落ちることはもう慣れた
穴に落ちてからの記憶が曖昧だ。それでも最初に体を刃物で切り刻むような鋭い痛みが全身に駆け巡る。
「赤いな……」
視界が真っ赤に染まっている。全身から血液が全て流れ落ちるのが痛覚を通して分かる。
「ああ……痛いな……」
痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い
痛い……
「これは罰か……」
この痛みは一体いつまで続くのだろうか? 頭に血がないと何も考えれないのに……いや、まず息をすること……否、生きることができないはずだ。それでも、僕は生きている。
……それにしても
「いつまで落ちるんだ?」
不意に
目の前に赤い炎が広がる。
「え?」
地獄の炎ともいえるその業火は燃やし尽くそうと一瞬にして僕を包み込んだ。刃物の次は火炙りか……なんだか嫌な感じだ。それもそうか、ここは地獄だ。地獄に救いは無い……いや、あるな
「蜘蛛の糸か」
諦めて目を瞑っていたが
「ん?」
違和感を感じ目を開けると
「熱くもないし、燃えてもいない?」
全身を包む炎から一切熱を感じない。体を燃やす気配もないと思っていたが……
「服は燃えるのかよ」
雨宮から貰った黒いジャージが燃えている。
「あ」
今気づいた。聴力も視界も正常になっている。改めて周囲と自分を見ると、上下ともに真っ黒い空間を全裸で落下しているようだ。今思えば恥ずかしいんだけど……
「ぐぼあっ?!」
水?!
「何がどうなってんだよ!」
今度は水の中に落ちたようだ。息ができない……水中ってこんなに苦しいのか……死にたくないな……死にたくないな死にたくないな死にたくないな死にたくないな死にたくないな死にたくないな死にたくないな死にたくないな死にたくないな死にたくないな死にたくないな死にたくないな死にたくないな死にたくないな死にたくないな死にたくないな死にたくないな死にたくないな死にたくないな死にたくないな死にたくないな死にたくないな死にたくないな……
「え?」
水の中で意識を一瞬失った僕は、気づけば僕は真っ白い服を身につけ、驚くほどに美しい草原が広がる空間に立っていた。




