第12階層 狂った男の世界
暗い階段が続く空間を雨宮と二人で歩く。カツーンカツーンと靴の音が響く中僕たちは歩き続ける。
「さて」
雨宮が立ち止まる。視線の先は、扉も何もないただの灰色の壁があるだけだ。
「ようこそ」
雨宮は僕の方に振り向き
「第12階層狂った男の世界へ!」
そう叫んだ。すると、何も無かった壁から音もなくアンティークの扉が現れた。
「驚いた?」
よく見ると扉には、僕が知らないまるでミミズが這ったような文字が沢山書かれていた。
「扉が開くまで時間があるから、少し僕の昔話をしよう」
雨宮の言葉に扉が音もなく開き始める。
「昔ある世界の3分の2を破壊尽くした」
雨宮はそっと目を開ける。
「狂者シノノメと呼ばれた異常者がおりました」
雨宮は静かに語り始めた。自分の生まれた歴史を
そして―――――――
「これが僕という人間の歴史」
全てを語り終わった雨宮は、僕に背を向け
「僕は最高権力者君に1つ、世界を貰った。そしてこう契約した」
語りながら前に進む、扉の先から見える雨宮の世界は何も無い……ただの黒い箱の中に見える。
「君は、地獄から囚人……異常者を何処の世界にも放してはいけない、この世界で彼等を管理する事を黒の地獄と契約した」
雨宮の声色が少し変わった。
「白の箱舟は知らないだろうけど、黒の地獄は君力に怯えていたんだ」
狂気溢れる雨宮の声は何かを知ってしまった別の誰かの声に変わっていた。
「雨宮さん」
「なんだい?」
「何故あいつは、僕の力に怯えていたんでしょうか?」
僕の質問に雨宮は少しの間を空けた。
「彼は箱舟の力におびえただけさ、それ以上もそれ以下も何もないただそれだけだよ」
そう答えて他は何も言わなかった。でも……
「じゃあ囚人君」
笑顔で彼は僕にこう言ったんだ。
「君は次の世界に行かないと」




