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ワンズロット・フェンリル  作者: 巴詩康杜
5/8

想い出の場所

 携帯を返して貰ったあと、特にする事もないので家に帰る事にした。

 中学時代は剣道部に所属していたけれど、学園に入学してからは部活は一切やっていない。

 駐輪場から、自転車を引っ張りだし校外へ向かって漕ぎ出す。

 途中、校庭の方から野球部の威勢のいい声が聞こえた。


 正門を抜け、コンビニの近くまで来たときである。犬の散歩をする老婦人の姿があった。

 犬はハスキー犬だろうか、凛々しい顔立ちをしている。

(あの犬、何処となく、フェンに似ているような気がするな)

 なんだか今日は、昔飼っていた犬の記憶を呼び覚まされる事が多々あるな。


 キィーツ

 コンビニの前で自転車を止める。

 考え込むこと約十秒・・・・ふむ、フェンと出会った場所へ行ってみよう。

 どうせ家に帰ってもする事がないのだ。マンガを読んだり、携帯を弄るなりしてダラダラ時間を過ごすだけだ。

 たまには昔飼っていた犬との思い出に浸るのも悪くない。

 その前に、せっかくコンビニの近くまで来たのだ。何か飲み物でも買って行こう。


 ガーっと言う音と共にコンビ二の自動扉が開く。

 店に入って、まず気になったことが一つある。

 異様な出で立ちの、女性がレジで何事か尋ねているのだ。

 悪いとは思うものの思わず凝視してしまう。

 その人物は、どこぞの似非えせ金髪野郎とは違う、本物のサラサラとした金髪ロングで

 白のロングコートを着込み、ベレー帽らしき物を被っている。 

 コートにはアルファベットでアッ、アヴァなんちゃらって書いてある。どこかのブランド物のコートだろうか・・・・?

 何故か肩にはギターケース?のような物まで担いでる。

 残念ながら、コンビニの入り口とは反対側を向いている為、顔までは見えない。

 ただ、日本語は悠長な様で、店員と何事か話している。神社がどうたらと・・・・ 

 聞こえるその声は鈴が鳴るような美しい声だ。

 

 あまり、見ていて不審者と間違えられるのも癪だ。

 さっさと飲み物を買って出よう。

 飲み物が冷やしてある冷蔵庫の方へ向かう・・・・


 何にしようかなーと、悩む・・・・

 ・・・・やっぱここは、缶コーヒーだな。それも渋くブラックで!

 ニヒルな俺にピッタリだぜ!

「このろくでもなく、素晴らしい世界・・・・フッ」

 誰に言うでもなく、クールに微笑み、一人で呟く・・・・

 横を向くと、小学校二年生くらいの女の子が俺の方をジッと見上げていた・・・・

 俺もお嬢ちゃんの顔を五秒秒ほど見る。全く動く気配がない。

 どうやらクールなボーイに惚れてしまったらしい。

 俺に惚れてしまった、お嬢ちゃんをその場に残しレジへと向かう。

 店の奥の方のレジでは、未だに金髪ねーさんが道を尋ねている。


 店員にコーヒーを渡し、会計をする際にチラリと横を向いたところ金髪ねーさんの顔が見えた。

 顔立ちは美しく、深い海を連想させるような青い瞳。

 歳は二十代前半くらいだろうか。

(碧眼って初めて見たわ。つーか綺麗な人だなー。ありゃ、顔立ちからしてツンデレだな)

「百二十円になります、テープで宜しいですか?」

 店員の声により、妄想の世界から引き戻される。

 テープでいいですよ、と答え、お金を払う。

 そのままコーヒーを受け取りコンビニを出た。

 買ったコーヒーをカバンに詰め、自転車に跨る。

 され、それじゃあ行きますかね。

 目的地に向かい、自転車を漕ぎ始めた。

 

 コンビニを出て数分、辺り一面、田んぼが広がる田舎道を自転車で走る。

 この季節になると、田んぼでは田植えが行われた為、辺りは植えられたばかりの苗が至るところで見られる。

 俺はこの田舎道が結構好きだ。

 田んぼしかない道だけれども、なぜか落ち着く。

 土手に咲く草花の香りや、水路に住まうドジョウや、ザリガニといった生物達。

 もう少しすれば、夜には蛍が飛ぶ。

 都会で生活をした事がないから分からないが、俺には田舎暮らしの方が合っているんじゃないかと、この歳ながら思ってしまう。

 そうこうしているうちに、近所の竹蔵じっちゃんの田んぼの近くまでやってきた。

 田んぼの脇には軽トラックが停まっている。


「じっちゃん、こんちは」

 田んぼではなにやら作業をしている、竹蔵じっちゃんがいたので声を掛ける。すると、じっちゃんが、こちらを振り返る。

「うん?おーう、響きじゃねーか。こんなところでどうした」

「ちょっとね。暇だから神明社にでも行って見ようかと思って」

「神明社だぁ、なんだってそんなとこにいくんだ?そういえば、さっき神社の駐車場に黒塗りの高級車が止まってるのを見たぞ。今日なんかあんのか?」

 黒塗りの車?はて、そんな物がなぜ神社に?

