第17話 すろーす 1
事件です、みなさん! 珍しく事務仕事に勤しむいたりん。まなみさんは体調不良で欠勤中。定期報告の書類を警察へ提出後、街で事件に遭遇する!
第17話 すろーす 1 お読みください。
さてと……準備ができたかな?
私は警察に提出する書類を見返し、漏れがないか確認する。いつもなら、まなみがやっているお仕事なんだけどねぇ……。
まなみが珍しく体調不良で欠勤するって連絡してきて、はや二日。最初は珍しいこともあるもんだと思っていた。
「まなみさんも人間だったんだぁ~」などと、本人が聞いたら激高しそうな不謹慎なことを呟きながらも作業に集中する。
まなみならこともなげに、この程度の事務作業なんか、ちゃっちゃと片づけるんだろうなぁ……まなみほど速く片付けられないし……早く復帰してくれないかなぁ。
ま、体調不良なら仕方ないね。代わりにやらなきゃ。それにやることはやっとかないと、いろいろ後に差し支える。特に、警察への提出書類等はきちんと処理しないとね。
「よりよきしみんとして、ぎむをりこうし、ちつじょをたもちます」なんて建前をしっかり実行していないと、この稼業、なかなか続けられない世知辛い世の中だからねぇ。
ちょっとでも不祥事があれば、ネットで炎上、電話は嫌がらせ電話でパンク、余計な張り紙や落書きや無断のネット中継などでご近所にもご迷惑が……なんてことにもなりかねない。
それだけは避けないと。
そんなことを考えながらとりあえず、まなみのやっていた事務仕事を片付ける。でーきた。さてケーサツへ行くか。
「それじゃ、ちょっとケーサツへ行ってくるから、あとよろしくね」
「はい。いってらっしゃい……」
私はなぜか不思議そうな顔をして見送る最上くんに、お留守番を頼んで事務所を後にした。
何故にそんな顔を……?
そんなことはさておき、まなみがケーサツへ行くときに使うバス停でバスを待つことにした……けど。なんだか、待っている人が多いような……。いつもは閑散としているのに。今日は何かイベントあったかな?
「今日は遅れているのが多いわね」
「こまるわぁ……急いでいるのに」
バスを待っている人たちは口々に、バスの運行状況に文句を言っている。いつも時間通りに運行されているはずのバスが、今日に限って時間通りに来ないらしい。
変な話ねぇ……まなみさんの欠勤ぐらい? ま、待つしかないでしょう。
不謹慎なことを思いながら待つこと、しばし。ようやくバスが来た。
来たのはいいけれど、バスは満員で、すし詰め状態だった。
どうやら、遅延だけでなく、何かの理由で減便しているらしい。
しょうがない……あきらめて乗るか。あんまり、混雑って嫌いだんけどなぁ。
バスの中は人の熱気で蒸れて、いやな空気がよどんでいた。あまり入りたくなかったけど、後ろにも人が待っているので、しかたないので奥に詰めた。
私が乗って奥に詰めると、昇降口の扉が閉まり、発車する。
バスはいつもよりたくさんの人を乗せ、エンジンをふかしながら走り出す。古い車体がきしみ、不規則に左右に揺れる。
バスが右に左に揺れるたび、すし詰めになった人に押されて、押し潰されそうになる。余りに押されるので体型が変わるかと思った。
何でこんなに多いんだろう、今日は……? こんなラッシュなんて、初めて。本当に何があったんだろう?
バスの中には、通勤中と思われる人たちが、大勢バスが揺れるのに合わせて右に左に揺れている。箱詰めされたビンみたいにバスの揺れとシンクロしている。誰も文句も言わず、ただ揺られている。
みんな、大変だなぁ……通勤するだけでこの状態……。みんな、何を思って、バスに乗っているのかな? 大変だよね、くる日もくる日も、こんな状態だったら……。今の仕事に就いていなかったら、毎日こんな通勤してたのかなぁ。
ふと思った。
……ことあるごとに、「魔女」だ、「魔法使い」だと罵られるのと、すし詰めで乗り物に毎日揺られるのとどっちがいいんだろう?
なんとなく、すし詰めのほうがいいかなぁ……少なくとも、精一杯やって足元から崩されるような挫折感を感じなくていいしなぁ……。
まなみなら、どうなんだろう? まなみなら、財閥の重役としてバリバリ仕事してそう……。
本当にまなみは……これでよかったんだろうか?
魔導術士を続けていても……ねぇ。
社会的には、お世辞にも高い評価を与えられているわけではなし、実家の稼業をついで財閥の重役になったほうが評価は間違いなく高い。
……ま、本人に聞いてみないとわからないけれど、どういう気持ちなんだろう?
