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第25話 らいあー 5

マスターの衝撃的な告白を聞いて眠れぬ夜を過ごしたいたりん。

どこかへいっていたまなみがマスターの告白を聞き、ある作戦を思いつく。

その作戦にいたりんは衝撃を受ける。

お読みください

……眠れない。


 マスターの衝撃の過去を激白されて、どうしたらいいのか分からないままいるとマスターに『上でやすんだほうがいい』と促された。何もできないので二階に上がったのはいいのだけれど、割り切れない思いで胸がいっぱいで目が冴える。


 どうしてあげればいいのだろう? 

 マスターの過去を変えてあげることはできないけれど、今の苦しみをわかってあげたい。

 イタコとしても、私自身としても……。


 私は……私は……私は、無力……。


――――☆――――☆――――


「あ……ん……杏、杏ってば! 杏、起きろっ!」


 何者かに大声で呼ばれ、あたりを見渡す。


「誰……? 誰なの?」

「『誰なの?』じゃないわよ。よく今の状況で眠りこけることができるわね」


 意識がはっきりすると傍らに呆れ顔の相棒がいるのに気づく。


 いつの間にか寝ていたみたい。まなみが帰ってきたのにも気づかないなんて。


「しかし、ひどい顔ね。昨日の夜何かあったの? 取り敢えず、早く起きて朝ゴハン食べさい。下においてあるから」


 まなみは不思議そうに私の顔を覗き込む。

 私、そんなひどい顔なのかな? 


「お、帰ってきていたのか。お帰り」


 まなみと二階から降りると、マスターはすでに起きていた。私の顔を見るなり、そそくさと何かしはじめる。どうやら、私と顔を合わせ辛いらしい。私も顔を合わせづらかった。

 

「マスターも、朝ゴハンまだなんでしょう? 買ってきたのを適当に食べてくださいね」


 マスターは「それなら、コーヒーでも入れよう」と言って、台所へ駆け込んだ。


 テーブルの上にはコンビニで買った菓子パンがいくつか置いてある。なぜか饅頭や団子もいっしょにあった。

 朝から和菓子ですか……。 昔からまなみは割と甘いもの好きなのよねぇ……。 ひどい時は朝、生クリームとジャムたっぷりのパンケーキを食べ、昼にこれまた生クリームと果物たっぷりのクレープを食べ、三時のおやつにお汁粉をへーきな顔で食べ尽くしたことがあった。その時は見ている私のほうが胸焼けしてしまった。

 そんな彼女ならではのチョイスだわねぇ……。


 まなみの選択に多少げんなりしながら、席に着く。するとマスターが黒々としたコーヒーが入ったマグカップを持ってきた。マグカップからは芳しい香りが漂い、鼻腔を心地よくくすぐる。

 何か落ち着くわぁ。昨日のことが嘘みたい。

 まなみや最上くんやマスターも席につき、コーヒーをすする。一時の静寂と平安が訪れる。

 みんな特に何か言葉を発することはないけれど、それはそれで満ち足りた時間……こんな時間が続くといいなぁ……。


 しかし、そんなつかの間の安らぎもまなみの言葉で粉微塵に粉砕される。


「……それで、昨晩何があったのよ? いつもノー天気な健康優良児の見本みたいな杏がそんなやつれた顔になるなんて、よっぽどのことよ」


 まなみのヤブから棒的ど直球発言にコーヒーを吹き出しかける。私のことを若干バカにしているような言葉もあるが、それはさて置き心配してくれているのは分かる……。


 ……きっと心配してくれているんだよね? きっとそうだよね、そうだよね?

 一抹の疑念は残るけど、それはさて置き、まなみたちにはキチンと話さないと……。


「実は……」と言いかけた時、マスターが制する。


「そのことは俺のほうから話そう」


 そういってマスターはまなみたちに話した。包み隠さず全部……。まなみはもちろん、最上くんまで眉間にしわを寄せ、静かにマスターの話を聞いていた。


「……確かに悲惨な話ではあるわね。でも……多少共感できないところもあるけどね」


 まなみはマスターの話を聴き終えると、間を置かずにつぶやく。

 え? どういうこと? まなみの言っていることがわからない。


 マスターは何か言いたいようだったが、拳を強く握りまなみの次の言葉を待っていた。

 まなみは次の言葉を続ける。


「マスターの経験した事件が先の大規模反魔導術士テロにつながったとしても、その責任をマスターが感じることに多少違和感を覚えるわ。ましてや、杏の両親がそのテロで亡くなったのはマスターの責任ではないと思うけど?

 テロリストが一番責任を負って裁かれるべきなのに、マスターは一体何の責任を負おうというのかしら? 

 そのあたりを考えると私はあまり共感できない。責任はその責任を負うべき者が負うからこそ責任を果たせるのであって、そうでない者が負おうとするのは、私からすれば、“無責任”な行為に思えるわ」


 彼女にしては珍しく伏し目がちに訥々と、しかしはっきりと自分の思いを言葉にする彼女に対し、マスターは何かを言おうとしている。けれどなかなかそれが言葉にならず、煩悶しているように見えた。そんなマスターにとどめを刺す言葉を投げかける。


「私にはわからない。今取るべき責任を取らず、取る必要のない責任で悩むなんて……」


 マスターの顔には明らかに怒りと屈辱とそんな感情がない混ぜになった色が見える。


「……俺自身、さんざん悩み苦しんだ末の結論だ。悩まずにすんだなら、こんなに楽なことはない! いつまで経っても、俺を攻めたてる声が消えないんだ……いつまで経っても……」


