表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
30/59

第29話 潜入……?

 杏とまなみは駆けずり回る。

 そのうちに調査部からとある資料がもたらされる。その資料を見たまなみは良からぬ動きを……


 

 まったく……。


 昭和の刑事モノじゃぁないんだから、なんでここまで足が棒になるまで駆けずり回らないといけないのよ……。


 調査部の調査結果を待つ間、まなみに付き合って色んな所をかけずるはめに陥り、ここ二、三日歩きづめに……。久しぶりにこの身体からだに付いている二本の脚は移動に使うものだということを再認識した。とはいえ……。


 恨みがましくまなみを見つめると、まなみが私の視線を感じ、『心外な』と言わんばかりの表情になる。


「何? 何か言いたいことでもあるの? 滅多に本来の機能を使ってないものを、しっかりと活用する機会をあげたんだから、感謝しなさい!」


 妙に強圧的なリアクションが……。思わずひるんでしまう。


「とお嬢様(まなみ)は宣ひける…………我、泣き濡れて、浜辺のカニとたわむる……」


 ……と、とっさにごまかしてみる。何となく旗色が悪かったので。


「訳のわからないどこかで聞いたようなセリフで誤魔化さない! まだ、連中の尻尾をつかんだわけじゃないんだよ」


 ですよねぇ……。


 しかし、こっちの思っていることがまなみにだだ漏れしているようだ。

 こちらの思っていることが向こうに読まれる前に先手を打っておこう。


 ちょっと気になったことを聞いてみた。


「ところで、何を探すために駆けずり回ったのでしょう……?」 

「一つには、牽制ね。私たちが嗅ぎまわっていると知ればヤツらの活動に一定の歯止めがかかるわ。もう一つは、地理の把握ね。ヤツらがこの街のどこへ逃げまわっても、追い詰められるように。そんなところかしら」


 思ってもみなかった答えに、一瞬目が点になる。慌てて、まなみに聞き直す。


「ということは証拠集めをしているとかそういことじゃなくて……?」

「当然証拠集めはするわよ。ただ証拠を集めているっていうより、結果的には牽制していることになるってだけよ。ただ無駄に駆けずり回ったんじゃないんだから、いいじゃない。

 ………………何、不満そうな顔してるの? 無駄なことをしているんじゃないから、文句言わないの!」


 無駄に駈けずり回されたと思ってふてくされたら怒られた。

 なにゆえにここまで怒られなければならないのかと小一時間は問い詰めたい気分……。


 そんな私の気持ちを察したのか、まなみはトーンダウンし、言葉を続ける。


「……ま、本番はこれからよ。それまでは我慢しなさい」

「我慢しろって言われてもねぇ……」

 

 こんな状態がいつまでも続くかと思うとゲンナリ。個人的には、サッサと終わらせたいんだけどなぁ……。


「……とやかく言わないの。うちの調査部を信じなさい。下手な諜報機関より優秀なんだから」


 まなみはそういうと人差し指を自分の口に当ててウインクする。


 ……私相手に媚び売ってどうしたいんだろう? 


 私の疑問に答が帰ってくることはなく、まなみはスタスタと前を歩いていく。


 どこからともなく、着信音が聞こえる。まなみのスマホが震えている。


「はい、私です。お疲れ様です……そうですか……ありがとうございます。では」


 電話を切った途端、黒い笑みを浮かべるまなみ。


 ということは……結果が?


「いったん事務所へ帰るわよ。調査部が何かつかんだらしいわ」


 私たち二人は小走りで事務所へ向かう。


――――☆――――☆――――


「あ、姐さんお待ちかねのモノが来たみたいですよ」


 事務所で留守番していた最上くんがとある男性をまなみに引き合わせる。


「……それでこれがその資料ってわけ? 見せて」


 どうやら、その男性は調査部のメンバーのようだった。まなみは事務所で男性から資料を受け取る。彼女は資料を見ながら、考える目をする。


「面白い。結構いいネタね。ありがとう」


 男は特に何も言わず、そのまま事務所を出て行った。


 どんな資料をもらったんだろ? 興味津々でまなみの持っている資料をのぞき込む。


「あ? 見る?」


 まなみが資料を見せてくれた。


「何、こ……これ……」


 渡された資料を見て、愕然とした。

 資料には件の出版社の通話記録やネットの接続記録などの警察などでしか集められない秘密情報の目白押しだった。こ……こんな資料を集めていたのか……。


 完全に法律に触れるネタじゃないの!


「まなみこれ大丈夫なの? 完全に法律に触れるネタじゃない……」

「大丈夫よ、内々に調べたネタだから。うちの諜報部に限ってヘタこくことはないわよ」

「い……いや、そーゆーことじゃなくて、法律に触れているのよ。犯罪なんだよ、は・ん・ざ・い!」

「大丈夫だって。イザとなれば、この資料をまるまんま渡して免責の司法取引すればいいのよ。それで万事丸く収まるから。よくある話よ、何の問題もないわ」


 いつもながら、まなみの辞書に法令順守コンプライアンスという言葉ははあるんだろうかと不安になる。こんな調子だと、『コンプライアンス? 何それ、新しいお菓子?』などとのたまいかねない。