「いや、知らない。俺は気が向いたから行ってみようと思っただけだし。神社の関係者とかじゃないの?よくわかんないけど」

 そう答えると、じっちゃんは、あんな車に乗ってるのは他所者だと思うんだけどな、と言っている。

「んじゃあ、そろそろ行くよ。じゃねー」

 そう言って自転車を漕ぎだす。気ぃつけてなーという言葉が聞こえた。


 ふと思い出したが、そういえばこの間、ミルカさんも神社に用があるとか言ってたな。

 神社で催し物でも予定されているのか?

 夏祭りには大分早いぞ?あっ、もしかしたら今の時期から祭りの準備を始めるのか。

 それだったら納得がいくな。

 毎年、柊弥や、明日香、ミルカさんといった同じ面々で祭りに参加している。

 昔からかこのメンバーだ。

 そのうち、誰かに恋人が出来たりして一人減り、二人減りってなっていくのかな。

 いつまでも一緒にっていうのは難しい事だけれども、そう考えるとなんだか寂しい気持ちになった。

 

 田んぼ道を過ぎ、山の麓まで来た。もう直ぐだ。

 神明社の石段近くに駐輪場があるので、そこに自転車を止める。

 駐車場の方を見てみると、じっちゃんが言っていたように、黒塗りのセダンが停まっていた。

 あれ外車じゃねーか。しかも何千万もする。

 確かにこんな田舎には不釣合いな代物だ。


 なんか怖い人とかいたら嫌だなー、怖いなーとか考える。

 まっ、こんな町にその手の業界人が来るはずもない。昔から平和な町なのだから。

 石段を一段抜かしで登り始める。

 そこそこの長さだから結構疲れるんだよな、ここの石段。

 半分くらい上っただろうか。振り返ってみる。

 住み慣れた町並みはまだ見えない。

 そういや、昔、ミルカさんに聞かせてもらった曲で、「一段高い目線に何が映る?」って歌詞の曲があったっけ。凄い好きな歌だってミルカさん言ってたな。

 ガキの頃は言ってる意味がよくわかんなかったけど、この歳になると何と無くだけど分かった気がする。

 一年毎に、一段、一段、人生の階段を上っていけばその都度、違う景色が見えてくる。

 たった、一段では違いが分からないけど、ここから十段上れば少しくらいは町並みが見えるかもしれない。

 

 十段って事は、十年後か・・・・その頃の俺は何をやってるのかな・・・・

「大人になればこの歌詞の意味がわかってくるよ」、って言って寂しそうに微笑んでいたミルカさんの顔が浮かぶ。

 なんだか少しだけおセンチな気持ちになった・・・・

 やめだ、やめ。暗い事を考えるのは。楽しいことを考えよう。

 色々な事を考えながら石段上りを再開する。あと半分だ。




 

 神明社の鳥居前に、黒のスーツを来た二人組がいた。

 一人はホストの様な外見だが、ニヤニヤと不敵な笑みを浮かべる男。

 もう一人は、スキンヘッドにサングラスの大柄な男だ。

 鳥居を挟んだ反対側には、この神社の巫女と思われる女性の姿があった。

 ホストの様な男が巫女に向かって話掛ける。

「さっさと出して貰えねーかな、ここにあるのはわかってんだよ」

「ここに、その様な物はないと申しております。お引取りください。さもなくば警察を呼びます」

 巫女は、ホスト男からの問いかけに対し、毅然とした態度で明確な拒絶を口にする。

「あー、面倒くせぇーな、この女。てめぇ犯すぞ。嫌でも渡したくなるようにしてやろうか。見た目はなかなかいい女だしよ。この女がどうなろうとぶつさえ回収出来ればいいんだろ?レイドよぉ」

「騒ぎは極力起こすなとクライアントからの指示だ。・・・・・・だが、応じて頂けないのであれば多少の無茶は仕方がない。どうだろう、ここは素直に応じて貰えないだろうか」

 レイドと呼ばれたスキンヘッドの男がホスト風の男に答え、巫女に問いかける

「それによー、俺たちこれでもエレメントなんだぜ、ヴァルハラ所属の。警察なんか呼んでも相手になるわけねーだろ」

 ホスト風の男が答えた後、一度目を閉じる。

 そして男が、再び目を開けた瞬間、彼の目は青い輝きを帯びていた。

「なっ、これが証拠。言っとくが、ただの人間が相手なら千や、二千、相手にしたところでどうって事ねーぞ」

 不機嫌を隠そうともせずホスト風の男が答える。

 それでも巫女の女性は一切の脅しに屈せず、相手を見据えていた。

 その時だ。

 巫女の目に高校生風の学生が、この神社へ向かって歩いてくるのが見えたのは。

 









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