”次は警察署前、警察署前……”
などと、とめどなく考えていたら、目的のバス停についた。
とりあえず、目先の仕事をかたずけることに気持ちを切り替え、バスを降りた。
――――☆――――☆――――
「……ご苦労さん。いつも通りだな。また、定例報告頼むよ」
「ありがとうございました。ところで……」
「ん? 何かあったのか?」
「実は……」
私は担当の警官に、バスに乗る前の様子を話した。担当の警官はあまり興味がなさそうに、話を聞いていた。
「……何かご存じことはありませんか?」
「さぁ……。”魔法使いさん”には関係のない話だと思うが。ま、どうも街のあちこちで、サボタージュがあったらしい」
「サボタージュ……?」
「ああ。おかげであちこちで、混乱しているらしい」
あまりにも他人事のように話すその警官に呆れつつ、苛立ちも感じた。
公僕が街の混乱を聞いて、そんな態度って……ありえないでしょ?
「ま、興味があるなら、街を一巡りしてきたらどうだ? 今のところ、さしたる事案も抱えていないんだろ?」
「はぁ……そうします」
他人事の警官に呆れはて、その場を離れようとした。その時だった。
「ちょうどいいところにいた」
「なんでしょう?」
とある警官に呼び止められた。聞くと治安関係の部署の人とのこと。
なんで治安関係の人が……。
どうも、ほのかにキナ臭い人だな。
「実はな……」
彼の話は一言でいうと、街に起きている異変を調べてほしいという依頼だった。
原因不明のサボタージュをする人が突如増加して、街の機能がマヒしつつあるらしい。
いつもながら、この手の依頼は前置きもなく、唐突にやってくる。
……いやってわけじゃないんだけど、もう少し心の準備というか、ワンクッションほしいんだけどなぁ。
しょうがない生活のためだ。
「わかりました。その依頼、承りました」
とにかく、依頼を受けることにして、警察署を後にした。
――――☆――――☆――――
街の様子を見るために、警察から街の中心部へ歩いて移動してみた。
街は警察の言うような騒ぎが起こっているわりには静かに見えた。
本当に騒ぎが起きているのかな? その割に街は静かなような……
街に歩く人々はまばらで、お店も店員さんの働く姿があまり見えない。行き交う車もまばらで、なんだか閑散としている。
おかしいな……平日の昼間でこんな状態なんて……。
すぐ近くにコンビニが見えたので、ちょっと寄ってみた。
「いらっしゃいませ」
この店のアルバイトなのか、妙齢の女性が店番している。
特に変わったところはないけれど……。あ、お客さんが入ってきた。お客さんも、なんだか元気ない……というか、やる気のない感じ?
ふらふらと店内をうろつき、おにぎりを買っていった。レジのおねーさんも「ありがとうございました」の一言もなく、接客テキトウ……。
次に入ってきたのはやる気のなさそうなおじさんだった。
その客は店内を物色すると、雑誌を何のためらいもなく手に取り、やる気なくそのまま出て行った……。
えっ? え……? えーーーーー!? ま、万引きですよ、万引き!
万引きじゃないっ! おねーさん何してるんですかっ! ケーサツに……。
店員は特に反応せず、なぜだかボーっとして、万引きを見逃す。あまりの驚きに、私も呆然として、そのおじさんを見送ってしまった。
「万引きですよ、万引き! ケーサツに連絡しないと!」
慌てふためきながら、店番のおねーさんに訴えてみた……。
おねーさんは何の感情も示さず、「……そうね」の一言。
やる気なさすぎぃー! 絶対何か間違っている! 無気力すぎるっ!
店員にやる気がなく、ほぼ無反応だったので仕方なく、コンビニを飛び出し、万引きオヤジを探すことにした。
通りに出て、街を見渡すと件のオヤジがふらふらとやる気なさそうに歩いてた。私はそのオヤジの元へ駆け寄り、言ってやった。
「万引きは犯罪ですよ!」
オヤジはこちらの呼びかけにけだるそうに振り向き、「……それで?」などとのたまうので、かなり頭にきた。ここはガツンと一言言ってやろうとオヤジの顔を見た。
オヤジの目は腐った魚のように濁っており、顔色も血色悪く、土のようだった。
……まるでゾンビじゃない。これは……。
尋常じゃないオヤジの様子におどいている間に、そのゾンビオヤジは私の手を軽く振り払い、どこ行くわけでもなく、ふらふらとあてどもなく街を歩きだした。
あっけにとられ、何をするともなくゾンビオヤジが遠ざかるのを見ていると、街にはそんなゾンビもどきが何体もふらついていることに気が付いた。
え……? どういうこと……? いつのまにか街が昔に流行った某ゾンビゲームの世界ではないですか……。
今のところ、人を襲うようなことは起きていないみたいだけれど、これは大変なことですよ……。私一人ではちょっと無理かな……。
私はスマホを取り出し、まなみに電話した。
呼び出し音が鳴り続く。
……
…………
……………
なんで出ないのよ! こんな非常時にっ! 仕方ない、直接行くしかないわね。
私はスマホをしまうと、一目散にまなみの元へと急いだ。
あのまなみさんが体調不良で欠勤なんて……。これを鬼のかく乱と言わずして何と言いましょうか?
街の事件も気になるところ、いたりんはどう解決していくのか!
それは次回の講釈にて。
お楽しみに。