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第35話 真夏の大乱 2

 警察からの依頼を確認するいたりんたち。話を進めるうちにおかしな話になる。戸惑ういたりん。その時まなみは!


 お読みください。

「はい、杏です。ああ、最上くん…え? え? ……わかった、すぐ戻るわ」

「どうかしたの?」

「事務所にケーサツから連絡があったんだけど……この後は事務所で……」


 最上くんからの電話は警察から連絡があったとの知らせだった。お仕事の依頼だったので急いで事務所へ帰ることにする。


 ……ただ、最上くんの話によると大っぴらには公表できない内容もあるとのこと。


 まなみもなんとなくその辺は感じたみたい。


 私たちは支払いを済ませ、車で海岸沿いの道を事務所へ向かう。


「依頼内容は?」


 私は事務所に駆け込むなり最上くんに尋ねる。


「次の花火大会を襲うと警察に犯行予告が来たらしいです。詳細は警察署でと連絡が……でも何か変ですよ、今回の依頼は」


 最上くんの話によると、花火大会の警備は通常通りで対テロ対策は私たちだけでやれとのこと。


 どういうこと? あんな人の集まるイベントで私たちだけでって……?


 最上君に聞いても先方がはっきり言わないのでよくわからないと困惑顔。しかたないので急ぎ、まなみの車で警察へ向かう。


「どういうことかしら、私たちだけでテロリストの相手をしろって?」


 まなみは愛車のギヤレバーを多少乱暴に操作する。私は右に左に揺さぶられながら思う。


「わからないな。いつものことながら、連中が絡むとおかしなことばかり起きるよね……何か呪われているのかしら?」


 運転中にもかかわらず、一瞬私の顔を見るまなみ。

 何か? おかしなこと言ったかしら?


「……現役のイタコが言うと洒落にならないセリフね。ま、呪いなんて信じちゃいないけど、確かにおかしなことが多いわね……ある意味、杏の言うこと正しいかもね。裏で事態を操る大タヌキが茶々入れているのかも……」


 まなみはそう言うと、大きくため息をつく。私も警察の思惑に皆目見当がつかず、車窓を流れる景色を眺めるしかなかった。そして、まなみの発言の最後のほうを聞き流していた。


 堤防の上を走る街の中心部へ向かう道すがら、警察の意図について考える。事なかれ主義のケーサツのこと、私たちだけにテロ対策を任せるということは、責任を私たちに押し付けて自分たちはおいしいところを持っていこうとしているんだろうか? それとも、何か他の意図でもあるというのだろうか? 考えても同じような考えがぐるぐる頭の中を駆け巡るだけで、ちっとも結論へ至らない。


「『下手な考え、休むに似たり』よ。とにかく警察へいって話をすればわかることなんだから」


 ……確かに……って、まなみにほんのりディスられたような気が。


「何、微妙な顔しているのよ? 情報がないところでどんなに妄想をめぐらしても真実へはたどり着けないわ」


 ん……その通りなんだけど、何か多少引っかかるものが。


「杏には向いていないことなんだから、そういうことは私に任せて」


 はい……って、やっぱり私のことを……!


 もう!


 微妙にディスられふてくされる私を横に乗せ、まなみは加速してく。少しでも早く真実に近づこうとするように。


――――☆――――☆――――


「どういうこと? わかるように説明してください!」


 警察署内にまなみの怒号が響き渡る。


 警察に着いて、担当者から話を聞いたが問題外! だって、本当に警備体制はいつもの花火大会の警備態勢でテロ対策はこっちに丸投げなんだもん! どういうこと?


