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第22話 らいあー 2

 なんとか、隠れ家についたいたりんたち。今後について話し合うがいたりんだけが

仲間はずれ。そのうえ、まなみが「働けぇー!」といたりんをほとんど折檻するよう

に働かせる。そのとき……!


お読みください。

 なんとか無事、事務所を脱出しマスターの指定した場所へ向かう私たち。山の斜面を横切るように緩やかに登る人の気配の少ない里道りどうをただひたすら歩く。里道の両側には背の高い草が生えており、身をかがめれば、人が通っていることがわからないぐらい。


 人目につかず、逃亡するのにはちょうどいい感じ。……でも、何で私たちがこんなことをしないといけないのだろう? 何も悪いことをしていないのに……。


 逃亡犯のように周りに気を配りつつ、先へ先へと歩く。


 そんな感じで、ひと目を避けて遠回りしたため、街はすっかり夕闇に包まれいた。振り返ると家々の窓には明かりが灯り始めている。街にある港の遠くには漁火も見え、暗闇に彷徨さまよい舞うホタルにも似た光景に一瞬心動かされる。闇にうごめく様は今の私たちみたい。


「もう少しでつくわね。でも、マスターって何者? 今回の事態を予測したように隠れ家を用意しているなんて……」


 まなみの疑念ももっともだった。一介の喫茶店店主が隠れ家を持っていることはさておくとしても、今回の事態を予測しての事だったら……。


 まさかね、マスターに限ってそんなことはない……よね。ないはず。ないんだ、きっと! 少なくとも現段階では私たちの味方であることには間違いないと思う。だって、いつも何かあると助けてくれたし、店での秘密会合にも便宜を図ってくれたし、デモから逃してくれたし……。

 でも、デモのことを予測していたのなら、ただの喫茶店店主でないことは間違いない。とすると、一体何者なんだろう? 私たちみたいな魔導術士を助けて、得をするといえば……? 軍か公安? その辺りの関係者なんだろうか? なんか昔イタコ協会と関係があったとか何とか聞いたような気はするけど、イタコと今回の件が関係しているとは思えないし……。


 私は様々なマスターに対する疑念を抱きながら里道を更に歩く。すると、一軒の古びた建物が見えてきた。


 山の中腹辺りに建っているその隠れ家は、二階建てで大きなベランダが目立つ、こんな時に来なければ、結構リゾート気分を味わえそうな作りになっている。私たちはすぐさま入り口を探した。


「どうやらここみたいね」


 まなみが建物の一階南側に入り口を見つけ、近づく。私たちはすぐさまその入口から建物の中へ入る。


「……おじゃましまぁーす」

「……別に遊びに来たわけじゃないんだし」


 間の抜けたセリフしか出てこなかったので、まなみに突っ込まれた。


 だってしょうがないじゃない! こういう時になんて言えばいいのさ。フン!


「とりあえず、早いところ中へ……」


 状況を顧みない漫才をまなみとやっていたら、眉間にシワを寄せ少し俯き額に手を当てる最上くんが静かに突っ込っこむ。


 すみませんね……こういう事態には慣れていないもので、どう振る舞ったらいいのかわからないのよ。


 中に入ると暗い室内には備え付けの家具がぼんやり見える。特に変わったモノはないみたい。


「電気のスイッチはどこかしら? これかしら?」


 まなみが電気をつける。眩しさに目を細め、一瞬目を閉じる。目を開けると部屋の部屋の中には古びてはいるが、マスター趣味なのか高級そうな家具が並んでいるのが見える。いわゆるアンティーク家具ってやつかな? その辺はあまり詳しくないのでよくわからないけど。


「ふむ……マスターの趣味はなかなかみたいね」


 室内を一瞥し、まなみが呟く。私も同じように見回す。


 そうねぇ……。あ、奥のソファーなんてゴロンて寝転がると気持ちよさそー。あぁ、あの奥の壁際の大きな扉はウォークインクローゼットかな? 大きい! いいな、いいな! ここでしばらくはマスターと……暮らす? 暮らす? 暮らす? きゃぁー! きゃぁー!  


 妄想に浸って、思わず顔がにやけてしまう。他の二人を置いてきぼりにして……。


「……杏、はしゃぎ過ぎじゃない? 本当に状況をわかってる?」


 い、いや、十分状況は理解してますとも……それに浮かれてなんかないんだから……ないんだからね!


 まなみに突っ込まれ思わず、動揺してしまった。最上くんもなんか変な目で……。


 何でしょう……? ワタシ、ナニカシマシタデショウカ?

 

「とりあえず、これからどうするんですか? いつまでも、別荘暮らしって訳にはいかないでしょう……」


 最上くんが少し呆れながら、尋ねる。


 そう言えばそうだった。すっかり、自分たちの立場を忘れていた。半分、逃亡者だもんね。


「とりあえず、マスターがくるのを待ちましょう。それまで今後について話し合っておきますか。うん」

「……ま、常識的にはそうよね」

「……で、どうするんですか?」

「えーと……えーと……どうしようか……?」


 事務所代表らしくとりつくろってみたものの、今一つ決まらない。まなみも最上くんもあきれて、ため息をつく。


 しょうがないじゃない! 何一つ確かな情報は無いし、身一つで逃げてきた同然なのに! こんな状況ですぐにいい考えが浮かぶわけないじゃない!


