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第30話 新たなる脅威

 潜入先の事務所で男がいたりんたちを恫喝する。しかしまなみが返り討ちにする。かなわないと事務所を飛び出した男は……

「何者なんだ、お前たちは! 勝手に人の会社の事務所に入って、何をしていたんだ!」


 男は怒気も露わに私達の行為を咎める。


「あら、心当たりがないとでも……?」


 この場に似つかわしくないほどにこやかにまなみが答える。そのことが彼を刺激する。


「何を言っているんだ、この犯罪者! そこを動くな。警察へ連絡するからな!」


 それでもまなみは動じない。


「どうぞご自由に。むしろ手間が省けて有り難いくらいですわ。何をなさっているんです? さあ、お早くどうぞ?」


 あらら……そこまで言ってしまっていいんだろうか? どうなっても知らないぞ……。


 しかし、男は動かない。まんじりとこちらをにらみ、何故かなかなか警察へ通報しようとしない。


「何をなさっているんです? 反魔導術デモの裏方さん。それとも、警察が関わると何か問題でも? ふふふ……」


 まなみは大胆にも単刀直入に切り出す。まなみに直球勝負を挑まれた男は次第に汗ばみだす。


「……仮に『反魔導術デモ』とやらの裏方だったとしても、お前たちを警察へ突き出せば、罪に問われるのはお前らだぞ。それは分って言ってるんだろうな?」


 押され気味の男も負けじと反論する。しかし、まなみは動じない。


「普通なら、仰る通りですわ。普通ならね……ふふっ」


 不敵に微笑むまなみに男はいら立つ。男のいら立ちを逆なでするようにまなみは話しを続ける。


「実は件のデモの背景を調べたら、いろいろ面白いネタをネットで拾うことができましてね。それに最近ネット界隈でいろいろ騒ぎを起こしているお馬鹿さんが跋扈しているんで、ちょっとある仕込みをしてみたんですの」


 男の右眉が僅かに痙攣する。まなみはそれを確認し、密やかに不敵な笑みを浮かべ続ける。


「そうしたら、余計なちょっかいをかけてきましてね、そのお馬鹿さん。少々お灸を据えて、IPアドレスを追跡したら、なーんとこの会社にでくわしたんですの。ふしぎですわねぇ」


 まなみは白々しくかなり大げさな話し方で、男を挑発するように話し続ける。どうやら、それはかなり効いているようだった。男は拳を握り、身体を僅かに震わせ、内なる衝動を必死に抑えている様子が見て取れる。


「……さっきから聞いていれば、お前らはかなり法を犯しているみたいだな。そんなお前らが善良な市民の俺を警察へ突き出せるのか? できまい。できるはずがない。そんなことをすれば、お前らも身の破滅だぞ」


 男は精一杯虚勢を張り、まなみを脅し返す。しかしその程度で、まなみを脅し返すことなど不可能だった。


「そうね貴方の言うとおり単なる『善良な』市民だったら、私たちの手が後ろに回るわ。でも、テロ組織とのつながりを示す証拠があったらどうでしょう? 警察内ではテロ組織潰しに躍起になっていますわ。そこへ明確な証拠を示したら、どうなるかしら……?」


 男は再び押し黙る。まなみはあいも変わらず、不敵な笑みを浮かべ、話を続ける。


「テロ案件ならば、いくら警察でも手段を択ばないんじゃなくて? 資料提供と引き換えに司法取り引きすれば、不法侵入や不正アクセスなんて微罪を不問にするだけで、大きな手柄手に入る。こんな割の良い話、いくらお硬い警察でも無視するようなことはありませんわ。という訳でこちらも忙しい身なので早く呼んでほしいですわ、警察を。おかげで反魔導術テロ組織との関わりを示す資料を警察へ提出する手間が省けます。どうなさいました? お早くどうぞ? ふふっ……」