「……警察としては、ことを大っぴらにせず内々のうちに解決してもらいたいと思っています。そういう前提で依頼を受けていただきたい」


 担当者は事務的に私たちに言い放つ。


「物理的に無理です! 可能な限り努力はしますが、モノには限度というものがあります。警察にも応援していただかないと」

「公共の安全を守る警察の協力無しにテロ対策はできませんわ」


 担当者に食い下がる私。まなみも同じように食い下がる。しかし、担当者は首を横に振るだけでこちらの要求には全く応じない。


「……そうは言われますが、今申し上げたことが警察としての正式な決定事項であり、この場で変更はできません。我々としても心苦しい点はありますが今の方針に変更を加えることはできないんです」


「……そちらの事情を考慮しないことはないですが、治安維持からするとあまりにも杜撰な話じゃないですか? 最後に責任を問われるのは私たちじゃない、貴方がた警察ですよ?」


「そうは言われましても、先ほど述べた条件で受けていただくしかないとしか申しあげられないのですが。個人的な意見を差し挟むのはおかしいのですが、私もこの案件に関して疑問は感じます。とは言え、本庁から直接指示されている以上、現場で勝手に変更とはいかないんです。その辺りの事情は汲んでいただきたい」


 私の突っ込みに担当者にも若干警備方針がおかしいと疑念を持っていることが伺えたので、もっと現実的な線で妥協できないか揺さぶりを入れてみる。


「とは言え、仮に対テロ対策をこっちでやるとして、警察のバックアップが何も無いとしたら、私たちは責任を持てません。いくらつまれたとしても警察がそんな対応なら、我々はお座なりの対応しかできませんよ。それで問題が起きたとしても、全責任は依頼した警察にあり、私たちは預かり知らぬことで通しますが、よろしいですか?」


 久々に事務所代表として仕事をした気がする。やっぱり言うべき時には言わないと……。

 かたわらのまなみは腕を組んで、座っている。


「……困りましたね。少しお待ちください」


 私の言葉を受け、担当さんは何か思いついたのか席を立つ。

 担当さんはどうやら上司のところで協議しているようだ。担当さんの上司は腕を組み、眉間にしわを寄せている。あまりいい雰囲気ではなさそう……。


 しかし、花火大会の警備、それも対テロがらみの事案は警察の本来任務であるはずなのに、何故丸投げなんだろう? どう考えても、話がおかしい。どこか怪しい権力者が圧力をかけたりしない限り、そんなことにはならないだろうに。


 しばらくすると、担当さんと上司がやってきた。


「……正直、警察内部の機密情報に抵触するですが、話さないわけにはいきませんね。実はテロリストたちの犯行予告には、名指しはしていないもののあなた方への挑戦と思われる文言があったんです。このことをマスコミに公表することは上から現に慎めとのお達しとともに直接かかわるなとの指示が来ましてね……後はお察ししただけるとありがたいのですが」


 現場の人の苦労はわかるけれど、そのゴタゴタをこっちに振られてもねぇ……内々のことは内々で解決してもらえるとありがたい。

 めんどくさいなーと思っていたら、まなみの表情が浮かない。


「……つかぬことをお伺いしますが、『上』とはどのぐらい上からの指示なんですか?」


 藪から棒にまなみが質問する。まなみさんなんでそんなことが気になるの?

 担当さんたちの顔色が途端に変わる。


 そんなに問題になることなのかな? お役所なんだから、『上』がどういう存在であれ、特に悩むことはないとは思うんだけど。とりあえず言うことをへいへいと聞いておけば何とかんなるんじゃないの? ……ならないか。


 私があまり意味のない考えをめぐらしていたら、私を置いてきぼりにして話が進む。


「……このことは部外秘中の部外秘なんですが……」

「依頼者の秘密は厳守しますわ、ご心配なく。私どもとしても依頼の背景を知っておけば、後でトラブルを避けることができるので、ぜひお伺いしておきたいですわ」


 まなみと担当さんたちとの間で話が進む。

 ……いつものように私は置いてきぼり。なんで?


