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第42話 苦悩のいたりん

 ヤツらからの犯行予告がきた! この一報にいたりんと最上は警察へ飛んでいく。“犯行予告”にはとある研究所が指定してあった。その研究所はまなみの祖父の財閥に関係する研究所だった。その調査をまなみに依頼したがまなみとケンカになる。その祖語になやむいたりん。

果たして……


 最上くんがマスターの店にとびこんできた。開口一番ヤツらが現れたことを告げる。


「わかった。行くわ!」


 私はその声に反応し、最上くんとマスターの店を反射的に飛び出す。


 まったく、何だってのよ……。今度はどこでどんな嫌がらせを仕掛けてくるんだろう?


 道すがらテロリストたちの行為がほぼ嫌がらせなのを思い出す。その行為に辟易しながら、警察へ向かう。


 警察に着くとすぐに担当者に面会し、話をする。担当者曰く、「挑戦状なのか招待状なのかよくわからない犯行予告のようなものがきた」とのこと。


 犯行予告が挑戦状か招待状かわからないって……どういうこと? 意味がわからない。普通なら別々のものでしょう。それがいっしょくたになっているなんて、想像することすら難しい。挑戦状なら挑戦状、招待状なら招待状、分けて出すものでしょう。そんなごちゃごちゃなモノ、受け取った人が混乱するでしょうに。


 ……いや、ヤツらから挑戦状がきても、招待状がきても、どっちが来ても受け取る気はないけど。


 混乱しながら、モノを見せてもらった。見せてもらうと「蓬莱財閥先端技術開発センター 第七研究所へ招待しよう。ここにてこれまでの因縁を含めて歓迎する。来なければ、ここに閉じ止められた“災厄”を開放する。“災厄”が開放されればどうなるか、ご想像にお任せする。しかし、諸君の想像を絶する事態になることは間違いないであろう。諸君の賢明なる判断を期待する」と書いてあった。


 ………………確かにしょうたいじょーぽい犯行予告ね。で……?


 最上くんと顔を見合わせ、首をひねる。彼も私も特に言葉がでない。理解を超えたシロモノにコメントのしようがない。前代未聞の犯行予告ね。もっともこれを犯行予告というカテゴリーにいれるのならばという話だけど。


「何ですか……コレは?」


 担当者に聞いてみた。彼は両手を上げるだけで答えは帰ってこない。


 ……そーですよねぇ。


「ところで、“災厄”ってなんですか? 何か思い当たるものはありますか?」


 “犯行予告”を見ながら、頭をひねる最上くんが聞く。


「私がわかるわけないでしょう……」


 テロリストの考えなんてそんな簡単にわかるわけないでしょう! それが分かれば、ヤツらなんか簡単に捕まえているし。


 若干のいらだちを覚えつつも、何か対策がないか考える。


 少なくとも、ヤツらは具体的に破壊活動するとは言っていない。ただ無視をしたら、想像もできないような“災厄”を開放すると言っているだけだ。そして、解放される“災厄”が何なのか一切情報がない。対象の研究施設は今は使われていない――そこから何か情報を引き出せないだろうか? 使われなくなった研究所と“災厄”――この組み合わせで思いつくのは……。


 思いつくのは……。


 ……。


 思いつかない。


 現実的なレベルで全く思いつかなかった。小説とかドラマの中の話ならいろいろ妄想できるのだけれど。根拠に乏しいし対策の立てようがない。しかたがないので最上くんに意見を求める。


「ところで、この第七研究所ってどんなところだか知ってる?」


 と私は最上くんに振ってみた。財閥と浅からぬ因縁のある彼なら何か情報を持っているかも……。


「さぁ……? ただ現在は閉鎖された研究所だとは聞いています」

「……それだけ? もっと何かないの?」

「僕の知りうる範囲、言える(・・・)範囲では『知らない』としか……」


 何か含みのある言い方をする最上くん。まぁ、まなみから聞いた話からすると彼の立場では言いにくいことも多々あるんだろうけれど……。もうちょっと何とかならない? 何が出てくるのかわからないけれど、下手をしたら多くの人が傷つくかもしれないのよ? こそっと機密を漏らしたって結果オーライにできるんじゃない? 