 完全に勝負あった。男に反論する余裕はなかった。


「……こういう状況って、『年貢の納め時』って言うんじゃなかったかしら? さあ、どうなさいます? もっとも貴方の選択肢はほとんどないでしょうけど。ふふっ……」


 まなみはとどめを刺す。男は顔を紅潮させ、歯を食いしばり、体全体で悔しさを醸し出している。


「……くっ、もはやこれまでか…………死なばもろともだ! お前らも巻き添えにしてやるっ!」


 追い詰められた男は自棄を起こし、襲い掛かってきた。


「おっと! そうはさせない……ぜっ!」


 男とまなみの間に最上くんが割り込み、男の目論見をくじく。


「このクソガキがぁ!」


 男は勢い良く振り上げた拳を最上くんめがけて振り下ろす。しかし最上くんが余裕で横へ受け流した。その拳は空を切り、男は態勢を崩す。


「ろくに鍛えてないオッサンが急に激しい運動をすると明後日が怖いですよ。まずはゆっくり体をほぐさないと。貴方はそんなに若くないですよ」


 最上くん、さすが軍人の卵。そこら辺のオッサンとは鍛え方が違う。


 襲いかかる男をマタドールのように余裕で右へ左へさばく最上くん。男の息が上がっているのに彼はまるで準備運動ウォームアップがすんだばかりのよう。


「クソッ……お前ら、一体何者なんだ? “幼気いたいけな”市民をいたぶりおって……」


「オッサンが使っちゃまずいでしょう、『幼気』なんて。どう見ても、貴方が『幼気』に感じる人なんていないんじゃないの?」


 最上くんが珍しく他人の発言に突っ込んでる。最上くんをしても、看過できない発言だったか。さすがに五十路を乗り越えたような人に使っていい形容詞じゃないわなぁ、『幼気』は……。


「ちっ……! どうでも……はあ……いいんだよ……ふう……そんなことはっ!」


 男は息も絶え絶えながら、まだ抵抗しようとあがく。足はもつれもつれ、振り上げた拳はフラフラだったが。


 最上くんは踊るように男の抵抗を余裕でさばく。


「歳も歳なんだし、もう少し体を労ったほうがいいんじゃないの、オッサン。どう見ても、フラフラで立っているのがやっとじゃないの?」


「う……うるさいっ! クソッタレが!」


「準備運動は十分でしょ? 忙しいんで、早くして欲しいんですがね」


「ちっ……! 覚えてろ、吠え面かかせてやる!」


 オッサンはそう捨て台詞を残すと、踵を返し一目散に出口へ走った。


「え……? どこへ?」


 オッサンの突然の行動に最上くんが拍子抜けする。


「チっ……逃げられたか。まあ、いいわ。最上くん、撤収するわよ。撤収次第、あのオッサンを追うわ」


 まなみの指示が飛ぶやいなや、最上くんは撤収準備を終え、すぐに移動できるようになった。


「……杏、行くわよ」


 そういうとまなみは最上くんを連れ、ビルの階段を降りていった。


 結局、何もしない間に事態が進んでしまった。私って、単なる傍観者でしかなないのね……。


 仕方なく先に出た二人のあとを追っかけ、事務所を後にした。


――――☆――――☆――――


 夜の帳が下りた街は静まり返り、街灯だけが道路を煌々と照らしている。その光の列は夜中という時間のせいか、葬送の列に思えた。


「どこへ行ったのかしら? そんなに遠くへは行けないはずなんだけど……」


 まなみは辺りを見回しながらぼやく。その後を最上くんが追っかけていたが、さすがにがそこは軍人の卵、抜かりなく周囲の警戒を行っている。


 私も周囲を見回しながら、二人を追う。


 とは言うものの、街灯の墓守がビルの墓標を守っている光景が続くだけで、まるで代わり映えしない。


 道の先に走る人影を見つける。こんな時間にいるなんてちょっと怪しい……。あのオッサンかな?


 あれ? 横道へ入った! 