「仕方ないわね。とりあえず、今の状況を整理しておきましょうか」


 まなみが仕方ない感を前面だし、この場を仕切る。


 ……不甲斐ない代表で申し訳ないデス。


 一人静かに落ち込む私を放置して、まなみが話を進める。


「噂話レベルでいいんで、連中に関して、何か聞いたことあるかしら?」


 とは言うものの、私自身あの連中との接触はなかったし、直接目撃するのも初めてなので、特に何か情報を持っているわけでもなかった。


「そう言えば、連中のシュプレヒコールって、例のテロリストたちの声明に似ているような……」


 最上くんがふと思い出す。まなみも、何か気がついたよう。


 確か例のテロリストは――


“我々『反魔導術人民解放戦線』はこれより長き眠りから目覚め、反魔導術闘争を再開し、魔導術及び魔導術士によって虐げられ、踏みにじられた人民の開放に全力を尽くす所存である。我々は崇高なるこの闘争を全力で完遂し、愚劣な魔導術で汚染された地球を浄化する。”


 なんてのたまっていたような気がする。それに対し、デモ隊は――


『――魔導術士に告ぐ。即刻、悪魔の技である魔導術を捨て、まっとうな道を歩きなさい。罪の軽い今ならやり直せる。魔導術士で在り続ける限り、日々罪を犯していることに気が付きなさい――』


 なんて、気勢をあげていた。


 テロリストの声明とデモ隊のシュプレヒコールを思い出し、まなみと最上くんは頭を捻っている。


「言外のニュアンスのようなものは共通しているように感じるけど」

「うーん、とはいうもののこれだけではなんとも……」


 何故か、まなみと最上くんの二人で議論が進んでいく。私は置いてきぼり。


 置いて行かないで、お願いだから……。


「ま、突然あんなデモをやるところとか考えると、例のテロリストとの関係を疑ってみる必要はありそうね。そろそろ、うちの調査部に動いてもらおうかしら」

「こっちでも、軍内部に何か情報がないか調べてみます」


 ……スネてやる。スネてやるんだから! まったく、私をすっかり無視するなんて!


「杏、何か思い当たることない?」


 思い出したように、私に振るまなみ。しかも、かなりゾンザイで取ってつけたように……。


 いいんだ、いいんだ。どーせ、無能ですよ、わたしゃ。この事務所のお飾りですよ、えー、えー。

 ……絶対スネてやる!


「……ま、いいわ。はぁ……当面、情報もないし……っと」


 まなみは私が特に考えや情報を出せないと悟ると、ため息を付き自分のかばんから何かどこかで見たような書類を取り出す。


 ……なんでしょう、まなみさん。その手元にあるものは? モシカシテ……。


「とりあえず、仕事よ、し・ご・と!」


 まなみは未処理の書類とハンコなど事務に必要な道具を私の目の前に差し出し、ニッコリと微笑む。私はスネる暇も与えられず、書類に囚われる羽目になった。


 あぁ、なんて不幸な私。こんなところに来てまでこき使われるのね……。


「文句を言わない! ここにいるのは一時的なものだし、仕事の締め切りはいかなる理由があっても待ってくれないのよ。わかっているでしょう!」


 なんだか、まなみが代表みたい。いったい、いつからこの事務所の代表は入れ替わったのだろう……。


「働けぇー!」


 あぁーれぇー! まなみが折檻するぅー。

 まなみから角やしっぽが見える……手には三叉の槍が……いや、革の鞭か……?

 この世には雇用者の横暴から被雇用者を守る法律があるらしいが、被雇用者の横暴から雇用者を守る法律はあるのだろうか……。

 ……タスケテ。


 まなみに鞭打たれながら書類と格闘していると、不意に隠れ家の扉が開く。


「誰!?」


 まなみや最上くんはもちろん、私も扉の方を振り返り、身構える。


 すると、聞きなれた優しげな声が聞こえる。


「やぁ。遅くなってごめん。連中、結構しつこくてな」

「マスター! ……よかったぁ」


 あれ? 視界がにじむよ。おかしいな……? 


 一気に緊張の糸が切れたのと、折檻状態だった私は思わず涙腺が緩む。


「泣く事ないじゃないか、大したことないのに。ま、何にせよみんな無事でよかった」


 そういうと、マスターは優しく私の頭を撫でる。それと同時に、ものすごい胸の高鳴りを感じる。


 あれ? ……なんでせう、この胸の高鳴りは?


 不意に感じた高鳴りに戸惑い、思考が停止する。


 なんだろうこの不思議な感覚……。こんな状況なのに不安を感じない。マスターがいるから……?


「杏? 杏? 杏ってば!」

「ん!? 何、何?」


 まなみが私の変化を感じ、声をかける。


「マスターが無事だったのが嬉しいのはわかるけど、そんなにボーっとしている暇は無くてよ。早速、次のことを考えないと。ただその前に……」


 そう言ったあと、まなみはマスターに向き合う。その時のまなみは、普段マスターに接していたまなみではなく、戦闘モードのまなみだった。


「……マスター。貴方は一体何者ですか?」


 いたりん、相変わらず虐待されていますw

 マスターと対峙するまなみさんの思惑や如何に!


 次回お待ちあれ!

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