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雨のち・・・  作者: カナメ
8/8

過去

「・・・・・・私、不倫してたんです」



小さな声で呟かれた内容に反して、その衝撃は予想以上に大きかった。



「相手は、会社の上司でした・・・結婚してたことは知ってました。それでも私、好きな気持ちを押し殺せなくて・・・・・・いけないとは思ってたんです。これは、許されない恋だって。でも・・・例えそれが不倫でも、私が二番目でも・・・愛されて・・・・・・嬉しかった。ドタキャンされたら泣いてしまうくらい悲しくて、でも少し優しくされただけでどうしようもないくらい喜んで。・・・都合のいい女扱いでも、当時の私は満足してました。馬鹿みたいに思うかもしれませんけど、幸せに満ち満ちた日々を過ごしていたと・・・思い込んでたんです」



「・・・・・・・・・」



「これが最後の恋なんだって・・・本気で考えてました。不倫なんて、未来のないものなのに・・・それを頭のどこかで、冷静な自分が冷めた目で見ていたはずなのに」



俺は、何も言えなかった。

ただ、棒立ちで堀宮さんの独白を聞いていた。



「・・・・・・私、汚い女なんです。津田さんに好かれるような、そんな綺麗な女なんかじゃないんです」



違う!

俺は、そう叫びたかった。

だけど、何故かこの時の俺の口は動かなくて。



「・・・・・・上司の子供を、妊娠しました」



だけど、俺の全身は固まったままで。



「産む覚悟を・・・母親になる覚悟を・・・一人で育てる覚悟をもてなかった当時の私は・・・・・・その子を、中絶しました。私は・・・・・・一つの命の灯火を、自らの意思で消したんです・・・!」



思考すらも、停滞していた。



「・・・・・・軽蔑、しましたよね?・・・・・・・・・ごめんなさい」



何に対して謝ったのだろうか?

それすらも聞く事が出来ないまま、俺はただ呆然と、走り去っていく堀宮さんの背中を見送っていた。

声を掛けず、後を追うこともしないで、ただ呆然とその場に立ち尽くすだけ。

・・・・・・これって、現実か?

ここまで頭が働かないと、何だか夢心地だ。

これが夢なら、どうか覚めてほしい。

だが・・・これは現実だ。

思考がぐちゃぐちゃで、考えがまとまらない。どうすればいい?俺はどうしたい?

そんな簡単なことすらも、答えが見つからない。



・・・・・・・・・とりあえず、堀宮さんを追いかけよう。

今更だが、そんな考えに行き着いた。

時間が経過すれば、今日の出来事も過去の思い出となる。風化する。

だが、時間が経過すればするほど、修復できないものもある。

俺と、堀宮さんの関係性だ。

おそらく、後日にでも何気ない顔で喫茶店に行けば、堀宮さんは何事もなかったかのように対応してくれるだろう。

だが、それだけだ。

店主と客。

それ以上は、もはやない。

互いの間に壁ができる。何をどうしようとも壊れない、強固な壁が。

その壁が構築される前に、俺は堀宮さんと会わなければならない。

どんなに嫌われようとも、拒絶されようとも、会わなければ・・・俺と堀宮さんの未来はない。



この考えは、誇張し過ぎているかもしれない。

けれど今後、堀宮さんは誰かと付き合う気があるのだろうか?

あそこまで自分を嫌悪していたのだ、結婚する気など皆無かもしれない。

今回の俺とのデートだって、最初は断ろうとしていた。

あのまま俺が押し切っていなかったら、きっとここには来なかっただろう。

そして・・・これからも一人で生きていくつもりだろう。

・・・・・・それはだめだ。

俺は振られても・・・まあいい。

堀宮さんが本当に好きな相手と付き合い、いずれは結婚するなら。

だが、その気がなくこれからの長い人生、彼女一人で生き抜くつもりなら・・・俺は認めない。

堀宮さんが隣に誰も座らせない、立たせないと心に決めていても。

俺は、俺だけは。

堀宮さんの隣に居続ける。



だから俺は、走り出した。

何も考えず。

ただ走る。

どこに堀宮さんが居るかなんてわからない。

でも・・・それでも・・・・・・走らずには、いられなかった。



運命よ。

もし、もしも。万が一でも俺に堀宮さんを幸せにする権利があるなら・・・頼む!

俺と堀宮さんを再び、巡り会わせてくれ!

あの雨の日に出会えた奇跡を、もう一度だけ起こしてくれ!

それ以降の奇跡はいらないから。

彼女は・・・堀宮さんは俺自身の手で幸せにするから。



俺を、彼女に会わせてくれ!!





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