 チラッと見えた横顔は事務所のオッサンそっくり! 多分間違いない。


「ナイス、杏。最上くん行くわよ!」


 私たち三人はできるだけ足音を立てず、何者かが入った横道を目指す。私が先行し建物の影から、私はそっと覗きこむ。


「あ! いた! ……え?」


 てっきり、さっきのオッサンだけかと思っていたのに……。


 暗闇に浮かぶ人影は件のオッサンだけではなく、明らかに三つ見えた。


 思わず建物の影に身を隠す。不思議そうに見つめるまなみがいた。


「杏、どうしたの?」


 まなみも私と同じように覗きこむ。


「何か話しているみたい……」


 私たち三人は聞き耳を立てる。他の二人がオッサンを問い詰めているような雰囲気。オッサンは何か弁解しているよう。


 状況がよくわからないのでもっと近づいてみることにした。


「杏、大丈夫なの? こんなに近づいて……」


 まなみがささやくように私に聞く。


 今までさんざんやりたい放題しておいて、何をいまさら……。


「『あたって砕けろ』よ。遠巻きに見ててもしかたないじゃない」

「……でもね、杏って肝心なときに想像もしないようなことをやらかすから……」


 むっ! 法律無視上等なまなみに言われたくないわっ! 貴女ほど無茶なことしてないし。少なくとも、法に触れてないし、金と権力で正当化してないし。


 などと、まなみの発言に無駄に反発していたら、何か声が聞こえる。丁寧な言い回しだが、恐ろしく冷淡な声が。


「……貴方の役目は終わりました。報酬をお支払いしましょう。永遠に覚めることない『安息』を」

「え……? まっ……まて、まってくれ! やめろ! やめてくれ……やめてくれぇー! ぐぎゃぁぁ……」


 男が突然逃げ出そうとした瞬間、強烈な雷撃がオッサンを貫く。獣のような断末魔の声を上げ、黒こげになったオッサンはその場に倒れる。


「な……何、何が起きたの?」


 私は思わず声を上げる。その声に気が付いたのか、オッサンを黒こげにした二人組はこちらにゆっくり向き、近づいてくる。まなみは即戦闘準備に入っていた。その二人組は怪しい新興宗教で使ってそうなフード付きの灰色の外套をまとっている。深々とフードをかぶっているので、表情はおろか、男女の区別もつかない。


「これはこれは珍しいお客さんだ。お初にお目にかかります。我々は『反魔導術人民解放戦線』を取り仕切るものです。魔導術士のお嬢さんたち、以後お見知りおきを」


 二人組の一人は慇懃なあいさつをする。どうやらその声から、それなりの年齢の男のようだ。


 不思議……初めて聞くはずなのに、はじめてな気がしない。遠い昔にその声を聞いたことがあるような気がする。どこか哀愁に満ちたバリトンボイス。どこかで……遠い昔……。


「幹部のお出ましとはご丁寧なこと。調度いいわ。まとめて警察へ送って上げる!」


 まなみはそう言い、二人組に攻撃を仕掛けた。まなみはありったけの電撃を二人組へぶつける。


 激しい稲妻の嵐が二人組を襲う。電光が辺りを青白い光で満たされる。青白い電光に照らされ、影が長く伸びる。


 しかし、二人組は全く動じない。動じないどころか、もう一人が左手を挙げ、こともなげに、まるで小雨に濡れた外套の雨粒を払い落とすかのようにまなみの電撃を受け流す。


「あらあら、血の気の多いこと。若いって羨ましいわ。でもその程度の術で我々をどうこうできるなんて思わないでね」


 その声の主は女性のようだった。まなみの電撃を余裕で受け流すことから考えて、相当な魔導術の使い手であることは間違いない――え……? ということは反魔導術組織の幹部が魔導術の使い手? どういうこと?


 でも、私の驚きはそれだけじゃなかった。そのアルトボイスに何か感じるものがあったからだ。さっきの男のほうと同じような郷愁にも似たこの感覚……いったい何?


「まだまだ、未熟! 次にまみえる時まで精進せいよ。サラバだ!」


 二人組はそう言い残すと高笑いと伴に消えていった。

 偶発的とはいえテロリストの親玉と接触したが、その実力は脅威としか言いようがない。


 その上、様々な謎が湧き上がり心の中は大嵐の中にあった。私はスポットライトのような街灯の光に照らされ、立ち尽くすだけだった。

 なんと、いきなり親玉が現れました。いたりんたちはさらなる脅威と戦うことに! 次話を括目して待て!

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