第1話 国家魔導術士 参上 1
始まりました「国家魔導術士 いたりん」 国家魔導術士にしてイタコのいたりんが特殊能力の口寄せと魔導術を駆使して事件に挑む!
さぁ、本編の始まりです。お楽しみください。
※2日間連続2連投の2投目です。
「暇だなぁ……。あぁ、世は全て事もなし。平和だなぁ……」
私は渋茶をすすりながら、暇を満喫していた。
春は桜吹雪を堪能して、夏は蝉時雨、秋は紅葉、冬は……ま、いっか。
この時間が至福なのよねぇ。
「んもぉー! なにしてるのよ! 働きなさい、杏! 板梨 杏!」
はぁ……。この平穏を壊すガナリ声。
なんという無粋な。
まなみ、もうちょっと冷静になりましょうよ。
「ん~、もぉっ! ここんところ、全然稼ぎがないんだからっ。なんとかしてよ!」
……仕方がない。叫んでみよう。
「仕事、仕事ぉ~!」
「……そんな声あげても、仕事来ないよ 」
……まなみに冷たく突っ込まれた。
まなみは私の有能なパートナーなんだけど、最近冷たい。
昔はあんなに優しい友人だったのに……。ヨヨヨ……。
ハンカチを目頭にあて、涙をふく動作をしてみた。
「……そんな一人芝居を演じている暇があるなら、ペット探しでも何でも仕事取ってきなさい!」
……まなみには通じなかった!
彼女は般若の如き形相でこっちを睨んでいる!
ごめんなさい!
仕方がない、営業に行こう。このままでは彼女に殺される。
このネット全盛の時代に外回りというのもどうかという気がするけど、とりあえず彼女の視界から消えるために事務所を飛び出した。
私のパートナーは荒れだすと超台風並みに荒れる。できることは通り過ぎるのを待つことだけ……。
いつもながら、そんなに荒れることはないんじゃない?
私だって事務所の経営状況を把握してないわけじゃないんだけどな……。
彼女の能力ならこんな場末の仕事につかなくても十分やっていけるだろうに。
ふと、あることが気になった。
――何でまなみはこの仕事についたのだろう?
普通の大学へ行って普通に就職することもできただろうに……
私とまなみは高校を卒業後、国家魔導術士になるべく、専門学校に通った。
私は元々口寄せという特殊能力があったし、その能力を生かし合法的に仕事にするには、資格をとることが一番だったんだけど、彼女はそうじゃなかった。
人に感謝されることもごくたまにあるけれど、“魔法使い”だとか“魔女”だとか、圧倒的に後ろ指さされることの多いこんな仕事につかなくても……。
私は彼女がこの仕事を選んだ理由をあれこれ想像しながら、仕事用のスマホ片手に同じビルの喫茶店に入った。
外回りの前に英気を養って……。
「いらっしゃい。あれ? 杏ちゃん、どうした? 浮かない顔して」
マスターのいつもの笑顔がそこにある。なんか、マスターの顔を見るとホッとする。学生のころからの付き合いで、結構長い付き合いだけど、この感じは変わらないのよね。何か困りごとがあるたびにマスターのところへ入り浸ってたなぁ……。
「仕事しないで、事務所でお茶飲んでのんびりしてたら、まなみに怒られちゃって……」
「……なるほど。それでここへ避難してきた、……というところかな?」
「そうなの。ねぇマスター何かお仕事ない?」
「またやるかい? モグリで口寄せ」
「う~ん……。そこそこ稼げるんだけどなぁ……。やっぱり止めとく。合法的に稼ぐために資格取ったんだし……」
少し昔のことを思い出した。学生の頃、イタコのいたりんを名のってモグリで口寄せやって日銭を稼いでいた。適当なこと言ってたら、勝手に納得してお金を払って行ってくれたから、結構稼げたんだけどなぁ。別にアコギなことは一切しなかったし、未成年で自活しないといけなかったから、警察やイタコ協会に黙認してもらってたんだけど、法改正かなにか知らないけど警察とかイタコ協会とか急に厳しく規制するんだもん、稼げなくなっちゃった。……理不尽な。
「……ま、モグリはまずいな。きちんと筋は通さないと警察はともかく、協会がうるさいしね。それに帝国イタコ協会関係者の自分としては何も言わない訳にもいかないしね」
「そうよねぇ。ちゃんとしないとね」
マスターの言葉に気のない返事をする私。
ただ、結構協会のお偉方はうるさいからね……。やることやっとかないと、後が怖い。
「ところで、真面目な国家魔導術士様にたのみごとがあるんだけど」
「えっ? 何、何? もしかしてお仕事?」
私は身をのりだし、マスターに迫る。この際、少々危ない仕事でもいいわ。背に腹は代えられないし。
「仕事といえば仕事だな。実は警察で厄介な落とし物があってな。それの処理と所有者の洗い出しをする必要があるんだが……。やるかい?」
お仕事、お仕事。久しぶりだぁ。
……とは言うものの、何だか危ない臭いがする。警察流れの仕事でも気をつけないとこちらが尻拭いさせられるからなぁ……。
聞くことは聞いておこう。
「内容次第ね。危ないものはごめんだし、ギャラも確認しとかないと」
「さすが、国家魔導術士。しっかりしているな」
マスターは何を満足したのか満面の笑みで私を見てる。何だろぉ?
