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第3話 国家魔導術士 参上 3

蔭山は一体の何を見たのか? いたりんとまなみはどう解決するのかお楽しみください。

※2日間連続2連投の最後です。

 突然、叫びだした蔭山さんに驚き、私はあたりを見渡す。


「杏! 天井!」


 まなみに言われ、天井を仰ぎ見る。

 ヤツはそこにいた!


 天井には悪意を具現化したようなどす黒い霧が固まっている。こんなにはっきり目に見えるほど悪意を貯めこんだら、完全に消去しないと無関係な人にまで被害を被ってしまう!


「何、何ですかあれは! 早くなんとかしてくださいよ!」

「わかってます! 蔭山さんは早くここを出て! 邪魔ですっ」


 私は蔭山さんをこの場から追い出し、悪意の塊に対峙する。


「まなみ、こいつを霧散させるよ。バックアップお願い!」


 まなみは私の指示と同時に詠唱に入り、術を発動する。彼女のWADから電光がほとばしり、黒い塊を攻撃する。電撃が黒い塊を覆う。


 黒い塊はまなみの攻撃におそれをなしたのか、出入口目指し飛び出した。


 ちっ、部屋の外に出たら騒ぎになるな……。


「まなみ、追うわよ」


 まなみに声をかけ、黒い塊を追いかけた。

 部屋を出て、悪意の塊を探す。

 どこ? どこへ行ったの? 早く見つけて倒さないと……。これ以上、悪意を集めないように。


 いた! 廊下の天井を這うように外へ向かっている。

 まずは霧散させないと。


『爆裂!』


 いっけー!

 あれ? あまり効いていない! 

 おまけに黒い霧の中からなにか生えてきた。え? 実体化してきてるっ。 さらに危険な状態になっているじゃない!


 攻撃を受けるに従い黒い塊は実体化して、犬のゾンビのような禍々しい怪物と化してきた。

 怪物は廊下に降り立つと外へ外へ走って行く。


 爆裂音に驚いた署員が部屋から飛び出し、蜘蛛の子を散らすような騒ぎになる。またその署員が怪物の姿を見てさらに混乱していく。


 このままでは、騒ぎが大きくなる一方だわ。怪物を何とか外で仕留めないと。


「まなみ、怪物を外へ追い出して仕留めるわ! 手伝って」


 まなみの電撃が怪物を誘導するように廊下の端を走る。電光に驚いた怪物は廊下をひたすら建物の端へ向かって加速していく。


 勢いのついた怪物はそのまま、非常階段への扉をぶち破り、外へ飛び出した。


 私達もそのまま非常階段への扉から標的の怪物の位置を確認し、外へ出る。標的は駐車場で警察庁舎を見上げている。


 動きが止まっている。狙うなら今!


「まなみ、行くよ! 氷結!」


 私のWADの魔導石が反応し、標的の周囲が急速に氷結していく。

 怪物の脚が地面に氷で固定される。怪物はもがき、暴れようとするが動けない。

 私が氷結させ動きの止まった怪物をまなみの電撃が激しく打ち据える。


 怪物は黒焦くろこげになった。一瞬天を仰ぎ、そして地に伏せた。


「……。終わった……。えっ!」


 黒焦げになった怪物はよろよろと再び立ち上がり、庁舎に向かって遠吠えした。


 ……悲しい声。胸に突き刺さるような、鋭く甲高い遠吠え。


 一声上げるのが限界だったのか、怪物は一声あげるとそのまま倒れこみ、霧散した。


「本当に終わったのね……。後味悪いわね」


 まなみの一言に無言で頷く。仕事とはいえ、こういうことはできればもう体験したくない。


「いやいや、お疲れ様。これで二度とあんな化け物は出てこないよね」


 髪型を乱したままの蔭山さんが私達のところへよってきた。今回の事態を招いた責任のあるはずの人がこんなに無責任な感じなんて……。

 報われないな、短刀に込められた念は。


「一応……。あの短刀にまとわりついたモノは消えました。もう二度とあの短刀が夜泣きすることはないでしょう。ただ、あの短刀に込められた念は消えたかどうかはわかりませんよ」

「まぁ、そのときはそのとき。またお願いしますよ、魔導術士さん」


 私の念押しの発言に対する彼の発言は私の我慢の限界に達するほど無責任なものに思えた。結局、この人は根本原因を解決しようという気がない。当面の問題だけが取り除かれることが望みなんだ。


 ……絶望的。


「……蔭山さん。魔導術士法第ニニ条第一項、第二項に基き、魔導術行使報告と免責申請します。それから、後ほど請求書を郵送しますのでよろしくお願いします」


 まなみさん、こんな時に事務的は話をするなんて……。


「杏、行きましょう」


 え、ちょっと待って……。


「私達ができることはもうここにはないわ。帰りましょう……残念だけど」


 そうね……。帰りましょう。


――――☆――――☆――――


 数日後、警察から連絡があった。請求額に対する問い合わせだった。


 ……まなみさん、一体いくら請求したんだろ?


「……その件に関しては、請求通りお願いします。……ですから、そのとおりの金額で間違いありません。それではよろしくお願いします」

「まなみ、一体いくら請求したの?」

「ん? 大したことないわよ。着手金、成功報酬は向うの言う通り五〇〇〇圓で手を打っておいたわ。今回は怪物の撃退が追加であったからその分を五〇〇〇ほどふっかけただけよ」


 一万! よくやるわ、この人……。しっかりしているというかなんというか、こういうしたたかさは真似できない。


「そんな些細な事よりも、これ見てよ」


 まなみは新聞の切り抜きを私にみせた。小さい囲み記事だった


『警察官が公務中に事故で死亡……死亡したのは治安警備課の蔭山祥明警部補……』


 え? 蔭山さん亡くなったの? 知らなかった。


「因果応報ってところかしら。結局、彼は……」

「何いっているの、この科学万能の時代に。死に方が不自然な気がするわ。新聞にははっきり事故の状況が書いてないし、妙な感じがするの。たいていこういうことは簡単でも事故の状況を書くものよ。それが一切記事なっていないってことは、書かれてはまずいことがあるって考えたほうが自然でしょう」


 まなみの言葉に私は何か寒いものを感じた。単なる事故でないとしたら、彼は自殺あるいは……殺されたってことになるわね。


「それにこっちがふっかけてそれがすんなり通ることを考えると、この金で黙っていろってことかもね。ま、治安関係はいろいろ黒い噂があるから、その絡みで何かへまやらかして、狼のしっぽを踏んじゃったのかもね、彼。それだから、あのとき強引に幕引きしたがっていたのかも。いずれにせよ、私達の関与できる世界の話ではないわ」


 ――謎の多い事件だった。短刀に込められた強烈な念、何か隠そうとしているかのように、無理やり終息を図ろうとした依頼者。そして不可解な依頼者の死。私に、私達に明らかなことはほとんどない。

 いずれにせよ、もはや、私達のあずかり知らぬ世界の話であることには変わりない、まなみの言う通り。私達のできることは、魔導術で他の人を手助けすること以外にないのだから。


 ……ま、当面の生活費が確保できたことでよしとするか。

いかがだったでしょうか? 事件は様々な謎を残したまま、終結という形になりました。今後、物語はどう展開していくでしょうか?

不定期で続けてきますので、これからのいたりんをご贔屓に。

ご意見ご感想お待ちしております。

また、こんないたりんを読んでみたいなどのご要望や設定等でのご質問等があれば、ご一報ください。答えられる範囲内でお答いたします。

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