表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/59

第16話 えんびぃ 2

 件の占い屋の付近で捜査をする二人。怪しげな気配に一旦出直そうとした瞬間、変態マント男が襲ってきた! 

 二人の運命やいかに!

 とりあえず、くだんの占い屋まで来てみたけれど……。よく見ないと入口がどこかわからない。この古びた雑居ビルのなかにあるらしい。どこが入口なんだろう……? 

 とにかく、そのビルの様子を見ることにした私たち。そのビルを観察していたら、階段があった。そこが入り口なのかな? 


 おや、人が降りてくる……。男女二人……?


「……あんなのの、どこがいいのよ!……まったく信じらんない!」「何言ってるんだ!……誤解だ!」「誤解って、何よ! 自分に都合の悪い占いだったからって、誤魔化そうとしないでよ!」「いやいや、占いは関係ないでしよう! 君が急に占いに行きたいって言うから来たのに……。結果が出た途端、『浮気もの!』だなんて……。いつからそんな嫉妬深くなったんだい……?」


 込み入った話になっているようだけど……何かあったのかしら? 


「何か大変そうね。話の内容からするといわゆる痴話喧嘩のようだけど……。関わると面倒そうね」


 まなみが興味なさそうに呟く。私も同感だった。痴話喧嘩に関わっていたら、いくら時間が有っても足りゃぁしない。


 あ、とうとう彼女が彼をひっ叩いた。彼女が肩をいからせ、歩いていく。男前だなぁ……。彼は叩かれた頬を押さえて、へたりこんで彼女を目で追うだけ。……ま、何も言うまい。


 全くの他人事ながら、大変そうねぇ……。


 んなことより、お仕事お仕事。……しかし待てよ。占いが元で痴話喧嘩が起きたのなら、まるっきり関係ないとも言えないよねぇ……。ますます、怪しい。これは早いところ、騒ぎを解決しないと大変なことになりそう……。


 とにかく、しばらく張り込んで様子を伺った。何組かビルに出入りしたが、例外無く、帰りはもめた。


 ……これは明らさまに怪しすぎる。


 念のため、気配探知してみた。意識を集中し、ビルの気配を探る。


 ビルを取り巻く魔導素子が見えてきた。魔導素子がビルを取り巻いている。その魔導素子の色は古びたビルの外壁よりはるかにどす黒い。


 ビンゴね。この色ならばほぼ間違いなくテロリスト。しかし、こうも簡単に見つかるなんて……。


 今までまったく動きを見せなかったのはなんでなんだろう? 


「真っ黒ね。あからさまに……」

「そんなにはっきり見えるの?」


 まなみの質問に首肯した。するとまなみは顎に手を当て何事か考え始めた。


「……杏、一旦出直すわよ」

「え? すぐそこにいるじゃない? さっさととっ捕まえれば……」


 まなみの言葉を理解できなかった私は思わず聞き返した。考える目をしたまま、まなみは声を低くして、さらに続けた。


「あからさますぎるのよ、ここの気配。包み隠さず悪意を発散させているなんて……怪しすぎるわ。相手はテロリストなのよ。何か仕掛けがあるかもしれない。もう少し調べてからのほうがいいわね」

「んでも、テロリストととはいえ、気配の制御ができるとは限らないわよ? あからさまな悪意を発散してもおかしくないんだけどな……」

「テロリスト相手だからこそよ。魔導術を悪用しているような雰囲気を醸し出した上に、むき出しの悪意……誘われていると思わない?」


 そう言われれば、そのような気もしないでもない……さっさと終わらせることができると思ったんだけどな。


「一旦、出直しましょう。万が一、こっちを誘っているのなら、すぐいなくなったりしないわよ」


 まなみのそう言われ、何となく後ろ髪を引かれるような気持ちだったけど、一旦引き上げることにした。


 そのとき、わずかに違和感を覚えた。どこからかは分からないけど、刺されるような、鋭く、冷たい視線……。


 見張られている……? 誰に? どこから? もしかしてヤツら……?