 仕方ないなぁ……。


「まなみに聞いてみる?」


 と最上くんに言ってみた。すると最上くんは目を見開き、まるで暗闇で魔物にあったような驚き顔をして、大慌てで否定する。


「そ、そんなこと言えませんよ! 下手なこと言うと首突っ込んできますよ、姐さん。あの人のことだ無理をしてでも現場に出てくるでしょうね。今の姐さんだと本当に体を壊してでも、現場で暴れようとしますよ。そんなことさせられません!」


 まったく、まなみのことになると……。気持ちはわからなくはないけれど、この国の治安を乱す輩を排除する魔導術士という役割というものあるわけでそのあたりをもっと考えてほしんだけどなぁ……。


 まったく。


 ……でもスネてもいられない。それが私の役割だし。


「とはいえ一度、話を聞かないといけないでしょうね。蓬莱財閥の技術センターだっけ? それについて。少なくともそこで財閥が何を研究していたのか知らないとヤツらが何を開放しようとしているのか見当もつかないし、対策の立てようもないじゃない?」


 最上くんに諭すように話してみる。


「蓬莱財閥にですか……。できればよけいなかかわりを持たないようにしたいのですが」


 最上くんはあまりいい顔をしない。


 うぅん、もう! 歯切れが悪いな、この子は! もっとしゃっきりせい、男の子!


「最上くんは蓬莱財閥に浅からぬ縁があるとまなみから聞いたけど? つてはない?」


 仕方がないので、最上くん自身からアプローチできないか聞いてみた。


「伝と言われましても……そんなにあそこへ影響力があるわけじゃないんで。それにあそこにできるだけかかわりたくないですし……」


「そうは言っても、ヤツらに狙われているんだよ。その話だけでもすることってできないのかな?」


「できなくはないとは思いますが、僕の立場ではちょっと……」


 いつもの最上くんの軽快さがまったく無くなり、ただの優柔不断な男の子がいるだけだった。


 あぁ、もー! これだけは言うまいと思っていたけれど、そうも言ってられないわ!


「……『製品』だから?」


 最上くんはハッと顔を私に向け、悲しげな眼で私を見る。


 な、なによ、そんな目で見ないでよ……。何か悪いことをしちゃったみたいじゃない。


 チョット言い過ぎたかなぁ……?


「まなみから詳しく聞いたわけじゃないんだけど、財閥の研究所か何かで改造されたんだって? そんなことをしたところと関わりたくない?」


 多少優しげに言ってみたんだが最上くんは眉間にシワを寄せている。渋面の最上くんは何かを考えている。


「……恨みつらみはないんですが、時折、再調整を受ける身としてはやり辛いですね。下手をすると調製が受けられず、仕事に差し支えます」


「再調整? 車検みたいなもの?」


 あ、最上くんが苦笑いしている。たとえが悪かったかな?


「……まぁ、杏さんがそれで分りやすければいいですけど。出身の研究所、これは第六研究所なんですが、そこで体のバランスや各種強化剤などの副作用の検査と骨や筋肉のメンテを定期的にしてます」


 を! サラッといろいろ突っ込みたいような単語が彼の口から飛び出る。強化剤の副作用検査って要するにドーピングの検査でしょう。それに骨や筋肉のメンテって……。


 聞けば聞くほど、犯罪レベルの人体改造を施しているのではないのでしょうか? やっぱりかのと権力のある所は何でもできるんだな。まなみのところ財閥って何を目指しているのだろう?


「そうはいっても、定期検診の結果や再調整したデータが後々再生医療なんかの基礎データになっているらしいので、それほど気にしていませんよ。確かにこの身体はかなり弄られて、もう人間とは言えないかもしれませんが、そのおかげで救われる人がいるなら本望です」


 最上くんの言葉に少し感心した。

 今までそれほど思わなかったけど、結構いいやつじゃん。そう思うと金と権力にまみれ、暴走する財閥令嬢(バカ娘)にはちょっともったいないほどの男の子ね。


 そう思うと唐突に何かもが腹立たしくなった。何もかもが腹立たしく感じた。いろんなものにいらだちを感じた。心の底から焼けるような感情の高まりを感じる。どす黒く、どろどろとしたヘドロが魂の奥底から湧き上がるようないやな感覚。すごく不快で不快で仕方ないのに抑えることが難しい。


 ……なんで? こんな時に……。


 最上くんの話を聞くうちに、うまく表現できないが、まなみに対して羨望のような、いらだちのようなモヤモヤした気持ちになる。うーん、はっきりした理由がないのにイライラする。


 えい、面倒になってきた。彼女にいろいろ押し付けよう。そう決めて、湧き上がってきた感情も無理やり抑え込んだ。


「そう……それなら、まなみに責任とってもらいましょう! “キズモノ”にされたのだから構わないでしょう」


 と口角を上げて、最上くんの顔を見る。多分この時の私の顔は生まれてから一番黒い笑みを浮かべていたんじゃないのだろうか?


