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温泉を堪能した後の僕達は、ノンビリとした気持ちで商隊のいる所へと戻った。

商隊の人達も、僕達の後に続いて温泉へと向かっていく。

その間に母は皆の食事を用意し、僕は商隊長とアロウ、ブレアンと三人で明後日からの日程を決めていた。

夜になって、民家の近くで野営を組んだ僕達に、付近の人は嫌な顔をするどころか親切に扱ってくれる。

そして、中には商隊の人達と一緒に飲もうと酒まで持って来てくれる人達も居た。

彼らは友好的で、元々何度となくここを通過しているミン達を好意的に受け入れてくれているらしい。

僕達のように雇われた傭兵すらも、完全に受け入れてくれる彼らは、女性一人の母をみて民家のベッドまで貸してくれるとさえ言い出してくれた。

もちろん、そんな訳にはいかないとお断りはしたのだけれど、馬車の中で眠るなんて何時でも出来ることだからと、本当に気の良い女性達が集まって母を連れて行ってしまった。

それも、母の顔色を見て心配してくれているからのことだろう。

ここの町には、本当に気の良い人達が多いのだと、ミンが教えてくれて少しだけホッとした。


次の日は、少しだけ足りなくなっている食料や水などを買い足すため、一日自由時間が与えられている。

お陰で母は、ここ数日の疲れを癒すために、民家で世話になることに決定したと言われた。

思わず苦笑を漏らした僕だったけれど、そのお陰で母を休ませられるならと、快くお願いする事にしたのだった。

 

 

 

次の日は、商隊の人達が買い出しへ行っている間に、馬車の手入れと馬の世話をすることにしていた。

夜の間に、随分と酒を飲んでいたアロウは朝になっても起きて来る気配はない。

ブレアンは、どうやら一人で行動するつもりらしく、最初こそ僕の手伝いをしてくれていたけれど、途中から安全だと思ったのかどこかへ出かけて行ってしまった。

そして、昼過ぎにノコノコと起きてきたアロウもまた、ブレアンが居ないことで自由気ままに出かけると言い残し、居なくなってしまい、僕は野営を組んだ場所で一人残されることとなった。

一人になってから気付いたこと――昨日の夜から、何となくだけれど感じていた違和感。

と言っても、町の人達から感じるものじゃない。

どこからか、ジッと見つめてくる視線と、その視線を放っているのだろう人物の存在。

それが、今一人になった途端、強くなっているのだ。

ジロジロと見ているというのではなく、まるで観察しているその視線は、時々フードの奥底まで見ようとしてる感じがして苛立たしい。

けれど、振り向いてもその視線の主を視界に入れることが出来ないでいる。

チクチクと強くなっていくその感覚に、知らぬ振りを勤めていた僕も、さすがに腹が立ってきた。

その視線が、どの辺りから投げられているのか、そのくらいは判る。

けれど、そこには大きな木があるだけで、人影が見当たらないのだ。

ムカムカする視線に思わず投げつけたのは、持っていた短剣。

マントの下に隠し持っていたそれを投げつけ――けれど、その木の周りでの変化はなし。

気配が変わる事もなく、結局の所、僕はそれを無視するしかなくなってしまった。

仕方なく作業を続けることにした僕は、その気配に気付きつつも、長時間無視することにしたのだった。

もちろん、短剣は回収しに行ったけれど――。

 

 

 

夜になる頃、母が町の住人数人と民家の台所を借りて作ったという食事を持ってきた。

商隊の人達も既に野営を組んでいた場所へ戻ってきており、アロウとブレアンも一緒だった。

母は食事を皆に配ると、町の人達と一緒に今お世話になっているのだろう民家へと戻って行く。

どうやらベッドでゆっくりと眠れたお陰なのだろう彼女の顔色は、随分と良い感じがして安心した。

僕達は?と言えば、当然のことながら野宿同様だ。

野営を組んだその場で、火の番をしながら夜を過ごす。

と言っても、今日は町に居るためそれほどの緊張感はない。

一応、この小さな町にも警備隊が居るので、夜盗に襲われることもないのだ。

もちろん、だからと言って完全に気を抜ける状態ではないけれど……。

今日の夜は、どうやらブレアンとアロウが火の番を交代でしてくれるらしい。

昨日の晩は、俺一人で火の番を朝までさせられたのだから当然とも言えるのだけれど、そのお陰で今日の夜はゆっくり眠る事が出来そうだ…と思っていた。

あの突き刺さるような視線は、皆が戻ってくると唐突に消えた。

けれど、何となく感じる違和感。

ブレアンとアロウには感じないのだろうか――?

