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第37話 真夏の大乱 4

テロリストの首魁と対峙するいたりん。

その攻撃に違和感を感じつつ圧倒される。

その時、首魁から衝撃の発言が……!

 私の渾身の戦う宣言はどうだ!

 絶対に負けないんだから!


 あ……あれ……?


 かなり気合を入れてイッパツかましたが、眼の前の敵はまったく怯まない。むしろ怯むどころか、なんとなく私を憐れむような雰囲気を醸し出す。それどころか何も言わず見下げている……?


 ……失礼な。私の渾身の戦う宣言をなんとおもっているんだ!


 するとヤツは灰色のマントを翻し、改めてこちらに相対する。


「……ふ。愚かな。ならば我が力にて身体に教えねばならんな。」


 そう言うやいなや、ヤツは印を結び、詠唱し始める。朗々と詠唱しまるで読経しているように見える。こんな詠唱を目の当たりにするなんて……。あまり見たことはないけれどかなり強力な術を発動するつもりかも。ヤツのWADの魔導石が離れたところにいる私にもハッキリわかるくらい怪しげな光を帯び、フル出力でWADを稼働しているらしい。


 何か嫌な予感。こんな緊張した場面で、余裕綽々で詠唱している。なんてヤツ……。


 ど……どうしたらいいの? どう対処していいのかわからない。


 徐々にヤツの身体から、黒いオーラが湧き出し、禍々しい雰囲気をあたりに撒き散らす。黒いオーラで後ろの暴発する花火がかすみだす。すると詠唱が完了したのか、やや伏せていた顔を上げ、真っすぐこちらを睨んだ。


 この世の悪意を煮固めたような気味の悪いほどの暗闇がヤツのWADを装着した左腕の先に炎のように揺らめいている。ヤツはその悪意の塊を頭の上に高々と掲げ、術の発動を宣言する。


「……業炎招来。いでよ、黒き業火よ! 我が敵を焼き尽くせ!!」


 乱れ飛ぶ極彩色の花火の嵐を背にその光景を切り裂くようにヤツの腕から黒炎があふれ、私に襲いかかる。反射的に魔導障壁を生成して、何とか“黒い炎”をしのぐ。


 黒い炎!? ありえない! そんなもの、あるはずがない……!


 私はヤツの炎を防ぎながら思う。魔導術は自然現象を思いのままに操る術である。言い換えると自然現象で起きないことは魔導術では基本的に起こせない。つまり自然界に存在しない黒い炎などあり得るはずもない。しかし、ヤツはあり得ないものを生成した。それだけでもヤツの異常さがわかる。


 ……このままではジリ貧になる。一体、どうすれば……。


 しかし、黒い炎なんてどうやって生成したんだろう? ヤツが使っている術が単なる魔導術ならば、何かタネがあるはず。単なる魔導術なら……。


「何をしている? 防戦一方なら、押しつぶすぞ。少しは抵抗して、楽しませてもらわないとな。せっかくの祭り、このままではつまらん。はっはっはっはっ……」


 やっすい煽り文句だが、事実も含まれている。防戦一方なら、何時か押しつぶされることは確実。あの“黒い炎”の正体が分かれば対処しようもあるのに。


 黒い炎の圧力にジリジリ押される私。正直、かなり体力的にキツくなってきた。それほど長くは耐えられそうにない。


「……だいぶ疲れが見えるわ。もうそろそろ諦めなさい。魔導術士の貴女がそんなにガンバっても誰も貴女を評価しないわ。無駄なことはやめて、早く楽になりなさい。フフフ……」


 片割れの女テロリストが私に語る。腕を組み、見下ろすように私を冷ややかに見つめる。


「杏、ガンバって! アナタこの街を守るんでしょっ! ガンバって、杏!」


 観衆を守っているまなみからエールが届く。まなみも脂汗をかき、限界寸前なのがあからさまにわかる。


「杏、何しているの?! そんな黒いモヤなんて、さっさと吹き飛ばしなさいよ! 貴女なら余裕でしょ!」


 分かってるって……え……? 今、まなみなんて言ったの? 黒いモヤ……?


 まなみの言葉に私の頭に何かが閃く。私には“黒い炎”がハッキリ見えるのに、まなみには見えていない……?


 もしかして黒い炎はマボロシ……なの?


 私が見えて、まなみが見えないのは――魔導素子の波動。


 考えられる可能性は……魔導素子の塊。それもドス黒い悪意の波動を伴った魔導素子の塊ではないかと。まなみの目にもうっすらみえるってことはそれだけ魔導素子が濃いってこと。その濃い魔導素子そのもので攻撃してきた……てことかな? ただ、魔導素子はあくまでも術者の意思を自然現象に反映する媒体であって、媒体そのもので危害を加えるなど聞いたことがない。


 しかもそんな高密度の魔導素子を扱えるなんてそうそうあることではない。魔導素子は密度が濃くなれば濃くなるほど暴走しやすい。ヤツは思うがまま扱っているところから相当ハイレベルの術者みたい。すると反魔導術テロリストが……ハイレベル魔導術士? なんで?


