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08

 

 

 

この大陸は昔、緑多い、それは恵まれた土地がたくさんあったのだと教えられた。

僕がこの世界へやってきた時には、既に恵まれた土地が少しずつ壊れ始めた頃だと神官さまが話してくれた。

始まりは唐突で、緑溢れた森が少しずつなくなっていった。

それは人々が切り倒したから――というものではなく、突然、どういう訳か木々が腐り始めたり枯れ始めたり、様々な状態ではあったけれど、何故か突然そういう状況になってきたのだと――。

それは小さな国々から段々と広がり、今では竜の棲まう大国にも影響を及ぼし始めているのだと話し聞かせられた。

そんな中で、僕がこの世界に現れ、神官さまは間違いなく何かしらの関連があると感じたのだと教えてくれた。

術をかけ、僕の肌や髪、目の色を押し隠すことにしたのも、この世界にはない色だからとそう教えてくれたけれど、それだけじゃないとも仰っていた。

それが、何故なのか――僕には到底判らないことだったのだけれど…。

 

だから、僕の両親になってくれた二人も、実のところ僕の本当の姿を見たことはない。

それなのに、両親は僕を実の子供のように、大切に育ててくれた。

もちろん、それなりの事情は神官さまから聞かされてはいたのだろう。

それでも、僕の本当の姿など気にせず、僕を愛してくれていた。

今も母は、そんな僕を実の子供として大事に扱い、そして愛してくれている。

何時か――何時の日か、僕の本当の姿を見せられたら良いのに……そうは思うものの、この世界へ来てからというもの、ずっとこの姿を強いられてきた僕――。

それは、少しだけ両親に罪悪感を抱かせていたのだけれど……。

 

 

 

「君の、その姿かたちを変える術はいくらでもある。それなのに、その姿を選んだのはヴェスリー神官さまのお考えからでしょうね」

 

アスレン神官さまがそう話し始めたのは、僕の本当の姿と今の姿を見比べてのこと。

 

「本来ならば、術をかけて姿を変えれば良い――が、しかしながら、旅をするとなればその姿を人々に見せる事となる。中には、お前さんの本当の姿が見えてしまう人物が現れないとも限らない。それならば、隠す必要性のあるものに変える他ない――とな」

「そうですね。普通の人ならば騙すことが出来ますけれど――中には中途半端に力を持つ者もおりますからね」

「そうだ…お前さんも苦労するな」

 

カズリー神官さまも一緒になって話しながら、きっと僕の真実の姿を見ているのだろう。まるで信じられないとでもいうように、大きくない目を大きく見開いている。

そうして、僕がどうしてこんな姿になったのかを教えてもらった――と言うことなのだろうか…よく判らないしあんまり自信もないけれど…。

 

「術を施す前に――この先の話を少ししましょうか――」

「そうだの。ここから先は大国、ミードラグースへ入ってもらわんとならんからな」

「ええ」

 

と、僕の返事など待たず二人で会話を進めていく。

その二人は、もう何も言わずとも判り合える仲なのだろうことは、見ているだけで充分過ぎるくらい判る。

クスクスと笑ってしまいながら、僕は二人に相槌を打つしか出来なかった。

 

「ここから先は、神殿の中には力を持つ者も居る…時にはお前を利用するべく言い含め様とする者も居るだろう。だが、これだけは言っておくよ。お前さんが、間違いなく竜に会えるようにしてくれるのは大神官さまだけだ」

「はい」

「中には、君のような恰好をしていると嫌がるお弟子さんも居ると思います。新参者ですがね――でも、気を悪くしないで下さいね」

 

こくりと頷くと、彼らは温かい眼差しと笑みを作った。

それは、二人が僕を何であれ、受け入れてくれたという事なのだろう。

 

「大神官さまに会う為には、まずミードラグースのデニアという街へ行き、そこのレン神官さまに会われなくてはなりません」

「レン、神官さまですか?」

「そう――そのレン神官さまは、大神官さまの次にお力があると言われておる。その人に会い、我らの書状を見せなさい。そうすれば彼なら間違いなく大神官さまへ会わせる段取りを組んで下さることだろう」

「は、い」

「心配する事はない。このミードにはお前さんを邪魔する者は少ない。味方になってくれる者なら大勢いるがの」

「そうですね――他の大陸ではどうか判りませんが、この大陸ではあなたを待ち望んでいる神官が大勢おりますから」

 

そう力強く言われて、僕は少しだけ安堵する。

とは言っても、不安が全て解消するわけじゃないけれど――。

 

「大神官さまに会えば、後は蒼竜に会うことは難しいことじゃありません。どうか――どうか、君の力で彼の孤独を癒してやって下さい」

「え?」

「これこれ――いきなりそう言っても、この子には判らんよ」

「あ…そう、ですね」

「追々、その話は大神官さまに聞くと良い。我らで話し聞かせても判らんことが多いはずだからの」

「はぁ…そう、なんですか?」

「そうだの、少しだけ聞かせるなら――竜は、ずっと一人ぼっちで、この大陸に縛られておるんだよ。お前さんを育ててくれた村のヴェスリー神官殿も言っておいでだっただろう?」

「…どうでしょうか…そういう言い方をされた覚えはなかったと…」

「そうかの?古の言い伝えを――教えてもらわんかったかのお?」

「あっ……」

「孤独――竜は一人なのだよ――たった一人。寂しかろうな」

 

そう悲しそうに話をするカズリー神官さまの隣りで、アスレン神官もまた苦い顔をしていた。

そうして――。

 

「まあ、とりあえず、術を施しましょう。私の後にカズリー神官さまで宜しいでしょうか?」

「ああ、その方が安定するだろうな」

「はい」

 

二人はこれで話は終わりとばかりに区切りをつけ、術をかける準備に移った。

そうしてアスレン神官さまが、僕の目の前に立ち、他の神官さま達がしてくれたように手を額にかざし呪文を唱える。

それは小さな小さな声で、しっかりと耳を澄ませていないと聞えないくらいのもの。

そうして、額がふっと熱を感じ、その次には全身へと流れ込んでいく。

ふわりと意識が一瞬だけ遠のき、けれど気のせいくらいの時間だけ。

だけど、今回はこれで終わりじゃなかった。

その後を引き継ぐようにカズリー神官さまが立ち上がると、今度は僕の両頬に手を添えた。

 

「ここから先は、煩い方々もおいでだ。念入りに術をかけるが、お前さんにも少しだけ負担が掛かる。今日はこのまま、この神殿で休んでいけるよう用意をしてあるから安心しなさい。良いかな?」

「あ、はい…」

「ゆっくり、目を瞑り、私の声だけを聞いておいで――」

 

カズリー神官さまはそう言うと、僕が目を瞑るのを待ち、ゆっくりと呪文を口にし始めた。

今までに聞いた事のないくらい長い、長い呪文。

それも重苦しいくらいに低い声で――とても、厳かなどという神秘的なものには感じられないくらい威厳のある声。

怖い――と、少しだけ感じた。

今までに感じた事のない感覚が、全身へと流れ込んでいく。

熱い――違う、冷たい――ううん、それとも違う――けれど、とにかく苦しい――。

そう思った瞬間、彼の声が段々と近づいてきた。

まるで、頭の中へ直接聞えてくるかのように……。

 

 

そして―――――僕はそこで、意識を手放したのだった。

 

 

 


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