表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/59

第6話 仁王寺にて

公安 新巻氏の助言を受け、杏の居候先であった仁王寺を訪れる二人。住職に助言を求めるが話をはぐらかされる。しかし新巻氏からの紹介と聞くと住職の態度が変わり、衝撃の事実が語られる!


お読みください。

 私とまなみはかつて私が居候していた寺へ向かった。

 寺の名前は『仁王寺におうじ

 真言宗のお寺で、かなり歴史のあるお寺らしいんだけど、私にはあんまり興味のないことだったので詳しくは知らない。でも私にとって一番印象に残っていることは寺から見る風景。山の中腹辺りにある寺からは山のふもとに広がる古い港町と海がよく見える。大きな弓のような海岸線が続き沖へ突き出すように伸びた半島につながる。その半島とその向こうに見える島々が織りなす風景美が大好きだった。その風景が独りの私の心を慰めてくれた。そんな場所だった。


 再びそんな思い出の場所を物騒な話で訪れることに違和感を感じ、空へ向かうような石段を重い足取りで登り本堂へむかう。


「住職ー、いますかぁー? 杏が帰ってきましたよー」


 あれ? 返事がない……。法事かなんかで出かけているのかな? 

 仕方ないので、奥にある僧房のほうへ移動した。

 まなみは小首をかしげながら奥のほうをうかがう。


「住職さん、不在なの?」

「かな……? もうちょっと奥まで行ってみましょう」


 まなみとともに本堂の奥にある僧房まで近づいた。


 ……懐かしい。雰囲気がそのままだ。とは言っても、何年も帰っていないわけではないだけど。


「……どなたかな? こんな田舎寺に……」

「あっ! 住職、お久しぶりですっ」

「おっ。杏か、いきなりなんだね。戻ってくるなら来るで、連絡をくれれば良いのに」


 住職はあった瞬間、少し微笑んだがすぐに眉間に深いシワを寄せる。

 そんなにおもいっきり眉間にシワを寄せなくても……。そんなに迷惑かいっ!


「住職、実は取り急ぎお話を伺いたい件がありまして」

「おぉ、まなみちゃんではないか。元気にしとったかね? 杏はちゃんと仕事をしとるか? 昔から、あんたはしっかりしとったが杏はどうにも怠け癖がぬけ……」


 全く関係のない世間話を始める住職に対し、まなみは早く本題を切り出そうと前のめりになる。とうとう待ちきれなくなったまなみが住職の話を強引にきる。


「……住職、お話が……」

「おぉそうかそうか……。……何じゃったかいな、話とは? まぁここでは何だ、中で話をしよう」


 今度はまなみが盛大に眉間にシワを寄せたが、なんとか住職に話は通じたみたい。

 ……まなみさん、そんな肩を震わせて拳を握らないでください。負のオーラが体からしみ出してますよ……。スイマセン、あんなタヌキおやじで……。


 くだらないことで時間を浪費しつつも、なんとか住職と話をするところまでこぎつけた。


「まぁ、そこに座っておくれ。今茶を用意させるから。杏、早う用意せんかね、ほら」


 なんだろうな……、帰ってきて早々この扱い。……スネてやる。

 多少私はむくれつつ、お茶の用意をして、人数分入れた。


「それで話とは何かな?」

「はい、実は――」


 まなみは事件のことをかいつまんで説明した。人形に爆弾が仕掛けられていたこと、子供にその爆弾人形を運ばさせたこと、犯人はどうやら昔壊滅したテロ組織に何らかの関係があるようだ――という話をした。

 住職は静か目をつむり、腕を組みながらまなみの話を静かに聞いていた。幾つかまなみから質問をしたが住職はのらりくらりとまともに答えない。

 

 あ……。まなみさんの目が座ってきた……。


「――それで、住職にお話を伺いたいのはそのテロ組織のことなんですが……」

「ちょっとまってくれ、一介の田舎坊主に何を聞こうというのかね? そんなことは公安警察のほうがよく知っとるじゃろが?」

「ええ。それはそうなんですが、昔公安警察の方とお仕事をされていたと聞いたもので。特に対テロ対策で」


 まなみさんは言葉遣いこそ穏やかだが、その視線は凍てつくような冷たい視線だった。そんな視線をものともせず、はぐらかそうとする住職も相当なタヌキだが……。

 住職は何か秘密を抱えているのかな? 奥歯に物が挟まったというか、何かしらこの話題からのがれようとしたがっている雰囲気がありありとしている。


「公安の新巻さん、ご存知ですね?」

「新巻か……。多少な。……昔のことはあいつから聞いたのか?」

「ええ。……多少」


 未だに冷たい目で追求をやめないまなみに対し、住職はうんざりとした顔をしている。ただ、新巻さんの名前が出たら、少し表情が変わった。


 本当に昔何があったのだろう? イタコがテロリスト退治でもしていたのかな……? まさかね。イタコはあくまで平和な世の中でこそ活躍できるものなのっ。そんな物騒なことしないもん。


 あれ? 住職が大きくため息をつき、天を仰ぎながら何事か考えている。どうしたんだろう?


「……できれば、こんなことに君らがかかわることがないようにと願っていたのだがな……。やはり、かかわってしまったか……」


 えっ……? 住職、何を……何を言っているの?


