アーシャの能力
「ただし条件があってのぉ」
この爺さん楓にも何かいやらしいことを要求するのではと鶉は冷や冷やした。
「魔力を高めるためにカスアリウスの卵を取ってきてもらいたいのじゃ」
「カスアリウス?」
「体長が2mほどの大きな鳥じゃ。
大きな鶏冠を持ち、体には黒い羽根が生えている」
「危険な鳥では?」
「なに、危険ではあるが、倒してこいと言っているわけじゃない。
卵を取ってくるだけじゃ。
雄が一匹で卵の世話をしとる。
つまり、離れた隙にそっと取ってこればいいだけじゃ」
鶉と楓はしばらく話し合った。
今回は討伐ではない。
相手は鳥であるし、危険は少ないだろうと結論を出した。
メルルとアーシャは置いていこうと思ったが、どうしてもついてくると言う。
鶉には不安があった。
楓は魔法が使える。
メルルは森に慣れている。
では、アーシャは?
鶉一人で、三人を守る自信はない。
いや、一人だって難しい。
役に立たない者は連れていくわけにはいかない。
アーシャ1人を残すのは可哀そうだ。やはりメルルも置いていこう。
「エルフは森と共に暮らす種族です。心配しなくてもいいわ」
鶉の意思を察して、アーシャが言った。
メルルも大丈夫だと太鼓判を押す。
森の住人同士分かり合えるところがあるのかもしれない。
これから一緒に旅をする仲間である。
今回の依頼くらいがよい試金石となるかもしれない。
楓と話し合って、結局4人全員で行くことになった。
アルティナはやはり勝手に付いてきた。
マッケルベロと何やら取引したようだが、内容は聞かなかった。どうせろくでもないことだ。
カスアリウスは標高の高いところに生息するとマッケルベロが言っていた。
「お前はどのくらい戦闘力があるんだ?」
「人に物を聞くときにお前はないんじゃない」
「アルティナさんの戦闘力はどのくらいあるんですか?」
「アルティナでいいのよ。
あたしに戦闘を期待しちゃだめ。
あたしは男の精力をう・ば・う・だけ♡」
こいつに期待しても無駄か。
鶉は期待した自分が愚かだったと悟った。
標高の高いところを目指し、山を登ることにした。
しかし森は広い。
カスアリウスはすぐ見つかるのだろうか?
「こっちの方だよ」
アーシャが言う。
「アーシャ、わかるのか?」
「うん。動物たちが教えてくれるんだ」
「えっ、動物と会話できるの?
アーシャ凄い!」
楓が感嘆の声をあげる。
アーシャは褒められて照れくさそうにしていた。
「森が騒がしい。
何かとんでもないものが森にいるみたい」
アーシャが言った。
「カスアリウスの事か?」
「ううん。違うみたい」
さて、困ったことになったぞ。
せっかくここまで来たけどやはり、危険を避けて引き戻るべきか?
「いた。
カスアリウスだ」
メルルが指さす方向に大きな鳥が卵を抱えている。
光沢のある黒い羽根は少し青みを帯びている。
大きな鶏冠に鋭く尖った嘴、青い頭に喉から大きく垂れる赤い肉垂が不気味だ。
マッケルベロが言っていた特徴と一致している。
こちらにはまだ気付いていないようだ。
餌を取りに行くのを待つことにしよう。
暫く待ったが、ふと、こいつはどのくらいの頻度で餌を取りに行くのか不安になった。
人ならば1日1回くらいは食事を取るだろう。
しかし、この鳥はどうだ?
今、卵を抱え、極力離れたくないはずだ。
3日くらいは離れないかもしれない。
「何かくる」
メルルの耳がピクリと動く。
何かこちらに向かって走ってくる。
双頭の犬、オルトロスだ。
「ファイヤーボール」
ファイヤーボールはオストロスの横を通り過ぎ、後ろの木を焦がした。
オストロスが素早い上に、木々が生い茂る森の中では狙いが定めにくいのだ。
ライトニングも同様に木々が避雷針となり相手まで届かないだろう。
ここは俺が何とかするしかない。
鶉は狼との戦いを思い出した。
あの時は、腕を咬まれたが、腕宛てをしていた為、大事には至らなかった。
しかし、今は、腕宛てをしていないうえに、頭が二つある。
甲冑は森の探索には不向きということで置いてきた。
頭一つの攻撃を剣で防いだとしても、二つ同時の攻撃は防げるだろうか?
