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第47話 来訪者

今後の方針を話し合っていたら、突然とある人物が現れた。

その人物が波乱をもたらす!

「お爺様相手に……一筋縄では絶対無理ね」


 事務所で今後の方針をまなみたちと話し合っている。しかし、相手は天下の蓬莱財閥総帥。普通ちょっと考えただけでもどれだけのバケモノを相手にしようとしているのか簡単に想像がつく。例えていうなら、RPGをクリアした後に出現する隠しボスにそのゲームを始めたころのキャラクターで戦いを挑むようなもので、どう考えても無謀の一言しか出てこない。隔絶した財力を持ち、その財力を背景にして政界官界に絶大な影響力を持つ巨大な敵。私たちのような一介の魔導術士など、やろうと思えば闇から闇へ簡単に葬れるだろう。


 それでも何か突破口を見つけて、財閥の暴走を止めないと犠牲者が増えることは間違いなかった。あえて言うならゲームの隠しコマンド、時間無制限無敵状態のようなありえないほどチートな隠しコマンドを探すようなものだった。ゲームならいつかどこかで誰かが見つけてネットにあげてくれるだろうけど、私たちのしている『ゲーム』にはそんなことはない。ほとんど孤立無援の中で、ラスボスと戦わなければならない。当然、『無敵状態コマンド』なしで。


「……総帥私邸の一角に第七研究所の研究を引き継いでいる私的研究所があるらしいことは軍の情報からわかっているのですが……」


 最上くんが通常明かされることのない機密情報をサラッと話しても現状を楽観的な状況に変えることは不可能だった。


「……いっそのこと、その秘密研究所とやらを襲撃して、お爺様に再考を迫るとかだめかな?」


 こんな状況でもまなみはまなみだった。


 発想がテロリストだよ、それは。

 いくらなんでもそれ、無理……。


「まなみ、それはヤツらと発想が一緒だよ……。いくら手段がないからと言って、テロに走ってはダメじゃないかな……?」


 まなみはきっと……きっと真面目に考えたんだろうと思うよ。でも、過激に過激に発想が向かうクセは直したほうがいいと思うの、私としては。


 私のダメだしにいたく真面目に考えだすまなみ。


「そんなことしたら、私たちがテロリストになっちゃうし、ヘタすると公安が動くよ。変なかたちで新巻さんとご対面……なんてことになるかも」


 この際だから、ちょっとクギを刺しておこう。まなみなら分かる……分かってくれるよね?


 私の考えを分かってくれたのか、まなみは苦笑する。


「確かに……杏の言うとおりかもね……あのバカどもと一緒の手法に頼るのはしゃくに触るわ。でも、お爺様相手では一筋縄で行かないことも確かよ」


 良かった。一応、言いたいことは分かってもらえたみたい。ただ、問題は何も解決していない。


 何か見落としていることはないのかな? まなみのお爺さんに考えを変えてもらうために他の可能性はないのだろうか?


 などと考えていたら事務所の扉が開き、とある人物が入ってきた。


「いよっ、嬢ちゃんたち。ご活躍のようだな」 


 事務所に入ってきたくたびれた背広を着た男はそう言った。その男に見覚えがあった。いつもよりテンションが高いような気がする。


「新巻さん、今日はどういったご用で?」   


 新巻さんの登場で、内心動揺した。テロまがいの行動を取ろうかなんて話していたところに、テロ担当の公安のそれなりに偉い人が突然現れれば、驚かないはずがない。まなみも平静を装ってるけど、多分動揺しているはず。


 私たちの様子に気付いたのか、新巻さんは聞いてもいないのに補足を始めた。


「いや何、この前の財閥の研究所での大立ち回りについて話を聞かせてもらおうと思ってな。あのテロリストたちをお縄にしたのはお手柄だが、多少腑に落ちないことがあってな。ま、半分個人的な興味だ。なのでそんなに身構えなくても大丈夫、大丈夫。少なくとも、取って喰おうってわけじゃない、安心しろ」       


 公安の人に『個人的興味』で事件のことを聞かれても、その範囲で収まるのかどうか怪しいし……しかも『半分』だし。残りの半分は……何? しかもいつもの新巻さんと違って、不自然なハイテンション。怪しさ満載。


『公安』の看板を背負っているせいか、新巻さんの言葉を額面通りに鵜呑みはできない。あからさまに疑いの目を向けてしまう。こっちも合法的なことでことを済ませてきたわけじゃない。いろいろ非合法な手段をとってヤツらを追っかけてきたから探られるといろいろまずいことも……主にまなみの犯行だけど。