「今回の指示は、私どもも詳しいことは知らされていないのですが、国の中枢部から異例の指示だそうです。こんなことは今まで聞いたことはありませんでした。今回は異例中の異例としか言いようがありません」

「……そう。国の……帝国の中枢部から……」


 まなみは絞り出すようにつぶやき、腕を組んだまま、天井を仰ぎ見、大きくため息をつく。


 はいっ! まなみセンセー質問です。お国の中枢部からの圧力ってどう言うことですか? よくわかりません……と手を挙げて質問したい。


「ですので、下手に現場で方針を覆せばどういう反動があるか……悪くすれば、私どものクビが飛ぶということも……」


 たとえ担当さんたちの首が飛んだとしても、こっちとしては責任が持てない。警察のフォロー、バックアップなしで、例年1万人近くの人が訪れる花火大会の安全を守るなんてムリムリ!


「そこを何とかできませんかね? 依頼料は何とかして色を付けるようにしますんで……」


 担当さんたちは私の説得が難しいと見るや、まなみを説得にかかる。今まで警察には吹っかけてきたけど、そこまで露骨に態度に出されると溜息しか出ない。


 まなみはまだ腕を組んで、眉間にしわを寄せ、うつむき加減で何か考えているようだ。


「お願いします。これからもひいきにしますから」


 私の存在は担当さんたちの眼中にはないみたい。まなみのほうばかり見て話すんだもん。事務所の責任者は私なのよ……。


「……色を付けると言われましたが、具体的にいかほど?」


 特に何も反応せず、じっとしていたまなみが口を開く。開いたのはいいが、開口一番なんてことを……!


「これぐらいでは……」


 担当さんは口に出すのが憚れるのか、電卓をたたき、提示する。


 まなみはその金額を見て、目を細める。


「ほう……この金額だと随意契約は難しいのでは? 下手をすると競争入札でないと契約できないような金額じゃないですか?」


 話がよく見えないので、私は電卓をのぞき込む。

 電卓に示された金額は丸がたくさんあった。


 一、十、百、千、万、十万、百万……千万…………………億?


 億ぅぅぅぅ…………!


 え? え? えぇぇぇぇぇぇー! この金額だったら、一軒家が軽く十軒は買えるじゃない! 高級車だって何台も買えるし、もしかしたら当分の間遊んで暮らせるじゃない! こんな金額……ど、ど、どうしよう……。


 警察などのお役所では一定金額以上は必ず会計透明化のため、競争入札をする。競争入札だとかなり時間がかかるので、緊急事態には対応できない。大した金額じゃない場合随意契約といって、お役所と特定業者が直接交渉契約する。こちらのほうが入札をするより早い。今回は緊急事態なのでお鉢がうちの事務所へ回ってきたんだろうけど普通じゃぁ、こんな金額を随意契約で済ませることは絶対にない。こんな大きな額を内々の話だけで済ませようなんて……警察が何を考えているのか、よくわからない。


「……大ぴらには申し上げられませんが、今回の依頼には政府のほうから機密費を支出してもよいとの打診をもらっています。なので警察としては表向きこの金額を『お支払いしていない』ことになりますが、お支払いに関しては保証いたします。さすがに出どころが出どころなので振り込みとはいきませんが……。カモフラージュのため一部、警察から別目的で支出した形にしますがそちらは振り込みになります」

「そう……」


 まなみはつぶやくように答えるとまた目を伏せ考え始める。


「となると、もう外堀は埋められているってわけね……」


 まなみは誰にむけて話すともなくぽつりとつぶやく。担当さんたちはわずかに一回うなづくだけで特に何も言わない。


 あの、すいません。約一名、状況把握してないのですが……誰か説明して。特にまなみセンセーお願いします!


 私が疑問符を頭の上で量産しているとまなみさんが口を開く。


「……その話、お受けします」


 まなみはまっすぐ担当さんを見据え、はっきりとそう宣言した。


 えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇー! 受けるんですか……?


 驚き戸惑う私を尻目にまなみさんはいつになく真剣な目をしていた。

さぁ、話がややこしくなってきました。いたりんたちはどうなるのか? 次回をマテ!

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