男が最後に望むもの
「はい。あーん」
「あーん」
宿のカフェテラスにラブラブのカップルがいる。
「何やってるの?鶉」
楓がお冠だ。
「あれ?楓?」
鶉と一緒にいたのは楓に扮したサキュバスだ。
「あなたも勝手に私の姿にならないで」
「あたしは男の望んだ姿になるだけ。
鶉が望んだことよ」
「うーずーらー」
「いや、ち、違うんだ。
俺は本物の楓と思って」
「わたしは人前でそんなはしたないことしません」
確かに楓にしては大胆だった。
だが、鶉は舞い上がっていた。
疑うことなどできなかった。
「ふーん。人前じゃなきゃやるんだ。
焼いてるのかしら?」
「・・・知りません」
楓は怒ってどこかへ行ってしまった。
「待って」
「ほっときなさいよ。
あたしならあなたの望むことしてあげるわ」
「お前、なんで俺に付き纏うんだ?」
「あたしはサキュバスよ。
男に袖にされるのってプライド傷つくじゃない。
アルティナって呼んでね」
「俺はお前に用はない。どこかへ行ってくれ」
鶉は楓の後を追った。
「無理しちゃって。うふふ」
楓は鶉を残して、魔法防具専門店に来ていた。
「これはうちでも難しいですね」
「そうですか」
「魔法使いのマッケルベロなら直せるかもしれません」
「本当ですか!?」
「ですが、ちょっと偏屈な爺さんでして、
町は騒がしすぎるとかいって、森の中に住んでいるのです」
「場所を教えてもらっていいですか?」
楓は店員に簡単な地図を描いてもらった。
「楓、ごめん」
「ううん。わたしも大人げなかったわ」
宿に戻った楓は鶉に専門店で聞いたことを話した。
「それじゃあ、行ってみるか」
「ボクも行く」
「わたしも行くわ」
メルルとアーシャが言った。
「危険なところなのか?」
「お店の人はそれほど危険はないって言ってたけど・・」
「それなら連れて行くか。
メルル案内できるか?」
「任せろだ」
「お前達、危険なときはすぐ隠れるんだぞ」
出発の準備を終え、町を出ようとしたときアルティナが現れた。
「お前、付いて来るなって言ったろ」
「あら、あたしがどこ行こうと勝手じゃない」
そう言うと鶉に近づき耳元で囁いた。
「あたしは夢の中を覗くことができるのよ。
あなたが夢で楓にあんな事やこんな事してるって言っていいのかしら?」
「お前まさか?」
「あたしがやってるんじゃないわよ。
あたしと会う前から身に覚えあるでしょ?」
「そこ、何コソコソ話してるの?」
楓が睨む。
「いやー、こいつほっとくとまた楓に化けるから傍に置いておいた方がまだ安全かなって・・はは」
「行きましょ」
楓はメルルとアーシャにそう言うと歩き出した。
慌てて鶉は後を追う。
メルルは地形を読み取り最適なルートを割り出す。
1時間も歩くとマッケルベロの住む家に着いた。
とんがり屋根の古い木造の家でいかにも魔法使いが住みそうな家だ。
「トントン」
ドアをノックする。
「すみません。誰かいますか?」
ドアが開く。
「ここに人が来るとは珍しいのぉ。
何用じゃ」
楓はドレスの魔法効果を戻して欲しいと頼んだ。
「そうじゃの。
直せんこともないが金貨150枚ってとこかの」
「そんなに・・・」
それほどの金貨は持ち合わせていなかった。
単純計算でオークのクエスト30回分である。
オーク戦1回でドレスを壊されたことを考えると、酷い赤字である。
「おや、そこにいるのはひょっとしてサキュバスでは?」
「あ~ら。あたしのこと知っているの?
どこかでお会いしたかしら?」
「いや、文献で読んだだけじゃが・・・」
そういうとマッケルベロはアルティナに近づき耳打ちした。
「わしは長いことナニが立たんが、お前さんなら何とかできるかのぉ?」
「あたしは夢の中に入れるの。
夢の中なら何でもできるわ。
もちろんアレを立たせることも」
「コホン。
まあ、なんじゃの。
お前さんらも困っているようじゃし、
金貨1枚でやってやらんこともないがの」
楓は赤面する爺さんを見て深い溜息をついた。