 その証拠に最上くんが若干引いている。


「……それじゃ、姐さんが首突っ込んできますよ?」


 最上くんは心配顔。さすが、まなみさんをよく理解されていらっしゃいます。


 ……でもそんなことよくわかっているわよ! それでも、彼女には働いてもらわないといけない状況なのよ。


「現場には出さないようにするためよ。財閥内の話はあっちにお任せして、コッチは現場で体を張る!」


 ちょっとごまかした。こんな話をふって、彼女が現場に顔を出さないはずがない。でも、彼女が現場へ出張らないよう、多少は時間が稼げるし、第一真正面からあの財閥に相対あいたいすることができるのは彼女だけだし。


「……それでもこの件で関わらせたくないな。姐さん、ああ見えて結構デリケートで、虚勢を張っているところもあるし……」


 えい、やかましいわ! そんなこと言われんでもわかっとるわい! でも現状財閥の暗部に首を突っ込みながらヤツらをとっちめるためにはどうしても彼女の力がないとだめなの。


 それでも最上くんはもう一つ納得いっていない様子で、すこしうつむき上目使いでこちらを見る。


 あによ! そんな目で見てもだめだからね。まなみに動いてもらうことは決定事項。そんな目で見ても変えないから。


 それにしても何か腹立つわね。あなたにまなみの何がわかるのよ! まったくまなみは……うらやましいわね。


「気にしない、気にしない。まなみなら大丈夫よ! 貴方より付き合いは長いんだからわかるわ。心配ない、心配ない。ソレよりヤツらを早いところふんじばることを考えないと!」


 とにかくここであーだこーだ言っても何も変わらない。まず行動! 現場の人間は動いてなんぼよ。


「そうですか……」とぽつり漏らし、まだ少し不満気というより不安気な最上くん。気持ちはわからないことないけれど、心配ばかりしていてもどうしようもないでしょう。


「案ずるより産むが易しって言うでしょ! ならば実行あるのみ!」


「……わかりました」


 最上くんは不承不承ながら同意する。


「と言うことで、早速最上くんは現場の状況確認、お願いね。隠密裏に現場の状況を把握しておきたいの。わかるでしょ?」


 最上くんはまだ私に何か言いたそうだったが有無を言わせず、現場へ送り出す。最上くんが現場へ向かうのを見送る。


「……さてと」


 スマホを取り出し、まなみへ電話する。経緯をかいつまんで説明し、財閥研究所の調査を頼む。


「私が……? ……分かったわ、何とかしてみる。彼――最上くんはどうしているの?」


 まなみは唐突に最上くんの様子を聞いてきた。


 ……かんけーないでしょ、今は。まなみは何を考えているんだろう? 


 あ、また心が疼く……。


 痛いよ。


 努めて、感情を押し殺してまなみと接する。そうしないと、まなみと付き合えない――そうしないと何もできない。心が痛い。


「……先行して、現場へ向かってもらったわ。私も後を追うから」


 疼く心を抑え込んで、努めて平静を装い、まなみに答える。

 

 なのにまなみは私の言葉に突っかかってくる。私に対しかなりのいら立ちを露わにする。


「現場へって……。 彼になんてところへ行かせるのよ! すぐに引き返させて! なんで、そんなことするのよ!」


 なんでこんな時に突っかかってくるのよ。そんなことで……。仕事は仕事、プライベートはプライベート、きちんと整理してよ……お願いだから。


 それでも、努めてざわつく心を抑え込んでまなみに話す。


「……今はそれどころじゃないわ。個人的な感情はとりあえずわきに置いておいてね、お願いだから」


 事務所代表として当然の発言をしたつもりなのにまなみは全然聞き入れてくれない。


「……どうして……どうして。そんなところ私が代わりに行くから、やめてよお願い。杏、どうしたのよ、いきなりなんか変よ貴女?」


 変とか言われても、こっちは自分の役割を全うしようとしているだけなのに、なんでわかってくれないのよ。


「……私……私は早くこのバカ騒ぎを終わりにしたいの。それだけよ」


 そう言い放つと電話を切る。

 私……変? こんなつもりじゃなかったのに……。

 まさか……。私はいつも通り! きっと……多分……おそらく……。


 いくら心が疼こうがそんなこと気にしてられない。私には私のやること――やらなけばならないことがある。私は国家魔導術士。この呼称には義務がある。私はこの義務を果たさなければならない人間。


 だから――


 急いで最上くんの後を追わなければ。


 それでも何か心の中に鉛のようなものが積み重なってくる。苦しい。心が痛い。


 えーい、こんな気持ちになるのもみーんなヤツらが悪いんだ!

 ヤツらをとっつかまえれば……


 無理やり何もかもをヤツらのせいにして、現場を目指した。


今回は難産でした。妙にいたりんの感情にシンクロしたのか、書いてて少々辛かったです。

それではまた次話でお会いしましょう。

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