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第33話 いたりん大激怒

魔導術を大道芸化しもてあそぶ輩にいたりんの怒りが爆発する。


「杏っ! 待って!」


 私は不逞“魔導術士”に向かって走りだす。まなみが制止する声を振り切り、一直線に突っ込む。


「アンタたち、何やってんのっ! こんなところで術を行使して! 魔導術は大道芸じゃないんだからねっ! お天道様ご見逃しても、このアタシは見逃しゃしないよっ!」


 ヤツらの前で啖呵切ってやった。一瞬、何者が来たのかと目を見張るが何故か含み笑いを始める。


「WADを持っているところ見ると“同業者(お仲間)”か。それで何用です? こんなに術を有意義な目的で行使しているというのに。フフっ……」


 あによ! 何(わら)ってんの? あんたらに嗤われる覚えはないわ!


「警察から『不法に術を行使しているやからがいるので対処してほしい』って連絡があってね。今すぐ不法な術の行使をやめなさい! さもなくばあんたらを警察に突き出す!」


 なんでこいつらはこんなバカなことをしているんだろう? ぜんぜん理解できない。


 割り切れない思いを抱き、次の言葉を続ける。


「……術はもっとちゃんとしたところで行使するもんじゃないの? 大道芸みたいに見世物にするなんて……」


 市街地での術行使は法により原則禁止されている。正当防衛などの行使に値する事情がない限り、市街地での術行使は違法行為になる。当然、見世物として術を行使するなんて、だめ。


 古風な口上を述べていたヤツが嗤いを噛み殺しながら、反論し始めた。


「……『ちゃんとしたところ』だぁ? 魔導術を行使するのに『ちゃんとしたところ』なんてあるのか? それ以前に術を行使して良いことなんてあるのか? 今までの歴史を振り返ってみるがいい。先の世界大戦で我が国に勝利をもたらしたと言われているが戦地を見てみろ。未だ術による破壊から立ち直れていないではないか!――」


 そう、こいつの言うことは間違いじゃない。この国は世界を相手に戦争をした。それも国力が数十倍もあるような大国を含めた連合国と。


 結果から言えば連合国を打ち倒した。魔導術という連合国からすれば人智を超えた力で蹂躙した。


 その時の魔導術士たちは敵連合国の主要都市を壊滅した。戦艦や砲台に限らず、発電所、ダム、工場など戦争に直接関係するしないにかかわらずありとあらゆるものを手当り次第破壊しつくし継戦能力を奪った。


 その結果連合国を降伏に追い込み、この国は勝利した。しかし連合国に加盟した国々の傷跡はあまりにも大きく、終戦数十年たった今も必ずしも癒えたとは言えない状態にある。復興援助もしているが、感情的な問題もあって遅々として進まない。


 確かに歴史的にはそうなんだけど……。だからといって違法行為を正当化できるものではない。そんな破壊的な力だからこそきちんと行使しないといけない。だから魔導術行使は法に則ってするもので――


「――魔導術がもたらしたモノは破壊と悲しみだけなのは明らかだ! そんな術を世のため人のためになる使い方をしてやろうというのに、抗議をされる謂れは無い!」


 ずいぶん大きく出たわね。なんでアンタたちが勝手に判断するのよ。どう言い訳しようと違法は違法。ルールを守らない人はお仕置きしてあげるわ!


 私の憤りを煽るように、ヤツは更に続ける。


「よく考えても見ろよ。破壊しかもたらさない魔導術は大道芸以下だ。少なくとも、大道芸は人の心に楽しみなどをもたらすが、魔導術はそうではない。魔導術が人の心にもたらすモノは悲しみと絶望……そんなものだけだ。なら、大道芸として魔導術を行使することのほうがよっぽど適切な行使だ。違うか?」


 不法行使の上、この開き直り許せない。言い分は一見筋が通っているように聞こえるけど、よくよく考えれば身勝手極まりない。そんな身勝手な理由で法律を無視していい理由にはならない。


 ヤツの言葉を聞けば聞くほど、やるせない気持ちが高じてくる。あまりにもその気持ちが高じて、怒りに変わる。それも魂の底から湧き上がるような今まで感じたことのない怒り。噴火寸前の火山だ、今の私は!


