美しく麗しく
ずっと前に1つ、ある昔話を聞いたことがある。その昔話の物語の人物は竜宮城を見て確かこう言った。
「絵にも描けない美しさ」
きっとその言葉がふさわしいのは竜宮城と目の前で蓮の花に鎮座する、体よりも長いアレスと同じ……いや、それ以上に美しい緑色の髪に透けるような白い白い肌の持ち主の女性に対し、それ以外の言葉が思い浮かばないし、それ以外言いようがない彼女のためにある言葉だと僕は思った。
『 』
「口パク?」
目の前の彼女は、僕に対して何か言っているように見えたが声が一切聞こえなかった。
「お前」
「え?」
隣にいたグレンが僕に声をかけてきた。
「階層主の声が聞こえないのか?」
え? 今喋ったの? ただの口パクにしか見えなかったんだけど
「え? 喋ってるんですか? 口パクじゃなくて」
「結構な大きな声で喋ってるぞ、相変わらずに気持ち悪い声だ」
「え?」
どゆこと?
「え? 囚人君もしかして聞こえてなかった?」
「あ、はい」
「うわー……いいなー」
なに羨ましがっているんだ
「ちなみに何と言ってたんですか?」
「えーっと、『お久しぶり? こんにちは? どちらでもいいですけど、とりあえず……こんにちは、幹部様』……だってさ」
なるほど
それにしても残念だね嫉妬心、彼には君の言葉が聞こえなかったようだよ」
『 』
やっぱり分からない
「そう? 僕は彼が羨ましいよ? 妬ましいとも思ってるし」
『 』
なんで妬む?
「黙ってくれるかな? 僕は君の声が嫌いなんだ。気持ち悪い」
『 』
どんな声を聞いているんだろうか?
「あー! もう! 黙ってくれよ!」
『 』
雨宮が羨ましいな……
「僕は君みたいなのが大嫌いなんだ!」
『クスクス』
あれ?
「嗤うな!」
『幹部様は幹部様よりからかいがいがあって面白いですね』
声が聞こえ……る?
「雨宮さん」
雨宮の服の袖を掴む
「囚人君、悪いけど今君に構っている暇はな……」
「彼女の声はとても奇麗ですね」
「……え?」
『やっと聞こえるようになりましたか? 白の囚人』
「はい」
奇麗な声まるで鳥……いや……生き物や者でたとえるには難しい音をしている。それ以前に動物で例えるのは彼女に失礼だな
「囚人君!」
雨宮の声がとにかく醜いものに聞こえる……まるで
「豚の鳴き声みたい」
「囚人君?」
雨宮が驚いた顔で僕を見ている。何で? 僕は正しい事を言ったのに……どうしてそんな目で見るの?
「っはぁぁ……」
雨宮が深くため息をつく
「だから、僕はね、君が大っ嫌いなんだ」
「雨宮さん? なんで怒っているのですか?」
『クスクス……本当に醜いですね幹部様は、だからこそ、からかいがいがありますわ』
「おい! 嫉妬心、いい加減にしろ!」
雨宮以上に醜い声のアレスが彼女に向って怒り出した。
「なんで? みんな彼女を虐めるの?」
僕は、余りに悲しくなって泣き出してしまった。
『クスクス……この子は優しい子ね……心配しなくていいわ、いつもの事だもの』
ああ、奇麗な声だ。とにかく奇麗な声だ。そして優しい声だ。
「囚人! 目を覚ませ!」
「貴方も醜い声ですね」
「なっ?!」
三人とも如何して僕をそんなに可愛そうな目で見ているの? 僕は正常だよ? 何を心配しているの?
「どうする?」
「とりあえず」
雨宮が一歩前に出る。
「壊せばいい」
その瞬間、雨宮から殺気が溢れ出した。
『あらあら……もうお終い?』
「この空間は本当に嫌いだってさっきから言ってるだろ?」
『クスクス……それは残念』
雨宮の右手には刃物が握られていた。
「雨宮さん? まさか」
「囚人君ごめんね……説明するのは今は無理だから」
雨宮は跳躍した。
「え?」
結構な距離を雨宮は飛ぶそしてそのまま
「よっと」
彼女が鎮座する蓮の花の上に雨宮は着地した。雨宮は彼女に近づく
『残念ですわ』
「何が?」
『貴方となら仲良くできそうでしたのに』
「冗談はよしてくれるかな?」
『そうですね』
雨宮が刃物を振り上げる。
「最後に一言」
『あら、奇遇ですわねIわたくしも一言』
二人は声をそろえてこういった
「『大嫌い』」
「やめろおおおおぉぉぉ!!!」
その言葉の意味を理解するのが遅れた。グサッといやな音が空間に響いた。




