別れ
鶉と楓は王都の酒場へと来ていた。
「鶉、話があるの」
楓がそう切り出したところで、ガラの悪い連中の声が聞こえる。
「お前、何人喰った」
「21人」
「おお、すげぇ」
「いや、簡単だよな」
「この前のやつは性奴隷にしたぜ。
尻の穴の奥まで舌入れさせてやったら泣いて喜んでた。
もう許してってさー」
「アハハ。ひでー」
「最低」
楓が呟いた。
鶉は現世界のことを思い出していた。
鶉は何度か合コンに誘われたことがある。
ニートの鶉はいつでも誘える補欠要員としてである。
優しそうな女の子と会話が弾む。
「電話番号聞いてもいい?」
鶉は尋ねた。
「わたし知り合ってすぐの人に教えないんだ。綾香からまた連絡して」
綾香とはこの合コンを主催した男の知り合いで、女の子を集めた人である。
「わかった。またみんなで遊ぼう」
鶉はこの子はしっかりした子なんだと、断られたことに逆に好感を持った。
また別の合コンに呼ばれた。
男メンバーは同じだが、女の子は違っていた。
合コン後に反省会が行われた。
「そういや、お前、香織お持ち帰りしたろ。やったのか?」
香織とは鶉が電話番号を断られた女である。
「ああ、やったよ」
えっ?俺は耳を疑った。
『わたし知り合ってすぐの人に教えないんだ』
あの言葉が脳裏に浮かぶ。
他の男もトイレに行ったすきに女の子から連絡先をゲットしていた。
鶉は理解した。
同じ世界に住んでいるがこいつらとは見えてる世界が違う。
こいつらはただの遊びだ。
それでも、女はこいつらを選ぶ。
「付いていく女も悪いよ」
鶉はぼそりと呟いた。
バーン
楓がテーブルを叩いて立ち上がる。
「鶉がそんなこと言うなんて思わなかった」
楓の目には涙が浮かんでいる。
鶉を残して去っていってしまった。
なんだよ・・・。
どうして・・・・?
もしかして楓も遊ばれた経験があるのか?
楓は21の女子大生だったな。
そういうことがあってもおかしくない。
俺は楓のこと何もわかってない。
「よっ青年。悩み事か?
金貨1枚のところ、こないだのよしみだ。
ここの支払いで相談にのってやる」
あのときのおやじか。王都に来てたのか。
よっぱらいおやじは渋る鶉から話を聞き出した。
「なるほどな。
女の過去が気になると、そういうわけだな。
女どもは本当の愛じゃないから気にするんだとか勝手なことを言うが、本当に好きだから許せないんだろ。
わかるよ。わかる。
女は他にもいるさ。
別れちまいな」
「別れるもなにも付き合ってない」
「お前、どうして苦しいかわかるか?
それは嫉妬だ。
お前は女に裏切られたような気持ちでいるかもしれないが、付き合ってもないんだ。裏切っちゃいない。
尻の軽い女だとわかって嫌いになったなら別れればいい。気にすることもないだろ。
モラルとかそういう問題じゃない。お前はただ昔の男に嫉妬してるのさ。
お前に足りないのは経験だ。
ははっ。お前、童貞だろ?」
どうせ俺は童貞だよ・・・。
鶉はおやじを睨む。
「失ってわかることもあるってことだ」
童貞捨てろってか・・・・。
「その点、俺はバツイチだ。
女癖の悪さに愛想尽かされて、親友に女房を寝取られちまった。
相手が子持ちだって気にしないさ」
鶉は軽蔑したような目でおやじをみる。
「俺みたいなやつなら相手が子持ちでも当然だって顔だな。
そう思うなら、お前もバツイチになればいいさ。
うじうじ悩まなくてすむ。
はっはっはっ」
鶉は部屋に戻って考えていた。
楓のことが気になる。
明日どんな顔して会えばいいんだ。
俺が最低なのか?
さっきの酒場の男より・・・
合コン男より・・・
いや、最低なのは尻軽女どもだ。
俺も遊びで付き合えばいいんだ。
過去なんて気にしないさって。
その方がいいんだろ?女どもは。
明け方近くまで悩んでいたが、いつの間にか眠りに落ちていた。
ドンドン
ドアをノックする音で、鶉は目が覚める。
ドアを開けるとそこにはメルルがいた。
「楓いなくなった」
えっ?
「これ」
メルルが持ってきた紙を手に取る。
『お世話になったのにお礼もしないでごめんね。
さようなら』