「どうしたの?」

「見張られている……みたい。どこからかは分からないけど……」


 まなみが私に何事かと訪ねる。私は有り体に感じた視線について話した。

 まなみは目をみはり、警戒レベルを最大にして周囲を警戒し始めた。


「……どうも、準備万端って事みたいね。嫌らしいぐらい、ヤツらの余裕を感じるわ……先手を打たれようね」


 まなみが珍しく焦りの色をみせる。事態はかなり逼迫しているらしい。


「ここは、一旦引かないと。ヤツらの思惑にのる必要はないし」


 そういうことなら、さっさとしっぽ巻いて逃げるに限るわね。


 私とまなみはそそくさとその場を離れ、事務所へ帰ろうとした。しかし、さっき感じた気配が強くなる。


 なんか、やーな予感……。粘着質のヌメッとした何かが頭の中に……。


「どうしたの? 顔色が少し悪いわよ?」

「……どうも、テロリストの悪意に影響されたみたい。何かヌメッとしたものを感じちゃって……」


 そう言い終わるや否や、どこからか飛んできた漆黒の球体が目の前で炸裂する。


 その爆風で吹き飛ばされる私たち。壁に叩きつけられ、悶絶する。そして、ぼろ雑巾のように路上へ投げ出された。


「……くっ……まなみ……生きて……る? まな……み?」


 かろうじて受け身を取り、致命傷には至らなかったが、体中に痛みが走り、自由に体を動かすことができない。全身を打った衝撃で意識が少し混濁している。おかげで現状がどうなっているのか把握できない。

 わずかながらに開けた視界にまなみの姿があった。まなみもダメージを受けていたが、一応生きているみたい。かろうじて体を起こそうとしているのが見えた。


 あれ、誰? 黒い影が近づいてくる。


 どこからともなく現れた黒い影が私たちのすぐ近くまで寄ってくる。


「やっと出てきたか、このハエどもめ。待ちくたびれたわ!」


 痛む体をかばいながら、起き上がろうとすると目の前に……目の前に……目の前に、変態がいた。

 フードの付いた薄汚い黒いマントをまとい、その姿はマンガなんかでよく出てくる変態そのものだった。そのうち、マントを開いて「ほーらみてごらん」とかやりそう……。


 その変態マント男は目の前に歩み寄ってきた。まなみも気が付いたのか、そいつをにらむ。


「……変態に用はないわよ」

「誰が変態だっ! 魔導術士どもがっ! 我がわざにより打ち据えたのに、まだそんな口が叩けるのか!?」


 まなみさん、こんな状況でよくそんな口が利けるもんだ。さすが彼女というべきか……。


「……何の用かしら? こっちは……あなたのような人と……遊んでいる暇は……ないんだけど」

「ふふ。苦しそうだな。心配するな、すぐに楽になれる。俺様自ら手を下してやるから喜んで逝け!」

  

 その変態は両手に大きな悪意を具現化したような黒い気の玉を生成した。不敵な笑みとともに大きく振りかぶる。


「我が手により冥土に送られること、名誉に思え! 『黒炎爆』」


 目の前に黒い炎の壁が迫る。身動きが取れない。このまま、あの変態に焼かれるのね。あぁ、もうダメ……今度こそ本当に……お父さ……。


 強烈な光と爆音が私の目と耳を塞ぐ。一瞬遅れて、強烈な熱風に包まれる。


 そして、暗転。一瞬の静寂が訪れる。


…………


……


 あれ……? 何ともない……。もしかして、もうあの世の人になっちゃった?


 うっすらと目を開ける。もう一人誰かがこの場に現れたようだ。


「二人とも、大丈夫ですか!?」


 その声に導かれるように周りの状況が分かってきた。


 変態は何者かになぎ倒されたように仰向けで道に転がっていた。まなみも状況を飲み込めず呆けている。そして、その人はいた。まるで特撮モノのヒーローのように私たちと変態との間に仁王立ちしていた。最上くん……。


 美味しい所を……。


「何ヤツだ! せっかくのお楽しみを邪魔しおってっ!」

「てめえみたいな、外道に名のる名などない! あえて言うなら、通りすがりの魔法戦士とでも言っておこうか」

「ふざけやがってっ! 貴様から始末してやるっ!」


 最上くんは腕を組み、胸を張って変態マント男に対しはすに構える。そのポーズは某仮面をつけたバイク乗りのよう……。最上くん、特撮モノの見すぎでは……。


「姐さん、杏さん、何やってんですか! ヤツを抑えないと!」


 既にまなみは立ち上がり、構えている。とにかく、ヤツを抑えないと……私も!