 ……そこまで考えたが、私の思考を邪魔するように、なおも激しい“黒い炎”が襲う。


 全くなんて術を……! これじゃ、しのいでもしのいでもキリがない。この“手品”のタネは見えてきたのに……。


 まなみは相変わらず暴発する花火から観客を守るため障壁を解除できず、攻防を見守るしかできない。


 なぶるように黒い炎は私を攻撃する。私はだんだんとその勢いに翻弄され、ついには吹き飛ばされ、道路に転がる。


「なんて、強い憎悪……通常の人間ではありえない憎しみの炎……」


 道路に這いつくばりながら、ヤツの黒い意志の強さに打ちひしがれる。


 ……でも、負けたくない! こんなヤツの憎しみごときに!


「ふふふ……見えておろう、この黒い炎が。我が憎悪が具現化した地獄の業火が! イタコの力があればなおさら明確に見えたであろう」


 ヤツは私を見下しながら、信じがたい発言をする。私は一瞬言葉を失い、ヤツの顔を見上げるしかできなかった。なんでテロリストが私の能力を……。


「どうして私がイタコの力を持っていると……?」


 ヤツは一瞬目を伏せるがすぐに見下す目線になり、不敵に微笑みながら私に告げる。


「……いずれ、そのことの意味も分かろう。我が同胞はらから、否、我が娘よ」


 え……? 何……? なんて言ったの? 娘……?


 どういうこと? い……いや、身内にテロリストがいるなんてしならないわよ! そんなはずない! 目の前にいるのは魔導術士不俱戴天の仇、『反魔導術人民解放戦線』の頭目なんですから! 無いったら無い! 


「……わが下に来い、娘よ。今の腐敗した体制の下でその貴重な能力を浪費することもなかろう。お前の術はまだ未熟。されば我が下で術を磨け。我が下で術を磨かば本当の術の在り方、術士の在り方をこの腐敗した体制に対して示せるんだぞ。今の体制では魔導術士は食い物にされるだけだ」


 ちょ……ちょっと待ってよ。


 いったい何の話をしているのよ?


 反魔導術テロの首魁から魔導術修行のお誘いぃ? 本気で言っているの?


 貴方たちは一体、何がしたいの?


 言っていること、やっていること、名前、全部てんでバラバラじゃない! 本当に貴方たちは何がしたいのよ……。魔導術士が魔導術排斥テロを起こして、その首魁が市井の魔導術士をスカウト? 意味が分からない。


 今の世の中は世知辛くて、いいことばかりじゃないのはわかっているけれど、それをひっくり返してまで自分の力を誇示したいなんて思わない! 私の力は世の中をひっくり返すためにあるんじゃなくて、世の中を少しでも良くするためにあるの! 魔導術は革命ごっこのネタじゃない!


「今の体制では魔導術士は都合のいい時だけもてはやされ、必要のないときは蛇蝎のごとく嫌われる存在でしかない。そこには術士に対する配慮も敬意もない。そんな体制の下でもまだこの唾棄すべき体制を覆さないというか、娘よ。よくよく考えることだ。お前は心の片隅で術士に対する不当な扱いに憤っているはず。その怒りを術で示せ。我らと同じく怒りを術で示すのだ! 術士に対する不当な扱いを術で覆せ、娘よ!」


 ……言っていることは無茶苦茶なことだけど、なぜかあのバリトンボイスで語りかけられるとだんだん抵抗できなくなる。


 考えることもメンドーになってくる。


 いっそのこと……。


 ……


「杏ー、ヤツのペースに乗ったらダメ! 忘れないで、あいつらはテロリストよっ!」


 混濁した意識を覚醒させた叫び。


 考えることを止め、意識を手放しかけたところにまなみの叫びが聞こえる。


「へ……まなみ? どうして? 観客は?」

「大丈夫。ケーサツの人が安全なところへ誘導してくれたわ。そんなことより、ヤツよ、ヤツを排除するのが先!」


 観客の避難はケーサツの人に任せたらしく、まなみが私のそばによる。


 まなみの声に私は正気を取り戻す。そう私のすべきことは革命ごっこじゃない。目の前のこの町の脅威を排除すること! 


「……そうよ、今は目の前の脅威を取り除くことを優先しなきゃ」


 私はゆっくり立ち上がり、WADを起動させる。


「貴方が何者であっても、この街を傷つけ、この街の人を傷つける限り、貴方は私の敵! 私は貴方を排除します!」

さぁ、話が分からなくなってきました。

首魁の発言の真意は、いたりんはどうするのか?

次話を括目して待て!

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