いやん、なんか恥ずかし。照れちゃう。
私が見つめにやけていると、マスターは眉をひそめ苦笑いしている。
あれ? ……なんか違ったみたい。しょうがない、やることをやろう。
「……んで、どんな仕事?」
「いつの間にか交番に届けられた古い短刀なんだが、こいつが夜鳴きするらしい。警察としては面倒なんで早いところ、何とかしたいらしいんだ」
「そこで、私の出番てわけね」
「そういうこと。やるかい?」
「……そうね、危険はなさそうだから受けてもいいかも。それで、肝心のギャラは……?」
「着手金で二〇〇〇圓、成功報酬として三〇〇〇圓だ。後、多少の経費も負担するそうだ」
私は少し考えた。内容のわりにギャラが高い。普通なら高くても一五〇圓ぐらいまでが良いところの内容なのに。しかも経費の負担ありだなんて、あのケチなケーサツが……。仄かにキナ臭い。よほど困っているか、あるいは……。
とは言うものの、背に腹は代えられない。五〇〇〇圓あれば、しばらく食うに困らないし……。マスターの特製ナポリタン三六圓が何回食べられるだろう?
ややこしいことは後で考えるか……。
「その仕事受けます」
ごちゃごちゃ考えるのが、面倒になった私はこの仕事を受けることにした。
「そうしたら、一度この人に連絡してみて。これ、連絡先。気をつけて」
そう言われてマスターから一枚の名刺を見せられた。その名刺にはとある警官の連絡先が載っていた。治安警備課? なんでこんな部署の人が? ケーサツ署内の警備も担当しているのかしら? ま、いいや、詳しい話はこの人に聞けばわかるし。
「ありがとう。正式な依頼の受諾はこの人に話を聞いてからでいいかしら?」
「構わないと思うよ。どちらにせよ、この手の仕事をこなせるのは杏ちゃんだけだし」
マスターの声を聞きながら私は名刺をもち、事務所へ戻った。
「……どこいっていたのよ」
まなみが無表情で冷たく、つぶやく。
おっと! 忘れていた。まなみさんはお冠のまんまだ。般若のような顔で私を睨んでる。怖い……。
とにかく、仕事の話が先だ。
私は名刺を見せ、仕事内容をおそるおそる彼女に話した。
話を聞くうち彼女の怒りは解け、般若モードは解除されたようだが、今度は仕事モードの彼女が現れた。
「……詳しい話は聞いてみないとわからないけれど、ちょっとヤバイ仕事なんじゃない?」
そう言うと彼女は新聞の切り抜きを持ってきた。その切り抜きの見出しにはこう書かれていた。
『警察署内で刃傷事件! 警察内部の摩擦が問題か?』
あら……。ちょっと危険度がましてしまったようね。
「今回の依頼と直接関係あるかはまだわからないけれど、警察内で刃傷事件ってただごとじゃないわよ。よっぽど注意しないと、かなり危険が伴う可能性があるわ。それから警察関係の仕事はいつも以上に気をつけないと……」
「なになに?」
まなみはさらにスクラップブックの別の記事を指し示す。
『警察の闇! 治安維持関係者と軍需産業との黒い関係』
「これがどうかしたの?」
記事とこの事件との関連がわからなかった私は彼女に尋ねる。彼女は愛用のメガネを右人差し指で少し持ち上げ、説明し始める。そのとき彼女の目が一瞬光ったような……。
「依頼人が治安関係の部署らしいけど、その関係部署でどうやら警察内が混乱しているらしいの。この記事を読んでみて」
彼女の指し示す部分の記事を読んでみた。
『……治安維持関係者と軍需産業との黒い噂が公になると同時に担当者の一人が微罪で逮捕されその次の日、拘置所内で死亡した……』
さらに危ないことになっているような……。ちょっと手に負えるような感じじゃないなぁ……。
逃げよ。
「んじゃ、今回の話はなかったということで……」
「あにいっているのよっ! こんな仕事なかなかないわよ。受けるに決まっているじゃない! うまく解決すれば警察に貸しを作ることができるのよ。こんなおいしい機会を逃すはずないでしょ!」
私が悪うございました。このひと、お金が絡んだり、仕事に有利なることだとものすごく人が変わるのよねぇ……。
とは言うものの無事ですむ方法は無いものかしら? 何一つ分からない状況では判断できないな。
「ここで悩んでも答はでないわ。一度依頼人に会って話を聞いてみましょう」
さすが、キレモノまなみさん。その通りだわ。
そういうことで意見がまとまった私とまなみは一度、名刺の人物に接触してみることにした。
しかし、良く分からない案件だな、この案件は……。なんで交番に短刀を置き去りしたんだろう? ケーサツもケーサツで内部が混乱しているようだし……。
事件が舞い込んで参りました。いたりんとまなみさんはどういうかたちで解決していくのかご期待ください。