が帰ってきてからもう1泊していいって」
あの主人は女には甘いのか・・・。
「遅いなあいつ」
俐亜武が待ち合わせの場所になかなか来ない。
俐亜武は俺たちの泊まっている宿が満室であった為、別の宿に宿泊していた。
待っていると俐亜武がやってきた。
「くそっ。だれが盗んだんだ」
宿に置いておいた剣が盗まれたという。
宿の主人と今までもめていたのだ。
このままでは俐亜武が使い物にならない。
仕方がないので、俺が金を貸して武器を購入することになった。
しぶしぶ、武器屋へ向かった。
「一番高いやつ見せてくれよ」
俐亜武はまたしても偉そうな口調でだった。
魔人剣
魔人の力が宿る剣
自ら魔人化させ驚異的な肉体を手に入れる『魔人転身』が使える
金貨1000枚
「買えるわかないだろ。これでいいんじゃないか?」
レイピア
金貨1枚
「追加効果もない普通の剣は嫌だ」
人の金を当てにして贅沢言うな。ふと目をやると面白い剣がある。
「じゃこれは?」
肩叩き剣
剣を振ると肩こりが解消される
銀貨2枚
「ヤベ、これ」
俐亜武は別の刀を見ていた。
桜吹雪
切った相手の血吹雪が桜吹雪へと変化する
金貨5枚
「絶対、いらねー」
俺は呆れて言った。
お子様剣
これで切られた相手は「やられたー」と言わなければならない
銅貨8枚
「・・・」
ファイヤーソード
剣に炎を纏う『ファイヤーブレード』が使える
金貨10枚
ファイヤーソードを選んだ。
町を出ると、楓の魔法を見せてもらた。
「ファイヤーボール」
楓の杖から火球が飛び出し直線状に飛んで行った。
火球が地面に当たると草を燃やし丸い焦げ跡が残った。
威力もなかなかありそうだ。
「すこし疲れるけど、わたしのMPなら20~30発は打てるはず」
楓はすこし得意げに話した。
すげぇー。本当に使えるのか。俺は驚いていた。
俺が足手まといにならないかと不安に思ったが、剣さえ当たれば何とかなるかもしれないと思い直した。
楓の前で不様な姿は見せられない。俺は気合を入れ直した。
村へと向かう途中でいきなり大きな化け物が森から飛び出してきた。
身長が2mを優に超える人型の化け物がこちらに向かって走ってくる。
「オークだ。かかってくるぞ」
「ひぃ」
情けない声が聞こえたかと思ったら、俐亜武が尻餅をついて怯えている。
嘘だろ?ドラゴン倒すとか言ってたじゃないか。
「ファイヤーボール」
楓のファイヤーボールがオークの顔に直撃する。
オークは顔を押さえて苦しんでいる。
俺はその隙をついて剣で切りかかった。
硬い。オークの筋肉で覆われた体は想像以上に硬かった。
ならば、今度は剣を突き刺した。
剣先がオークの体に食い込むと剣を伝って体に何かが入り込んでくる。
ブラッディソードのHP回復の効果か?
体に力がみなぎってきた。
「うおおおおお」
俺が剣に力を込めると剣はオークの体を突き抜けた。
オークは口から血を吐くとそのまま息絶えた。
「お前、ふざけるな」
俺は尻餅をついている俐亜武に掴みかかった。
その時、別のオークが現れた。
仲間の声を聞いてか、もう一体のオークが駆けつけたようだ。
「ファイヤーボール」
楓が叫ぶ。しかし何も起こらない。
「ファイヤーボール・・・・ファイヤーボール・・ファイヤーボール」
「だめ、出ない」
「MP切れかもしれない。マジックポーションを飲むんだ」
俺は叫んだ。
楓はマジックポーションを急いで飲んだ。
「ファイヤーボール・・やっぱり出ない・・どうして?」
「俐亜武、やつの注意を引いてくれ。俺がスキをみて切りかかる」
そういった瞬間、俺は後ろから突き飛ばされて体勢を崩した。
俐亜武がびびって俺を盾にして逃げ出したのだ。
オークは目の前に飛び込んできた俺を棍棒で殴り倒した。
オークは楓の方へ向かって走り出した。
行かせるか。俺はオークにしがみついた。
「ライトニング」
杖から発射された電撃がオークにあたる。
オークは悲鳴をあげて倒れた。
楓の持つ雷の杖は戦闘中に一回だけMP消費なしでライトニングを使えるアイテムだ。
楓はそれを思い出して使用したのだ。
しがみついていた俺も電撃の巻き添えをくらって倒れた。
「大丈夫?鶉くん・・鶉くん」
楓は俺に近寄ると俺の体を軽くゆすぶった。
「ポーション飲んで」
楓は俺にポーションを飲ませようとしたが、俺は動くことができなかった。
楓は自分の口にポーションを含ませると口移しでゆっくりとポーションを流し込んだ。
楓の柔らかな唇から楓のぬくもりを感じさせる液体が俺の口の中に広がる。
ゴクリと喉をならすとその液体が喉を通り、胃へと落とし込まれたのがわかる。
体がすこし熱くなってきたと思ったら意識がはっきりとしてきた。
俺が目をあけると楓の顔が目の前にあった。
「よかった」
楓は俺が目を開けたのに気付くと唇を離してすこし微笑んだ。
「死んじゃったかと思った」
楓は今度は泣き出した。
俺は楓からポーションの入った瓶を受け取ると残りを自分で飲み干した。
俺は横たわるオークの左耳を剣で切り取った。
「さあ、行こう」
二人は村へと歩き出した。