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第2話 国家魔導術士 参上 2

警察へやってきたいたりんとまなみさん。依頼者にあって依頼内容を確認するが……。お楽しみください。

※2日間連続2連投の3投目です。

 私たちは警察署内の入口受付付近で依頼者を待っていた。


 どうもケーサツってなれないのよねぇ……。ケーサツの人って目つき悪いし、とっつきにくいし……。

 内心ドキドキしながら、名刺の人物を待っていると、とある男性がこちらに歩いてくるのが見えた。


「お待たせしました。今回の事案担当で依頼した蔭山かげやまです」


 ナイスミドルなおじさまだ。オールバックも嫌味がないし、スリムなスーツも結構いけてんじゃん。もっとこうなんていうか、デブっとした脂ぎったおっさんが出てくるのかと思った。

 あれ? 手に包帯? 大捕物でもしたのかな?


「いたりん魔導術士事務所の桜庭まなみで、こっちが一応、当事務所代表の板梨杏です」

「お世話になります」


 ……余計なことを考えていたら、まなみがさっさと大人な対応をしていた。

 ところでまなみさん、『一応』って何よ、『一応』って……。いかん、事務所代表の威厳が……。


「それで、ご依頼の件ですが、詳しい話をお聞かせ願いませんでしょうか?」

「分かりました。こちらへどうぞ。ここではなんですので、別の場所でお話します」


 まなみが率先して話を進めるので、私は口を挟む隙がない。

 まなみさん、私を置いて行かないで……。


「こちらです」


 会議室に案内され、今回の件について説明を受けた。

 蔭山さんの説明はマスターに聞いたことと殆ど変わらず、特に目新しい話はない。この話のとおりなら特に危険はないような気がする。


 彼の話がマスターから聞いた話のまんまならね。


「それではモノを見に行きますか」


 そう言うと蔭山さんは立ち上がる。私達もそれに続いた。


 蔭山さんは拾得物保管室の前に立ち止まり、戸を開け入っていった。

 私達も中に入ると中にはいろいろな品物が部屋の奥まで続く棚に保管されているのが見える。

 

「問題のものはこちらです」


 そう言うと彼は一振りの短刀を奥から持ち出した。

 私はその短刀に見入る。

 それは長さが一五センチほどの螺鈿らでん細工の入った黒光りする品のいい鞘に入っていた。

 結構、いい仕事している。何か引き込まれるようなオーラを感じる。それと、何か物悲しい雰囲気も持っている不思議な短刀だな。


「これが例の夜泣きする短刀ですか?」


 私は彼に尋ねた。


「そうです。夜勤の者から繰り返し苦情が来るので何とかしないといけないと思うのですが、残念ながらこういうことは我々の専門外ですので……」

「夜泣きする以外に、何か変わったことはありませんか?」

「変わったこととは?」

「例えば、この短刀を手にした人の性格が突然変わったとか……」

「……んー、特には……。いや、何もないですよ、夜泣き以外は、はい」


 何か奥歯に物が挟まったような歯切れの悪い答えだな。どうやら、何か他に外部に出せないようなことがあるな。ま、それを追求するのは私の仕事じゃないけどね。


「……お任せください。こういう事態の解決のために私達がいるのですから」

「お願いします」

「それじゃ、ちょっと簡単に視させてもらいますね」

 

 そういうと、私とまなみは手甲形をした魔導術補助装置WAD(Wizardry-phenomena-manipulation Assistance Device)を取りだし、左手に装着した。


「それは何ですか?」


「これは魔導術を行使する時に使う補助具です。国家魔導術士の身分証明章兼魔導術行使許可章でもあり、魔導術士の『桜の大紋』みたいなものと思っていただければ……」


「成る程ねぇ。こんなものが……」


 なんだろうなこのいぶかしげな視線は……。魔導術士をどっかのインチキ拝み屋か何かと思っているのかな、この人は?


 本家本元のイタコに対して失礼な!


 ……それはさておきとりあえず、先にやることやろう。


『万物に普く宿る万能の力よ、我に助力を。その短刀に秘めし真実を我の前に明らかにせよ』

 WADに集中し、思念波を込める。

 WADの手の甲にある魔導石がにわかに反応し、ほのかに光を帯びる。少しするとWADの光が短刀へ向かう。思念波が短刀へ向け放たれた。

 私は短刀にまとわりついている魔導素子の反応を見る。


 短刀が反応した。

 まとわりついた魔導素子が物悲しくも禍々(まがまが)しい、ひどくくすんだ赤紫色を呈してくるのを確認する。それと同時にWADを通じて持ち主の感情が流れこんでくる。


 この色は……悲しみと苦しみと憎しみの入り混じった……。なんだか、ひどく胸をしめつけられる。

 こんなに色になるのは余程の事……。

 極限まで追い込まれ、希望を絶たれたような絶望的な色……。


 ……持ち主は殺された?


