雨・・・
雨を見てて思いついたので勢いで書きました。
雨が降っている。
しかも、憂鬱になるほどのドシャ降りの雨だ。
ザーザーッと雨粒がコンクリートの地面に降り注ぎ、盛大に跳ねている。
そのせいで足元はびしょ濡れだ。
「さっきまであんなに晴れてたのに何だよ。ゲリラ豪雨ってやつか?最高の気分から一転、最低だな」
せっかく大口の取引を成功させてルンルン気分、スキップしてもいいくらいの上機嫌だったテンションは既にダダ下がりだ。
くそ、どうせ降るなら俺が会社に着いてから降れよ。
自分勝手な都合を愚痴りつつ、俺は忌々しげに空を睨むが・・・当然、雨雲は知ったことかと雨を降らし続ける。
・・・・・・止む気配は一切なし。
「春は天候が変わりやすいとは言うが、変わりすぎだろ」
朝のお天気予報のお姉さんも本日は快晴、傘はいらないでしょうって笑顔で言ってたし、俺の手元にある携帯端末の天気アプリも晴れマークしか表示していない。
なのに・・・このドシャ降り。
一時しのぎで適当な雨宿り出来そうな場所を見つけて避難したはいいが、この状況が長く続くようなら傘の一つでも確保したいところだが・・・・・・周囲を見渡してもコンビニの類は一軒も見当たらない。
というか、ここはオフィス街から一本裏道へ入ったところなので、あまり店というものがなさそうだ。
・・・このまま辛抱強く雨が止むのを待つか?はたまた、ずぶ濡れ覚悟で会社まで走るべきか?迷うところだ。
現在の時刻は一六時。
このまま待つにしても、会社に戻るにしても実に微妙な時間帯だ。
少々・・・いやかなり優柔不断な性分は自分でも自覚はある。
だからこそ、迷っている時間が少しばかり長かったのだろう。
突然、背後から女性に声を掛けられた。
「あの~、よければ中にどうぞ」
不意打ちに近い声掛けに内心びっくりしたが、表面上は何事もなかったかのように取り繕い、後ろへ
振り向く。
というか、いきなり中にどうぞってなに?どういう事?
脳内は未だに疑問符だらけだが、振り向いて声の主を見た途端、俺は固まった。
誇張でもなく、比喩でもない。
文字通り、全身が固まったかのように硬直した。
俺の視線の先には、薄幸美人という言葉がまんま当てはまる女性がいたからだ。
薄い茶色の長髪に、少し気の強そうな目つきは、しかしすぐ傍にある泣きぼくろがちょうどいい緩衝材になっていた。
鼻立ちもスッキリしていて、薄いピンク色の唇はナチュラルな色気を放っている。
背は目測でおよそ一六〇前半だろうか?俺の身長が一七〇後半だから、それを目安にしているが・・・大きく外してはいないはず。最近の女性では平均的な身長だろう。
しかし・・・胸はやや大きいか?
体の線がはっきり出ない服だけにわかりにくいが・・・おそらくこちらは日本人女性の平均以上か?
おっと、あんまり女性の顔やら体をジロジロ見るのは失礼だな、うん。
相手の目を見て会話しないと、こちらの誠意は欠片も伝わらないのは営業マンとして嫌なくらい身に沁みてわかっている。
ちなみにこの間、わずか一秒ほどの思考。
「あの?」
「あ、すいません」
とはいえ、その一秒すら今この瞬間では何やら気まずい間となってしまう。
どこか困ったように声を掛けてくる女性に、俺は慌てて謝罪した。
「いえ、こちらも突然声を掛けたのは不躾だとは思ったのですが・・・十分ほどずっと出入り口にいたので、その・・・・・・・・・」
「???」
未だに目の前の薄幸美人が何を言いたいのか理解できない俺に、女性が視線をある方向へと逸らす。
俺はその視線につられる様にその先を追いかける。
そして俺の視線の先には看板があった。
こう言っては何だが、全く目立たない位置にあったソレに今の今まで気付かなかった。
そしてその看板には綺麗な字で
『喫茶・マカロン』
と書かれていた。
・・・・・・つまり、ここは喫茶店で、俺はおよそ十分もこの店の出入り口を塞いでいた迷惑な存在だったということ・・・なのだろう。
いや、間違いなく邪魔だ。
営業妨害だ。
客でもないのに、店先にボーッと突っ立っていた迷惑なクソ野朗だ。
その事実を認識した瞬間、全身から嫌な汗が流れる。
そして俺は先ほどよりも誠意を込めて大きな声で「すいませんでしたー!!」と、土下座する勢いで女性に謝罪した。
登場人物
津田英司
今作の主人公。自称、冴えないサラリーマン。
中堅企業に勤める営業社員で、今年25歳の若手のホープ。
外見は中の上、もしくは上の下。つまりはそこそこイケメン。
性格は基本的に真面目だが、自分の事に関しては適当な一面がある。