自己満足
ちょっと短めです。
「急にごめんなさい。一度に色んな情報が頭の中で錯綜したから、上手く処理できなくて・・・」
堀宮さんの、力なく・・・乾いた笑いが逆に痛々しい。
こんな時、どんな対応をすれば正解なのだろうか?
優しく気遣うべきか?
それとも、何事もなかったかのように茶化せばいいのか?
俺には、わからない。だが、このまま気まずい空気が続けば、それだけでより事態が悪化していく事だけはわかる。
今この瞬間、沈黙こそが最悪の選択。
なので、何でもいいので喋らなければ。
俺は特に内容など考える間もなく、脳内に思いついたままの事を口にする。
「・・・えーーと、無理して笑うことないですよ。楽しければ自然に笑って、悲しい時には自然と泣くのが人間という生き物ですから。俺を気遣う前に、自分を大事にしてあげてください」
ほんと、何を言っているのか自分でもよくわかっていないが、まあそこら辺は気にしない。
ただ思ったことを垂れ流しただけだ。
恥ずかしい思いをするのは後の自分だけ。
今の俺には関係ない。だから・・・適当に俺の価値観を押し付けてみよう。
他人を気遣う前に、まずは自分自身を気遣う。
自分に余裕が出来てから、他人を助ければいい。
自分の事をおざなりにして、他人を優先するなど間違っているのだ。
自分勝手?
自己中心?
自分の都合を後回しにして、誰かを助ける・・・その結果、自分の負担は増し、助けられた誰かの負担が減る。
・・・それはなんか違うと思う。
なら助けられた誰かはこちらを助けるか?
残念だが、それはほぼないだろう。
他人に助けを求めるのは、自分に余裕がないからだ。
元から余裕がない人に、他人の状況など気遣えるはずがない。
誰だって他人にはいい顔をしたいものだ。
いい人に思われたい。だから困った人には手を差し伸べる。
そこに損得も絡めば、偽善的な感情も存在する。
ただ、下心もなく手伝う人も、稀にいる。
・・・それら全てに共通するものは、自分に余裕がある者だ。
余裕の種類は人それぞれ。金に余裕がある者。時間に余裕がある者。体力に余裕がある者・・・つまりは心の余裕だ。
心に余裕があるからこそ、他者を気遣える。
自分を蔑ろにしてまで他人を助けるなど、ただの自己満足だ。
はっきり言って、オナニーと同じである。自分が気持ちよくなりたいだけ。そこに他人の気持ちは存在していない。
自己陶酔。
その一言に尽きる。
だから、そんな自分勝手な人間には、なってほしくない。
特に、それが好きな相手なら尚の事。
だから堀宮さん。
自分の心を、気遣ってくれ。
俺なんか、気にしなくていい。無視してくれていいんだ。
せめて今は・・・今だけは、自分だけを大事にしてくれ。
今の貴女の心は、自分のことだけで精一杯なんだ。
なのに、貴女はそれでも他人を・・・俺を気遣ってしまう。
それは優しさと誤解しがちだが、違う。
それは自己中心的な考えで、自己満足の類なんだ。
俺は切実にそう堀宮さんに語りかける。
俺の想いが少しでも伝わるように。
どさくさに紛れて、堀宮さんの両手を掴みながら。
・・・その想いが、伝わったのだろうか?
堀宮さんが自分の事を、ぽつりぽつりと語りだす。
それは過去の出来事。
そして今にも繋がる内容。
俺はそれを、ただ黙って聞く。聞き役に徹する。
余計な口を挟まず、堀宮さんの独白を一字一句聞き逃さないように。
俺はただ、耳を傾け続けた。
次話はヒロインの過去話の予定です。