初めての戦闘
しかし、ここはどこだ。家の近所じゃないよな。
近所に草原なんて、もちろんない。
「グルルルル」
唸り声とともに、茂みから、狼が出てきた。
でかい。
ボルゾイという犬を見たことがある。
オオカミ狩りの猟犬で、とてつもなく大きい。
こんなやつ暴れだしたら、飼い主、抑えられるのか?
そう思うと、近くを通り過ぎるとき、怖かった。
それに匹敵するくらいの大きさだ。
戦う?いや、いや、いや、無理だ。
空想では、こういう場面で俺は勇敢に敵に立ち向かう。
かわいい女の子が襲われているのを助けるという設定だ。
だが、こうして唸り声をあげて、歯をむき出しにしている狼と向き合ってみると足がすくむ。心臓がバクバク言ってる。
ゲームの中じゃ、俺は最強クラスだ。
ニートのアドバンテージを活かし、鍛えまくった。
課金組にも引けを取らない強さだ。
しかし、今は現実。
狼なんかに襲われたら、ひとたまりもない。
剣技『一刀両断』は、相手に大ダメージを負わせる。
ゲームではあれば、シルバーウルフくらい容易く屠ることができる。
「一刀両断」
俺は思わず叫んだが、刀身は虚しく空を切るだけ。
剣先が相手に届いていないのだから、当たり前といえば当たり前だ。
そもそも、叫んで発動するものだろうか?
剣技なんて、ゲームの話。俺は混乱していた。
狼はこちらへ駈けてくると、俺の腕に嚙みついた。
そして、首を左右に振りまくる。
腕宛てをしていなかったら、腕を持っていかれてたであろう。
俺はあまりの恐ろしさに泣き出しそうになった。
刀の柄の部分で狼の顔を叩く。
狼がその体に似つかわしいくない悲鳴をあげる。
狼は鼻を押さえ、転げ回っていた。
運よく急所にヒットしたらしい。
狼は、いまので、戦闘意欲を失ったのか、剣を振り回している俺を一瞥し、逃げ去った。
なんでこんなところに狼がいるんだよ。
動物園から逃げ出したかな?
誰かが飼っている狼犬かもしれない。
とにかく、こんなところにいたくない。
早く、人のいる場所へ行かなければ。