「あなたの言う通り魔導術は破壊の力、人々に悲しみと絶望をもたらす力……かもしれない。でも、その力を見世物にすることは違う。この力は適切な場所、状況で使うものよ。街の秩序に従わず、ところかまわず術を行使するあんたらは間違っている!」


 怒りの感情が爆発して、言葉がほとばしりでる。こんなに頭にきたことは無かった。マグマのように怒りの言葉があふれてくる。


 しかしヤツはそんな私をせせら笑うかのようにニヤついてる。


「面白い。破壊の力を人々の楽しみや喜びのために使う我らが間違っていると言うか。……はははは、愚かな! 所詮魔導術士は破壊するためにしか力を行使しない! 街の衆、ここにいる魔導術士は自らを破壊者と宣言したぞ! 我らは人々の歓びのために術を行使しているにもかかわらず!」


 まるで勝利宣言のように周りの群衆へ訴えかける。とたんに周りの観衆がざわつきだす。中には不逞魔導術士の言葉に同調しヤジりだす群衆も現れ始める。


 ちょ……ちょっと待って。なんであたしたちのほうが非難されないといけないのよ。不法行為を現行犯で犯している犯人より悪いことしたんですか、私たちは!


 内心の動揺を隠しきれないでいると、次第に群衆の声が大きくなりヤツらがさらに煽る……その繰り返しでいつの間にか私たちは極悪人に仕立てあげられた。


「――我々の幸せを奪おうとする“不逞”魔導術士たちにご退場願いましょう! それではみなさんっ、はいっ! 『人を不幸にする魔導術を排斥しよぉー!』」


『人を不幸にする魔導術を排斥しよぉー!!』


「悪の魔導術士は出ていけぇー!」


『悪の魔導術士は出ていけぇー!』


「魔導術士は人々に奉仕しろぉー!」


『魔導術士は人々に奉仕しろぉー!』


……


 ヤツらはさらに群衆を煽り、私たちを排斥するためのシュプレヒコールまで始める。なんとも身勝手なシュプレヒコールは延々と続いた。


 扇動するヤツらもヤツらだが、簡単にあんな扇動アジテーションに乗ってしまうこの人たちもこの人たちだ。本当にはこの人たちはいったい何なんだろう……。


 私は手を腰に当て、呆然と扇動された群衆を見つめるしかなった。まなみも腕を組み、やるかたなく大きくなる騒ぎを見つめている。


 まなみは意を決したように一歩前へ踏み出し、群衆とヤツらに向けて宣う。


「貴方たちが正しいのなら、その証拠を見せなさいよ! 正統・・な魔導術士の正統・・な術行使だ……ってね」


 まなみの良く通るアルトボイスがその場に拡がる。その声はヤツらだけでなく群衆も一括し、一斉に声の主のほうを向く。


「証拠だとぉ……」


 私たちに対して優位なはずのヤツらが微かに動揺している。思いもよらない角度からの攻撃に戸惑いを感じているようだった。群衆も思わぬ声にただざわつくだけだった。


「そう、貴方がたが正当な魔導術士であるならば、許可証ライセンスを見せなさい。できるでしょ、“正規”の魔導術士ならね。簡単でしょ? フフフ……」


 まなみは小首をかしげながら、口元に笑みを浮かべるも、氷の視線でヤツらを射抜く。


 まなみの態度に戸惑いの色を見せる不逞魔導術士たち。


 まなみは徐にWADを操作し始めると、かすかな駆動音を上げ彼女のWADが駆動する。WADに装着された魔導石から燐光が放たれ、ぼんやり光の板が現れた。彼女のWADの上に何かの『許可』の文字だけはっきり見える許可証のような立体像が浮かんでいる。


 えっ? あれは……。まなみが何故あんなものを?