「……」

「どうでした。何か反応は……?」


 私は蔭山さんに赤紫色に呈色したことを告げ、この短刀に非常に強い悲しみと恨みの念が込められていることを告げる。


「……。この短刀にそんな念が……」

「何か思い当たることはないですか?」

「……。いえ、特には……。警察は……いろんな人の恨みを買いますからね」

「そうですか……」


 何かうまくはぐらかされた気がする。


「ところで、この短刀の念だけ取り除く事はできないのですか?」


 蔭山さんは冷たく事務的に言い放つ。

 私は驚き、思わず蔭山さんを見つめ言い澱む。こんな強い念のこもった短刀を解呪だけするなんて、できない。


「……できなくはないですが、それでは……この短刀の念はどうするんですか? これだけ強い念だと恐らく刑事事件、それも殺人の可能性があります。」


 私は納得できなくて、蔭山さんに食い下がった。これだけ強い念だと、持ち主が殺されている可能性が高い。きちんと警察で捜査してもらわないと。

 しかし、蔭山さんはさらに冷たく言い放つ。


「我々警察の望むことは今起きている異常事態が解消されることです。この短刀にどういう思いが込められようと警察が関知するところではないし、あなた方の仕事はこの異常事態を解消することであって、この短刀に込められた念を成就することではない……違いますか?」


 反論できない。蔭山さんの言うことはかなずしも間違っていない。なんか悔しい。でも、この短刀に込められた念は尋常なものじゃない。解呪はできるけれど、それで全て終わりにしてしまうなんて……。あまりにも乱暴で強引過ぎる。


「……分かりました。さっそく作業にかかります」


 え? まなみ何を言っているの? そんなコトするつもりは……。


「私達は国家魔導術士。任務はきちんと果たさないと! 法律に触れるわよ!」


 わかっているけれど……。私はイタコでもあるの。これだけの強い思いを前に何もできないなんて。


「気持ちはわかるけれど、今は我慢して。お願い……」


 ……納得いかないけど、私達国家魔導術士なのよね。

 わかった。やるわ。


「……ところで、蔭山さんその手はどうされたのですか?」


 え? 突然、まなみさん何を……?


「え? いっ今、関係ないでしょう……このことは」

「てっきり、その短刀で切りつけられたのかと思いまして」

「いっ……いやそんなことは……。あるはずないです。どこからそんな話を。ははっ、魔導術士さんは想像力が豊かですね」


 蔭山さんは明らかに動揺してきた。どうやら、図星らしい。

 もしかして、まなみは例の刃傷事件記事との関係を疑っているのかしら?

 それとも、強引に幕引きをしようとする背景に探りを入れているのかしら?


「ま、私たちには関係ない話ですが、これだけ強い念がこもっていると短刀から取り除いたとしても念そのものが完全に消え去る保証はありませんよ」

「なっ……! そんなことがないようにするのが君らの仕事でしょう!」

「確かに短刀から念を取り除くのは私達の仕事です、仰るとおり。ただ、その後のことは私達の関知するところではないですから……。私達の仕事は短刀から念を取り除くことですので。――あなたの言葉通りね。それでもよろしければ早速とりかかりますが?」


 まなみは蔭山さんを脅している。まなみのこういうところ怖いわぁ……。


「くっ……。早いところやってください」

「……わかりました」


 どうやら、まなみ対蔭山さんの精神戦はまなみの優勢勝ちで終わったみたい。まなみの口元が微妙に上がっている……。こわいよ、まなみさん。


「それでは解呪を始めます。……蔭山さんは少し下がっていてください。万が一のことがあるといけませんので」


 私もまなみの話に乗っかり、多少脅しを入れてみる。

 彼は思わず後ずさりする。やっぱり、何かあるみたい。

 私は頭の片隅で、そんなことを思いながら、WADに思念波を込める。手の甲の魔導石が反応し、仄かに光を帯び始める。


『このモノにきし、荒ぶる魂よ。我が意に答え、自らの呪縛を解き放て』


 WADから放たれた光が短刀を包む。短刀がカタカタと音を立て、振動し始めた。その振動は次第に激しくなる。


 ごめんね、いい子だから抵抗しないで。あなたの思いはいつか晴らしてあげるから。


 なおもWADからの光に抗うかように振動し続ける短刀。少しずつ、振動が大きくなっていく。


 大丈夫、私を信じて。あなたはもうヒトじゃないのよ。思念波と魔導素子が創りだした“思いの残像”なのよ。このままいれば、あなたは同じような思念波を集めて憎しみを増幅してしまう。そして最後には怪物化して、社会を脅かす脅威として排除されるしか選択枝がなくなってしまうの。できれば、そんな悲しい事態にしたくない。


 だから――


『解呪!』


 私は最大限の思念波を送り、短刀にまとわりつく魔導素子を霧散させた。短刀は激しく振動し私の行為に抗ったが、抵抗むなしく禍々しい気配を周囲に撒き散らし、おとなしくなった。


 そこにあるのはただの短刀だった。


「……解呪完了。蔭山さん終わりました。……蔭山さん?」


 蔭山さんからの返事はなく、不審に思った私は辺りを見渡す。

 部屋の隅の方で倒れている彼を見つけた。どうやら、解呪の時の短刀の動きに驚いて、こけたらしい。


 ……意外に三枚目キャラなんだ。

 などと、不謹慎なこと考えている場合じゃない! クライアントは大切にしないと。生活がかかっているんだから。


「蔭山さん! 大丈夫ですかっ!?」

「……大丈夫みたい。気を失っているだけね」


 倒れている彼を見て動転している私と違い、まなみは冷静に状況を把握していた。

 さすがはまなみさん。れーせーだこと……。


「……。終わったんですか?」

「ええ。もう短刀が夜泣きすることはないと思います」

「そうですか……。終わったんですね」


 意識を取り戻した蔭山さんは辺りを見渡している。まだ、状況を理解していないみたい。

 あの強烈な念に対して何もしてあげられず解呪せざるを得なかったのは残念だけど……


 これで私達は食いつなげる!


「ひっ! ぬぁぁ、来るなぁ!」


 え!? どうしたの、蔭山さん?

蔭山は一体何を見たのか? 次話お楽しみください。

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