 でも、どうしてそんなに危ない橋を渡りたがるのだろう? マスコミなんかにこのことが流れたら、魔導術士の評判だけじゃなく、まなみ自身の評判にも直結するのに……。


「何、心配しているのよ? 大丈夫、うまいことやるから。金と権力と頭は使いようってね」

「いや、そういうことじゃなくて。本当に心配しているんだよ? 何をそんなに焦っているかしら? 危ない橋ばかり渡っていると、そのうち……」


 やや上目使いで、まなみを心配して見つめた。


「本当に大丈夫だって……それに……時間がな……」


 まなみは途中で言葉を切り、首軽く左右に振り、うつむく。そして少し間があって、何か決意するように次の言葉を重ねた。


「………………ねぇ、杏ぅ……ゾクゾク……しなぁい?」


 何かとてつもなく嫌な予感がよぎるんですが……。


「危ない橋を渡るって……ふふふ……」


 まなみの言葉に背筋が凍った。彼女の表情は、もし雪女がいたらこんな顔なんじゃないかというほど鬼気迫る冷たい凍てついた微笑えみを浮かべている。いつもならまなみを煽る最上くんも苦笑いして、若干引いている。


 ……もっもしかしてまなみは真正のど変態に……? 


「さ、いくわよ。こんなところで無駄話してる暇なんてないから」


 そういうとまなみはいつもの表情に戻り、事務所を出ていく。私も彼女に遅れないようついていった。


――――☆――――☆――――


「まなみ、もしかして直接乗り込むの?」

「そんなところね。どうせ、遠まわしに話を聞いてもはぐらかされるだけだろうし……」


 そんな話をしつつ、件の出版社へ向かう。すでに夕刻、日は水平線の下に落ち、夜の帳が落ちた街を歩く。


 出版社の入ったビルはすでに人が出払ったのか照明はすべて消えており、宵闇に紛れ夜空にそびえていた。


「誰もいないみたいね。出直す?」

「好都合よ。ちょっとお邪魔させていただきましょう」

「……え?」


 まなみは何のためらいもなく、ビルへ入っていく。


「ちょっと待ちなさい、待ちなさいって、まなみ!」


 私は彼女を追いかける。その私を追い抜く影があった。


「最上くん、準備はいい?」

「Yes、Ma'am!」


 いつの間にか私たちに追いつき、私を追い抜いた最上くん。彼は抱えてきたボストンバッグをまなみに見せつけるように掲げる。


 何をするつもりなの……?


 二人は訝しがる私をよそにビルの階段を昇って行く。二人に追いつくと、彼女たちは出版社の扉の前で何かしている。


「何しているの? まなみってば!」

「しー! 大事なところだからっ!」


 私が声を荒らげ、二人の行為を咎めようとしたが、逆に二人に咎められた。


 まなみたちは手術に使うような薄手のゴム手袋をはめ、ボストンバッグから手のひらにのるぐらいの機械を取り出す。まなみがいつの間にか取り出したマグライトでドアノブを照らす。そのドアノブの下に、最上くんが手のひらサイズの機械を取り付ける。


「……ちょっと、何しているのよ……」

「しー!」


 ……また、二人に怒られた。


 そうしている間にドアノブの下につけた機械のLEDが点滅し始め、軽い金属音がする。


 まなみはドアノブに手をかけ、軽く回した。カチッという音を立て、ごく簡単に扉が開く。

 部屋の中は、当然のごとく暗かったが、窓からわずかに街の光が入り、机やパソコンなどのシルエットが仄かに見える。向かいには別の扉が見える。

 私にはそのシルエットが、息を潜めて獲物を狙う魔物のように見えた。その上、向かいの扉から、何か飛び出してきたらと、たまらなく不安になる。

 しかしまなみはそんな私の不安などお構いなく、部屋の中へ進む。


「……本当に誰もいないみたいね」

「セキュリティーは大丈夫なの? 明日の新聞に『魔導術士、不法侵入で逮捕!』なんて、のりたくないわよ!」

「大丈夫、さっきの機械でセキュリティーは解除したから。ここの人が来ない限り誰も来ないわ」


 おっかなびっくり、中を伺うように部屋に入る私に対し、最上くんは若干警戒して入る。まなみにいたっては堂々と大股で部屋の奥へ進む。


 だっ……大胆な。どうしてそこまで堂々できるのか……?


「さ、あまり時間がないわ。証拠になりそうな資料を洗いざらいかっさらうわよ」


 そう宣言したまなみは手近なパソコンを立ち上げ、ファイル検索を始める。最上くんは他のパソコンからデータを吸い出すためバッグに入っていた機械をパソコンにつなぐ。


 また二人でいろいろやっちゃってるわ……。


 まったく、いつでもどこでも二人で、いちゃこ………………


「杏、何してるの? ぼーっと見てないで、誰も来ないか見張っていてよ!」


 まなみにまた、考えを読まれたのでわ……?

 まなみってもしかしてニュー○イプに覚醒したとか?


「杏!」


 はいはいっ! わかってますよ、ちゃんと見はりますから。


 と言いつつ、入り口を警戒する私。


 作業を始めて数分、まなみたちが手を止める。


「……あらかた、ブツは手に入れたし、引き上げましょう」


 そういうと撤収準備に入るまなみとその他一名。


 その時、突然部屋の照明が明るくなった。同時に、入り口の真向かいにあった扉が激しく開かれる。


「何をしている! お前たち、何者だ!」


 扉の向こう側から、中年太りしたおやじが表れ、私たちを一喝する。まるで地獄からの雄たけびを聞いたような……。


 虚を突かれ、私は何もできず固まってしまった。

 ますます、行動が怪しくなるまなみさん……(^▽^;)

 杏は、まなみはどうなるのか!

 次回ご期待ください。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