 住職は苦渋に満ちた表情で静かに語りはじめる。


「……かつて、わしは公安と組んでテロ組織撲滅の任にあたったとった。とはいえ、全面に立つのではなく、テロ犯を追跡してその潜伏先を公安に伝える任務についとった……。そもそも、そこからじゃな奴らとのつきあいは――」


――住職は当時、イタコの特殊能力である思いをみる能力でわずかに残るテロリストの“痕跡”を見つけ出し公安に通報、幾人かの魔導術士たちとしらみ潰しにテロリストの拠点を掃討していた。そのときの作戦責任者が公安の新巻氏であった。作戦は順調にすすみ、多くのテロリストを捕縛することに成功した。しかし、特に過激で危険な一部テロリストたちを捕捉できないでいた。

 何とかそのテロリストたちの尻尾をつかんだとき、その惨劇は起きた――


「――奴らは自分たちが追い込まれている状況を逆に利用しおった。公安が踏み込んだ瞬間を狙って、“魔導術爆弾”を作動させよった。帝都の何ヵ所も同時に闇の球に呑み込まれ、跡形もなく消え去ったんじゃ……。チリひとつ残らんほど完全に原子分解され、文字通り何も残らずクレーターだけが残っていたんじゃ。奴らは一般市民を巻き込んで公安を、そしてわしらのような魔導術士たちをあざ笑ったんじゃろうな。……わしらは完全に奴らにしてやられた。ご丁寧なことに大々的な“魔導術テロ”声明を出しおって、魔導術への信頼を完全に失墜させよった。

 ………………わしらは全力で奴らを追っかけた。こんなテロを起こした代償を支払わせるためにな。必死の努力で奴らを全員縛り上げたが、奴ら笑っとったよ……。大規模テロを起こし、公安と魔導術の信用を完全に破壊したことに満足してな……。奴らを捕まえたがわしら完全に負けたんじゃよ、あの最低な奴らに」


 知らなかった。住職にそんな過去があったなんて。帝都で大規模なテロ事件があったことは歴史か何かの授業で聞いたことがあったけど、そんな歴史の一幕の出演者が目の前にいるなんて何か複雑……。

 普段、あんなにタヌキおやじなのにこの時だけは違った。憔悴しきり、まるで惨敗をした敗軍の将のようだった。こんな惨めな住職の姿を見たことがない。敗北感に打ちひしがれ、この世のすべての希望を目の前で打ち砕かれたかのような姿がやけに小さく見えた。


「……さらに許せんかったのは……。杏の両親を……。 ……やめておこう。もう昔のことだ」


 ……やっぱり、お父さんとお母さんはテロに巻き込まれて、この世とお別れしてたのね。文字通り綺麗さっぱり……。


 住職が震えている。微かに嗚咽が聞こえる。


 住職……。こんなに弱々しい住職見たことがない。


「……奴らに関わって幸せになった人間はおらん。悪いことはいわん、手を引け。手を引くんじゃ……。奴らは人間じゃぁない、悪鬼じゃ。そんなものとまともに関わりあうんじゃない」


 住職は弱々しく、懇願した。いつもは尊大な態度で言いつけるくせにこの時だけは全然違った。珍しく、まなみも伏し目がちに何か言おうとしている。でも言葉にならないみたい。


「……手を引くわけにはいきません」


 私ははっきり言い切った。まなみと住職は虚をつかれ、目を見開き私を見る。


「な……何を言っとるんだっ!? わしの話を聞いただろう? 悪いことはいわん、手を引け。こんな事案なら、手を引いても問題なかろう?」


 なおも手を引くように進める住職に対し、私は宣言した。


「魔導術士であるかぎり、私はあきらめない! どんなことがあっても、あきらめないから!」


 ……自分でも何を言っているのかわからなかったが、あきらめたくなかった。テロでお父さんとお母さんをなくし、今回のことで手を引いたら私は完全にテロリストに負けてしまう!


「……住職、私からもお願いします。今ここで手を引いたら、魔導術士の信頼を取り戻せないだけでなく、テロリストに屈することになります。それでは、かのテロで消滅した人々の思いは全て無になってしまいます。ですから!」


 珍しく、まなみも声を上ずらせ、住職に訴える。


 住職……? どうしたんですか? 何か答えてください。


「……どうしても、この事案を解決すると言うんだな?」

「はい」


 私ははっきり住職に答える。……もう後には引けない!


 住職はまだ何か思い悩んでいる。過去は過去。割りきって、未来へ進まないと! 住職!


「まなみさんや、テロに関わるということはあんたの家族が特に標的にされることになるんじゃぞ、それでもよいのか? あんたの一族は特に狙われやすい一族。もう少し考えてからにしたほうが良いと思うが……」

「……住職、天下の蓬莱財閥を見くびってもらっては困ります。我が一族を自らの力で守り切れないようなら私から縁を切ります。ご心配なく」

「そうか……。どうしてもやるんじゃな……?」

「えぇ。それが魔導術士の使命ですから」


 あら……。まなみさんまで、その気になっちゃった。しかも、いつもとは違って、かなり興奮し上気している。珍しい……。

 でもなんだか嬉しい。さすがは我が相棒! うん。


「……新巻がわしの元へ君らを寄越した理由がわかるような気がする。分かった。できる限りの協力はしよう」


 やったー! 


 ん? でも、これからどうすりゃいいんだろ? 何も思い浮かばない。首を捻っていると住職が口を開く。


「……手口からするとまだ下っ端の感じがする。それなら居場所を見つけるのはそれほど難しくない。気配追跡のやりかたをおしえてやろう。それが突破口になるはず」


 これで依頼を達成できる可能性が出てきた。ヤルぞ!

いかがだったでしょうか?

杏とまなみはこれから爆弾魔を探すことになりますが……。


次回お楽しみに。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