表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/59

第5話 私の知らない……

 警察を呼んだものの、けんもほろろに追い返されるいたりんたち。マスターの喫茶店で愚痴っていると、マスターからある人物を尋ねるよう紹介される。

その人物はとあるテロ組織の情報をいたりんたちに教える。

お読みください。

 一一〇番連絡してまもなく警察の人が来た。

 状況を説明するが警察の人からの反応は何かはれものを触るような対応で、そのことが私には不思議に思えた。


 初動が結構早かったのになんでこんなに鈍いんだろう? 爆弾が爆発したんだよ? 


「どんな依頼を受けたかは知らんが、今日のところは帰ってくれ。後は警察が処理する」


 などと刑事さんがのたまうので、どうしようか考えてしまう。


 ……そうは言っても、一旦依頼を受けたからにはこんな中途半端なことで有耶無耶うやむやにはできない。


 おや? まなみさん何を……?


「……爆発したのはその人形です。爆発物の種類は何ですか? それから……」


 まなみは矢継ぎ早に質問を繰り返す。質問された警官は非常に迷惑そうな顔をしながら、答えられる質問にだけ答えていた。


「君、いい加減にしてくれないか。これからは警察の仕事だ。さぁ帰った帰った!」

「いいじゃないですか。この事件の関係者なんだから……」


 まなみの言葉が言い終わるか否か、その刑事はまなみの言葉を遮った。


「いいから帰れ! お前らみたいな“魔法使い”に邪魔されたくなんだよ、捜査をっ!」


 ……いつもながらこの言葉には心揺り動かされる。まるで世界の全てから拒絶されたような、絶望を感じざるを得ない。魔導術士はファンタジーな物語に出てくるような万能な“魔法使い”じゃないんだから。


 その言葉を聞いて、まなみは口を真一文字に閉じ、拳を握りしめ真正面を睨みつける。私にはまなみが怒りをこらえているのがわかる。


「……分かりました。失礼します」


 意外とあっさり引き下がった。にも関わらずまなみの表情は冴えない。私はまなみと一緒にその場を離れた。


――――☆――――☆――――


 事務所下の喫茶店でまなみと紅茶を飲みながら、愚痴りあう。


「……ほんとにもう。腹立つわね」

「……そうね。毎度のこととはいえ、面と向かって言われるとキツイわね」


「今日は荒れているねぇ。何かあったのかな?」


「マスター……。いつものことだけど、魔導術士って辛いね……」

「杏ちゃんどうかしたの?」


 思わず、マスターにことの顛末てんまつを話してしまう。


「……大変だよねぇ、魔導術士の仕事は。それでも、杏ちゃんは頑張っているよね」


 ……ますたぁ……。泣いちゃいそう。

 あぁ、ダメダメ……。マスターと話しているとなんだか全面的に頼ってしまいそう……。

 頑張れ、杏! 

 うん、なんだか頑張れそう。


「……杏、そろそろ行きましょ」


 ぇ、まなみさんどこへ? 


 不機嫌そうな顔で急いで喫茶店を出ようとする。どうかしたのかな? 


「ちょっと待ちなさい」


 マスターは一枚の名刺を差し出してきた。何、この名刺? 


「この人に話をするといい。何か掴めるかもよ。僕からも一言言っておこう」


 なになに? 『公安警察 警備部 治安九課 課長 新巻 義雄』

 ……なんで公安?


「……マスターなんでこんな人と?」

「いいから、いいから。蛇の道は蛇ということで」


 唇に人差し指を当て、さわやかな笑顔とともにウインクされた……。

 ……マスターって、時折得体のしれないところがあるわね。


「……。杏、早速行くわよ。ここでじっとしていても、何も解決しないわ。なんとしてもあの刑事の鼻を明かしてみせる!」


 まなみさん、拳を握って……。何か違うところに気合を入れていません? 魔導術士としての矜持きょうじはどこへ……。


「何をしているの? 行くわよ!」

「あ、待ってぇ」


 なんだか無駄に気合の入ったまなみとともに喫茶店を飛び出した。


――――☆――――☆――――


 妙に気合の入ったまなみさんと私はマスターに紹介された人物に会うため、公安警察の分署までやってきた。

 公安警察は戦時中、特高警察と呼ばれていたんだけど、戦後しばらくして名称が変わった。なんでも、思想に基づいて行われるテロ組織犯罪に特化するためとかなんとか……。

――その辺のところはよくわからないし、当面関係ないと思ってるんだけど。


「……嬢ちゃんたちか。会いたいというのは?」

「そうです。いたりん魔導術士事務所の桜庭まなみです。こっちが代表の板梨です」

「治安九課の新巻だ。よろしく頼む、“魔法使い”の嬢ちゃんたち」

「……魔法使い呼ばわりは止めてください」

「ふっ……。そうか、それは失礼した」


 私は抗議したが、鼻で笑われ、軽く受け流された……。失礼な!


 新巻と名乗った人は年の頃で五十を超えたぐらいだろうか、小柄な野武士を思わせる風貌で焦げ茶色のスーツに身を固めた紳士だった。頭のてっぺんはすっきり禿げ上がり天井の照明の光をうっすら反射していたが、白く長い眉の下にあるくぼみには猛禽類のように鋭い眼光が宿る目があり、その目でこちらを観察している。


 すると、新巻さんはまなみをしげしげと見つめる。

 なんだろうこの人は?