 マスターの苦しみが私の胸に突き刺さる。自分のことのように胸が痛い。本当に代われるものなら代わってあげたい。私のイタコの力ではマスターの苦しみを救ってあげられない……。


「その攻めたてる声って、実はマスター自身の心の声じゃなくて? 自責の念をそんな風に感じたとしても不思議じゃないけれど……」

「だとして、どうすればいいんだ。過去の出来事は変わらない。いつまで経っても、同じことの繰り返しだ」


 いつまでたってもまなみとマスターの話は平行線で交わることがない。私もこの状況をどうにかして変えようと思うけど、どうしたらいいのかわからない。


 そんな歯がゆい思いでいると思わぬ伏兵が状況を動かした。


「……もう過去のことはいいじゃないですか。取り敢えず、過ぎたことは置いておきましょうよ。マスターの苦しみもわかります。そんな過去を抱えれば僕でも悩むでしょう。でも過ぎ去った時間を取り戻すことはできません。過去は過去。それよりも、これからのこと、たった今何をするべきかについて考えませんか?」


 今まで沈黙を守り、話に参加していなかった最上くんが意を決して発言する。

 最上くん以外全員が何か憑き物が落ちたようにハッとする。

 

 私たちは何か忘れていたものに気づかされ、衝撃を受けた。部屋の中に充満した陰鬱な空気がこんなに単純な言葉で霧散した。複雑な今の状況があっという間に変わってしまう。


「……そ、そうよね。そうよ! いつまでもこのことで果てしない議論を続けても、どうしようもないよね」


 つかさず、私は最上くんの意見に賛同した。非常に簡単に状況を変えられたことにバツが悪いのか、まなみとマスターは何も言いださない。


「とにかく、今私たちのしないといけないことはあのデモ集団の裏にいるやからをあぶり出すことじゃないかしら? 暗闇でうごめいている輩を白日の下にさらけ出してとっちめちゃいましょう!」


 話が進みそうになかったので、私が音頭を取ることにした。


「……そうね。今はそんな話を続けても、なにか実のある話にはならないわね。それで、今思いついたんだけれどマスターの話って、ネットで大々的に流せないかしら?」


 まなみの発言に残り全員が目を剥き驚く。


 そりゃそうでしょうよ。長い間、一人悶々と苦しんで、今になってやっと人に告白したような内容をネットで晒すなんて……。 下手をすると、おかしなネット民がいちゃもんをつけたりマスターが想像もしないようなところから叩かれる可能性もある。そんなリスクを負う行為を認めることなんてできない。マスターをこれ以上傷つけないで!


「ま、気持ちはわかるけどちょっと話を聞いて。何もマスターの個人情報やそれに関係する情報をネットに垂れ流そうってわけじゃないの。マスターの話は連中を引きずり出す餌よ。そのままの話を流したりしないわ。それなりに加工するけど」


 まなみは続けた。まなみの話によると、マスターの話をネットに流せば、連中の主張からすると看過できないことは間違いないので、必ず裏から妨害工作を行い、表向きには当り障りのないサイトで自らの主張を流すはずとのこと。それがしっぽをつかむ手掛かりができるらしい。


「あまりおおっぴらにできる話じゃないけれど、ウチの調査部にサイバー攻撃を仕掛けてきたサイトなんかをハッキングさせるわ。ウチの調査部なら、国防省のメインサーバ程度のセキュリティなら訳ないわ」


 ……ちょっと、待ってもらっていいですか? いろいろおかしな発言があるのですが。国防省のメインサーバなんて世界最高水準のセキュリティじゃない! そんなところをへーきでハッキングできるなんてどこのアノ○マスですか? それともLi○eLe○kですか……? それに一歩間違えば、サイバー犯罪ぢゃないですか。魔導術士の正当性を主張する過程で犯罪を犯してどうする……。


「大丈夫。ウチなら隠蔽工作もバッチリだから。ウチほどの財閥になると、裏では犯罪スレスレの行為なんて日常茶飯事よ。要はバレないことと、バレる前に如何に早く火消し(隠蔽工作)をするかよ」


 と胸を張って主張するまなみさん(財閥のどら娘)。胸を張るポイントが間違っていると思うの、うん。


「んでも、そんなに簡単にネットに情報を流せるの? 結構たいへんじゃない? もっとよく話し合って準備したほうがいいんじゃない?」


 私が遠回しにマスターの話を使った作戦を先延ばしにしようとするとあっさりまなみが否定する。


「そうでもないわ。マスター気持ち次第ね。実は、ネットで何か解らないか指示してきたところなの。調査指示を変更すれば作戦実行は可能よ。もし、マスターが承諾してくれれば調査部に話を通して実行指示を出すだけでなんとかなるわ」


 まなみの準備の良さに驚かされると共に、何でそこまでの事態を予想できたのか訝しむ。

 ほんと、想像を超える動きをするよね、まなみって。


 そんな私の思いを傍において、話はマスターの気持ち次第ということになんとなくまとまってしまった。できれば、そっとしておいてあげたかったんだけど……。


「……それで、どうしますマスター? 貴方次第で作戦が大きく変わるんだけど」


 まなみはマスターに向かって言い放つ。

 マスター……。


 マスターはまだ何か考えているようだった。


……まだ終わりませんm(_ _)m

こんなに長くなるとは思いませんでした。

頑張って続きを上げていきますので、見捨てないでください。

叱咤激励などありましたら、コメント欄、Twitterなどでお寄せください。

お持ちしております。

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