 私たちのあからさまな疑いの目に苦笑する新巻さん。頭をかき、困った顔をしている。


「ま、嬢ちゃんたちが疑うのも最もだ。その辺の話をさせてもらえんかな?」


 私は少し迷ったがまなみに目配せし、新巻さんの話を聞くことにした。


「前置きは時間がもったいないので省略する。単刀直入に言えば、公安は例のテロリストに財閥が関わっていると睨んでいる――」


 話が早いのはいいけれど、単刀直入過ぎる……もう少し、その結論に至った経緯を話して欲しいなぁ……。間違っていない推論だけに情報源が気になる。


「ちょ……ちょっと待ってください。いきなりそんな話をされても、よくわからないのですが……もう少し詳しい説明をお願いします」


 私のお願いを聞いて、私たちの戸惑いに気がついたのか、饒舌だった新巻さんの言葉がそこで一旦止まる。


「これは失敬。少し端折り過ぎたようだ。補足しないとな」


 新巻さんの話によると、テロリストの素性を洗っていたところ、閉鎖された第七研究所の関係者、もしくは何らかの関係のある人物であるということまで突き止めたらしい。


 この情報は私たちの同じ、流石は公安というべきか。独力で調べ上げるなんて、この諜報力は侮れない……。


 公安の調査に興味がわいた。ちょっと聞いてみよう。


「……公安はどうやって調べたんですか?」

「ふ……それは企業秘密だよ」

「どうしても……?」

「……ああ。これだけはいくら嬢ちゃんのお願いでも無理だ」


 調べた方法については公安捜査上の秘密らしい。新巻さんはその一点張りで頑として、詳細を話そうとしない。


「……そっか。それじゃしかたない。話の腰を折ってごめんなさい」


 仕方なくそのことは放置して先を聞くことにした。


「……とにかく、テロリストたちが財閥直轄の研究所と関係があるということは、すなわち財閥と関係があるということだ。おそらく間違いないだろう。そのあたりのことは嬢ちゃんたちも掴んでいるんだろう?」


 新巻さんがニヤッと笑う。公安はテロリストと研究所との関係から財閥、もしくは財閥の関係者がテロリストに加担していたと公安では睨んでいるとのこと。公安に勘ぐられるのが嫌なので、今の段階では口に出せないけれど、概ねそのとおり。公安って、やっぱり侮れないわ……ヘタに隠し事はできない。

 

 何とも言えない含みのある嫌味たっぷりの新巻さんの笑みで、どう反応していいのか分からず、愛想笑いするしかなかった。


 新巻さんは私の反応に何か確信を得たのか、一瞬笑みを浮かべた。しかし、すぐ元の表情に戻り話し続ける。


「ヤツらとの関係は今のところ調査中でよくわからんが、ヤツらの身柄を警察が抑えた今、公安としては財閥、一連の魔導術テロの源流を押さえて、この下らない事案を終わりにしたいと考えている。そこでだ――」


 新巻さんはそこで一端、言葉を切った。私たちを見回し見据える。それまで饒舌に話をしていた新巻さんの雰囲気が殺気に満ちたものに変わる。


 その雰囲気の変化に私たちは息を呑む。


「――公安として財閥へ内々に警告する。それでもなお改めないときは――」


 その時の新巻の目は獲物を前にした猛禽の目だった。背筋に寒いものが走り、思わず身震いする。


「――叩き潰す」


 新巻さんはそう静かに宣言し不敵に笑う。


 私は目の前が真っ暗になる気がした。どうして私の周りにはテロリストと五十歩百歩な考え方をする人間ばかり集まるのかしら……泣きたくなる。可能な限り、穏便な方法は無いものかと悩んでいるのに。過激な攻撃的方法で問題解決することしか考えていない準テロリストとかテロリスト予備軍とか、そんな属性の人間しか集まってこないのかしら? 我ながら考えてしまう。


「でも……新巻さん? それなら私たちの出る幕なんてどこにもないように思うのですが? むしろ公安単独で事に当たったほうが機密保持の観点からものましいのでは?」


 私が身だえている間にまなみが質問した。言われてみると確かにそうだ。魔導術士がわざわざ出張る事案じゃないし。むしろ公安が内々に処理してくれるほうが穏便に済むような気がする。わざわざ私たちを巻き込むなんて、何か意図があるのでは?


「いや、必要だ。特に孫娘の力添えがな、あー、まなみって名前だったかな、嬢ちゃん……」


「え……? 私が……?」


 戸惑うまなみ。どういうことでしょう? あの偏屈爺さんに血縁者からゆさぶりをかけるつもりなの? 公安の狙いは……何?


「ま、泣き落としが通じる相手ではないのはわかっているが、かなりの警告にはなる。『こっちはあんたの身内も取り込んでいるんだよ』ってな」


 複雑な表情で新巻さんを見るまなみ。やっぱり公安も首謀者が『財閥』ではなくて、まなみのお爺さんだと気づいているわけね。それで家族を取り込んでプレッシャーをかける……と。しかしあの爺さんにそんなコケ脅しが通じるのだろうか? 


「無理にとは言わん。ただ嬢ちゃんたちの立場なら悪い話ではないと思うがな。良ければ、ワシのオフィスに電話してくれ」


 そう言うと名刺を置いて新巻は事務所を出て行った。


 いたりんとまなみは顔を見合わせる。


「……どうする、まなみ? 意外なところからとっかかりになりそうな話が転がり込んできたけど」


 まなみは考えている。一歩間違えば、公安と財閥のトラブルに巻き込まれかねないだけに慎重になっているのかな?


「大義名分ができる分、新巻氏の協力を得るのは悪い話ではないと思いますが。もっとも、どこかで一線を引かないと、とんでもない事に巻き込まれそうですが」


 最上くんはそう話す。最上くんも新巻さんの話のメリットは認めつつも、万が一のこともわかっているみたい。


「……今は財閥いえ、お祖父様の暴走を止めるほうが優先だわ。手段をそれほど選んでいる暇はないし」


 まなみは決意する。本格的にお爺さんと対決するようだ。まなみが決意したなら、私に異論はない。まなみと一緒に戦うだけ。


 翌日、新巻さんに連絡、桜庭雷蔵と直接対決する旨を伝え、公安と協力態勢を取ることにした。


 そのとき、何となくではあるが全ての決着がつくんじゃないかという予感が脳裏をよぎった。それがどんな決着かまでは浮かばなかった

暑い日が続きますが、皆様ご自愛ください。

いたりんはまだまだ続きます。ご愛読お願いいたします。

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