奴隷商人
アストルス王国王都ゴードンガーデン
鶉と楓は王都に着いた。
鶉と楓は宿で別々の部屋を取った。
メルルは楓と同じ部屋である。
「わたし、ちょっと散策してくる」
「兄貴、本当にやっちまわないんですか」
「あれはその筋では高く売れんだよ。
やっちまったら、価値下がんだろ」
「なんつうか、このガキ。
ガキのわりにそそるというか・・・」
兄貴と呼ばれた男が舐めるように見る。
視線の先にはハーフエルフの少女がいた。
ハーフエルフは種族ではない。エルフと人との混血である。
ここは奴隷商人のアジトである。
ハーフエルフはエルフの世界で忌み子として扱われる。
そんな不幸な少女を騙して攫ってくるのは簡単であった。
「そうだな・・・他の連中は今頃、羽目を外して楽しんでる頃だ。
しばらく帰ってこねぇ。俺たちも楽しむか。
まあ、ケツにぶっこむくらいばれやしねぇさ」
「へへ。さすが兄貴。そうこなくちゃ」
「おい。檻から出せ。逃がすんじゃねぇぞ」
そういうとハーフエルフの少女を檻の外へ引っ張り出した。
「まずはそのかわいいお口でしゃぶってもらおうかな」
そういうと猿轡を外した。
「やめて。おねがい」
涙を浮かべて懇願する少女の顔が、ますます男の欲望を掻き立てる。
男がズボンを下したそのとき、少女が男の隙をついて逃げ出す。
「あ、まて」
少女は手を縛っていた縄からするりと手を抜くと、ドアを開けて出て行った。
「いつのまに縄を解いてやがったんだ」
「バカ野郎。早く捕まえねぇか」
楓が外を散策している。
「あそこに誰かいる」
楓は物陰に隠れる少女を見つけた。
ぶるぶると震えている。
「どうしたの?」
「ごめんなさい。許して」
少女は騙されて人間不信になっていた。
「大丈夫よ」
楓は少女が何者かに追われてること察した。
マントに少女を隠し、宿の部屋へ連れていった。
楓は少女から一通りの話を聞いた。
「大変だったね。でも、もう大丈夫。
わたしが守ってあげる」
「ちょっと鶉と話してくる。
メルルはここで待ってて」
そう言って部屋を後にする。
鶉と楓は酒場へと来ていた。
「鶉、話があるの」
部屋に残ったメルルとハーフエルフの少女アーシャは話しをしていた。
アーシャは楓の優しさに触れて落ち着きを取り戻していた。
「メルちゃんは、小さいのに偉いね」
「鶉と楓がいるから大丈夫だ」
「メルちゃん、鶉お兄ちゃんのこと好き?」
「大好きだ。鶉は優しくて強いんだ。
誰も倒せなかったオーガをメルルの為に倒してくれた」
「いいなぁ。メルちゃんは愛されてるんだね」
「大丈夫。アーシャも鶉と楓が守ってくれる」
「うん。ありがとう」
アーシャは涙を浮かべる。
「アーシャはメルルの妹だ」
「メルちゃんの方が年下でしょ」
「ここに来たのはメルルが先だ」
「あはは」
楓が部屋に戻ってきた。
笑顔を作ってはいるが、目尻に光るものがあるのをアーシャは見逃さなかった。
「アーシャは私が守るから。
心配しないで」
3人はいろいろ話した。
アーシャは久しぶりに楽しかった。
ひとしきり話した後、3人は寝床に入った。
忌み子で生まれ育ったアーシャにとってどれほど幸せな時間だったか。
それとは裏腹にある不安がアーシャの心に暗い影を落とす。
楓お姉ちゃんは私のことで鶉お兄ちゃんと喧嘩したのかな。
ハーフエルフの私がここにいるときっと迷惑がかかる。
3人の幸せを壊すことになるかもしれない。
このまま私がここに居ていいのかな?
いや、居ていいはずがない。
わたしにこんなに幸せな時間をくれた人たちを不幸にできるわけがない。
アーシャは出て行った。
楓はふと起きる。
アーシャがいない。
机には書置きが残されていた。
『お世話になったのにお礼もしないでごめんね。
さようなら』
探さなきゃ。楓はアーシャの後を追った。
ドンドン
ドアをノックする音で、鶉は目が覚める。
ドアを開けるとそこにはメルルがいた。
鶉は宿の主人から良からぬ噂を聞いた。
昨日いたガラの悪い客は奴隷商人で、女を騙して連れ去るという。
昨日、楓が話があると言っていた。
奴隷商人から女を救い出したかったんじゃないか?
楓はもしかして、一人で助けに行ったのか?