「……三対一とは。卑怯なっ……」


 変態マント男に言われてもねぇー。ひきょーも何も……要は戦闘が終わって立っていられたもの勝ちなのよ。


「……これほどの大歓迎を受けたからには、それなりにお礼しないといけないわね。ふふっ……」


 まなみさん……目が座ってますわよ……。


 さすがの変態も三人の魔導術士を前に焦りの色を隠せない。こちらの動きを警戒し、構えを崩さない。


「私が動きを止める! あとはおねがい!」


 開口一番、私が変態マント男の足を凍らせ、動きを止める。


「うぉっ! 足が凍った!? くそっ! これでも喰らえ!」


 変態マント男は苦し紛れに、黒い炎を乱れ打ちする。何発か路上に着弾し、もうもうと土煙が上がる。


「無駄なあがきを!」


 最上くんも負けじと、火炎弾を打ち出し、黒い炎を迎撃する。青い炎と黒い炎がお互いを打ち消しあい、さながら地上で花火を炸裂したような状態になる。


「さぁ、お祭りはもうお仕舞い。極上の電撃で逝かせてあげるわ!」


 まなみが不敵な笑みを浮かべ、ご自慢の電撃鞭を振るう。彼女の電撃鞭が変態マント男を拘束する。マント男は声にならない声を上げ、悶絶する。

 

 マント男は立ったまま気絶していた。多少マントが焦げ、煙が少々立ち上り、焦げ臭い臭いがほのかに漂っていたが、死んではいない。


 一件落着……としたいところだね、ここは。


 しかし、これだけやってしまうと後始末が大変そうだな。道は穴だらけ、付近のビルもかなりぼろぼろになった……。いつもながら、魔導術戦の後の一般人の視線が痛い。私たちをテロリストと同じような目で見ているかも……。まぁ、こんだけ派手にやらかして、笑って済ませろなんて言えないけど……。こんなんだから、魔導術士って嫌われるのよねぇ。捕獲には成功しただけましかな。


「最上くん、警察に連絡。 ついでに術行使報告と免責申請もお願い」

「Yes、ma'am」


 まなみがいつもどおりの警察への事後連絡を最上くんに頼んだ。

 とりあえず、後のことはけーさつに任せよう……。

 なんだったんだろうこの変態マント男は……。


――――☆――――☆――――


 必要書類の提出を兼ねて事情聴取に警察へ出向いていたまなみが帰ってきた。


「で、あの変態はなんだったの? 突然襲ってきた理由か何かわかった?」


 私はまなみにあの事件のことを聞いてみた。まなみは眉間にしわを寄せ、微妙な顔をしている。

 私は首をかしげ彼女の次の言葉をまった。


「……どうもこうもないわよ、あの変態。自分がコミュ障で友達や恋人がいないのを逆恨みして、片っ端からそんな人たちの中を裂こうとしてたらしいわよ。頭湧いてるんじゃない?」 


 私は口から魂が抜けたかのような脱力感を感じた。


「それに魔導術の名前を出せばたいていのことは免責されると思い込んでいたらしいわ。ほんとにバカもここまで突き抜けると拍手するしかないわね」


 まなみはなげやりに鞄を机に放り投げ、事務所のソファーに座った。


「ただ、聞き逃せない話も一つあったわ」


 まなみは先ほどまでの投げやりな態度が一瞬で吹き飛び、急に深刻な顔になる。


「何かあったの?」

「ええ。どうやら、あの変態に妙な術を使えるようにしたのが例のテロリストらしいのよ。それから、あのバカな行為のおぜん立てしたのも例のテロリストらしいわよ」


 私はまなみの言葉に絶句した。それが本当なら、ヤツらは世の中に不平不満を持つ輩を使って、テロ行為を行えるじゃない……。ヤツら本格的に魔導術を貶めにかかっているのね。


「これからも起きるわよ、こんなばか騒ぎは」


 まなみはそう断言した。私もそう思った。何ともやるせない話だった。


「あ、いらっしゃい。こないだの……」


 出迎えた最上くんは微笑みながら、その来客を奥へ案内した。あの女学生だった。


「あぁ、あの時の。どうお友達は元に戻った?」

「おかげさまで。何か悪夢に憑りつかれていたみたいって言ってました」


 よかった。こちらの問題は無事解決したみたいね。彼女のはじけるばかりの笑顔がまぶしかった。


「本当にありがとうございました」


 少々雑談した後、彼女は事務所を後にした。外には彼女の友達が待っていてはしゃぎながら帰っていくのが見えた。


「……事件自体はどうしようもないものでしたが、結末はよかったんじゃないですか?」


 ウインクして親指を立てる最上くん。まなみも笑っていた。……苦笑いでなく、事件を解決した充実感を感じているようだった。


「ま、終わりよければすべてよし……ってところかな」


 今回の事件は、とりあえず終わった。しかし、今回の事件は、次から次へとおかしな事件に巻き込まれる序章に過ぎないことを後から感じるのだった。

どうだったでしょうか? 変態マント男をとっ捕まえた三人。お手柄ではありますが……。これからどうなることやら。お楽しみに

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