「これが“証拠”よ。貴方も持っているんじゃないの? 見せてみなさい、さぁ!」


 私は疑問を抱きつつ、事の推移を見守るだけだった。


 不逞魔導術士は戸惑うばかりで次の動きを見せない。ヤツらはお互い顔を見合わせるばかりで、立ち尽くしていた。そのうち群衆もざわつき始める。


 まなみは不敵な笑みを浮かべる。その笑みは見るものを凍てつかせるのに十分なほど凍てついた笑みだった。


「……フフフ。おバカさんねぇ。魔導術士のふりをするならちゃんと細部まで調べてこないと。私はねぇ……おバカさんが嫌いなの――」


 そのセリフが出たとたんに、まなみは異様な雰囲気に包まれ始める。怒りを不逞魔導術士に全力でぶぶつけるよう睨む。その姿は般若一歩手前だった。


「――私はねぇ、おバカさんは嫌いよ。それ以上に無知蒙昧な人々を扇動しはかりごとを企むやからが許せないの。貴方がた、この事態の責任を取ってもらいます!」


 気持ちはわからなくはないけれど。まなみさん、結構ひどいこと言っている……言うに事欠いて、『無知蒙昧』って……。


 群衆はヤツらから距離を置き、シュプレヒコールも止んだ。どうやら、ヤツらを疑いだしたらしい。その状況に今度はヤツらが動揺し始める。


「くそっ! こうなればっ!」


 ヤツらのWADが唸りを上げてフルパワーで稼働し始めた。

 直ちにヤツらの体が燐光を放ち始める。


「死ねやっ!」


 苦し紛れに術を行使する不逞魔導術士たち。ヤツらの腕から、どす黒い波動が放たれる。悪意を物質化したような黒い闇が津波のようにまなみを襲う。

 

 襲いかかる闇の奔流に対峙するまなみはまるで動じていない。

 むしろ、積極的に立ち向かおうとしていた。彼女は腕を組むようなポーズでWADを操作する。


「あまい! この責任、貴方がたの身体でとってもらいます!」


 ヤツらの発動した黒い波動をまなみの電撃が斬り裂く。更に悪意の塊の向こうにいるヤツらを狙う。


「ちっ……! 結構、厄介だわっ!」


 まなみの電撃はヤツらの足元を吹き飛ばすが、ヤツらは既のところで横っ飛びして回避する。若干、まなみも苛立つ。


「杏、手伝って! ヤツらの足を止めて!」


 まなみはヤツらの攻撃を回避しながら、私に援護を求める。


 任せて! ヤツらの足を止めればいいのね。


 私もWADをフル回転させ、氷撃を開始する。

 ヤツらに向かって、氷の刃が飛ぶ。

 ヤツらは私の氷撃も右に左に回避するが、そのせいで攻撃の手が緩む。


「……くそっ! 躱すのが……!」


 激しくやり合ったせいかヤツらに疲れの色が見える。段々と私たちの攻撃を回避せず、防壁を形成し防いだり、受け流すようになってくる。ヤツらは肩で息をしていて、明らかに疲労している。


「そろそろ終わりにしてあげるわ。体の心まで痺れさせてあげる!」


 まなみが電撃の鞭でヤツらを拘束する。


「ぐごあぁぁぁぁー…………」


 電撃の鞭に拘束され、ヤツらは断末魔の叫びにも思えるこの世のものとは思えない叫び声を上げ、倒れた。


「……終わりね」


 まなみがそうつぶやくと、どこからともなくパトカーのサイレンが聞こえてきた。どうやら、騒ぎを見て群衆の誰かが通報したらしい。


「とりあえず、ケーサツにヤツらを引き渡せば一件落着ね」


 まなみはそう言うと、親指を上げる。その時には見慣れた笑顔だった。ここしばらく見ていない顔だった。流石のまなみも大捕物の後は気が抜けたか。


 まなみはそれで気が晴れたかもしれないが、私はそうじゃなかった。


 まなみがみせた“許可証” ―― あれはただの魔導術行使許可証じゃない。普通の魔導術士なら取ることのない許可証。


 『特別魔導術行使許可証』


 主に市街戦に特化した特殊部隊に所属する隊員に与えられる許可証……例えるなら一昔前の00(ゼロゼロ)ナンバーなスパイが持っていたという“殺人許可証”。


 いったいまなみは……。


 まなみに対する疑念の闇はなお一層深くなるばかりだった。

いやぁ、いたりんまさに怒髪天をつく状態でした。

それよりなにより、まなみさんに対する疑念がますます強くなっています。

これからどうなることやら。

次話お楽しみに。

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