俺があんな事言ったばかりに。
そう思うと鶉は居ても立っても居られなくなった。
「メルル。楓を探しにいくぞ」
鶉はずいぶん探し回った。
そして、昨日の男の一人を見つけた。
男はハーフエルフの少女を探していた。
昨日、仲間が逃がしてしまったからだ。
「くそ。なんで俺がこんな面倒なことを」
鶉は男を捕まえて、裏路地へと引き込んだ。
「おい、楓はどこだ?」
「知らねぇよ。そんな女」
「殺すぞ。俺は本気だ」
「ま、待てよ。そういえば、今日、仲間がいい女、引っ捕まえてきたぜ。
今頃、親分とよろしくやってるだろうよ」
「どこだ?」
「港の倉庫の・・・」
「おい、お前、そこで何してる?」
突然、衛兵が二人の話に割って入った。
男はそれに乗じて逃げてしまった。
「くそ」
鶉は追ったが見失ってしまった。
港まで足を運ぶと倉庫が建ち並ぶ。
「どれだ?」
鶉は焦っていた。
姿を消していたメルルが現れた。
「あそこの倉庫だ」
メルルは男を追っていたのだ。
「メルルは役に立つだろ?」
「ああ、偉いな」
鶉がメルルを撫でてやるとメルルは満足そうな笑顔になった。
「何人いるかわかるか?」
「何人かわからないが大勢いる」
鶉は自信がなかった。
鶉は剣が上手いわけでない。
これまでは楓が隙をつくり鶉が切るという方法でやってきた。
大勢相手に勝てるのか?
こうしている間にも楓は・・・。
一か八か突っ込むか・・・。
「ボクが隙を作る。鶉は楓を助けろ」
メルルが倉庫に向かって走り出した。
「おい、何する気だ」
「親分。何時間やってんすかね」
「あれだけいい女だからな」
「俺らに回ってくるころにゃ伸びちゃってますよ」
そこへ仲間の男が入ってくる。
「ハーフエルフのガキ見つかったのか?」
「それが変なやつに絡まれちまって」
「バカ野郎。見つかるまで帰ってくるな」
「すいやせん」
その時、また扉が開く。
そこにはハーフキャットの少女が立っていた。
「なんだあのガキ」
少女に少し驚いたが、少女を見るとニタリと笑った。
「なかなかの上物だ。
ハーフエルフのガキの代わりだ。
取っ捕まえろ」
男がメルルを追って倉庫から飛び出してくる。
メルルは上手く身をかわしながら逃げて別の倉庫へと入っていった。
「すばしっこいぞ。みんな手伝え」
倉庫から男たちがぞろぞろと出てくるとメルルを追って別の倉庫へ入っていった。
メルルのやつ無茶しやがって。
鶉はメルルの作ってくれた隙に敵のアジトへ乗り込もうとした。
「ドーン」
メルル達のいる倉庫が爆発した。
粉塵爆発だ。
メルルの入った倉庫は小麦粉が置かれた倉庫だった。
メルル達が暴れ回ったことにより、小麦粉が空中に浮遊し、男の一人が吸っていたタバコの火で爆発したのだ。
メルル・・・。
俺はバカだ。
メルルはまだ子供じゃないか。
一番守ってやらなきゃいけない存在だ。
俺はメルルに何ひとつしてやってない。
オーガを倒したのだって、襲われたからだ。
それなのにメルルは・・・。
『失ってわかることもあるってことだ』
あのおやじの言葉が浮かぶ。
「メルルは役に立つだろ?」
俺の前にメルルが現れた。
爆発の直前に窓から脱出していたのだ。
「ああ、偉いな」
鶉が涙を堪えてメルルを撫でてやる。
「ここからは俺の出番だ。
メルルは十分やった。
ここで休んでろ」
ふらついているメルルにポーションを渡すと鶉はアジトへ乗り込んだ。
アジトには誰もいない。
奥の扉から声がする。
「あ・・あっ・・・あーん」
扉を開くとやつらの頭と思われるやつがいた。
「だれだ。俺のじゃまをするのは?」
2m近い大男だ。
だがお楽しみ中の男は丸腰だ。
鶉は男を切り捨てた。
そこには裸の楓がいた。
「楓、助けにきたよ」
「次はあなたの番?」
「何言っているんだ?
鶉だよ。
わからないのか?」
薬か?
「鶉?
あなたわたしとしたいんでしょ?
いいわ。来て」
ああ、したいと願ったさ。
でも、こんなのは違う。
「ごめんな」
鶉は楓を抱きしめると涙をこぼした。
「うーずーらー」
後ろから怒った声が聞こえる。
振り返るとそこには怒った顔の楓となぜかお冠のメルル、それにハーフエルフの少女がいた。
「鶉、浮気だめ」
メルルが言った。
「心配して来てみれば何やってるのよ」
「えっ、だって今楓と・・」
「あーあ、ばれちゃった」
抱きしめていた女は妖艶な別の女に変わっていた。
サキュバスである。
男の理想とする女性に姿を変えて男の精気を吸い尽くす悪魔である。
「楓、戻ってきてくれたのか?」
そういうと鶉は本物の楓を抱きつくと子供のように泣き出した。
「ひどいよ。いきなりさよならなんて」
「わたしがメルルをおいていくわけないでしょ」
「そっちか」
鶉と楓は笑った。
「楓」
「なに?」
「ごめんな」
「ううん」
「楓」
「なに?」
「守るから。
俺楓の事守るから」
「うん」