素早くどちらかの頭を切り落として、ブラッディソードの力に頼るしかない。
心拍数が異常な速さまで上昇する。
オストロスが向かってきた。
オストロスは剣の間合いの手前で急停止して、口を大きく開けて、火を吹いた。
熱い。強烈な暑さが鶉を襲う。
鶉が転げ回るのをよそにオストロスはターゲットを楓達に切り替える。
オストロスは素早く楓達に向かって走り出した。
「ファイヤーボール」
楓はオストロスが近付くのを待って、外さないようにファイヤーボールを放った。
直撃。オストロスが怯む。
しかし、相手は火を吐く魔獣、火に耐性があるようだ。
あまりダメージを受けていないようだ。
接近戦でのライトニングは危険だ。仲間を巻き込む恐れがある。
「そんな・・・」
楓の顔色が青ざめた時、黒い影が横から突っ込んできた。
カスアリウスだ。卵を敵から守ろうとしているのだ。
カスアリウスがオストロスの脇腹に強烈な蹴りを入れる。
カスアリウスの攻撃はオストロスにダメージを与えるに十分なものであった。
オストロスは悲鳴をあげて、のたうち回る。
転がった先には鶉がいた。
「喰らえ」
鶉はオストロスの首の目掛けて剣を振り下ろした。
剣がオストロスの首に突き刺さると鶉の傷が癒えていく。
同時に体中に力が漲ってくる。
オストロスのもう一つの首が咬みついて来た。
鶉は剣を首から引き抜くと同時に思い切り飛び退いた。
カスアリウスがオストロスに向かって突進してくる。
オストロスはカスアリウスが向かってくるのを見ると逃げて行った。
カスアリウスはオストロスを追いかけていく。
「今だ。俺たちも逃げるぞ」
「楓お姉ちゃん、どうしても卵持って帰らないとダメかな?」
「そうね。今回はカスアリウスに助けてもらったもんね。
卵は置いていきましょう」
楓がそう言うと、みんな頷いた。
収穫なしでマッケルベロの家に戻ると、マッケルベロが一番、残念がっていた。
「考え直す気はないのかのぉ。
お前さんたちだって目玉焼きくらい食うじゃろ。
それと何ら変わらないじゃろ?」
自己満足であるのは分かっている。
しかし、人間は犬猫は可愛がり、牛豚鶏は平気で食べる。
あの場にいたなら、もうそれを言うことなんて誰もできない。
マッケルベロは別の事を考えていた。
楓とかいう女、サキュバスに劣らずいい乳をしとるではないか。
サキュバスだけでなく、あの娘ともあんな事やこんな事をしとるのかのぉ。
鶉という男なんとも羨ましい・・いや怪しからんやつじゃ。
わしが若いときは、魔法の勉学に明け暮れたというのに・・最近の若い者ときたら・・。
マッケルベロは魔導書の間にエロ本を隠し、読み耽った日々を思い出した。
「わしにもう少し魔力があればのぉ」
マッケンベロはそういいつつ水晶を眺めていた。
「やや、そこのエルフの女、お前から強大な魔力を感じるぞ。
この水晶がおぬしに反応しとるわい」
この水晶はある一定以上の魔力を持つものに反応するらしい。
水晶を通してアーシャを見るとオーラのようなものが見えたという。
「そこの娘に力を借りれば、もしかしてドレスに魔法効果を戻すことができるやもしれん」
マッケンベロはアーシャの魔力を使って、ドレスを直してみせるという。
アーシャにはドレスを修復する魔法など知らないが、魔力が高いのと魔法が使えるのとは別らしい。
マッケンベロはアーシャに気の集中のさせ方など支持を出した。
そして、ドレスを前にすると、修復の魔法を唱え始めた。
「これほどの魔力とは・・想像以上じゃ。
いかん。魔法が暴走する」
ボーンという音とともに煙が上がった。
周囲は煙に包まれたが、暫くすると、煙は薄くなり消えていった。
そこにはあられもない姿になった楓がいた。
マッケルベロの願望が具現化したようだ。
てへっと誤魔化すマッケルベロ。
「エ・ロ・ジジイ」
楓の声は怒りに震えていた。