ふと、彼らを見たけれど、どうやら気にもしてない様子で、それを感じているのは僕一人のようだった。

 

食事が終わり、皆が思い思いの場所で眠りにつく用意を始めた頃、僕は意を決して行動に出た。

皆には、少し食後の散歩をしてくる――と伝え、ゆっくりと野営の場所から遠ざかる。

視線の感じる方向へ――けれど、それよりも少し奥まった場所へと移動し、その視線が付いて来るか確認。

どうやらその視線は僕にだけ向けられているらしいことに気付くと、更に僕は人気のない方へと進んで行った。

何となく、その視線の主が誰なのか、もう僕には判っていたのかも知れない。

移動しつつ、胸の中に隠している短剣をいつでも取り出せるようにはしておく。

もしもの時の事を考えて―――。

そうして、人気のない場所まで移動すると、ふいに振り向き、その視線の相手をみやった。

もちろん、何もない…というか、誰も居ないとは分かっていたけれど…。

 

「で、何の用?」

 

僕は何もない空間へ向かって話し掛ける――と、ユラリと空間に歪みが生じた。

まるで蜃気楼のようなそれは、ゆっくりと変化を始める。

と――。

 

「どこに居るのか、判るのか?」

 

どこからともなく聞き覚えのある声が聞えてきた。

それも小さな小さな――本当に微かな声だったけれど…。

 

「判んないけどね――そんだけ、睨まれていれば嫌でも気付くよ……」

 

そう言った途端、歪んだ空間から男が現れた。

それは――今までに見た事もない肌の色をした――そして風体をした男。

吃驚し過ぎた僕は、時間にすれば数秒だったと思うけれど、思いっきり固まっていたと思う。

だって……その姿は、僕が今までに見たこともない姿だったのだから。

けれど、その時になって、やっぱり――という気持ちが大きくなった。

だから……つい軽く声を掛けてしまっていたのだ。

 

「……君、昨日の人?」

「…ああ」

 

重々しく返事をする彼は、けれど少しだけ渋い顔をしただけ。

決して、今すぐ僕を傷つけようとは思っていないらしい。

 

「そっか…あ、そう言えば、あの子、あの怪我をしてた子は?」

「……無事だ」

「そぉ……良かった」

 

思わず先走って、あの小さな子の事を口にしていた僕は、自分の置かれている状態とかはまるで無視していた。

でも、心配だったのだ。

あんな小さな子が怪我をして、しかもあんなに怯えて――。

そう思っていると、目の前の男が不満そうに口を開いた。

 

「何で――俺達を見た事、誰にも言わない?」

「え?」

「お前、人間だろう?」

「あ、うん。もちろん、そうだけれど…君だってそうでしょう?」

 

そう僕が問い掛けると、彼が少し息を飲むのが判った。

そして彼は僕の事をもう一度睨み付けると、振り絞るように呟いたのだった。

 

「……違う…」

「え?」

 

彼の声が小さかったせいだろうか――僕は今、何を聞いた?

いや――間違いなく、彼は『違う』と言ったんだろう。

けど…違うって…どう見ても、人間だと思うんだけど……。

 

「俺達は――半妖だ」

 

そう言われて、思わず目を見開いた。

半妖???

って――。

 

「お前――は、半妖も知らないのか?」

「……あ、いや――だって……うん……知らない」

 

戸惑いつつも、そのままを告げれば相手の保っていた空気というか、そういうものが一気に変わった。

 

「半妖を知らない…だから、アイツの怪我を癒したのか…」

 

知らない――ううん、実際には違うかも知れない。

昔、神官さまから聞かせてもらった事がある。

妖魔と精霊のお話。

そして、その中で神官さまが教えてくれた事があった。

妖魔や精霊と恋に堕ちた人間達のお話を――。

そして、その二人の間に生まれた子供達は、半妖と半精霊と言われていると……。

けれど、それがどうだと言うのだろう――。

 

「あの――知らないって言うか……半妖のことを全然知らないって訳じゃなくて……けど、半妖とか見た事なかったし…それに、それがどうして何かを言ったりしたりすることになるの?」

 

本当に純粋な疑問だった。

だって――本来、この世界にいる精霊や妖魔とは出会うことがないし、彼らを探すことは許されて居ない。

それ以前に、彼らを知っている人達が居ないのだ。

また、妖魔と精霊は対で一つと同じと聞いているし――僕にとって、彼らは物語に出てくるだけの、何ていうか神聖なものでしかなかった。

そんな妖魔の半分を受け継いだ半妖――僕は、心なしか感動すらしていた。

だって――出会うことのない妖魔と出会い、そして恋に堕ちて生まれた子供――その半妖が目の前に居るのだから興奮するなという方がオカシイ。

少し、顰めッ面をした彼をジッと見つめ返した僕は、とうとう彼の近くまで歩き出していた。

そして――。

フワリと風の悪戯だったのだろうか。

僕の被っていたフードがパサリと後ろに投げ出された――瞬間のことだった。

彼の目が大きく見開かれ…僕は、凄く悲しい気持ちになっていたんだと思う。

本物の傷――というか火傷の痕ではないけれど、それでも気分が悪くなりそうなそれを見られては、相手に傷ついたような顔をされる。

時には目を逸らされ、フードを被れとまで言われたことも……だから、少しだけショックだったのかも知れない。

それなのに――。

 

「お前…は…何者なんだ!?」

 

彼は、僕から一歩だけ後退ると、まるで何か見てはいけないものでも見たかのように問い掛けてきたのだった。

 

 

 


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