「なにか?」

「いや桜庭というと、もしかしてあの桜庭かい?」

「……おっしゃっていることがわかりませんが? 『あの桜庭』とはなんのことでしょう?」

「おっと、これは失礼した。もしかして蓬莱財閥総帥桜庭雷蔵氏のご親類の方かね?」

「……えぇ、まぁ……。父方の祖父です」


 えぇぇぇぇぇー!! 知らなかった! まなみって実はお嬢様なのでは。総資産が世界で三本の指に入るというあの大財閥のご令嬢だったなんて……。

 そんなところぜんぜん見せなかった……。


「また、大財閥のご令嬢が酔狂なお仕事をされているようですな。道楽にしては過ぎた……」


 新巻氏の言葉を遮り、まなみが言葉を重ねる。いつものように微妙に口元を上げている。


「個人的な詮索はまたの機会に。今回お邪魔した件について連絡があったはずですが?」

「……これは失礼。こういう仕事していると詮索しないと気がすまなくてね。例の件だね、連絡はあったよ」


 まなみは腕を組み、うなずいている。


「知っているかどうかは分からんが帝国国内には様々なテロ組織がうごめいていて時折悪さをするんだ。最近、活動が盛んなのは『反魔導術人民解放戦線』の連中だ。活動を再開した連中の狙いはわからんが。奴らの得意なのは爆弾テロ。割と派手好みな奴らで、爆弾で大規模にふっ飛ばしたがる面倒なやつらだ。ただ、電話で聞いた話だと連中の手口にしてはちょっと稚拙だがな。人形に爆弾を仕込むやり方、気に入らんな……」


 彼のほとんど独り事のような言葉を聞いて、ふと気になった事を聞いてみた。


「……活動を再開? 以前は大規模な活動をしていたのですか?」

「あぁ、嬢ちゃんたちはまだほんのヨチヨチ歩きのころ、二十年近く前にな。連中、大規模なテロをやらかして、その対応でほとんど叩き潰したはずだったんだが……」


 え…? 二十年近く前……。確かそのときにお父さんとお母さんが大規模なテロに巻き込まれたって……。もしかして、その『反魔導術……なんたら』のテロに巻き込まれた……?


「……杏? 大丈夫? 顔色悪いけど……」

「……大丈夫。ちょっと嫌なことを思い出しただけ」


 目眩めまいがする。こんなところで、両親をあやめた可能性のある組織の情報に出会うなんて。もう昔のこと、どうやっても変えようのない過去のこととして考えないようにしていたのに……。


 私が動揺していると新巻氏は何か思いだし、アゴに手をあて考えている。


「杏? 板梨杏? 板梨……、板梨……、そうか板梨! 君は仁王寺の住職のところの居候娘さんかい?」

「はい、居候していました」

「そうか、そうか。元締ん所の娘さんか。元締めは元気かい?」

「えぇ……まぁ……」

「そうか、それは何より。昔、一緒に仕事をしていたころが懐かしいな。ま、よろしく言っておいてくれ」

「……わかりました」


 なんだろうこの人は? 住職のことよく知っているみたいだけど……。

 両親がなくなってから、仁王寺の住職のところへ引き取られ高校卒業まで暮らしていた。そのとき住職の強い勧めでイタコの修行もしていた。住職がイタコ協会の元締めだったからか適性があったからはよくわからないけれど、そのお陰で今の私がある。

 ――でも、なんでイタコ協会と公安が関係あるんだろう? イタコ協会もたいがい怪しい組織だな……。


「……わかっていると思うが、公安情報を一部とは言え、嬢ちゃんたちに教えたが本来は公開されない情報だからな。そのつもりで、情報を扱ってくれ。あまりハデに嗅ぎまわって、公僕の邪魔をせんようにな。こちらから伝えることはこれだけだ」


 冷静に考えて、大した情報を貰ってないのにソコまで言われると頭にくるな。

 単純に公安や警察の邪魔をするなと釘を刺されただけじゃない!


「……もう少し情報をもらうわけには……」

「悪いがこれ以上は教えるわけにはいかん。あとは嬢ちゃんたちが自分で何とかしな」


 ですよねー。そうそうおいしい情報をタダで貰えるワケないか。


「……ま、居候の嬢ちゃんがイタコなら犯人の動きを追えるんじゃないかな、?」


 ……どーゆーことでしょう? 警察犬じゃあるまいに……。それにもういそーろーではありませんから。


「嬢ちゃんたちなら、何か掴めるかもな。公安や警察の邪魔にならないように頑張れ」


 そう言うと、新巻氏はどこかへ歩いていった。

 ……励まされたのだろうか? 単純に邪魔をするなと釘を刺されたのだろうか?

 皮肉な彼の言葉からはどちらかは判断できない。


「……結局、大した収穫は無かったわね」

「そうでもないわよ」


 落胆していた私に対して、まなみは何か気づいたようだ。


「とにかく、住職に話を聞いてみましょう。多分突破口はそこにあるかも」


 今一つ、事態を飲み込めてない私は首を傾げながら、まなみの後をついていった。


 何かとくせのあるまなみさんですがそういう出自なんですねぇ~。いたりんも自分の両親を奪ったかもしれない組織の情報に出会い、物語はどこへ向かうのか? ご期待ください!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