世界を救え
宿の1階へ降りると、ロビーの長椅子に昨日の魔法使いの女が座っていた。
「おはよう」
彼女に声をかける。
「おはよう!」
降りてきた俺を見て、明るく可愛い声で返事する。
「ごめんね。待った?」
昨日の妄想のおかげで自分中では距離が縮まっており、親しげな口調になっていた。
「ううん。ぜんぜん」
長椅子の彼女の隣に座る。
「自己紹介まだだね。俺はウズラ」
「わたしルル。よろしくね」
「よろしく」
ルルっていうのはハンドルネームであろう。
異世界へ来てから俺はゲームをしてる感覚はない。
だから本名を言ったのだが、ウズラをハンドルネームだと思ったのだろう。
「ウズラって本名だよ」
「えっ、そうなの?」
「私の本名は楓なの」
「楓さんって呼んでいい?」
「じゃ、ウズラくんでいいかな」
「昨日はだれか見つかった?」
「ううん。見つからなかった」
「人通りが少なくなるまで、頑張ったんだけど」
「ごめん。俺も探せばよかったね」
「いいの。昨日、馬車に乗って疲れてたでしょ」
「宿賃いくらだった」
ぼったくりのことを教えたら感謝されるに違いない。
「今日も泊まるっていったら銀貨2枚で3泊していいって」
あの野郎・・・・。
お互いに起きた事を教えあった。
「転送された場所が違うというのは、元の世界で私たちのいた場所が違うからかも」
なるほど、そういう考えもあるか。
「それにしても、ゲームユーザー数の割に来てる人少なくないか?」
「私たちが転送されたってことは、元の世界から消えるってことでしょ?」
「騒ぎになると思うの」
「消えた理由がゲームの所為だとわかったら、誰も来ないわ」
「運営も停止させらせると思うの」
そこまで考えてたのか。頭がいいな。
「帰る方法があるとしたら」
「「世界を救え」」
二人の声がハモった。
『異世界へ行き、世界を救え』それがゲームで受けたクエスト。
「世界を救えって、どういうことかわからないけど、たぶん、いまのままじゃ無理だと思うんだ」
「金も必要だと思うし、俺とパーティー組んで、弱いモンスター討伐してみないか?」
「うん、でも、今日は服を買いにいきたいの」
「わたしこんな恰好でしょ。これ一着しかないし」
「似合ってるよ。そのドレス」
「でも・・男の人の目線が・・気になるの」
「俺も一緒に行こうか?」
「うれしいんだけど・・・下着も買いたいから」
楓は恥ずかしそうに言った。
俺も下着は買わないとだな。でも、一緒にいくのは無理そうだ。
「じゃ、俺はクエストみてくるよ。パーティーメンバーも探してみる」
「うん」
「出かけるときは杖、持って行ったほうがいいよ」
「金目の物は盗まれるから」
「そうね。わたしも預り所を探してみるね」
夕方、食事をすることを約束し、別れた。